僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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ヴィクトール
最悪の答え合わせ


 騒がしい。朝からずっとこの調子だ。鞘の中まで外の声が聞こえてくる。

 なんてったって、村人の避難は完了したっていうのに──同様に避難すべきプレヴィがどこにもいないんだから。

 

 嫌な予感はしてたんだよ。

 カトリエで出会ったプレヴィがセティに来ていた、何らかの偶然からか魔物に襲われてユイヌにまで来ていた。ここまで来るともう不信感の方が勝っちゃってて。盲目のはずなのにこっちの位置を正確に把握しているような気配もあったし。

 

『ねえルメド、プレヴィって自力で動ける状態だったのかい?』

 

「……一応、ほぼ完全に回復していました。だからといって一人で動くべきではないですし……」

 

「避難のグループにもう混ざってたってのはどうだろう?」

 

「それはない。私が見ていたんだから、いたら分かるはずだ」

 

「じゃあ、誰かに連れ去られたのかもしれない……ってこと、かな」

 

「だとしても、よくそんなバカなマネしでかす奴がいやがったな……」

 

 おかげでシエル達の間だと今はプレヴィの話題で持ち切りだ。

 いつも通りパーティーのリーダーであるヴィク、あるいは村に詳しいサシナにも話を聞きたいんだけど……用事があったのか今日は朝からずっといなかったし。ヴィクの師匠のエネも、村人の説得が終わり次第すぐにどこかへ行っちゃったから話を聞けそうにない。

 せめてもの救いは──こうした異常事態が本格化する前に村人が避難完了できたこと……なのかな。相変わらず僕にできることは鞘の中で考えることだけ。もどかしいね、いつものことだけど。

 

「……ん? ヴィクくん?」

 

 え? 

 あ、ホントだ。ヴィクとサシナが戻って来てる。

 

「アイツらどこほっつき歩いてたんだ。こんな異常事態だってのに」

 

「まぁまぁ……何か事情があったのかもしれないじゃないですか」

 

「とはいえ急がなければいけないのも事実だろう。戻って来たなら都合がいい。早く情報共有に移ろう」

 

「そうだね……おーい! ヴィクー!」

 

 ……場の雰囲気が一気に和んだ気がするよ。

 ヴィクがいると自動的に皆こうなるから、深刻になりすぎないっていうメリットもあるけれど……あんまり彼一人の存在に依存しすぎるのもよくない気がするんだけども。

 まぁ僕だって彼の意見は聞いておきたかったし、丁度良くはあるんだけどさ。もう疑いがほとんど晴れた今、彼に頼ることを躊躇う意味も──

 

 

 

 ──待って。

 なんで鞘から剣を抜いている? 

 

 

 

「どこ行ってたのさ! サシナと……その、二人っきりで」

 

「ああ……いや、その……」

 

「何故そこで二人っきりを強調したのか。ヴィっくんも困っている」

 

 いや、おかしくない? 

 なんだか雰囲気がいつものヴィクと違う。いつもの仲間に対する穏やかで優し気な感じじゃない。代わりにあるのは……うまく言葉にできないな。覚悟とも違う、もっと切迫した余裕のない何かのような。

 というか、なんで剣を抜いているんだ。村の中を抜き身で歩く理由って何だろう。思いつかないんだけど。対して言葉の歯切れは最悪だし。刃物の扱いがなっちゃいないよヴィク。

 

「その、皆……」

 

「なんですか? 何か新情報が?」

 

「ああいや、違うんだ。急で悪いし、無理を言うんだが……一つ頼みがあって」

 

「待ってくれヴィクトール。今、もっと優先すべき事項があってだな」

 

「いや、こっちを先にしてくれ。頼む……」

 

「あ、ああ?」

 

 ……頼み? 

 

 なんだか嫌な予感がする。そんなことをしている余裕は今無いのに。

 今は一刻も早く行方不明のプレヴィを探し出し、安全な場所まで避難させた後、魔王軍の動きに備えていないといけない訳で……。

 こっち側の剣呑な雰囲気は彼も分かっているはずなのに。それを無視して自分の頼みを優先させてほしいって彼が言うくらいなんだから。また相当厄介な問題を持って来たんじゃ──

 

 

 

「──全員。何も聞かずに、この村に留まっていてほしい」

 

 ……え? 

 

 

 

「は? どういうこった? 何の権限があって?」

 

「ヴィクくん……その、急に『俺の故郷で暮らせ』って言われても、困るっていうか……」

 

 ……どういうこと? 

 何も聞かずに? 留まれ? 何言ってるんだ? 

 そんなことできる訳ないじゃないか。理由は教えないってこと? 

 よほどのことがなければヴィクはこんな頼み方をしないよ。いや、よほどのことがあったからこう言ってるんだろうけどさ。

 

 でもどうしてこんなことを? 

 

「俺は外に出る。だから、俺が魔王を倒して戻ってくるまで、待っていてくれないか」

 

「えーと……意図が理解できません。どういうことですか?」

 

「ヴィクトール。ふざけている場合じゃないんだ。そんなことをする意味は何だ?」

 

「それは……だな」

 

 そうだそうだ。

 プレヴィ問題を放置するにしても、いずれ僕達は魔王復活阻止のためにアザールまで移動しないといけないんだ。何の理由があってこれから個人で行動を? しかも僕達をこの村に固定する意味がまるでない。

 きちんと説明してくれないと。こっちとしても納得できないんだよ。

 

「どうしても、従ってもらえないなら、俺は──」

 

「……ねぇ、ヴィク?」

 

 

 

「皆を、力づくで従わせる覚悟がある」

 

 ……は? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 今、力づくで従わせるって言ったよね。

 どういうことなのさ。なんでそうなるの。

 

「……どうして。どうしてそんなことを言うの、ヴィク」

 

「……聞かないでくれ。説明、できない。したくないんだ」

 

 理由は聞くな。留まれ。力づくで従わせる。理由は聞くな。

 それじゃ何も分からないじゃないか。

 

 ヴィクが今まで一度でもこんな言い方をしたことがあったかい? 

 僕達は「秘密を抱えながらもお互いを信頼しているパーティー」だったじゃないか。今のこれは、それを自分から壊しにかかっている。壊さなきゃいけない理由があるのか。あるとしても、それすら言えないのか。

 

「それは無理だヴィクトール。プレヴィを探さないといけない。魔王軍の動きにも備えないといけない。その上で君が一人で出て行って残りは村に留まれと。君が言っているのはそういうことだぞ」

 

「……」

 

「きちんと説明してくれ。そうでなければ従うことはできない」

 

「……プレヴィは、諦めてくれ」

 

 ……えぇ? 

 なんで? 

 

 プレヴィを諦めろ。盲目で療養中だった人間を。村人の避難が完了した直後に行方不明になった人間を……探すことすら諦めろと? 

 その言葉の裏にあるのは何なのさ。探しても無駄だと知っているってこと? 探す必要がないと知っている? それとも──探してはいけない理由がある? 

 

「どうしてですか。プレヴィさんは僕の患者です」

 

「……彼女は」

 

「癒しの神に仕える以上、僕は患者を裏切れません。だから──」

 

「──彼女は魔王だった。敵だったんだ」

 

「ッ!?」

 

 ……なんかさっきから疑問形しか言ってないんだけど僕。

 

 魔王? プレヴィが? あの盲目の占い師が? 

 カトリエで予言をくれた、セティで拠点の場所を教えてくれた、あのプレヴィが──魔王だって? 

 

 いや待って。ちょっと待って。

 魔王って……ル・マルのことを言ってるのか。復活が予言されていた、あの──いやでもプレヴィは予言した側の人間で、復活を警告してくれた側のはずじゃ。

 ……頭が追いつかない。剣に頭なんて無いのに、全然追いつかない。

 

「あ、え……な、なんで……? ヴィクくん、どうして、そんなこと……」

 

「実は、さっきまで彼女と話していて……」

 

「じゃあなんで連れ戻さなかった。魔王だって分かってんなら尚更だろ。そっからどう力づくって結論に辿り着くんだ」

 

「……」

 

 ……リュトの言う通りだ。

 だっておかしいじゃないか。

 もしその「プレヴィが魔王だった」って情報が事実だったとして、それで僕達と戦おうって結論になるのか。一切脈絡が無いじゃないか。

 

 ヴィクがさっきからサシナをチラチラ見てるのは何なんだ。

 サシナも事情を知っているのか。目配せで「これどう説明する?」「もう言うしかないんじゃない?」みたいなアイコンタクト取ってるけれど。

 

「……師匠を」

 

「あ?」

 

「師匠を、人質に取られて……命令された。皆で、殺し合いをしろと」

 

 殺し合い。

 誰と誰の。ヴィクと──僕達の? 

 

 ……ああ、そういう。

 なるほど。彼の師匠のエネが人質に……そういうこと。一応辻褄は合う……か。

 

 プレヴィが魔王で、エネを人質にして、ヴィクに仲間と殺し合えと命令した。敵である勇者の数を減らそうっていう……丁度ここにそういった人材が六人もいる訳だから。

 ただ、ヴィクは殺し合いをしたくないから、仲間を村に留めることで解決しようとしている。勇者が行動不能になればそれ即ち世界平和に貢献できない……つまり死んだも同義ということ。それで見逃してもらえるかは分からないけれど。

 命令を無視すればエネが殺される。だから、場合によっては力づくでそれをしてみせると。サシナが向こうにいるのは……同じ現場にいて、同じく状況を理解した上で、それを受け入れているからなのか。

 

 ……いや、待てよ。

 

「それなら猶更だ! 君はどうして言いなりになっている!」

 

「……だよな……」

 

「そもそもどうして魔王は直接手を下さない! 人質がいるなら不確定要素の多い敵の君に頼む理由は無いだろう!」

 

「……そう、か……」

 

 答えられていない。

 シュヴァの言っていることは正論だ。人質を取れたのなら魔王が直接手を下せばいい。いくらヴィクと顔を合わせたことがあるとはいえ……それだってたった数回しかない。どうしてヴィクを「敵」ではなく「利用できる存在」だと見なしたんだ。

 

 人質が準備できたから? その人質が有効に作用する相手だから? パーティーの中で一番強いから? それとも今は魔王単独で全員と戦うことを避けたい理由でもある? 

 ぱっと考えただけでもこれだけの理由が思い浮かぶんだよ。ヴィクだってそれが分からないほど馬鹿じゃない。どうしてそこで答えに詰まるのさ。

 

 それって。

 まるで──

 

『──君が、内通してるみたいじゃないか』

 

「(!? ちょっと!? エペ!?)」

 

 言ってしまった。

 彼と喋ったことも無いのに。彼は僕が喋れることだって知らないのに。我慢できずに聞いてしまった。

 聞くべきじゃなかったのかもしれない。でも、ずっと引っかかっていたものが全部今繋がりかけている。繋がってほしくないのに。

 

「それは……それはっ……!」

 

 それで、ヴィクがずっと黙っているのはどういうことなのさ。

 否定しない。反論しない。怒りもしない。急に聞いたことも無い声が聞こえたのにそれを疑問に思う素振りすら見せない。それだけ他のことを考えるので精いっぱいっていう訳なの? 

 

「……なんでさ、ヴィク」

 

「……」

 

 的外れなら即座に否定するはずの人間が答えあぐねている。

 それは少なくとも全部が的外れではないということを意味していて──

 

「なんで、否定しないの……?」

 

 ──それはもう、そういうことじゃないか。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「いくらテメェとはいえ、これは流石に看過できねェぞ」

 

「……ああ」

 

「仮にテメェの言う通り、プレヴィのことは一度置いとくとする。それならその代わり、その口でオレらを納得させろよ」

 

「そう、だな……」

 

 ……もう皆、大混乱だ。

 サシナは、この事実を、一足先に知ることになったのか。

 

 今の反応でヴィクがもう魔王軍側の人間であったことはもうほぼ確定だ。

 元々嘘をつくのは得意じゃない人間。すぐ否定できるなら事実なんだろうけど、言葉を選んでどう嘘をつくか考えあぐねたり、何も言えなくなって黙り込んだりするあたり──それは逆説的に事実であるってことを示してしまっている。

 

 彼がこの村の人間だったことは分かっている。エネもサシナもいるし、この村にいた期間で悪事を働いていたっていうのは考えにくい。

 旅に出た原因が世界平和のためで、一番初めにシュヴァと組んだときでさえ彼女が納得するような崇高な理念を掲げていた以上……村を出てから、一度悪事を働いた時期があって、そこから元に戻った。それぐらいしか考えられないけど。

 まさかそれ以外に、過去に悪事を働く方法が存在してるってことなのか? 

 

「家の壁如きに『せっかく俺が直したのに』『償うって決めたのに』だっけか? ありゃ元々壊す側の人間だったからっつー意味だったりするのか」

 

「それは……」

 

「それなら私も聞きたいことがある。ヴィクトール、君の師匠は──勇者シエルの聖剣の見た目を覚えていなかったそうだが……」

 

「あっそれ。そのために聞きたがってたんだ」

 

「ちょっと黙っててくれサシナ」

 

 もう疑問が溢れて止まらない。

 村に留まってくれって言われれば自由を愛するリュトは一番に反発するだろうし、正義を盲信するシュヴァもこれ以上の可能性に目を背け続けることはできない。

 それが全員。それこそ、ヴィクに強く依存しているマージュは俯いて何も言えなくなっちゃってるけど……他の皆、聞きたいことが多すぎて、質問が止まらない。

 

「……そうだよヴィク。キミ、初めてボクと会った時『伝説の勇者様の剣に似てたもんで』って言ってたよね。どうして知っていたの?」

 

「『勇者シエルの軌跡を追うために勉強した』で片付けていい範囲を超えている。当事者が忘れているものを、どの文献から学んだというんだ」

 

「……」

 

「……僕からも、一つ。聞きたいことがあるんですが」

 

 ヴィクも自分の要求を通すために、できるだけ説明をしようとしてる。

 何か言われるたびに目を泳がせて、手を動かして、口を開こうとして──でも結局できなくて、さらに疑念が深まっていって……その雰囲気のまま次の質問が飛び出てくる。

 結果この最悪の状況が生み出されてしまっている。彼の一人で抱え込む性格と後ろ暗い過去が重なって……ああもう見ていられない。

 

「あの蛇のボス……パルジュは『貴方は』と、ヴィクトールさんにそう言いかけて……死亡しました」

 

「……」

 

「あれは、何だったんですか? ただの敵に向かって、死に際にわざわざ『貴方は』なんて……」

 

「……そんなものもあったな」

 

 ……やっぱり否定しないんだね。

 

 今の話も初耳だけど──魔王軍の幹部もヴィクのことを知っていた。

 それはつまり──ヴィクが魔王軍にとって「知っている」側の人間だった可能性があるということで……。

 

 ……ここまでくると、僕にだって気になることがある。

 カトリエの占い小屋。プレヴィから魔王復活の予言を聞かされた時。ヴィクが言ったあの言葉。

 

 

 

 ──「つまり、あの魔王が──また復活するっていうことなのか……!?」

 

 また。

 ……『また』復活する。

 

 

 

 でも──魔王はまだ一度も復活していない。

 

 数百年前に僕達が倒して、それっきりのはずだ。

 プレヴィの予言で初めて「復活の可能性」が示された。初めて聞いた情報に対して「また」とは言わないだろう。「また」というのは、以前にも同じことがあったことを知っている人間の言い方じゃないか。

 つまり、あの時点で既に最低でも『一人』の魔王が復活していた訳で……。

 

 あの時は聞き流してしまった。ヴィクの動揺が大きかったから、言葉の選び方まで気が回らなかった。でも今思い返せば──あれは、おかしかったんだ。最初から。

 全部繋がりかけている。繋がってほしくないのに。

 

 

 

「……ちょっと嫌かもしれないが、聞いて、納得してくれ」

 

「待ってヴィク。否定して。キミの言葉で、否定してよ」

 

 

 

「皆は、知らないと思うんだが。世の中には、転生魔法っていうものがあって、だな」

 

「ヴィクくん……ぼくはもう、別に……」

 

 

 

「俺には……なんというか。前世の記憶というものが、ある」

 

「あァもう……結局そういうオチなのかよ……」

 

 

 

「……人を殺したり、村を焼いたり、国を滅ぼしたり」

 

「うっ……ううぅっ……そんな、じゃあやっぱり……!」

 

 

 

「その、古代の言葉とかを読めたのは……嘘だ。勉強なんかしてない。初めから読めた」

 

「……君の正義は、嘘ではなかった、はず、なんだが」

 

 

 

「つまり、俺は……この世で最も呪われるべき存在で」

 

「ヴィっくん……」

 

 

 

 あぁ、そうなんだ。そういうことなんだね。

 じゃあ、言いたくないのも当然だよね。

 まだ秘密はあるのかもしれないけどさ。

 ……ちょっと予想外だったなぁ。

 

 

 

「……俺は──魔王ル・マルの転生体なんだ」




やっとやりたい話ができそうです。
もっと早くこの話をすべきだったのでは……?

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