僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~ 作:破れ綴じ
サシナと別れて一日目。
今日から忙しくなるかもしれない。だからいつも以上にしっかり日記をつけないと。
サシナが行っちゃった。暗殺者ってすごいなと思う反面、ぼく一人でドゥジェームに残されると急に心細い。ぼくたちは陰キャシンパシーを感じる仲間じゃなかったの?
……まあ、心細さの話はいいや。今日書いておきたいのはそっちじゃない。
サシナと別れた後に──ぼくの中でやるべきことの方針がだいたい固まった。
今このまま腐り続けても何も起こらないし、ずっと後悔し続けるだけ。
もう生きる価値がないとしても──それでもぼくはヴィクくんのためになることをしたい。ヴィクくんが守ろうとした今の世界を守る手助けを……ほんの少しでもいいからしてあげたい。
そのために例の障壁を破壊できそうな手段を探す。これしかない。
というか、ぼくが力になれそうなことがこれしか思いつかなかったというか。
そのために、ドゥジェームで研究されていた──「超高圧水魔法」を使うんだ。
元々あの巨大ワームを倒すために研究されてた……学園の一大プロジェクト。
でも、あのボスはもういない。ぼく達がが倒しちゃったから。
ということは、あの技術は今、使い道がなくなっているはず。
それを例の障壁にぶつけられないかっていうのがぼくの考え。
火力は十分だし、成功すれば人類側の大きな一歩になることは間違いない。
だから理屈としては通る……と思う。
つまり……打診という形とはいえ──学園に戻らないといけない。
あの学園に。ぼくが落ちこぼれだった場所に。
この案が思いついてから一日中ずっとそのことを考えてたんだけど……正直、行きたくないって気持ちは最後まで消えなかった。あの廊下を歩くだけで全部蘇ってきそうで。
でも、行かなきゃ作戦は動かない。
今度こそヴィクくんの役に立ちたい。ヴィクくんのために自分が動くって決めたんだから、ここで「行きたくない」なんて言ってる場合じゃない。
……本当になんとかなるのかは、正直よく分からない。
分からないけど、明日行く。それだけ決めた。
うん。書いたら少し落ち着いた気がする。
以上、本日の記録終了。
サシナと別れて三日目。
学園に行ってきた。
この学園名物の「超高圧水魔法」を、今や世界中の話題の的となったあの魔物の障壁破壊に転用してみませんか……って伝えに。
正直、今のぼくは学生じゃないんだし、門前払いされると思ってた。
落ちこぼれの元学生がいきなり来て「あの技術を使わせてください」なんて言って、まともに取り合ってもらえるわけないって。
……でも、結果的には話を聞いてもらえた。
ただ、あれはぼくの伝え方が上手かったからじゃないよね。
ボスの討伐が終わったことで、超高圧水魔法の研究成果が宙に浮いてた。あれだけの予算をかけた技術の行き先がなくなっている状態だったところに、「別の標的に使いたい」っていう話が来たから聞く価値があると判断された。たまたま状況が噛み合っただけ。
ぼくが何か凄いことをしたわけじゃなくて、タイミングの問題。
もしかしたら実際に同じように考えてた人がいたのかもしれない。
ただ、話は一応できたけど感触は悪そうだった。やっぱり色々問題があるのかも。
……まあ、タイミングでも何でも、聞いてもらえたならそれでいいよ。ぼくは。
それと、ちょっと驚いたことがあった。
明後日、もっとちゃんとした場を設けて、そこで話を聞いてくれるらしい。
なんでそうなったのか、正直よく分からない。
話を聞いてもらえただけでありがたかったのに、正式な場まで用意するって。落ちこぼれだったぼくに対してそこまでする理由が見えない。
技術の転用自体に学園側の利があるのか、それとも他に何か事情があるのか……考えても分からなかった。でも断る理由もないし、ありがたく受けることにした。
学園の中は……あの頃と同じ空気が残ってて、ぼくだけが違う顔で歩いてる感じがずっとあった。
すれ違う学生の視線がぼくを見ている気がして……いや、実際にはたぶん見てない。知らない人間が歩いてるなって程度だと思う。
でもあの頃の感覚が戻ってくると、全部が自分に向けられてるように思えてしまう。
それでも足は止まらなかった。ヴィクくんのために動いてるんだって、それだけ頭の中で繰り返してたら、止まらずに済んだ。
だからヴィクくんのために、やりきる。
明後日、ちゃんとした場でもう一回打診する。
以上、本日の記録終了。
サシナと別れて五日目。
無事出席してきた。
昔から学園にいためちゃくちゃ頭のいい研究者さん、魔法理論の専門家さんと、実践系の魔法使い達。思ってたよりずっと人がいた。おかげで部屋に入った瞬間に帰りたくなったよ。帰らなかったけど。
驚いたのは、この場をセッティングしてくれたのが誰だったかっていう話。
ワームの急所について教えてくれた……ボサボサ頭の、変人って呼ばれてたあの人。
あの学者さんだった。サヴァン……? って名前らしい。
水魔法主体のこのドゥジェームで魔物の研究に没頭してて、誰にも相手にされてなかったけれど。ぼく達がその考え方を活かしてボスを倒したことで、一気に立場が向上したらしい。今回みたいな場を自分の権限で設けられるくらいには。
相手が地位向上の立て役者であるぼく達ということもあって融通してくれたって。
どうしてちゃんとした場を設けてもらえたのか分からなかったけど、答えはこれだった。あの学者さんが動いてくれてたから。ありがたいとしか言いようがない。あの人がいなかったらあの場は存在しなかった。
それだけでもぼくには十分すぎるくらいだったんだけど……集まった他の人達も「噂の化け物を討伐するなら力を貸したい」って、思ってたより協力的だった。あの魔物はずっと内陸辺りをうろうろしてるし、ここからもそう遠くはない。皆やっぱりなんとかできないかって思ってたんだ。
ただ、沢山の問題点があるって言われちゃった。
まず、効果はあるだろうけど発動に時間がかかる。確実にダメージを与えられるだけの威力と射程距離が保証できるけど、十分な時間を確保する必要がある手法だってこと。
次に、発動中は派手に目立つから、完成する前に潰される可能性があること。シェーヌド山が射線上にあるせいで、撃つには山を越える必要がある。山を越えたら後はずっと開けた場所だし、そんな移動すること自体が目立つって。
さらに、あの巨体に当てるとしても水流の軌道が重力で歪んじゃうから、遠距離じゃ精度が保てないんだって。高い位置から狙い撃ちするにしても、魔法の発動にはすごい人数が必要だし、まず高所に拠点を作るところから始めなくちゃいけなくて、現実的じゃないとのこと。
まぁ全部正論だよね。
当たり前だけど、ぼくなんかが思いつくようなこと、当然みたいに一度は想定されてるってこと。それを踏まえて、何かいい意見があるかって話をすることになった。
……でも、ものすごく都合がいい話だけれど。
それ全部──まとめて解決する方法が存在するよね。
*
ドゥジェームを再び出発して二十日目。
トロワジーに到着して……今日で四日目。
書きたいことが色々あるけど、まず今日の時点で段取りがかなり整ったということは書いておかないと。明日以降はもう日記を書く余裕なんてないだろうし。だから今日のうちに、ここまでのことを全部まとめておく。
ぼくの考えていた通り──魔法の発動場所をトロワジーの中で行うことで、問題は一気に解決した。
まず、発動中に目立って潰されるかもしれないって問題。
でもトロワジーは山陰にあるから、外から見つかりにくい。準備している間も山が壁になってくれる。
シェーヌド山が射線上にあるから山を越えなきゃいけないって問題。
でもトロワジーは山の中にある都市だから、そもそも山を越える必要がない。最初から山の中にいるんだから。
発動に時間がかかるって問題。
でもトロワジーでなら山陰に隠れて準備できる。それなら、相手に一切察知されずに時間を稼げるし。見つからなければ邪魔もされない。
水流の軌道が重力で歪んで遠距離だと当たらないって問題。
でもトロワジーは高所にある。若干ではあるけれど、上から見下ろす形で撃てるようになるから、重力は敵じゃなくて味方になる。落ちる方向と撃つ方向が同じだから、むしろ当てやすくなるっていうか。
高所で行うなら拠点が必要になるって問題。
でもトロワジーは既に独立した街として稼働しているから、宿泊も食事も休息もドゥジェームと変わらず行える。拠点を作る必要は初めからゼロになる。
……こうやって並べると、トロワジーがどれだけ都合のいい場所か分かる。旅の途中で通った時はただの山の中の不思議な街だったけど……まさかこんな形で使えるとは思わなかったな。
……いや、「使える」って言い方はトロワジーの人達に失礼か。ぼくが勝手に利用してるだけなんだし。
ただ、トロワジーの住人の人達がぼく達を歓迎してくれたのは素直に嬉しかった。
ドゥジェームからたくさんの魔法使いを連れてきたんだけど……山の中の街に大人数で押しかけるわけだし、迷惑がられるかなって思ってたのに。でも逆だった。
前にボスを倒した時のことを覚えていてくれた人達がいて、そのぼくが大勢を連れてやってきたっていうことで、むしろ喜んでくれた。正直、意外だったな。ぼくなんかが歓迎されるなんて。
でも……うん、素直に嬉しかった。ヴィクくんと旅をした証が確かに残ってるみたいで。
逆に予想通りだったのは……ドゥジェームから連れてきた魔法使い達の反応だね。
ここにいた鳥のボスのせいで、ドゥジェームの偉い人達含めて全員、山の中に都市があるとは全く知らなかったみたいだったし。「地図に載ってない山の中の都市なんて聞いたこともない」って顔をしてた。
ぼくが「ここです」って案内した時の驚き具合がすごかった……よっぽど、あの鳥のボスの情報統制が長い期間響いてたってことだよね。最新の地図にすら街の情報が載っていないんだもの。
落ちこぼれで水魔法の才能もなくて、学園にいた頃は何の取り柄もなかったぼくが。
旅をしてきたっていう一点だけで、あの人達が知らないことを知っている。
なんだか不思議な気分。
……あと。
実際に例の魔物へ狙いを定める手段として、遠隔の監視魔法を行う案が出てきて──ぼくも監視役の一人に選ばれた。
シェーヌド山まで近づいてくるのを確認するだけなら、通信魔法とか便利なものがあるらしいけど、正確に当てるためにはやっぱりきちんとした座標情報が必要みたい。
そのままの流れで当然のように、計画立案者のぼくもその任務を任された。言い出しっぺの法則ってやつかな。魔力量も多いから張り込みにも有利だって。
ぼくは火魔法しか使えない。魔法の理論とかよく分からないし……って言ったら、「本校の元学生じゃなかったのか」「授業で何聞いてたんだ」「仕方ないし一からもう一度教えるぞ」ってめちゃくちゃ怒られた。
聞いてたんだよ。聞いてた上で感覚が違いすぎて分からなかったんだよ。
だから、明日から急ピッチで猛勉強が始まる。
……不安だけど、とりあえず大丈夫。ヴィクくんの役に立てるのなら──不可能も同然だった他の魔法だって、頑張って習得して見せる。
もう今日は早く寝よう。あの魔物がいつこっちに近づいてくるか分からないんだから。
以上、本日の記録終了。
*
「うぅ……やりにくい……」
数日前の日記読み返してたけど……思えばぼく、数日で監視魔法覚えちゃってるじゃん。
ヴィクくんのためって言い訳があれば、ここまで頑張れるんだなぁぼくは。
そうはいっても、正直まだ全然慣れないけれど。ただ燃やすだけでいい火魔法とは全然感覚が違って、ずっと繋ぎ続けないといけないのが地味にしんどい。
でもやる。ぼくがやるって決めたんだから。
「──マージュ君! 調子はどうかね!」
うげ。
サヴァンさん……。
「話によれば例のデカブツはこのシェーヌド山とソワン国の中間地点辺りを移動中だと……とそう聞いたのだ!」
「えっと……進捗確認ですか?」
「いやまぁそれもあるが……聞きたいことがあってな!」
聞きたいこと……何だろう。
この人、この作戦決行のためにかなり動いてくれた立役者なんだけど……正直苦手なんだよね。ぼくの黒歴史の頃を覚えてる人だし……距離感が掴めなくて対応しづらいっていうか。
当然のようにトロワジーまで着いて来たけれど、別にこの人は水魔法の研究してなかったからそこまで役に立てる仕事とかもないし。
「君、障壁を破壊した後、どうするつもりなのかね?」
「……え?」
……障壁を壊した後?
次の段取り?
「……あれ」
……まずい。
ぼく、何も考えてない。
とりあえずあの魔物を弱らせるために壊す。そこまでしか頭になかった。
ずっと「壊す」ことだけを目標にして走ってきて、その先が……全部空白のままだったってこと。
なんてこった。計画性がなさすぎる。
どこかの国と連携して軍が動いてる訳でもないし、ただ障壁を破壊して、思いっきり挑発しただけっていう結果になっちゃうよ。
トロワジーの利点だって、一度場所がバレたらもう使えない可能性が高いし……その大切な一発を、一切後先考えずに使っちゃってることになるのではこれ……。
「やはり! その顔だと何も考えていなかったようだな!」
「うぅ……ごめんなさい」
「ああいや気にするな! 過ぎてしまったことはもう仕方がない! 切り替えるのだ!」
「はい………………ん?」
……んん?
えっ、あれ? おかしくない?
じゃあ、どうして学園はここまでの作戦を許してくれたの?
次の具体的な段取りを何もないのに、学園の人達が動いてくれて、大勢がトロワジーまで来てくれて。なんで誰もそこを指摘しなかったんだろう。何か見落としてた?
学園側だって、今回の作戦が大事なものって分かってるはずだし……。
それを無下にしてでも今すぐこの作戦を実行したいだけの理由があった……ってこと?
「いやな! 実は友人から相談を受けていたのだよ!」
「は、はぁ……」
「君が無計画にこんな提案をしてきたのは薄々察していたが……それでも君には恩がある! 友人の頼みも解決できそうで一石二鳥だったのでな! 強行して許可を取ったという訳だ!」
「え、えぇ……?」
きょ、強行? 友人? 頼み?
ええっと。やっぱり何か理由があって、それに加えてぼく達があのワームを倒した恩もあるから、ぼくの頼みを無理言って聞くよう立ち回ってくれた……ってことでいいのかな。
友人って誰だろう。この人トロワジーまで着いてきてるから……あの実行部隊の中の一人とか? でもそんな人が「後生の頼みだから例の魔物の障壁を破壊してくれ」なんて頼まないと思うけど……。
まぁ、でも。そういうことだよね、うん。
じゃあ僕がやってきたことは、無駄じゃなかったんだ。なんだかんだ、「誰か」の役には立ててたんだね。
問題は解決してない気がするけど……とりあえずこの作戦は決行していいんだ。
じゃあやっぱり──あれもこれも全部ヴィクくんのおかげだ。
ヴィクくんに出会ってなかったら、ぼくは今でもあの学園の隅で一人だった。
ヴィクくん。
ぼくは全然ヴィクくんの役に立てなかったけれど。
でも、ヴィクくんが守ろうとした世界を守るために、ぼくなりにできることをやってきた。それが近いうちに形になる。上手くいくか分からないし、ぼくみたいなのが立案した作戦が本当に通用するのか、正直怖いけど。
でもやるよ。やらなきゃここまで来た意味がない。
──「マージュ、助かった」
──「マージュのおかげだ」
──「マージュは頼れるな」
……ぼくが生きてきた理由は、ヴィクくんの役に立つためだったんだ。
そのためだけに、今までやってきたんだから、やることは今も一緒。
「ふぅ………………よし」
……ヴィクくん、見ててね。
これが終わったら、きっと、褒めてくれるよね。
ぼくは、ヴィクくんの役に立てたよね。
褒めてもらえるまで、ぼくは頑張るから、待ってるからね。
──っ!
「……み、見えた! 来ました! 準備を!」
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