僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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イマジナリー幼馴染

 ビバ天啓。

 今のわたしにもやもやは存在しない。

 サシナちゃんはこれから無敵の暗殺者モードへと移行する。

 止めてくれるな。

 

 

 

 そもそもわたしはずっともやもやしてた。

 元々何をすればいいか分からない指示待ち人間。端から自分で考えて動くっていうのが元々サシナちゃんの得意分野ではないし。誰かから「正解」の指示を貰えないとそれが「正解」かどうか自分で判断ができなくて行動に移せない悲しき性を持った人間。らくちんな人生設計。

 普段は師匠が「正解」を教えてくれてたし。最近はヴィっくんもそうしてくれてたけど……二人ともいない今は「正解」が分からない。二人の指示じゃないとあんまりビビッと来ないし。ルメドに指示された時もなんかもやもやしてた。

 

 何をすればいいか分からないっていうのと正解が分からないっていうのはわたしの中では同じことだったらしい。

 そしてこれがもやもやの根本原因。なるほど自己分析。

 

 だからわたしは絶体絶命だった訳だけど。

 あの時のマージュの──

 

 

 

 ──「……っ……きっと、ヴィクくんは……みんな、こうなるなんてこと……絶対、望んで、なかったのに……」

 

 そう。

 あれはまさに天啓だった。

 ぱちんと。

 パズルのピースがはまるみたいな感じ。

 

 

 

 正解が分からないなら代替案を出せばいい。

 推測ができるならそれを正解にすればいい。

 ヴィっくんはもう死んでしまったけれど……ヴィっくんが何を望んでたかは一緒にいた人達やわたしの経験則である程度推測できる。彼ならきっとこうするはずだって。

 そしてヴィっくんが生きていれば──ヴィっくんは必ずその「望んでたこと」を実現するために指示を出してくれていたはず。死んでいるからしないだけで何を指示するかはもう明白な訳。

 

 つまり「ヴィっくんが望んでいたであろうこと」を疑似的に「正解」と判定すれば。

 ヴィっくんの望みを叶えること=正解という公式さえあれば──わたしは動ける。

 勿論「皆が自分のせいでバラバラになること」をヴィっくんが望んでいる訳がない。

 わたしは皆を再び一つに集めることから始めればいいのだ。後のことはその時またヴィっくんの思考をトレースすることで次の正解を導き出せる。

 

 完全に理解した。これぞ天啓。ぱんぱかぱーん。

 なのでもうもやもやしてない。方向は決まった。

 

 

 

 となると問題はここから。

 果たして一番集めるのが大変なのは「誰なのか」。

 

 離散した時のことを振り返ればいい。

 エスクリはアザールに行くって言ってた。ならアザール方面で探せば見つかるはず。

 シュヴァは人々を助けるって言ってた。被害が出てるとこにいるんだろうから追えなくはない。正義の人は分かりやすくて助かる。

 リュトは降りるって言ってどこに行くとも言わなかった。でも生死不明って訳じゃないし。いずれどこかで接触できるでしょう。多分。

 ルメドはソワンに残ってヴィっくんの上半身とにらめっこしている。今もソワンにいるでしょう。

 マージュはドゥジェーム。わたしが連れて行ったばっかりだから場所は確定してる。一番楽。

 

 となると──エペ。

 

 エペは離散の時ですらどこにも見つからなかった。

 プレヴィに奪われたんじゃないかって話にもなってたっけ。その線が濃厚かも。

 近くにいたなら念話で話しかけてくるだろうし……わざわざ武器だけ遠いところに置きに行ったってこともなさそう。例え壊されていたとしてもエペって一度壊れてた経験あるらしいし。壊れる=死ぬではないみたい。

 

 こうして並べてみると。

 エスクリ。シュヴァ。リュト。ルメド。マージュ。この人達は居場所が分かるか少なくとも自分の足で動ける。時間はかかっても集める手段はある。探せば見つかるし見つかれば話ができる。

 

 しかしエペだけが違う。

 エペはおそらくプレヴィに奪われてて自由じゃない。もしエペが自由だったら何も行動を起こさない訳がないし。念話があるから直接見えなくても近くにさえいればやり取りができる。でも出来てない。

 ということは念話を使える状態にないか使う余裕がないか。拘束されてるのか何かで制限されてるのか。どっちにしても自分では動けない。

 

 一番集めるのが大変なのはエペだ。

 

 じゃあエペはどこにいる? 

 奪ったのはおそらく魔王の頭脳ことプレヴィ。今巷で噂のあのデカいのと一緒に動いてるはず。あのデカいのの位置なんて被害の広がり方を見てれば嫌でも分かる。そもそも隠れようもないぐらいデカいし。あれを見失う方が難しい。

 あんなデカブツが剣だけ丁寧に倉庫に隠しておくなんてこともできなさそうだし……だとすると体内に取り込んだとか? 

 

 となればやることは明白。

 あのデカブツの体内に侵入しエペを探す。

 見つからなかったら出ていく。

 それだけ。

 

 ヴィっくん。わたしはちゃんと分かってるよ。

 指示待ち人間のわたしだけど……今回はヴィっくんの思考をなぞって自分で正解を考えた。

 褒めてくれとは言わないけど。

 ……まぁちょっとだけ褒めてほしいかも。

 

 

 

「(ということで。ここまでやってきた)」

 

『……!!?』

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『サ、サシナ!? なん、なんで、どうして、ここに……ええっ!?』

 

 おお。すごいリアクション。

 まぁそうなるのも致し方なし。何週間も一人で閉じ込められてたところに──いきなりわたしが現れたら驚くのは当然も当然。剣なのにわたしよりよっぽど人らしいリアクションしやがって。

 こっちだってまさかエペが人型のまま変な結界みたいなもので拘束されてるだなんて思っていなかった。結構面白い見た目で拘束されているんだなってのが第一印象。このデカブツの『体内の壁』に擬態して潜んでいるわたしと良い勝負。

 

『えっ、えっ、ちょっと待って、整理が……ここ災厄の体内だよ? なんでサシナがここにいるの? どうやって入ったの? えっ?』

 

「(落ち着くといい。順番に説明する)」

 

『落ち着けないよ!? だってここ魔王の体の中だよ!? 普通入れないでしょ!? 入ろうとしたら死ぬでしょ!?』

 

 良いご身分だな。念話だからって大声出しちゃって。

 わたしは侵入バレ防止のためにわざわざ小声で。しかも壁に擬態しているのに。

 

 まぁでもその疑念も分かる。

 普通はそう。普通の人間なら確実にそう。

 でもわたしは普通じゃないので。

 なんてったって前世の感覚と師匠の技術を叩き込まれた凄腕の暗殺者なので。

 

 ……暗殺者ってこういう仕事するのかな。

 

「(まずわたしは暗殺者だから隠密行動が得意。これ前提)」

 

『う、うん……それは知ってるけど……』

 

「(で、このデカブツに近づくにあたって正面から行くのは流石にまずいから工夫した。道中で魔物を何匹かけしかけてこのデカブツの方に誘導した)」

 

『魔物を……誘導した?』

 

 暗殺術を応用すれば簡単なこと。

 気配を操作したり魔物同士をぶつけたり逃げる方向をコントロールしたりすれば……魔物達を望んだ方向へ導くことなんて朝飯前でしかない。ふふん。

 

「(観察してたら分かったんだけど。このデカブツって触れたものをどんどん取り込んでるみたいで。踏み潰した魔物の死体とかも取り込んでた)」

 

『……そ、そうなんだ』

 

「(ここでわたしは閃いた。魔物の体の中に入り込みそいつを誘導してこのデカブツに取り込ませるという手法を)」

 

『えぇ……そんな簡単に……』

 

 何故そんな嫌そうな声を出すのか。

 必死で潜り込んできたのはこちらだというのに。

 ここまで来るのも大変だったんだぞ。初めの移動だけでどれだけ時間がかかったと思っているのか。

 

 元々大量の「人間」を直接取り込んでいたのが見えたんだけど。

 ここまでデカい化け物に「これは人間」「これは魔物」なんて区別する脳がある訳はないので。じゃあ魔物の中に入ってそのまま魔物ごと取り込まれれば中に入れるんじゃないかと。

 

 暗殺者の技術を使えば自分の体を小さく畳んで狭いところに潜り込むとかはお手の物。魔物の中に潜んで盾代わりにすれば身一つでそのまま侵入するよりも安全だし。師匠の教えには感謝しかない。

 中に入ってしまえばこっちのもの。デカブツの体内に侵入後は身ぐるみの魔物を放棄して自由行動を始めるのみ。他にも取り込まれた魔物がたくさんいるからわたし一人が紛れ込んでもバレないし。擬態を続けてればただの取り込まれた何かと区別つかない。

 

『……それで、ここまで……』

 

「(擬態したままデカブツの頭の方まで移動してきたらエペを見つけた。流石わたし)」

 

『……本当に流石だよ』

 

 そんな普通に褒められても。わたしはヴィっくんの指示に従っただけで……。

 でもそれもそうか。今の説明を一回で整理しろっていう方が無理がある。何日も一人で閉じ込められてた状態でいきなりこんな話されても頭が追いつかないか。わたしだって本当にエペが見つかるか不安だったし。

 

「(ゆっくりでいい。擬態中のわたしを見破るのは師匠といえど厳しい)」

 

『……ほん、とに来たんだ。サシナが。ここまで』

 

「(来たよ。エペを迎えに)」

 

『…………っ』

 

 お。泣きそうな気配。

 念話なのに声が震えてるの分かるのすごいな。

 

 ……まぁそうか。

 何日もずっと一人で。誰とも話せなくて。助けが来るかも分からない状態だった訳だし。

 わたしは泣かれるのに慣れてないからちょっと困るけど。でもまぁ……来てよかった。

 

 とりあえず少しだけ間を置こう。

 エペが落ち着くまでは待機モード。得意分野。

 指示待ちと待機は近いようで違うけど──待つこと自体は嫌いじゃない。

 

『と、とりあえず……サシナ。こっちの状況を伝える』

 

「(らじゃ)」

 

『この巨大な存在は災厄ル・マル──数百年前の魔王の力そのものだ。ただしプレヴィ曰く、不完全な復活……らしい』

 

「(へぇ。不完全なんだ)」

 

『プレヴィは表に出てこない、災厄ル・マルの中にいて全部裏から操ってる。僕を縛ってるこの結界も、外の障壁魔法も全て、プレヴィが実際に発動してるみたいなんだ。どっちも同じ系統の……僕にはどうにもできないやつ』

 

「(なんと。それならわたしにもどうにもできない)」

 

『前までプレヴィは僕を尋問に来てたんだけど……最近は来なくなった。時折頭が痛そうな素振りを見せることがあって……それ以外は一切弱みという弱みが分からなくて』

 

 ……ふむ。

 

 つまり。エペは結界で縛られてて動けない。結界はプレヴィの魔法。

 その感じだとこの結界はプレヴィを倒さないと解けないということ? 

 でもプレヴィはデカブツ……災厄ル・マルの中にいて表には出てこない。

 私が直接叩きに行くという方法も考えられるけど……流石に危ない気がする。そんな魔法が使えるならわたしはあっさり負けるかもしれない。

 

 というか……わたしはエペを取り戻しに来たのに。

 結界なんてものがあるなら取り戻せないんだけど。

 

 暗殺術は対人の技術であって魔法の結界をどうこうする分野ではない。

 物理的に引っ張り出すとかそういう話でもないみたいだし……これは困った。

 ここまで来て目の前にエペがいる状況まで漕ぎつけたのに──取り戻せないとは。

 ……う~ん。

 

「(……詰んでいるかも)」

 

『……だよね』

 

 これが正解だと思ったのに。

 ヴィっくんの望みを叶えるために一番大変なエペから取りに行こうって。

 しかし正解の先に──もう一個壁があった。これはあまりにも想定外。

 わたしは想定外に弱い。だって正解が分からなくなってしまう。

 

『サシナ。ここまで来てもらって悪いんだけど、僕をどうこうすることはできな……』

 

「(こうなったら仕方がない。奥の手を使う)」

 

『えっ?』

 

 

 

「(その名も──イマジナリーヴィっくん)」

 

『……えっ?』

 

 

 

 ヴィっくん。

 わたしの中にいるヴィっくん。

 分からなくなったから助けてほしい。

 出番だよ。ここからどうすればいい? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『サ、サシナ? 何してるの……?』

 

 

 

 ヴィっくん、ヴィっくん。

 現在非常に困っている。力を貸してほしい。

 

 ──ほわほわほわーん……

 

 ──「どうした? 俺に手伝えそうか?」

 

 手伝える手伝える。

 大人しく意見を出すだけでいい。

 

 皆を集合させるためにエペを連れ出したいんだけど……結界っていうものがあって動かせない。結界はプレヴィの魔法。プレヴィはこの災厄ル・マルの中にいるらしいんだけど……どこにいるか分からない。

 わたしは暗殺者だから魔法の結界をどうこうする手段がない。

 どうしたらいいと思う? 

 

 ──「サシナが結界を壊せないなら……結界がなくなるタイミングを待つしかないな」

 

 待つ。

 なるほど。

 

 壊せないなら壊れるのを待てばいいっていうのは確かにそう。

 わたしが逆立ちしても魔法はどうにもならないんだし。自分にできないことをどうにかしようとするのはそもそも間違い。できることの中から正解を探すべき。

 でも待つって言っても……いつまで? 

 

 ──「その話を聞く限りだと、プレヴィに何かが起きた時だな。結界がプレヴィの魔法なら、プレヴィが維持できなくなればいい訳だから」

 

 ふむふむ。

 プレヴィに異変が起きれば結界が解ける。術者がダメになれば術も解ける。

 これは暗殺の基本と一緒。毒を盛った相手が死ねば毒の拮抗処理は要らなくなる……っていう師匠の教えと同じ構造。エネゼミでやったところ。分かる分かる。

 

 じゃあわたしはそれまでずっとここにいればいい? 

 災厄の体内で擬態して潜伏して……プレヴィに何かが起きるまで。

 いつ起きるかは分からないけどそれは別にわたしが決めることじゃないし。分からないことを分からないまま待てるのは暗殺者の得意分野だから。むしろ任務中に一番やってたのがそれだし。

 

 ──「サシナには師匠の仕込んだサバイバル術があるじゃないか。俺よりずっと上手かったよな」

 

 凌げる凌げる。

 水も食料も最悪なくても数日は持つし。この体内には取り込まれた魔物の残骸がたくさんある。だから最悪隠れる場所にも食べるものにも困らない。毒抜きの方法とか生肉の処理方法も完璧にできちゃう。

 師匠の訓練で不毛の荒地に放り出された時よりはだいぶマシ。あの時は本気で死ぬかと思ったけどここには少なくとも水分がある。魔物の体液って飲めるか分からないけど……まぁ飲めなくても何とかする方法は師匠が全部叩き込んでくれてるから心配は無用。

 

 潜伏。待機。奪取。

 暗殺者にとってこれ以上ないくらい明快な指示。

 しかもわたしが一番得意な分野だけで構成されてる。魔法を使えとか正面から戦えとかそういう無茶は一個も入ってない。

 ヴィっくんはちゃんとわたしに何ができるか分かった上で指示を出してくれてる。

 

 ──「本当はそもそもの元凶を倒す方法で考えたいんだが……」

 

 それはヴィっくんの方法でしょ。

 めちゃくちゃ実力ある人の方法をわたしにまで適用しないでほしい……。

 

 じゃあ潜伏すればいい。

 それがヴィっくんの思う正解でファイナルアンサー? 

 

 ──「そうだな。ただ、無理はするなよ」

 

 ……。

 ……大丈夫。

 もう何をいまさら。そんなこと百も承知。

 わたしってこう見えて意外と自分の命は大事にするタイプ。ヴィっくんも知っているはず。

 

 ふふふ。ヴィっくんってわたしのことは信頼してくれてるのにたまに優しさを見せてくる。

 ……まさかそれで他のシエル達もといパーティーの女の子達を落としてきたのか? 幼馴染が遊び人はわたし悲しいぞ? ん? 

 

 ──「……そんなつもりは」

 

 まぁいい。

 

 とりあえずありがとうヴィっくん。

 やっぱりヴィっくんに聞けば正解が分かる。もやもやが全部消えた。これでいい。

 わたしはここで待って──プレヴィに何かが起きた瞬間にエペを持ち出す。それから先のことはその時またヴィっくんに聞けばいい。これを繰り返していけば仲間達の全員集合が叶うはずで……。

 

 ……よし。

 

 

 

「(ということでエペ。わたしはこのまま体の中に潜伏することにした)」

 

『……?』

 

「(プレヴィに何か異変が起きて結界が解除された瞬間にエペを連れて脱出する。それまでは師匠のサバイバル術で生き延びる)」

 

『……だ、大丈夫なの? それ』

 

「(多分。ヴィっくんの判断だし。全員集合のためにはこれが一番なんだって)」

 

『……え? でも、ヴィクは、もう……』

 

「(じゃ。わたし休眠モードに入るから。何かあったら念話して。おやすみ)」

 

 

 

『っ、サシナ……』




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