僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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神様、許してくれますか?

 ヴィクトールさんの蘇生は……できない。

 

 

 

 できない訳じゃないです。

 蘇生自体は簡単にできます。何も難しいことじゃありません。

 

 でも、できないんです……。

 

 

 

 僕には、ヴィクトールさんを蘇生させられない……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……転生体の蘇生は、前例がある。

 前例が、あるんですよ。

 

 ティル、オンド、ルアー。

 三人とも、僕がこの手で蘇生させた。肉体は完全に修復した。心臓も動いた。目も開いた。でも──そこにいたのは、もう「彼ら」じゃなかった。

 あの時の感覚を、僕は忘れられない。完璧に治したはずなのに、目の前にいるのは知らない人で。僕が蘇生させたのは肉体だけで、「彼ら」は戻ってこなかった。

 一人目の時は信じられなかった。二人目の時は必死に原因を探した。三人目の時は──もう、分かっていた。分かっていて、それでも手を止められなかった。

 

 だから、自分が一番よく分かってるんです。

 

 

 

 つまり、ヴィクトールさんの蘇生は可能ですが……それを行ったが最後。

 復活するのは人格を喪失し、社会復帰に数か月かかる別人であって。

 

 ヴィクトールさんじゃ、ない。

 

 だから、蘇生はできるけど……僕には蘇生できない。

 

 

 

 今もこうして。

 大急ぎでソワンに帰って来ては、かつての部下だった治癒術師を集めて緊急会議を開いたりしてますが……それでも解決の糸口がまるで見えてきません。

 

「改めて確認ですが……ルメド様が運ばれてきたヴィクトール氏の場合も、同様の結果になると考えてよろしいでしょうか」

 

「……はい。先ほど言ったように、彼も転生体である以上、通常の蘇生では人格の再定着は見込めません」

 

 転生体の魂は、二度目の肉体に定着した時点で本来の輪廻から外れている。

 通常の魂であれば、死後も肉体との結びつきが残る。だから呼び戻せます。

 でも転生体はそうじゃない。一度死んで、魂を転生させる魔法で無理やり新しい肉体に入り込んだ存在。蘇生を行ったところで、三度目の生に魂が着いて来れません。

 

 ヴィクトールさんは魔王ル・マルの転生体。本人がそう言っていた訳ですから。

 つまりは同じ条件になる。同じ結果になってしまう。

 肉体を治しても、起き上がるのはヴィクトールさんじゃない。空っぽの器が目を開けるだけ。あの瞳が──あの、真っ直ぐにこちらを見てくれる目が、何も映さなくなる。

 それは蘇生じゃない。冒涜でしかないじゃないですか。

 

「……無理なんでしょうか」

 

「諦めないでください。世界が混乱している今、お忍びとはいえソワンに戻って来られたルメド様に、何も結果が残せないとは。我々のプライドが許しません」

 

「……そう、ですけど」

 

 もう何度目でしょう。

 同じ結論に辿り着いて、同じ壁にぶつかって、同じ沈黙が落ちて。

 テーブルの上に広げられた資料の山も。蘇生術の術式記録も、魔力回路の図解も、過去の症例報告書も。どれもこれも僕が書いたもので、どれもこれも答えを持っていない。

 

 分かってるんです。

 この手で三回、同じ失敗を繰り返した僕が。

 

 僕が一番分かっていたんです。こんな会議繰り返したところで答えが出てこないことなんて。だってこの報告書も全部僕が書いたんだから。答えがあるなら、書いた時点で気づいてる。

 それでもこうして並べて、他の人間の目に通して、もしかしたら僕が見落としていた何かがあるんじゃないかと——そんな期待にすがって、こんな場を設けたんですよ。

 

 ……分かっている。

 分かっているから、こうして別の手段を探しているんですよ。

 

「……移植魔法の応用は検討されましたか」

 

 ……それはつまり。

 肉体の損傷部位に、別の肉体から組織を移し替える、移植の術式を……魂に適用できないかって話ですよね。

 本来、臓器の置換、四肢の接合などを行う、治癒魔法の延長線上にある技術の応用的な発想。

 別に分からなくもないですよ。欠損した部分を外部から補えるなら、それで足りない何かを埋められるなら。

 

 でも……。

 

「臓器と違って……魂では、肉体に適用できるか、あまりにも不確かです」

 

「それは……そうですが」

 

 意見を出してくれたのは嬉しいですよ。

 でも結局それは、手段のない願望じゃないですか。

 

 確かに発想は良いと思いますよ。ヴィクトールさんは一度転生し、魂が次の蘇生に着いて来れない状態。魂の総量を増やすことで無理やり第三の人生へ定着させようという試み。方向性としては正しい気がします。

 でも、魂は臓器じゃない。形もないし、境界もない。ここからここまでがヴィクトールさんの魂で、ここが欠損していますなんて、指差して示せるものじゃないんです。

 

 せめて、完全に同一な存在の魂でもあれば話は別ですが。そんな都合のいい存在がいるはずがないでしょう。

 そもそもの移植魔法は非常に高度な技術と膨大な魔力を消費します。今から方法を考案するにしても相当な労力を要することは目に見えています。

 これは理論であって、手段じゃない。「もしこうだったら」という空想。現実には何の足しにもならない仮定の話。

 

 しかも……。

 

「それに、提供元についての問題もあります」

 

「……」

 

 移植するってことは他の人から提供を受けるってことじゃないですか。

 僕の大事な人を生き返らせたいから。そのために他の人間の魂を使用します、だなんて。

 そんな命の価値に個人的な差を見出して、助ける優先度を上下させるなんてやり方。癒しの神が許すはずもありません。 

 

 だから不可能。

 不可能なんです。

 

「……困ったな。また最初に戻ってきてしまった」

 

「いっそのこと、魔力で無理やり魂を増幅させるというのはどうだろう」

 

「それでは魔力が尽きた瞬間塵となって消えるだけだ。解決にはならない」

 

 ……全部、不可能。

 分かっていた。最初から分かっていたんですよ、こうなることは。

 だって僕は既に三回やった。三回失敗した。その時だって散々考えた。散々試した。全部ダメだった。今回だけ違う結果になるなんて、そんな都合のいい話があるはずがない。

 

 ただ。それでも、僕は、ヴィクトールさんを生き返らせないといけないんです。

 

 生き返るのがヴィクトールさんじゃないなら何の意味もない。

 それで生き返った命に僕は何の用があるっていうんですか。それで生き返ってくれたところで、ヴィクトールさんはどこに行ってしまったんですか。

 世界を救うためにも、僕はとにかく急いであの人を蘇生させないといけないのに。結局またこうやって堂々巡りになるだけで何も解決しなくてなのに事実世界は攻撃を受け続けるばかりで僕はあの人にずっと会えないままで……! 

 

 

 

 ……生き返るのが、ヴィクトールさんじゃないなら。

 

 何の意味も、ない? 

 

 

 

 ……何。

 

 何ですか、今の。

 今、僕は何を考えた。

 生き返るのがヴィクトールさんじゃないなら──何? 構わない? 別にいい? 蘇生しなくていい? 

 

 ……蘇生する意味がない、と? 

 その命を救う意味は無いと。

 僕は今、そう思ったんですか。

 

 目の前に蘇生できる肉体があって、技術的には可能で、でも戻ってくるのがヴィクトールさんじゃないなら──やらなくていい、と。

 治癒術師が? 命を救うことを生業にしている人間が? 「救える命は全て救う」と誓った僕が? 

 

「……最低だ」

 

「ルメド様……?」

 

「どうか、されましたか?」

 

 最低ですよ、それは。

 ヴィクトールさん以外の命には価値がないなんて──そんなこと、口が裂けても言えない。言っちゃいけない。思ってすらいけない。

 

 なのに浮かんだ。

 一瞬だけ、確かに浮かんだ。

 嘘じゃなく。比喩じゃなく。本心として。

 僕は、なんてことを。

 

「……すみません。少し……休憩しましょう。頭を冷やしてきます」

 

「お顔の色が……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。考えを整理したいだけなので。……ヴィクトールさんの安置室に、行ってきます」

 

「……分かりました。無理はなさらず」

 

「……すみません」

 

 さっきから謝ってばっかり。

 なんて情けない。

 

 僕は治癒術師ですよ。

 救える命は全て救う。それが僕の仕事で、僕が僕に課した約束で。

 助けを求められたら手を差し伸べる。相手が誰であろうと、どんな状況であろうと。そうやって生きてきた。そうやって最高治癒術師の名を背負ってきた。

 

 その僕が今——「ヴィクトールさん以外なら要らない」と? 

 

 蘇生した結果、別の人格が目を覚ましたとしても、それは一つの命じゃないんですか。救うべき命じゃないんですか。そこに意味がないなんて……治癒術師が、言っていい言葉じゃないでしょう。

 

「……ヴィクトールさん」

 

 僕は、貴方を治したいんです。貴方を取り戻したいんです。

 それだけのはずなのに。それだけでいいはずなのに。

 

 貴方じゃなきゃ嫌だなんて。

 それは治癒術師の祈りじゃない。

 

 もっと別の、もっと……醜い何かでしかない。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ヴィクトールさん。僕です。戻りましたよ」

 

 ……まぁ。

 返事なんて、ありませんよね。

 

 だって、こんなにも冷たい。

 

 当然です。防腐処理を施しているんだから。体温なんてあるはずがない。

 あるはずがないのに、触れるたびに驚いてしまうのは何なんでしょうね。何回来てもこうなんですよ。何回触れても、この冷たさに慣れない。

 あんなに温かな人だったのに。あんなに力強い人だったのに。

 今は何も動かない。何も言わない。呼んでも、触れても、揺すっても。

 

 上半身だけ。

 たったそれだけしか、残らなかった。

 

 あの災厄に下半分は持っていかれて、胸から上だけ。

 腕は二本ともあるし、顔も無事。閉じた瞼と、少しだけ開いた唇と、傷だらけの指と。僕が何度も治療した、あの手。こうして見ると、眠っているように見えなくもないですね。

 でも、胸から下が無いんですよ。

 どう取り繕っても、これは眠っている人間の姿じゃない。貴方はここにいるのに、半分しかいない。半分はもう、どこにもない。

 

 僕の魔法なら、肉体の復元は造作もないのに。

 この国で最も優れた治癒術師の名は伊達じゃないんですよ。

 なのにできない。やっても意味がない。

 肉体を完璧に治したところで——貴方は、戻ってこない。

 

「どうして」

 

 どうして、死んでしまったんですか。

 どうして、転生なんか、してしまったんですか。

 

 もっと普通に生まれていたら。貴方は人間ですけれど、前世なんて関係なく、もっと普通に生まれていたら。魔王の器なんかじゃなかったら……こんなことには。

 貴方がいなくなったら僕たちはどうすればいいんですか。貴方がいない世界でどう戦えって言うんですか。貴方が支えていたもの全部……エスクリも、マージュも、リュトも、シュヴァも、サシナも、僕も——全部崩れたじゃないですか。

 貴方一人が背負い込んで。貴方一人で全部抱えて。貴方一人に皆が頼り切りで。そうやって一人で戦って、一人でいなくなって。残された僕たちが……どう、して。

 

「最低だ。最低、最低、最低……うぅ……」

 

 何を言ってるんですか、僕は。

 上手くいかないから、今度はヴィクトールさんに八つ当たり? 

 

 あの人が魔王の転生体として生まれたのがなんだっていうんです。それでもヴィクトールさんは悪を倒すために、その身を砕く思いで戦ってくれたって言うのに。

 そんな人に向かって、「お前がそんな過去で生まれたのが悪い」と。なんて酷い。

 誰の言葉? 僕の言葉? これが治癒術師の言葉ですか。患者の過去を責める治癒術師がどこにいるんですか。

 

 最低だ。さっきよりもっと最低だ。

 貴方に何一つ非がないことは、僕が誰よりも知っているのに。

 

「……ヴィクトールさん」

 

 ……なにか、濡れてると思ったら。

 これ、僕の涙ですか。いつから……もう、止め方も分からないのに。

 

「……マージュは、帰りましたよ。サシナが護衛で、家に、帰ることに……」

 

 あの時のマージュの精神状態は本当に酷かったんです。

 同じく転生魔法を使われた身でありながら蘇生を果たしたティル。彼と出会っているマージュは、なんとなく察してはいたものの……それでも一抹の希望に縋ってソワンまでついてきてくれました。

 

 そして、僕が「ヴィクトールさんの復活はできない」って、判断したら。

 一言も、何も言わず。ただ僕を見て……いや、僕を見ていたのかすら分からないですが。目は開いていたけど、何も映していないみたいで。

 あれはもう何も受け付けない人の顔でした。何を言っても届かないし、何を差し出しても受け取れない。生きているのに生きていない——そういう顔。死んだみたいな顔、って。そんな表現を使いたくないのに、他に言葉が見つかりませんでした。

 

 それで、一度、家に帰ると。そう言っていました。

 それが、最後に聞いたマージュの声だったんですよ。

 

 僕からも、これ以上マージュをヴィクトールさんの遺体と一緒にいるのは危ないと判断しましたし。サシナも着いてきてくれていたから、マージュの護送役として、今一緒にシェーヌド山の向こうの魔法都市ドゥジェームに帰っているところだと思います。

 

 貴方がいた時は一つだったのに。全部、散り散りになっちゃいました。

 誰も間違ったことはしていないんですよ。それぞれが、それぞれの判断で動いている。

 でもそれは——貴方がいないからなんです。貴方という中心が消えたから、向心力が失われて、全員が別々の方向に飛んでいった。

 

「パーティーは……もう、完全に。ばらばらになってしまいました、よ」

 

 ……急がないと。急がないといけないのに。

 一秒でも早く貴方を取り戻さないと……世界が終わってしまう。

 貴方がいなければ魔王なんて絶対に倒せない。貴方がいなければ僕たちは何もできない。貴方がいなければこの焦燥感から自力で復活する事すらできない。

 

 分かってるんです。

 分かっているから焦ってるんです。

 焦っているのに、手段がないんです。

 時間だけが過ぎていくだけで。世界は今この瞬間も徐々に魔王プレヴィの進軍を受け、人が死んでいるっていうのに。

 僕はここで貴方の冷たい手を握って、泣いてるだけで——何も進まない。何一つ。

 

「僕は、貴方が生き返って、くれるなら……」

 

 この長い期間で、僕はすっかり真っ黒なことも考えるようになっちゃったんですよ。

 それでヴィクトールさんが生き返るのなら、それも仕方ないことなんだって、思い始めてるんです。

 もしヴィクトールさんと同じ魂を持つ存在がどこかにいたら。その魂を使って、貴方を取り戻せるなら。僕はその人を襲って無理やり魂を奪っちゃうかもしれません。

 

 怖い。自分が怖い。

 こんなことを本気で考えている。考え出して止められない。

 さっきの涙と同じで止め方を忘れてるみたい。

 一度流れ出したら止められない。壊れた蛇口みたいで。

 

 こんなこと考えちゃいけないんです。

 だからこそ僕は一早く貴方を復活させないといけないのに。僕がこれ以上倫理観のブレーキを失ってしまう前に、ヴィクトールさんを生き返らせないと。

 

 そう思って、もうずっと堂々巡りなんですよ……? 

 

「ヴィクトールさんは、どう、思いますか」

 

 ヴィクトールさんを助けるためなら、人を殺していいと思いますか。

 多分、ダメですよね。

 

 その人が極悪人だったら? それなら許されるんじゃないですか。

 多分、ダメなんですよね。

 

 でも、そうしないと、もうどうしようもないとしたら? 

 奪っても誰も困らないような。むしろ世界にとって害でしかないような。そういう存在から魂を取ったとしたら……それは、許されるんじゃないですか。

 相手が世界を滅ぼそうとしている存在だとしたら。相手を止めることが世界を救うことになるのだとしたら。その過程で魂を回収して、ヴィクトールさんに移植することは……って。正当防衛の延長線上に、ないですか。

 抵抗されたって構わない。魔法で、無理やりにでも引き剥がせば——

 

 

 

 ──そうだ。

 いる。

 

 ヴィクトールさんと全く同じ魂で。

 誰も困らないような物凄い極悪人で。

 今すぐにでも止めなきゃいけないような人が。

 

 そうだ。

 いるじゃないですか。

 なんで気づかなかったんだろう。

 ヴィクトールさんと同じ前世を持つ人物が、いるじゃないですか。

 

 

 

「……プレヴィ」

 

 僕たちを騙した──あの、占い師の魂を。

 ヴィクトールさんに使えばいいんだ。




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