僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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君のおかげで理解できたこと

「まさか、エネを抱えて走ってくるとは」

 

「こっちだって。急に人が見えたからビビったんだぞ」

 

「心配するな。全員が私の強化を受けている」

 

「うーわ、過剰戦力もいいとこだろ」

 

 そうは言うがな、リュト。君が連れてきた──あのスライム状の魔物は相当強力そうな存在だったぞ。もし私の強化魔法がかかっていなければ有志達に犠牲が出ていた可能性もある。

 

 逆に言えば──様々な状況が重なったおかげで、有志達は問題なくあの魔物を討伐できている訳だが。

 

 何があったのかは分からないが、あのスライム状の魔物はリュトを追跡する過程で酷く衰弱した状態だった。加えて、こちらには数的有利もある。大人数で細かく分裂させて個別に対処することで被害を最小限に抑えつつ、的確にダメージを与えることができている。

 

 そして何より……。

 

 ──シュワァァァ……

 

「にしても……ありゃなんだ。便利な魔法があんだな」

 

「現代の火魔法だ。私達の時代にはなかったものだな」

 

「そりゃまた都合のいい時代に生まれ変わったもんだ」

 

 なんでも熱源を作り出して均等に熱波を放出し、対象を乾燥させる魔法らしい。

 おかげで、あのスライムの水分を蒸発させ、効率的に弱らせることができている。

 火魔法を使える者や、敵性があったため訓練によって会得した者が有志の中に複数いて助かった。火力自体はマージュほどではないが……単純に火を放出することに限定した数百年前のものではない、私達の時代には存在しなかった体系。こういう局面では十分に機能する。

 

「……しっかしお前、こんな集団率いてたのかよ。いつの間に」

 

「私に賛同し着いてきてくれた者達だ。世界を救うための『対魔王軍』といったところか」

 

「魔王に対する軍か、魔王軍に対してるのか分かんねェ呼び名だな」

 

「うるさい」

 

 魔王には勝てないと判断して早々に逃げることを選択した君には理解できないかもしれないが、彼らは自分の意志で立ち上がってくれた……あの災厄を前にして、それでも戦うと決めた人達だ。

 新たなる魔王の脅威は今や世界に広く浸透している。そんな中、組織はディアマの協力もあって徐々に勢力を拡大し、今やより多くの人々を救うため、多彩な人材が集められた。

 現代の発展した技術や魔法を兼ね備えた人材が、魔王討伐のために命を懸ける判断をしてくれている。それがどれほどありがたいことか。

 

 私が無理に集めた訳じゃない。

 それでも集まってくれた。その覚悟に応える責任が、私にはある。

 

「あー……エネの方も」

 

「ん?」

 

「いや、その……だな。あの女を、保護してくれて……感謝してる」

 

「気にするな。どうして彼女と一緒にいたのかは分からないが、人命を助けることを躊躇う理由はない」

 

 エネが四肢欠損状態で連れてこられた時は流石に驚いたが……有志の中には回復魔法が使える人材も含まれている。

 ルメドのように数分で欠損した腕を再生する……なんて芸当はできないが、それでも応急処置をするには十分なはずだ。相当衰弱していたし、処置を施すのに越したことは無いだろう。

 

 それよりもこっちには聞きたいことが山ほどある。

 なぜエネを助けた。なぜここにいる。降りたはずの使命と、今の行動が矛盾していることを彼女は理解しているのだろうか。

 

「シュヴァ様!」

 

「む。なんだ」

 

「我々の攻撃力ではキリがありません、どうかお力添えを……!」

 

「そうか、任せてくれ」

 

 ……などと思っていたら、救援要請か。

 

 確かに、いくら私の強化魔法を受けた現代の猛者とはいえ、単純な基礎スペックでは私とかなり大きな差が存在する。彼らだけでは弱らせることはできたとしても、完全にトドメを刺すことは難しかったかもしれない。

 保護すべき被害者は保護で来た。他にも聞きたいことは山ほどあるが、今は有志達の要請に答え、魔物を倒すことが先決だ。

 

「リュト、一旦あの魔物を倒すぞ。その後に、改めて話をしよう」

 

「……おう」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「これで、やっと話ができるな」

 

「……」

 

 討伐は終わった。

 巨大な魔物ではあったが、あそこまで弱っている状態かつ強化魔法をフル活用した私とリュトが相手であればそこまでの脅威ではない。今は有志達が後処理に回っているし、エネはうちの回復魔法使いが引き続き看ている。

 

 残ったのは私と、リュト。二人きり。

 今なら遮るものはない。人払いも済ませたし、話をするには最適な状況が今整っている。

 

「私は、君に使命を強要してはいけないと、そう思ったんだ」

 

「……」

 

 こんなことを私が言うなんて、自分でもちょっと意外な気もするが、な。

 元々私は「勇者シエル」であれば例外なく全て、その命を犠牲にして世界のために尽くすべきだと考えていた。それがかつて勇者として生まれた者の運命であり、現世でもそれは継続されるべきだと。人々の平和を守るためなら自分の意思は徹底的に無視するべきだと。

 

 ただ、シズィで。ヴィクトールとリュトの三人で食事を取ったあの場所で。

 私は……僕は、少し考え方が変わっていったのかもしれない。

 

 この女が背負っているものの重さや、使命感というストッパーが無いままかつての訓練の記憶だけを生々しく抱えている人間に、「使命だから耐えろ」と押し付けていたのは私の方だった。彼女は私自身でありながら、実質的に私とは違う人生を歩んできていたともいえる存在だったのだ。

 それを知って以来……自分でも自覚できないほどうっすらとだが、徐々に目の前のリュトは「自分」であって「私ではない」と思うようになっていた。

 リュトだけでなく、他のシエルについても。同じシエルの生まれ変わりでも、受け継いだものが違う。抱えている苦痛が違う。一人の、別の人間なのだと。

 

「君は私であって……私ではない。それを私は理解できていなかった」

 

「……そうだな。オレだって、その辺、曖昧だったし」

 

 だから離散の時、リュトが「降りる」と宣言した時に私は止めなかったのも。

 どこか自分の中で、この女への配慮のようなものが目覚めかけていたのかもしれない。

 

 

 

「それで……改めて聞く。君は、どうしてここにいる?」

 

「…………」

 

 では何故、リュトは今こんな行動を取っている? 

 そこがよく分からない。

 

 

 

 別に正義一辺倒であれとも、逃避一辺倒であれとも言うつもりはない。中途半端であることは許せないだとか、曖昧なままでいることが悪だと思ったりもしない。

 ただ、リュトはとにかく勇者シエルの「使命」を嫌っていたはずだし、自身に対する危険や自由が脅かされる可能性を考慮してまで嫌いな人間を助けるために命を懸けるなんてしなかったはずだ。

 

 だから、彼女の行動原理がよく分からない。

 彼女が、一体何を考えているのか。

 

「……成り行きだよ。気がついたらエネ見つけて、気がついたら引きずり出してた。それだけだ」

 

「……本当に?」

 

「……いや、正直オレもよく分からねェ。自分で認めたくないだけかもしれない」

 

 ……この女にしては歯切れが悪い。

 普段なら「知らねェ」の一言で切り捨てるか、「テメェに関係ねェだろ」で突っぱねるところだ。

 答えられない、答えたくない……というより、自分でも整理がついていないみたいだ。

 

 なら。

 先に、私の方から話すしかないか。

 

「……私は、あの場で何も言えなかった」

 

「……あ?」

 

「エスクリがアザールに行くと言った時も。ルメドがソワンに帰ると言った時も。君が降りると言った時も。止めるべきだと──思うことすらできなかった」

 

「……」

 

 普段の私ならこんなことしないが。

 勇者として、今は指揮を執る者として、感情を覆い隠すのが本来のやり方だ。

 弱さを見せれば組織は揺らぐ。正義を語る者が迷いを見せてはいけない。

 だがリュトは有志でも部下でもない。同じシエルの断片を持つ、私が唯一対等に向き合うべき相手だ。こちらが閉じたまま相手にだけ開けと要求するのは、不公平だろう。

 

 ……前のように、ヴィクトールがいたなら、きっとまた仲裁してくれた。

 でも今、ヴィクトールはいない。いないなら、自分でやるしかない。

 

「ヴィクトールがいなくなった以上、あの場を私が纏めなければいけなかったのに。私は何も考えられないまま、ただ『人を助ける』という──考えなくても出てくる理想だけを口にして、その場を去った」

 

「……」

 

「……君を止めなかったのは、判断の結果じゃない。何も考えられなかっただけだ」

 

 ……言葉にすると、余計に情けない。

 だがこれが事実だ。あの場で私は機能しなかった。

 リュトを別の人間として認めたから、強要すべきではないと思ったのも事実だ。だがそれを「判断」と呼ぶには、あの時の私はあまりにも空っぽだった。ヴィクトールの死で頭が真っ白になっていた。正義で蓋をしていたつもりの感情が、あの場では蓋ごと吹き飛んでいた。

 

 ……それでも。

 

「君に、正義を強要してはいけないと。そう言ったな」

 

「ああ、言ったな」

 

「だから、この問い自体が矛盾しているのも分かっている。強要しないと決めた人間が、事情を聞くこと自体が……それでも、分からないままでいたくなかった」

 

「……そうかよ」

 

 言い切った。

 これ以上は出てこない。私の側に隠せるものは、もう何も残っていない。

 

 ……いや、一つだけ残っているが。

 それはヴィクトールに関することで、リュトに開示すべきものじゃない。

 

「……テメェがそこまで人間らしく喋るの、初めて聞いたぞ」

 

「……私も、初めて喋った気がする」

 

「キモいな」

 

 君に言われたくないが。

 

 それでも少しだけ、空気が変わった気がする。殺気立ったものが抜けて、いつもの──いつもの嫌な感じに戻ったみたいな。

 嫌な感じだが、敵意とは違う。この女との間にはいつもこの妙な距離感がある。嫌いだが、どこか通じている部分がある。

 

「オレは……シエルの使命として動いたんじゃねェよ」

 

「……」

 

「使命は今でも大嫌いだ。世界のためにとか、そういうのも思ってねェ」

 

 なら、どうして……。

 

 

 

「多分、あのお人よしに影響されたんだ」

 

「……!」

 

 

 

 ……ヴィク、トール。

 

「アイツのせいで、思考のプロセスがちょっと変わった。ちょっとだけだぞ」

 

「……まぁ、それなりの期間、共に旅をしていた訳だからな」

 

「ああ。アイツとちょっと過ごしてきた上で、目の前で誰かが死にかけてんのを見て、知ってて歩き去るのは……なんか違ェなって。それだけだ。使命でも正義でもねェ」

 

「……リュト」

 

「勘違いすんなよ。オレは使命に戻った訳じゃねェ。自由が欲しいのも変わってねェ。ただ──あのお人よしのせいで、ちょっとだけ面倒くせェ人間になっちまっただけだ」

 

 ……そうか。

 よく、理解できたよ。

 

 使命に戻ったのではない。自由への渇望も変わっていない。

 ただ、ヴィクトールという個人の影響で──行動の基準が、ほんの少しだけ変わった。

 あくまで自分は変わっていない、かつての自分のままだが。今でもエネのことが嫌いなのは変わらないだろうが。知っていて見捨てることが「違う」と感じるようになった。それだけの変化。

 使命を嫌い、束縛を嫌い、自由だけを求めていたこの女が。元々使命を抱いていたのではなく、現世で別の人間として生きる上で、新たな変化を受け入れるようになったのか。

 

「……分かった」

 

「おう」

 

 何が分かったのか、具体的に言語化するのは難しい。

 ただ、リュトの苦痛の本質に気づいた、何かが通じた気がする。

 シズィの場では、ヴィクトールが仲裁してくれたが……それが再び今、また叶ったように思える。

 

 ……相変わらずこの女のことは嫌いではあるが。

 

「……リュト」

 

「分かってる。オレにも着いてきてくれって言うんだろ」

 

「……無理にとは言わない。聞いただろう、私は君に使命を強要する気はない」

 

「………………はァ」

 

 少し意地悪な言い方だったかもしれない。

 さっきの話を聞いた上でこんな言い方をすれば、「協力してくれるよな?」って暗に告げてるも同じだ。

 それにしたって、そんな大きな溜息をつかなくても。

 この女の溜息は本当に図体に合わず大きい。彼女の態度と連動しているのか。

 

「……しばらくだけだぞ」

 

「……!」

 

「しばらくだけ付き合ってやる。これは勇者シエルの使命を肯定するからじゃなくて、ヴィクならそうするだろうからってだけだ。アイツが満足しそうなところまで、仕方なく付き合ってやる」

 

「……ありがとう」

 

「礼はいらねェっつってんだろ。ゾワッとすんだよ」

 

 シズィの「次の街まで」と同じだ。自分で期限を決めて、その範囲内でだけ協力する。紐の長さは自分で決める。この女なりの、精一杯の譲歩。

 ただ、今回は。前回以上にお互いの内を曝け出し、それぞれの気持ちや立場を理解して、尊重し合った話し合いができていた。できるはずがないと思っていたこの女と--分かり合えるまでに至った。

 

 つまり……。

 

 

 

 やっぱり、ヴィクトール、君のおかげだ。

 

 

 

 ああ、ヴィクトール。ヴィクトール。ヴィクトール……! 

 ふふふ。自分でもおかしくなってきている自覚はあるが……リュトだけじゃない。もう私のどんな要素にも君の影響がついて回るようになっている。

 

 死してなお、君の真っ直ぐな正義感で、君の愚直な優しさで仲間を動かしている。

 君がいなくなっても、君が残したものが──僕達を、前に進ませている。

 ヴィクトール。やっぱり君は僕の正義だ。僕の最初で最後の相棒だ。

 君の想いは必ず僕が引き継ぐから。

 

「よし……お互いの事情は分かったな。じゃあ、今の状況を共有しよう」

 

「おう」

 

 ……だから、全てが終わったら。

 その時は、ヴィクトール。君と一緒にいたいな……なんて。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「まず魔王についてだが……あれは完全な復活ではないと私は見ている」

 

「……ん? そうなのか?」

 

「前世の魔王は、もっと圧倒的だった記憶があるからな」

 

 今のあれは確かに脅威だが、前世で世界を脅かしていたあの存在の全力には届いていない。不完全な状態で復活させられたんじゃないか……と、私は見ている。

 まぁ、十中八九原因はヴィクトールのせいだろう。彼がアザールに急襲をかけたことで、向こうは計画通りの復活ができなかった。攻撃される前に先んじて、不完全なまま復活させるしかなかったんだろう。

 

 言ってしまえば、彼の行動が魔王復活を誘発してしまったということだが……結果的に魔王の完全復活を阻止していた可能性がるとも言える。

 本人がそこまで計算していたかは分からないが……いや、ヴィクトールのことだ。計算ではなく、ただ目の前の脅威に全力でぶつかっただけだろう。それがこういう形で意味を持っている。

 

「次に、魔王の行動パターンだが。あれは人口の多い場所を重点的に攻撃している」

 

「そうだな。オレはそういう場所から逃げ続けてたからな」

 

「あれは単なる破壊衝動じゃない。おそらく、不完全な状態から完全体に近づくために、人間の魂を糧にしているんじゃないかと」

 

「……魂を喰ってんのか、あいつ」

 

「あくまで推測だがな」

 

 断定はできないが、これまでの魔王軍の暗躍……犠牲者の牧場やら何やらも、全て同じ目的だったと考えれば筋は通る。人間の魂を集めること。それが奴らの一貫した目的だった可能性がある。

 もしかしてこれまで世界各地に存在していた魔物やボス達も、人間を襲い、それを糧として……最終的に魔王復活のためにその魂を捧げていたのかもしれない。

 

 シズィも今は無事だが、被害が広まり人々が集まってくれば標的になることは想像に難くない。

 より多くの人命を守るために、一刻も早く次の手を打つ必要がある。完全に倒すことを第一とするのではなく、まずヤツの動きを止めるための……罠にかけて進軍を封じるだとか、そういった作戦を今後計画していくべきだ。

 

 他にも、まだまだ共有すべき情報はある。

 最近入った、『あの情報』についても伝えておくべきだろう。

 

「それと……これは新たに救助した人々から聞いた噂だが」

 

「まだあんのかよ。魔王ってのは話題に事欠かねェな」

 

「いや、これは魔王そのものとは違う内容だ。なんでも噂によると……」

 

 

 

「怪しげな光を放つ『剣』を持って、魔王の元へ真っ直ぐ向かっている人物がいるらしい」

 

「……は?」

 

 

 

「大量の魔物がその人物に付き従っているとも。まるで、その剣に吸い寄せられるように」

 

「えぇ……なんだそれ。敵の幹部とかか?」

 

「さぁ……」




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