僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~ 作:破れ綴じ
どうかGW終了の反動ということでここは一つ……<m(__)m>
オレは自由だ。
誰にも縛られてない。使命もない。やるべきこともない。行くべき場所もない。
望んでた通りだ。オレはずっとこれが欲しかったんだからな。
……望んでた通りの、はずだ。
はずなんだが……なんだろうなこの感じ。
「チッ……なんでオレは律儀に魔物退治なんてやってんだよ」
もうオレは無理に世界平和のため戦う必要なくなったはずだろ。
別についさっきのヤツだって倒すつもりなんかなかったんだぞ、ただ通り道にいたから邪魔だったってだけで。それだけなのに、村の連中が出てきて「ありがとうございます」だの「助かりました」だの。
ただイライラしてただけだ。そんなつもりじゃなかったっつの。
たまたまそこに殴れるもんがあったからぶん殴っただけだ。人助けなんざした覚えはねェ。
そうだ。オレは今、めちゃくちゃイライラしてる。
自由になったはずなのに。誰にも何にも縛られてないはずなのに。こんなに気分が悪いのはなんでだ。解放されたんだからもっとスッキリしてるもんだと思ってたのに、全然スッキリしねェ。
何が気に食わない。何にイラついてる。何がオレの中で引っかかってる。
……答えなんて分かってる。分かってるから余計にイラつくんだよ。
「……ヴィクの野郎」
ヴィクが死んだ。
あの真っ直ぐなバカが。あのお人好しが。あの……なんつーか、オレが初めてまともに「コイツと一緒にいても窮屈じゃねェ」って思えた相手が。
しかもだ。やっと全部に決着がつくはずだったんだぜ。
ヴィクが魔王の生まれ変わりで、不本意だが一旦負けたフリして、プレヴィを倒しに行って、それを追いかけに行って……要は最後に倒すべき敵まで分かってたんだ。それさえ終わったら全部片付く……そういう流れが見えてたじゃねェか。
終わりが見えてたんだ。使命とかいう縛りからも、正式にオサラバできるはずだった。
アイツが死んだおかげで全部有耶無耶になっちまった。何も終わってねェし、何も片付いてねェ。ヴィクが死んだだけで、世界は前より悪くなっただけ。
……ムカつく。
なんで死にやがったんだよあの野郎は。
筋違いなのは分かってるぞ。
オレだってどうしようもねェってことぐらい分かった上で「降りる」って決めたんだ。周りに止められようが撤回する気はなかったし、事実皆止めようともしてこなかった。それでいいじゃねェか。
「畜生が……ッ!」
──バキィッ!
クソ。木なんかに当たったところで何にもならねェだろうに。
オレは悲しむキャラじゃねェんだよ。泣いてどうにかなるならいくらでも泣いてやるが、泣いたってヴィクは戻ってこねェ。シンプルにこんな状況になっちまったことに腹が立ってるだけだ。理不尽だって分かっちゃいるが。
そもそもこの現状こそ望んでたことのはずだろうが。ずっと使命なんざクソくらえって思ってたんだし、前世の勇者シエルに縛られるのは御免だってそう決めて生きてきただろ。
だから今の状態は——正しい。正しいはずだ。使命から解放された。自由になった。
でも……こんな形での解放なんて望んでなかった。
ヴィクが死んだから解放された。パーティーが壊れたから縛りが消えた。戦う理由がなくなったから使命がなくなった。それは自分の意思で勝ち取った自由じゃねェ。
ヴィクの死を利用して使命から逃げた形だ。不謹慎にも程がある。アイツが死んだおかげで楽になっただなんて——そんな自由、誰が喜べるんだよ。
……じゃあ戻ればいいのか?
使命に。勇者シエルの道に。戻って、あのクソ魔王を倒しに行けばいいのか?
「——冗談じゃねェぞ」
戻るってことは前世の「使命のために自分を殺して生きてた勇者シエル」を、あの辛く息苦しい日々を、自由の無い生き方を肯定するってことだ。結局そうすることが「正しい」んだって自分で認めることになっちまう。
それだけは絶対にイヤだ。あの頃の自分を肯定するくらいなら、このまま逃げ続ける方がよっぽどマシだ。ヴィクの死を利用した最低野郎のまんまの方が、まだ耐えられる。
オレはもう勇者じゃねェ。オレが例の脅威から逃げ続けるのも。逃げた先で魔物を殴るのも。うっぷん晴らしのつもりで暴れるのも。それ誰かが「ありがとう」って言ってくるのも。全部使命を果たしたからじゃなくて、あくまで自然に起こること。
このままいけばあの……多分魔王? かなんかがどんどん街を滅ぼしていって、避難民が行き先を失って……世界は本格的に魔王対策に追われることになる。
今はまだ対応できてる国なんざほとんどねェが。既に抵抗を試みた国は滅ぼされたって噂だし、次に声を上げた国は真っ先に標的になるんだろうな。でもいずれ、世界は数百年前と同じ、全人類VS魔王の形になる。
オレには関係ねェ。関係ないはずだ。
世界がどうなろうと、オレが——ボクが気にすることじゃない。
……気にすることじゃねェってのに。
なんでこう——言い聞かせてる感じになるんだよ。
関係ないなら関係ないで終わるはずだろ。わざわざ「関係ない」って確認しなきゃいけない時点でもうおかしいんだよ。分かってる。分かってるけど。
「……もういい。考えるのやめだ」
何考えたって堂々巡りにしかならねェ。
怒って、後ろめたくなって、言い訳して、また怒って。落とし所なんてどこにもねェんだよ最初から。
ほら、さっきから歩いてる森もそろそろ開けてくる頃じゃねェか。オレもさっさと思考切り替えねェと……。
……ん?
──ズゴゴゴゴ……
……なんであの地面、上下してるんだ?
*
「……なんだ、これ」
地面が動いて、上下してやがる。
こりゃ地盤の問題か? 崩れかけの地面なんざ珍しくもねェが……いや違うな。これは地面じゃなくて、地面に見えるだけの何かだ。
半透明の膜が張ってるし、土に近ェ色をして地面と一体化して広がってるっていうか。場所によっては光の加減でぬらついて見えるし。端がどこまであるのか分からねェ。足元から数歩先……いや、もっとだ。ずっと向こうまで続いてる。
コイツは生き物だ。
この地面全体が、一匹の魔物。
質感から言うと……スライムか? これ。
スライムって普通液体状だろうがよ。なんだよ地面に擬態する個体って。
もう一歩踏み込んでたら飲まれてたかもしれねェな。危ねェとかそういう次元じゃねェ。気づかなかったら終わりだった……って。
……!
「(……おいおい。嫌な予感がしてきたんだが)」
あの半透明の膜の向こうにあるのは……もしかしなくても人だよな。
このスライム、よりにもよって捕食中じゃねェかよ。
形は女か、溶かされてんのか肌の色がおかしいし、右腕とか先が無くなりかけてんぞ。ずっと動いてないし、ちょっと耳元が長めで……つまり、エルフか?
顔の方は……。
「……げっ」
エネじゃねェか。
何でだ? 何でここにいやがる。
いや待て。エネは人質に取られてるって話だったが……まさかそういうことか? 誰かに捕まって身動き取れない状態だったはずだが、この地面に擬態してるデカいスライムみたいな魔物がその「誰か」、要はエネを襲って人質にした張本人ってことなのか。
こんな形で転がってるとは思わなかったぞ……。
つーか死んでなかったのかこの女。クソ、頭が回らねェ。
「動いてねェよな? スライムもあの鬼教官も……」
エネは……やっぱり消化されかけてる。
だけど、おかしいよな。人質が生きてるってのは朗報かもしれねェが──人質になってもう一か月以上経ってるってのにまだ生きてるってのは変なんじゃねェか。
そりゃ右腕はもう変わり果ててるし、表皮も侵食されてる。
だが内臓まではやられてねェように見えるぞ。取り込まれてから相当時間が経ってるはずなのに、まだ形を保ってる。死んでるのか生きてるのか断言はできねェが、致命傷って感じじゃねェ。拘束されて、少しずつ溶かされてる途中。死にきってないだけ。
殺さないよう指示が出てるのか? いやそれなら溶けだしてるのはおかしいだろ。
「……じゃあやっぱ消化が遅ェよな」
つーかスライムの方も様子が変だ。収縮が不規則すぎる。
本来なら一定のリズムで蠕動するはずが、途切れ途切れだ。どっちかっていうと痙攣に近い。体組織の一部が変色して、変に硬くなってる。これって正常な捕食行動を維持できてないんじゃねェか。
つまり、こいつ自身が弱ってる。
動きの鈍化。収縮の不規則。組織の変色と硬化。
それが原因で消化が遅れちまってる。
殺すよう命令は出てたのかもしれねェが……本体が明らかにそれどころじゃねェ。
で、オレはこの症状に──覚えがある。
──「これが標的の体内で進行する過程だ」
──「見て覚えろ。世界のためにこうした知識も必要になる」
──「体内に取り込んで自決にも、相手に食らわせて弱体化にも有用だ」
いや、覚えなんてもんじゃねェ。
訓練で嫌ってほど見せられた。時には殺されかけながら叩き込まれた知識がオレにははっきりと残ってやがる。オレが前世を嫌いな理由の一つだ。
これは数百年前から暗殺者が御用達の遅効性の麻痺毒。
体組織を変質させる作用との複合。接触してから効果が出るまで時間差がある。染み込んでから、ゆっくり全身に回る。気づいた時にはもう手遅れっていう……エネの毒。
遅効性だから最初は気づかれないが、十分に時間が経てば溶けた分だけ毒が染み出して、時間をかけて全身に回る。
この状況は、エネが自分で仕込んだんだ。
取り込まれた時か、あるいは直後か。とにかく自分が襲われ、飲み込まれるってことが分かった瞬間に行動に移しやがったに違いねェ。
あの女、自分の装備やら暗殺道具やら、場合によっては大量に自分の体に取りこんで、消化液で自分が溶かされる過程を見越して利用しやがったんだ。
そしてそれが実際に功を奏し、このスライムはエネを消化する過程でとんでもない量の猛毒を飲み込んじまって様子がおかしくなってやがる。
「そこまでするかよ、流石鬼教官……」
ヴィクとサシナは知らねェんだろうな、こんな技術。知ってれば「消化は遅れるから猶予があるはず」って余裕を持てただろうが、そんな素振りは無かった。
当然だな。あの鬼教官、数百年経って馬鹿みたいに丸くなりやがったんだ。かわいい弟子にこんな技術教えられねェだろうよ。
だがオレは、前世で嫌と言うほど見せられて、その記憶をばっちり覚えてるオレにだけは、分かっちまう。
もう一か月以上経ってるのに生きてるんじゃねェかって思っちまうのも、この女からそういったサバイバル技術なり生き延びる術を散々教わってきたからだ。この女なら自分から仮死状態になって消耗を最低限で済ませようなんて芸当もできておかしくねェ。
つまり、まだまだこの状態からでも助かる可能性があるってこと。
この地面全体が一個体だとして、相当な体積だ。
オレは物理攻撃特化の戦闘スタイルだからスライム系統には相性最悪。殴ったところで衝撃が吸収されちまう。効かねェ訳じゃないが、効率が悪すぎる。
殺しきるなら分裂させて個別に潰すしかねェが、この規模を一人でやったら時間がかかりすぎる。それまでエネの仮死が持つ保証はねェ。
単独じゃ厳しいな。はっきり言って手数が足りな……。
「……待て」
オレは何を考えてる。
エネを助けてどうするってんだ。
使命から降りた。自分で選んで降りた。ヴィクが死んで全部有耶無耶になって、オレは「もう付き合う義理はない」って言って立ち去った。そうだ。自由になるためだ。何にも縛られたくなかったから。
じゃあ、エネを助けるってのは何だ。
オレはこの女が大嫌いなんだよ。
助ける義理なんかねェ。愛着も無ェ。恩義だって……恩義? 技を叩き込まれたことに感謝してるって? 万が一にも有り得ねェ。頼んだ覚えすらねェってのに。
見捨てりゃいいだろ、こんな女。
膜破いて無理やり引っ張り出せば強引にエネだけ取り出せるだろうが、そうなりゃこのスライムが抵抗するに決まってら。
わざわざオレが命を懸ける意味はない。背を向けて歩いて、それで終わりだ。エネはスライムと一緒に朽ちて、オレは自由なまま、どこにでも行ける。
大嫌いな師匠が勝手に死んだ。それだけの話だ。オレには関係ねェ。
「……でも」
でも──何だ。
分からねェけど、何が引っかかってる。
助けたいのか。助けたくねェよ。こんな奴。じゃあ何だ。
……ッ、ああ、クソ。
分かんねェよ。何が正解かなんて。
助けたいのか助けたくないのか。
怒ってんのか怒ってねェのか。
自由が欲しいのかそうじゃないのか。
何一つはっきりしねェ。ずっとだ。ヴィクが死んでからずっと。何もかもがぐちゃぐちゃのまま歩いてる。
オレは助けねェ。
こんな女見捨てていく。
これが正解だ。これが、正解のはずなんだ……。
*
「じゃあなんで助けちまったんだよオレはァ!」
「っ……げほっ、かはっ……!」
「しかもやっぱり生きてんじゃねェかこの女ァ!」
──ズガガガガッ!
「テメェは毒で弱ってたんじゃねェのかよ!」
あれだけ見捨てろって自分に言い聞かせといて、なんなんだよこれ!
おかげであのスライムも追いかけてきやがったし、オレに何一つ良いことが起こってねェ! 初めから分かってたことなのにどうしてこんな選択肢取っちまったんだ! やっぱりオレは使命から逃げられねェのか!?
チッ……!
やっちまったもんはもう仕方ねェ。地面かち割って無理やり膜引き裂いて引っ張り出したんだ。そこまでやった時点でもう後戻りできねェって腹くくったのも一緒だろ。
大嫌いな鬼教官を抱えて、自分の感情が分かんねェまま走ってる。瞼が溶けてるからオレのことは見えてねェだろうが……見られてたら一生ものの黒歴史確定だな。
それより問題は後ろの土塊だ。
「さて……! どこまで逃げればいいんだこれ!」
──ドガガガガッ!
あのスライム。毒で弱ってたはずだし、動きも普段よりは鈍いんだろうが。遅ェけど確実に、こっちに向かって追ってきてる。
人間なら確実に動けなくなる量の毒を取り込んだと思うんだが、毒が回りきってねェのか? いや、あの変色と硬化の進み具合からして体内にはまだ残ってるはずだ。本来ならまともに動けるコンディションじゃねェ。
となれば、ただ獲物を取られて死に物狂いで追いかけて来てるってことになるのか。主人の命令に忠実な魔物で助かるよ。
んで、オレの方もまずい。
元々スピードで勝負するタイプじゃねェんだよ。パワーで殴って終わらせる戦い方をしてきた人間が、人一人抱えて全力で走るってのは相当キツい。
一人だったらなんとか引き離せる距離だろうが、エネを抱えてるとじわじわ詰められてる。差が縮まってるってことぐらい、なんとなく体感で分かるぞ。
やっぱり倒しちまうか? 弱ってんだし、叩けばいけるか?
いいや、無理だ。殴りの相性が悪ィ上にエネを庇いながら戦うなんざ論外だろ。
人数さえいりゃ話は別だ。分裂させて個別に潰す戦術が取れれば、あの程度弱ってる相手なんざどうにでもなる。だがオレは一人で、片腕はエネで塞がってる。
このまま走り続けてどうする? オレはどこに向かってる?
目的地なんかねェ。考え無しにエネを助けたは良いものの、後のこと何も計画にねェから追いつかれない方向に足を動かしてるだけだ。
考えなきゃいけねェのは分かってるが、今は──
──「巨大な影が見えたと噂があったのはこの辺りです、救世主様」
──「我々全員、救世主様の強化魔法で準備万端です! いつでも戦えます!」
──「……何やら物音が。大きなものが向かっているようです」
「……ッ!」
……嘘だろ!? マズイ、人がいるぞ。
そんなとこまで来ちまったのか、オレは。
どうする、引き返すか?
いやだが、止まったら追いつかれてあのスライムの養分を一人分増やしちまうだけだ。
こうなりゃこのまま突っ込んで、そこのヤツら全員巻き込んで協力させるしかねェ。
素人集団なら何の役にも立たねェが、腕が立つようなら逆に勝ち目だって見えてくる。あそこにいる人間が、オレと同じくらいの強者であることを祈って──今は突っ込むしかない!
うおらあああああァッ!
「──なっ、リュト!?」
は!?
シュヴァ!?
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