僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~ 作:破れ綴じ
……ぼくが、ヴィクくんの役に立てたことって、あったのかな。
──ガタ……ゴト……
あったのかな。
あった、よね。たぶん。たぶんあったはず。
火魔法で援護したし、あの戦いではエペに魔力を注いだし、お弁当も作ったことあるし。ヴィクくんが暗いところ怖い時に火を灯したし。隣にいたし。ずっと隣にいたし。
……でもそれって、役に立ってたのかな。
「前々からマージュには親近感があった。陰キャ特有のシンパシーというか」
「……」
「……まぁいい。サシナちゃんは無視にも慣れている。気にしなくていい」
ぼくがいなくても、誰かが代わりにできたんじゃ。
火魔法なんて、別にぼくじゃなくても使える人はいるんだよ。魔力だって、量が多いだけで、人さえいればどうにでもなるし。お弁当なんて誰でも作れる。隣にいるだけなら、誰でもできる。
ぼくにもできるようなことなら、ぼくじゃなくても、よかったんじゃないかな。
ぼくじゃなきゃいけない理由なんて、最初から、なかったんじゃないかな。
ティル達の話はルメドから聞いていたし、「転生魔法を使った人は蘇生しても人格が戻らなくなる」なんて、ヴィクくんを蘇生させてもそれはヴィクくんじゃないんだって……分かってたけど。
でも……なんとかできるんじゃないかって、諦めきれずにソワンまでついて行って。
……何もなかった。
奇跡なんて、なかった。
「あの巨大な魔物には謎の『障壁』が存在して。それを破壊せねばという話も聞いた」
「……」
「まさに無敵。火力と無縁のわたしには相性最悪」
ぼくは何をしてたんだろう。
ずっと隣にいたのに。ずっと見てたのに。観察日記なんてつけて、ヴィクくんの全部を記録して、ヴィクくんのことなら誰よりも知ってるって思ってたのに。
知ってたのに、守れなかった。
ぼくがいてもいなくても同じだったんだ。
同じだったんだよ。ぼくなんて。最初から最後まで。
いてもいなくても変わらない存在。それがぼくだった。
落ちこぼれだって。ずっとそう思ってたけど。やっぱりそうだったんだ。
ぼくは落ちこぼれで、何の価値もない、誰の役にも立たない──
「いざ着いたらどうしよう。次やることも分からないし」
「……」
「ドゥジェームでわたし一人になっちゃう……お役御免?」
あの時。
ヴィクくんの体を見た時。
上半身しかないって分かった時。
ぼくはどうすればよかったんだろう。
変に泣いたことは覚えてるけど、それでも泣くことしかできなかった。
それすらも……何の役にも立たない。涙なんて流したところでヴィクくんは生き返らない。
ルメドに蘇生はできないって言われた時、ぼくも終わればよかったのかな。
ヴィクくんの隣で。
ぼくの炎で全部燃やして。
そうすれば少なくとも離れなくて済んだ。一緒にいられた。
ヴィクくんの隣で消えることだけが、ぼくにできる最後の「役に立つこと」だったんじゃないかな。
それすらも、しなかった。できなかった。怖くて。
怖かったんだ。死ぬのが。自分が消えるのが。
ヴィクくんのためなら何でもできると思ってたのに、結局それも嘘だった。ぼくは最後まで自分が可愛くて、自分のことしか考えてなくて──だから今こうして生きてる。生きてしまってる。
何のために。ヴィクくんのいない世界で、ぼくが息をしてる意味って、何。
「そういえば。マージュってヴィっくんのこと。もしかして好きだったりする?」
「……」
「わたし的にはあのパーティー全員怪しいと睨んでいて──」
ぼくは。
ヴィクくんの役に立つことが、ぼくの全部だった。
ヴィクくんがいたから魔法を使う意味があった。ヴィクくんがいたから旅を続ける理由があった。ヴィクくんの「すごいな」って言葉が、ぼくを生かしてた。ヴィクくんがぼくの火を「頼りになる」って言ってくれたから、ぼくは自分を許せてた。
それが全部、無くなった。
ぼくの存在意義が、丸ごと。消えた。
何が残ってるんだろう。ぼくに。
魔力がある? 火魔法が使える?
それが何。ヴィクくんのためじゃなかったら、ぼくの魔法に何の意味があるの。誰のために使うの。何のために。
その癖してルメドに無理やりついていって迷惑かけて。サシナにも護衛をさせてドゥジェームまでついてきてもらって。生きているだけで他の人の邪魔にしかなってない。
何も残ってない。
ぼくの中には。何も。
「あっ。ドゥジェーム見えてきた。ようやく任務が果たされる」
「……」
「……何も答えてくれない。ぐすん」
……ごめんね。
何か、言ってくれてるんだよね。ずっと。
ぼくに。ぼくのために。
でも今は。何も。
何も、出てこないんだ。ぼくの中が、空っぽで。ヴィクくんがいた場所が、全部空洞になってて。
そこから声が響くだけで、何も返せない。
……ごめん。
*
「ぱんぱかぱーん。遂にドゥジェーム到着」
「……う」
……ドゥジェーム。
着いた、んだ。
ぼくが……最初にヴィクくんと出会った街。
ここで初めてヴィクくんを見て、ここで初めて話して、ここで初めて一緒に戦って。ぼくの全部が、実質的な第二の人生が始まった場所。
それが今は……何も感じない。
何も思い出せないわけじゃないのに、思い出しても胸が動かない。ぼくの中の何かが壊れてしまったみたいに、全部が平坦で、全部が遠い。
ここに来れば何か変わるかもしれないって……そんなことも、思ってなかったけど。何も思ってなかった、ただ帰る場所がこっちに戻って来た。それだけ……のはずだったのに。
……うぅ。
「マージュ。ここから一人で行ける?」
「……うん」
……だいじょうぶ。たぶん。
だいじょうぶって何だろう。歩けるから? 道が分かるから?
それだけのことで「だいじょうぶ」なのかな。
……ぼくって、こんなだったっけ。
でも今……「うん」って言っちゃった。
口が勝手に、考える前に音が出たみたいな。もうほんとおかしい。
前までは……ヴィクくんがいた時は、ちゃんと考えて、ちゃんと答えてたはずなのに。答えたいって思えてたはずなのに。ヴィクくんの言葉は全部ぼくに届いてたから、問題なくできてたはずなのに。
今は何も届かない。誰の声も。
魔法学園で不貞腐れてた頃よりもずっと……おかしなことになってしまっている。
「この馬車どうしよっか。サシナちゃん的にはここに置いてっちゃうのもアリだと思うけど……怒られるかな。怒られるか」
「…………」
「まあ問題ない。預けとく場所探せばいい。ドゥジェームなら商会あるだろうし。たぶん」
……サシナが考えてくれてる。
ぼくが考えるべきことを。ぼくが判断するべきことを。全部サシナがやってくれてる。
ヴィクくんがいたときだってそうだ。
旅の間だって、皆が均等に役割分担して、色々やってたはずなのに……今思えば、ぼくが担当してた役割なんてパーティーじゃほんの少しだけだったり。基本色々できるヴィクくんが沢山してくれてたんだ。
ぼくは横で見てるだけ。たまにヴィクくんが「マージュはこれ頼む」って渡してくれたものを抱えるだけで。それだけで旅は成立してた。それだけでよかった。
……ぼくって、いつも誰かに頼って……自分では何もできなくて……。
それなのに隣にいるだけで「役に立ってる」って思い込んでた。思い込みたかっただけだった。
「マージュの実家ってここから遠い?」
「……遠い、けど。だいじょうぶ、ぶ」
「ふむ。食糧は……まだあるけど。いる?」
「……いらない」
「全部? 保存食とかも?」
「……うん」
「なんという無欲。見上げた精神」
いらない。何もいらない。
食べることとか……考えられない。お腹が空いてるのかどうかすら分からない。最後に何か口にしたのがいつだったかも……思い出せない。たぶんサシナが何か差し出してくれたのを、口に入れた気がする。味は覚えてない。何だったかも覚えてない。
ヴィクくんがいた頃は……ヴィクくんにたまにお弁当を作ったりして。それが楽しくて、一緒に食べるのが嬉しくて。すごく嬉しかったのに。
今は……自分で作る理由がない。食べる理由もない。何も……。
「じゃあ残ったものは全部お金に換えとく。いくら欲しいか言ってみるといい」
「……いいよ。サシナが……持ってて」
「……じゃあ一旦わたしが管理する。パーティーの共有財産ってやつ。清算とかもまあ適当に」
「…………」
パーティーの共有財産。
……パーティーなんて、もう無いのに。
ヴィクくんがいて、エスクリがいて、エペがいて、リュトがいて、ルメドがいて、シュヴァがいて……そこにぼくがいて。みんなで一緒に旅をしてた。みんなでご飯を食べて、みんなで笑って、みんなで戦って。本当はここにサシナも加わるはずだった。
でも全部終わっちゃった。全部、ばらばらになっちゃった。
……ぼくのせいだ。ぼくが弱かったから。ぼくなんかが隣にいたから……。
「じゃあこれからわたし。どうしよっかな」
…………。
「こう見えてわたしは指示待ち人間。自分で考えて動くのほんと苦手。絶体絶命」
「……ごめん」
「なんで謝った?」
ぼくのせいだ。
ぼくがもっと強かったら。ぼくがヴィクくんを守れていたら……サシナがこうして困ることもなかったんだ。
ヴィクくんが生きていたら、サシナにも指示を出してくれた。次にやることを教えてくれた。みんなを導いてくれた。それができなくなったのは……ぼくが、ヴィクくんを守れなかったから。
全部……全部ぼくの……。
「まぁ。ヴィっくんがいてくれたら教えてくれたんだけど。次に何すればいいか」
「ぅ……っ……」
……。
ヴィクくん。
ヴィクくんが、いてくれたら。
……そうだよ。ヴィクくんがいてくれたら、全部解決したんだ。
サシナも困らなかった。ぼくもこうならなかった。エスクリだって一人でアザールに行ったりしなかった。シュヴァだって。リュトだって。ルメドだって。
全部ぼくのせいだ。ぼくが弱かったから。ぼくが何の役にも立たなかったから。ぼくなんかがヴィクくんの隣にいたから。
もっと強い人がぼくの代わりにいてくれたら……ヴィクくんは死ななくて済んだのに。ぼくが……ぼくなんかが……ぼくさえいなければ……。
「ヴィク、くん……ごめんなさい……ぼく……なにも、できなく、て……っ……ごめん、なさい……」
「……泣いちゃった!」
さっきまでずっと乾いてたのに。
何も感じないって思ってたのに。
何も出てこないって思ってたのに。
止まらない。止められない。胸の奥から何かが溢れてきて……苦しい。息が、苦しい。
ヴィクくん。ヴィクくん。ヴィクくん……。
役に立てなくて。守れなくて。弱くて。何もかも足りなくて。
ぼくがいたせいで。ぼくなんかがいたせいで。ぼくがもっとちゃんとしてたら。ぼくがもっと強かったら。ぼくが……ぼくじゃなければ……。
ごめんなさい。ごめんなさい。ヴィクくん……。
「……っ……きっと、ヴィクくんは……」
「……ヴィっくんは?」
「みんな、こうなるなんてこと……絶対、望んで、なかったのに……っ……ぼくの、せいで……!」
こんなふうに……みんなが離れ離れになること。それだけは望んでなかったはず。
ヴィクくんはいつだって……みんなのことを考えてくれる人だったから。自分が死んだから、全員ばらばらになっちゃったなんて思ったら、絶対に悲しむから──
「──なるほど。完全に理解した!」
「……え」
何……今。サシナが……急に。何か。
……分からない。何が起きたか……分からないけど……何か。
「おーけーおーけーマージュありがとう。今天啓が降りてきた」
「は……」
「おかげでわたしはやりたいことを見つけられた。ならば早速行動あるのみ。あでゅー!」
へっ。
あっ。
ちょっ……。
「え……?」
*
……い、行っちゃった。
は、早ぁい……。
えっと……どういうこと?
「ぐ……はぁ、はぁ……んんっ!」
ま、待って。ちょっと、涙止めないと。心臓落ち着かせないと。
──ふぅ。
……何だったんだろう。今の。
今──というか、さっき、ヴィクくんの話してた最中だった……よね。
元々ここで別れるってことは、決まってたし。別に急にどっか行っちゃったとしてもおかしいことじゃ……ない、はず、だけど。
ちょっと一回整理しよう。整理しないと。
元々、サシナが「ヴィクくんは何が望みだったのか」ってことを呟いた。
それで、ぼくが「今みたいにみんなバラバラになっちゃうのは望んでない」的なことを言った。だってそうだと思うし、涙声だったけど……なんか言い出さずにはいられなくなって、つい口に出ちゃってた。
そしたら……それを聞いたサシナが急に何か言って、走って行った。
確か、「完全に理解した」「天啓が降りてきた」って。それで「あでゅー」って……。
………………何が?
何が、分かったんだろう。
それで、何しに行ったんだろう。
………………いや。
冷静に考えれば、すぐに分かること。
今の流れからすると──この内容の話を聞いて……それで「やることが見つかった」なんて。間違いなく、ヴィクくんのためになることをやろうとしてる。それ以外あり得ない。
つまり……サシナは、ヴィクくんが望まなかったことをどうにかしに行った……ってこと、なのかな。ヴィクくんのために、動いた……ってこと。
自分のことを「指示待ち人間」って、自分自身で言ってた人が。「自分で考えて動くの苦手」って言ってた人が。それでもヴィクくんのためなら……何かを見つけて、走って行けたんだ。
「……ぼくは」
ぼくは……何をしてるんだろう。
あそこまで自分を徹底的に「動けない」って主張していたサシナがヴィクくんのために何かを見つけて動いたのに。ぼくは……何もしてない、何もできてないじゃないか。
……これからも、このまま?
泣いて俯いて「ぼくは無価値だ」って繰り返して。それで家に帰って……終わり? ヴィクくんが望まないことをぼくがし続けるの? 何もしないで蹲ってヴィクくんのことを泣いて呼ぶだけで、それが……ぼくの全部?
その人がいなくなったから何もできませんって……そんなの。
「……嫌だ」
嫌だよ。そんなの嫌だ。泣いてる場合なんかじゃない。
ヴィクくんの望みを壊すのはもう嫌だ。ぼくのせいで十分壊してしまったのに。これ以上……これ以上何もしないぼくでいるのは……嫌だ。
サシナは動いた。サシナですら動けたんだ。ヴィクくんのために。
なら……ぼくだって。ぼくだって何か、しないといけないよ。
お母さんやお父さんには悪いけれど、自分だけ実家に引きこもりにいく訳にはいかない。
ヴィクくんがやろうとしてたことを、少しでも手伝わないといけないんだ。
「……じゃあ、どうしよう」
今のぼくは弱いし、臆病だし、せっかくドゥジェームまで戻って来たけどこの場所じゃ落ちこぼれでしかない。
そりゃ物凄い火力の火魔法は使えるし、とてつもない量の魔力だって持ってるけれど……それだけで「はい件の魔物を倒せました! 世界は平和になりましたちゃんちゃん!」って訳でもない。
そもそも、件の魔物だって、確か……『障壁』? とかいうよく分からないバリアが貼られてるって噂があったし。ぼくがこの火力をそのままに物凄く頑張ることで、そのバリアを破れたりしないかな?
……そう、簡単に片付く可能性は低いよね。
もし失敗したらぼくが何の役にも立たずに殺されるだけだし、射程距離があるからあんまり遠く離れた位置から安全に攻撃って訳にもいかないし。
だから、可能性としては……。
ぼくと同じくらい、あるいはもっともっと火力があって。
ぼくと違って、もっと遠い距離からでも攻撃可能な方法で。
例のバリアを破壊できるような、そんなことができれば、きっとヴィクくんの役に……。
……。
……待って。
待って……待って。
「そうだ……!」
そうだ。ぼくは今ここにいるんだ。
ここにはある。ぼくには使えないけれど、可能性があるようなものが。
できる。
できるかもしれない。
ぼくにも……ヴィクくんのために、できることが——!
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