僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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1章は終わりと言ったな?
あれは嘘だ(´・ω・`)

1話だけ幕話やります。
次話から2章です。


幕話:残り香

 ──『魔物では腹は膨れない』

 

 そんなことを初めに言い出したのは誰なんだったか。

 

 

 

 っていうのも、この世界では特別な討伐依頼が出た時以外、「魔物を狩る」ことが食い扶持に繋がることはほとんど無いらしい。

 魔物という存在は常に微細な……負のオーラ? とかなんとか、変なものをまき散らしてるみたいで。おかげでその肉は食用に適さないし、素材として使おうにも健康被害が出るから使えない。

 魔物を狩猟の対象として使うことは初めから不可能って訳。だってあいつらを狩っても良いことが何も無いからね。

 

 かといって、「危険な存在だから倒すべきだ」「少なくとも間引きはするべきだ」って簡単な話でもないみたいで。

 魔物は自然発生するわけじゃなく、強力な個体──「ボス」の存在により、そこから零れ落ちる魔力が周囲の動植物や土塊を変異させる。そして、独自の生態系を作り出し、以降は繁殖で増えていく……っていうのが今の通説みたい。

 そのせいか、倒しても倒してもボスがいる限り、繁殖が繰り返されて魔物の個体数は元の数値まで回復する。

 かといって個体数が増えすぎても、魔物はボスの支配下以外では生きていけないから、あぶれた個体は勝手に縄張りの外に迷い込んで淘汰されていくんだとか。

 つまり、魔物の個体数は減りすぎることも増えすぎることもあり得ない──所謂「間引き」には一切の意味がないってこと。

 

 だからこそ、今の世界では「魔物討伐は基本無給」というドライなシステムが採用されちゃった。

 昔は魔物の討伐に報酬を出してたらしいけど……間引きに意味がないならいくら報酬を出し続けてもキリがないし。

 何より、報酬に目がくらんだ実力不足の戦士たちが深入りして命を落とす事故や、借金で首の回らなくなった一文無しが無謀に突撃してボスの養分になってしまったり……。

 そういったこともあって、特例の討伐以来や緊急の防衛作戦以外では報酬が出なくなっちゃった。それがこの世の中の現実なんだよね。

 

 

 

 ただ、そんな世知辛い事情も──ボスだけは話が別。

 

 まあ当然だよね。ボスは全部の魔物の根源だし、ボスを倒せば魔物被害は全部収まるから、普通に魔物を狩る時と比べてその利益は計り知れない。

 となると、流石にこれまで無給って訳にもいかなくて。ボス限定で、街の責任者に討伐を報告すると特例の措置が取られる。

 まず、事実確認のため数日の調査が行われて。ボスが本当に倒せたか、魔物たちの活動が落ち着いたか、あるいは魔物の被害が完全に消失したかを調べる。もし確認が取れれば──その時に初めて報酬が支払われる、ってシステムになった訳。

 

 そして、大きな街であればあるほど、そこに根付くボスもより多くの人間を襲うため強力な個体ばかりになり……その分報酬も跳ね上がる。

 そして、この「都市プルミエール」は産業も盛んで、武闘大会なんてものが開かれるぐらいには熱気のある街。

 

 つまり……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 うわぁ……。

 すっごい。改めてこうして宿のテーブルに広げてみると、破壊力が段違いだね。

 金貨、金貨、金貨。これ全部、本物なんだよね? 夢じゃないよね? 

 少なくともこれまでボクが倒した二体のボスの報酬とは比べ物にならない。

 

 これだけの量の報酬、前世でもそうそう見なかったな。

 魔王軍に拉致されたお姫様を助けて王様から褒美をもらった時以来? 

 いや、あの時だってパーティメンバー全員分だったから、一人当たりに換算すればこれより少なかったかも。今とは貨幣の価値が違うのか。

 

 目の前のヴィクも言葉を失ってるみたい。

 この数日で聞いた話だと、彼も相当数のボス討伐経験があるらしいけど……この反応を見る限り、ここまでの額は初めてなのかな。そんな怖い顔して睨まなくても、お金は逃げないよ? 

 

「……改めて見ると、とんでもねえ額だな」

 

「だね……ちょっと引くレベルだよ」

 

『ちなみに僕は引いてるよ。これを二人で山分け? 羨ましいねぇ』

 

 エペの言う通りだ。

 これだけあれば冗談抜きで、慎ましい生活なら一生食いっぱぐれないんじゃないかな。

 あのトレント三体分だけでも破格なのに、放置期間の加算だの、環境改善ボーナスだのって、どんだけ上乗せされるのさ。

 武闘大会を開いてたのもボスを倒すための戦力探しが目的の一つにあったらしいし。

 街の役人が震える手で渡してきたのも納得だよ。領主様の金庫、空になったりしてない? 

 

 まあ、それだけのことをやったっていう自負はあるけどね。

 シンプルに命懸けの戦いだったし、エペの魔力も空っ欠の状況だったし、ヴィクだって装備をダメにしたし。

 ただ、正当な対価と言えばそうなんだけど、いざこうして物理的な「富」として目の前に積まれると、現実感が湧かないというか、足元がふわふわするというか。

 

 でも、これで路銀の心配は当分なくなったね。宿代を気にして安い部屋を探す必要もないし、装備のメンテナンスも最高級の素材を使える。

 何より、美味しいものがお腹いっぱい食べられる! これって結構大事なことだよね。空腹は士気に関わるし。

 

「とりあえず、旅の資金用にいくらか配分して……後はきっちり半分こだな」

 

「わお。そんなに貰っちゃっていいの?」

 

「当たり前だろ。俺一人じゃあのボスは倒せなかったからな」

 

 おお、迷いがないね。ざっくり半分こ。変な欲がないっていうか、当然のように分けてくれるところが彼らしいなぁ。

 あの戦いの功績の大部分は彼のものなんだけど……ボクがトドメを刺したからとか、彼が守ってくれたからとか、そういう細かい計算なしに「相棒だから半分」っていうスタンス。好きだな、そういうとこ。

 

 

 

「──で、次は『魔法都市ドゥジェーム』……だったよね?」

 

「ああ。ここから馬車で街道沿いに北上して、あとはいくつかの町を経由するから……大体二週間ってところか」

 

「へえ、結構遠いんだね」

 

 二週間かぁ、結構な長旅だね。途中の村でまた「ボス」が出たらそれも倒さなきゃだからもっとかかるかもだけど。

 ボクは転生してからまだ二つの街とちょっとしか回ってないし、移動はずっと徒歩か、たまたま通りかかった商人の荷台に乗せてもらうかだったから、本格的な「旅」って感じがしてちょっとワクワクするな。

 

 にしても──ヴィクの地図、年季が入ってるなぁ。書き込みがいっぱいある。

 これまで真面目に旅をしてきたのが伝わってくるよ。

 

「えっと……ここだな。地図を見た感じ、中間の宿場町を過ぎるとしばらく荒れ地が続いてる」

 

「……水場がないってこと?」

 

「そうだな。だから、水は多めに……馬車に積めるだけ、最低でも三日分は予備を用意した方がいい。それと、この季節だと夜は冷え込むかもしれねえ。野営になる可能性も高いし……」

 

 うわ、すごい。次から次へと必要なものが出てくる。

 保存食の種類、ランプの油の予備、もしもの時の薬草、雨具の点検……迷いがないね。やっぱりボクよりよっぽど旅慣れてるな。

 

 前世のボクはどうだったっけ……ああ、思い出したくもない。

 基本的に「勇者様」だったから、周りの仲間たちが全部お膳立てしてくれてたんだ。「シエルは必要になったら呼ぶよ」なんて言われて、甘やかされて。

 よく考えれば、移動ルートの選定も、物資の管理も、全部人任せだった。それはエペも同じだし、実際今世で旅を始めてからも、野宿は極力避けてたな。

 

 それに比べて、彼はどうだい。やっぱりかっこいいなぁ。

 ボクが目指すべき「頼れる男」ってのはまさしく彼だよね。こういう、当たり前のことを当たり前にできる生活力も含めて、尊敬できる。

 

「聞いてるか? エスクリ」

 

「へっ!? あ、うん! 聞いてる聞いてる! えっと……!」

 

『……今は毛布の話してたよ。しっかりしてよね』

 

「あっ、毛布だよね! ごめんごめん!」

 

 危ない、また見惚れてた。エペもありがとね。

 しっかりしろボク。相棒として頼られるには、ボクも役に立つところを見せないと。

 

 

 

「よし、じゃあここからの準備は手分けだな。移動手段の手配は俺がやる。馬車か、あるいは馬を二頭借りるか……相場を見て決めてくる」

 

「了解」

 

「あと、剣無くしちまったし、盾もボロボロだから……武器屋を回って装備の新調も要るな」

 

「おっけー。じゃあボクは?」

 

「エスクリは市場で消耗品と食料の買い出しを頼めるか? 保存が利いて、かつ腹に溜まるものがいい。お前の方が目利きは良さそうだしな」

 

「おっけー、任せてよ」

 

 食材調達なら自信がある。前世の影響で舌は肥えてるし、美味しいものを見分ける嗅覚には自信があるんだ。

 干し肉だって、店によって味が全然違うからね。硬いだけのやつじゃなくて、噛めば噛むほど味が出る極上品を選んでやるぞ。

 あと、チーズも欲しいな。硬いパンと一緒に炙って食べると最高なんだよね。

 果物も少しあった方がいいかな? 栄養と水分が同時に補給できるし。

 

 ……あ、そうだ。大事なものを忘れてた。

 

「一応、『野菜』も買っておくね? 長旅になるし、スープの具材とかに根菜類が必要でしょ?」

 

 ……ええ、分かりやす。

 ちょっと揶揄うだけのつもりだったけど……この世の終わりみたいな顔してるじゃん。さっきまでの頼れるリーダーはどこ行ったの? 

 トレントと戦う時だってそんな悲壮な顔してなかったよ。

 ……そもそも彼は悲壮な顔一度もしてなかったか。

 

「……そ、そうか」

 

 嫌って言わないかな? 「野菜は少なめで頼む」とか、「肉だけでいい」とか。

 甘えてくれたら、「しょうがないなぁ」って減らしてあげる準備はあるんだけど。

 

「……ああ。強くなるためには必要だからな。栄養バランスを偏らせるわけにはいかない……な」

 

 声が震えてるよ、ヴィク。顔色もヤバいって。決死の覚悟みたいな目しちゃって……逃げないのはいいけど、変なところで真面目すぎるよ、キミ。

 そこまでして強くなりたいの? というか、野菜を食べることが修行の一環みたいになってない? 

 

 ……くくっ、おかしい。こんなに強くてカッコイイのに、野菜一つでこんなに必死になるなんて、かわいいなぁ、もう。

 分かったよ、そんなに覚悟決めてるならボクも協力してあげる。なるべく細かく刻んで、味の濃いスープに混ぜて、食べやすくしてあげるからね。これでも料理だけは旅立ち前に勉強したんだから。

 

 

 

「よし、それじゃあ頼む。俺もとりあえず盾を捨てて来る」

 

「あれ? 捨てちゃうの、それ」

 

「まあ愛着はあるが、守れない盾じゃ意味がない。新しいのを買うよ」

 

『……プロだねえ、彼。なんだかちょっと複雑だな』

 

 あの盾……戦闘中ずっと身に着けてたやつだよね。外しちゃうんだ。

 使い込まれたバックラー、木製のベースに鉄のリムを打ち付けた武骨な盾。

 まあ確かにボロボロだし……改めて見ると凄いな。表面はトレントの打撃でベコベコに凹んでるし、鉄の縁もひしゃげてる。よくこれであの猛攻を防ぎきったよね。

 装備の買い替えってイベントがエペに刺さってるのは無視するとして。

 

「……そうだね。それがいいと思う」

 

「ありがとう。ゴミ捨て場はどこだったか……」

 

 彼の判断は正しい判断だ。感傷で壊れた防具を使い続けて、肝心な時に守れなかったら元も子もないし。

 彼はプロだ。道具への感謝と、切り捨てる冷徹さをちゃんと持ってる。

 

「──じゃあ、ボクに任せて」

 

「ん?」

 

「市場への道中にゴミ捨て場があったから、ついでに捨ててくるよ。キミは手配とかで忙しいでしょ?」

 

 うん、それが一番効率的だ。

 ボクはどうせ市場へ向かうんだし、通り道にポイっと捨てるだけなら手間もかからない。彼には少しでも早く新しい装備を見つけてもらって、万全の状態になってもらわないと。これからの旅の安全に関わるしね。

 それに、彼の手間を少しでも減らしてあげたいっていうのは……まあ、相棒としての親切心ってことで。

 

「……そうか? 悪いな。じゃあ頼んだ」

 

「はーい、いってらっしゃい」

 

 ……ふぅ。

 

 部屋が急に静かになった気がするね。

 残されたのは、ボクと、金貨の山と……そして、この盾だけか。

 

 さて、ボクも準備しないと。

 まずはこの盾を処分して、それから市場で買い出しだ。美味しい野菜を選んで、彼を驚かせてやらないとね。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『エスクリ、さっきから何やってるの?』

 

「盾の分解だよ、エペ……よいしょっと!」

 

 このままポイっと捨てるのは簡単だけど、一応分別しないとだよね。

 木材と金属は別々にしないとゴミ捨て場の人に怒られちゃうかもだし。ヴィクのためにも、立つ鳥跡を濁さず。完璧な仕事をしてあげようね。

 

 縁の鉄枠は素手じゃ無理そうだから、ナイフの先でこじ開けて……うん、取れた。

 次は表面の木材。ここはバキバキに割れてるから、手で剥がせそうだね。バリッ、ベリッっと。ふぅ、とりあえず大枠は外れたかな。

 あとは、この裏側の持ち手部分と……あ、これ、手袋と一体型になってるタイプだったんだ。革紐で固定されてるから、これを切れば……よし、分離完了。

 

 これで全部バラバラになったね。

 鉄くずと、木くずと……あと、この革の手袋か。これも燃えるゴミでいいのかな? ボロボロだし、汗染みもすごいし……。

 

「……」

 

『へえ、盾ってこういう構造なんだ。勉強にな……エスクリ?』

 

 ……ゴクリ。

 

『エスクリ? エスクリ?』

 

 手袋。ただの革手袋じゃない。彼が戦闘中も、移動中も、ずっと左手に装着していた、彼の一部みたいな装備。

 改めて見ると……すごい使い込まれてる。革の表面は擦り切れてるし、指の形に合わせて皺が寄ってる。

 ……いやでも、捨てるのは勿体ないよね。

 うん、勿体ない。だって、革自体はまだしっかりしてるし。手入れすれば使えるかもしれないし。

 

 それに……ボクは一度彼に勝ったんだ。

 模擬戦とはいえ普通、勝者は敗者の装備を戦利品にする権利がある……これは戦場の習わしだよね? 

 うん、そうだ。正当な報酬の一部として受け取る権利がボクにはあるはずだ。

 実際、あの勝負は彼が無理やり申し込んできたもので、そのお礼としてご飯をご馳走にはなったけれど……勝利報酬は無かったはず。

 

 そうだよ。

 彼も「処分を頼む」って言っただけで、「捨てろ」とは言ってないもんね。ボクが個人的に再利用する分には、何の問題もないはずだ。エコだよ、エコ。

 

『エスクリ!? ちょっと!? エスクリ!?』

 

「……ふぅん、こんな匂いなんだ」

 

 鉄の匂いと革の匂いと……微かに混じる、あの草原みたいな匂い。

 使い心地は……まあ、悪くない。

 ただ、当たり前だけど結構大きいね。剣を握るのには向かないかな。

 うん、お守りにしておくぐらいがちょうどいいか。

 

「とりあえず荷物の一番下に入れておいて……」

 

 特に深い意味は無いよ?

 まあ、これはボクが真に「頼れる男」になるための一歩みたいなものさ。

 ヴィクというお手本により近づけるように、こうしてボクの持ち物の一つとして残しておく。身も心もヴィクのようになるために、まずは形からでも寄せていかないとね。

 

「じゃあボクたちもそろそろ行こうか!」

 

 いつもと違って路銀も余裕あるし、せっかくだからワンランク上の品もチェックしよう。

 これからの旅に向けて知識も必要だし、準備するに越したことは無いからね。

 

 ほら行くよエペ! 今日は忙しくなるんだから! 

 

 

 

 

 

『……僕の持ち主は、完全に無意識で人の手袋の匂い嗅いでたんだけど』

 

『待ってよ、あれが僕なの? あれも僕なの? ちょっと信じたくないよ?』

 

『エスクリにそういう趣味があるってことは、僕にもその気があるってことで……』

 

『……確かに彼はちょっと良い匂いがするけどさ。でも、ちょっとだけだし……』

 

『もういいや、そもそもエペとエスクリはもう別々の存在。そういうことにしよう……』




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