僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~ 作:破れ綴じ
……まただ。また同じ場所で揺らぎが出てる。計算式は完璧なはずなのに。
どうして、こうもうまくいかないんですか……。
人の手で直接触れず、部位や魔力を別の人間に移し替える「移植魔法」。
これに魔改造を施しまくって無理やり射程を広げまくり、ようやく遠隔から強引に移植……奪い取る魔法理論を確立させられたっていうのに。
「……いや。これじゃ堂々巡り、ですね」
……もう一回、最初から考え直しましょう。
今のこの作戦には大きく二つの壁が立ちはだかってるんですから。
まず一つ目。
おそらくプレヴィはずっとあの魔物の中にいる。
つまりずっと出てこない。出てこないから、こちらとしてもどこを狙えばいいか分からない。
プレヴィは──あの大きな魔物の中。これは間違いない、はず、です。たぶん。
だって、かつてユイヌでプレヴィを一度診た時に微かに感じた魔力と、遠征で実際にあの魔物に近づいた時に空気から漏れてくる魔力が、同じだったから。
同じだったから、と言っても、僕しか感じ取れていない一致でしかないんですけど。一致なんですよね、確かに。
だから、あの魔物とプレヴィは同一の存在か、一体化しているか。どちらかだとは思うんですが……要はあの存在にプレヴィを内在していることは確実と見ていいでしょう。
だとしても本体が見えない以上、こちらも狙いを定めることができない。移植魔法を使うためには本体に出てきてもらう必要がどうしてもあるんです。
そして二つ目。
謎の『障壁』の存在。
協力してくれている複数人の治癒術師を連れて、前回あの魔物の近くまで遠征に行き、実際に魔法を試してみましたが……まぁ上手くいきませんでした。
あの時の感覚、まだ指先に残ってますよ。術式が標的に届く直前、何かに、こう、「弾かれた」感じ。押し込もうとした魔力が、大きな反発と共に消えていくような。
あの時、隣で術式を支えてくれていた中継の二人も同じことを言ってたから、僕の感覚違いじゃない。あれは確かに何かに弾かれたんです。
弾かれた、というか。むしろ「触れることすら許されなかった」、という方が、近いような。
そしてその原因は十中八九噂に聞く障壁とやらのせいでしょう。敵対する攻撃を全て弾くと聞いていますから。
だからもし、プレヴィの位置がぴったり分かったとしても……あの障壁を抜けない限り魔法は届かない。そもそもの効果すら発動せずに終わるのがオチです。
魔法の精度も問題ですよね。精度向上には人数が必須ですが、非公式の人間である僕が政府直属の治癒術師を何人も大勢で遠征に連れて行くなんてことできませんし。かといって人数が少なければそもそもの射程距離にも影響が出てきます。
位置と障壁、どっちかでも崩れてくれれば、何か手があるんですけど。
……どっちも崩れる気配が、ない。
「はぁ……」
……ヴィクトールさん。
あの人、ずっと隣の安置室で、ずっと冷たいまま。
肉体の方の準備はもうとっくに済ませ終わってるんです。もし生き返ったら即座に下半身が再生するように術式を何重にも噛ませてありますから。だから後は魂だけ。
……既に他人から魂を奪う前提で動いていることに、違和感を覚えなくなったのが怖いですが。
でも、だって……上半身しかないんですよ、あの人。
上半身しか。
……ああ、いえ。考えるのやめましょう。考えてもどうにもならない。
手を動かす方が、まだ、いい。
オンドの方はどうなってるんでしょう。
彼も彼なりに手伝ってくれてるんですけど……昨日の手紙だって「障壁の件、こちらでも依然として手立てなし」だったんですよね。
つい先日もドゥジェームの知り合いに相談してくれてたそうですが、そっちは何だか忙しいみたいですし。
外部の情報を頻繁に持ってきてくれるのは助かるんですが。
「政府からの使者は……また今日来るかな」
まぁ、来ますよね。連日来てるんだから。
一度逃げ出した身だっていうに。僕が帰国してることがバレて以降は「ルメド様、どうかご助力を」「貴方様にしか頼れない」って毎日毎日。
それ、それなんですよ。期待されてるのは、分かってるんです。
災厄が、人のいる地域を選びつつ──ゆっくりソワンに近づいてきてるんですから。
あのまま進んでいけば、最終的にはここにも間違いなく到達するでしょう。アザールを出発して、陸路を迂回しつつ、人間の多いこの大国ソワンを狙おうとしていることは火を見るより明らかです。
上からすれば、あと数日後には国民の命が脅かされる大問題を目の当たりにしてるんですから。藁にも縋りたい気持ちはこっちにだって理解できます。
急に来た使者に相談されたときは流石に耳を疑いましたよ。
話によれば、大量の魔物を引き連れた女の人があの魔物に追従して動いてたり。大量の魔物を引き連れてるってどういうことなんでしょう。それ味方なんですか敵なんですか。
魔王の進軍先……具体的にはソワンと、向こうにあるシェーヌド山の中間あたりで謎の集団が集まって大々的な工作行為を行っていたり。新しい問題じゃないといいですが。
とにかく分からないことが多すぎる。それでヴィクトールさんがどうにかなる訳でもないですし。
とにかく、国民の命がかかってる。あと数日もすればソワンも他の国々と同様に滅ぼされ、
かかってるのは、分かってます。
分かってるんですよ。
でも、今の僕はそれどころじゃない。
僕の手は今、ヴィクトールさんを取り戻す方に動いてる。
自分が最低な自覚はありますがもう止まれません。今からやり直そうったって他に方法はないんですから。
プレヴィを排除すれば災厄も止まる、はず、だから、結果的に国民を守ることになる、はず、だから、論理は通ってる、はず。
……「はず」が、多すぎる気がしますが。
「……本当に、僕、駄目になりましたね」
よく考えなくても分かります。順序が逆なんですよ。
先にヴィクトールさんがあって、その手段としてプレヴィの排除があって、おまけのように国民救済がついてくる。治癒術師の優先順位として、これは。これは、もう。
……止め、ましょう。考えても進まない。今は──
──バァン!
「ルメド!」
「──ッ、オン、ド……!?」
えっなんですかなんですか急に。
扉ってそんな強引にこじ開けるようにして入るものじゃないでしょう。というか、貴方がそもそもそういうことするキャラじゃないですし……。
でも、オンドがここまで焦って入ってくるってことは……何か大きな問題があったんじゃ。
「来い」
「えっと……何が」
「とにかく来てくれ。私の口で説明するより、見てもらった方が早い」
……え、えぇ。
声が、いつもと違うような。一段低くないですか。
あの人がこんな風に飛び込んでくるの、初めて見ました。
で、でも。とりあえず……!
「わ、分かりました! すぐ行きます!」
*
オンドは何を見せたいんでしょう。
どんどん上の階に行ってますけど……高所じゃないと分からないものなんでしょうか。
えっと。確かこの先にある部屋には……見晴らしのいいテラスがありましたね。
じゃあ、見せたいものは外にある?
要は、建物の中の話じゃなくて外の話で、それも彼があれだけ慌てて僕を引っ張り出すような外の話。
……正直、ちょっと嫌な予感がします。心当たりがないわけじゃないんですよ、むしろ多すぎて絞れないんです。
ああ、着いた着いた。早く入りましょう。
扉が押し開いて、そしたら外の風が一気に流れ込んで……。
「……っ!」
──ズズゥゥン……!
「オンド、あれって……!」
「ああ。例の『災厄』だ」
「……そんな!」
地平線の少し手前の、山の影のこっち側に、盛り上がったようなあの黒い塊が。
遠いから小さく見えるだけで、実際にはとんでもない大きさのはずなんですよ。ついにここから見える距離まで来たっていうんですか……!
報告書では「数日後にはソワンに到達」と読んでましたけど……もう、こんなところまで。
……ああ。なるほど、そういうことですか。
だからオンドは僕をここに連れてきたんですね。あの魔物がここから見えるようになった、それを自分の目で確認しろって。とてつもない危機的情報ですし、しっかり現状を把握するためにも。
「オンド、分かりました、僕──」
「違う」
……え。
「あれを見せたかったわけじゃない」
「……え?」
「ついさっき、ドゥジェームの知り合いから連絡が入った」
ドゥジェームの……知り合い?
えっと、ドゥジェームにある魔法学園に障壁について相談してたっていう……そのときの知り合いの人ですよね?
どうして今ドゥジェームから? ドゥジェーム側で何かが起きてもここから見えるとは限らないでしょう、向こうとここはそれなりに離れてるんですから、ここから見えるような何かが起きるとしたら一体──
──ピカッ!
え?
あれ、なんか反対側の山の方が、一瞬光ったような──
──ドゴオオオォォォォォッッ!!
「!?」
──ゴアアアァァァァァッッ!!
「!!?」
──ズバアアアアアァァァン!!!
「!!!?」
な、な、な……なんですか今の!?
なんか、空気そのものが裂けるみたいな音が鳴って……!
とてつもない量の「水」が、突如山の中から光線みたいに飛んできましたよ……!?
それが、そのまま、あの魔物に直撃して……!
「オ、オンド! 何事ですかこれ!」
「いや……この威力は私も想定外だった! 『攻撃準備が整った』と聞かされてて……!」
こ、攻撃準備?
えっと、どういうことですか?
水、ですよね、あれ。
空に極太の水の柱が走っていきましたよ、横向きに、ものすごい速度で白い尾を引きながら。あんな量の水が空を横切るなんて聞いたことないですよ。
ぶつかった瞬間だって、白い水しぶきが傘みたいに……!
ドゥジェームは水魔法の研究が盛んだとは聞いていましたが……えっあんなことまでできるんですか!? 数百年前と比べて現代魔法ちょっとおかしくないですか!?
「見ろルメド、あの魔物」
「……!」
よ、よろけてる! あの魔物!
障壁があるから例えぶつかったって一切ダメージにならないはずなのに、思いっきり体勢を崩して……!
……待って。
待ってください。
なんですかあの穴。魔物の足元に……さっきまであんな穴ありませんでしたよね?
……まさか、落とし穴?
最近よく報告に上がってた「謎の集団の工作行為」って、まさか……。
「都合よく体勢を崩した瞬間に、ドゥジェームの魔法使い連中が攻撃を当てたんだ」
「じゃ、じゃあ……もしかして、今、障壁は……!」
「ああ。そういうことだ」
ダメージにならないはずなのに、思いっきり攻撃を食らってしまっている。
これが意味するのは即ち──あまりにも高火力の攻撃を受けてしまって、障壁が破壊された……ということ。
で、でも待ってください。
まだ、プレヴィが見当たらないって言う問題があって……。
……あれ?
「……プレヴィが、出てきている?」
……え?
どういうこと?
あの魔物の頭頂部らしきところに見えるあの人影は……確かにプレヴィですよね。
遠いからよく見えないけれど、一瞬出てきた魔力が、間違いなく本人もので……。
……い、いや! この際もうどうでもいい!
多分あれは反撃のためか、それとも障壁を破られたから張り直そうとしているか。多分そのどっちかでしょう!
で、明確に攻撃を当てられるように、あるいは外にしっかり障壁を張れるように一度出てくる必要があった!
その辺の仕組みはよく分かりませんが、体内にいてどうやって体外に効果を発揮できるのかって話ですからね!
それよりも! 今はこのチャンスを逃しちゃいけない!
偶然、かなりの数の治癒術師を呼び出せる国の中に僕はいる!
偶然、あの魔物は体勢を崩し、身動きが取れない状況にある!
偶然、忌まわしい障壁が破られて、魔法が通るようになった!
偶然、魔法の発動のためなのか標的が見える位置に出てきた!
これだけの偶然が重なったんですよ、もう行動するしかありません!
今しかないかもしれないチャンスなんですから!
「オンド! 術師の皆さんを呼んできてください! 大急ぎで移植魔法を実行します!」
*
……やった!
繋がってる!
「ルメド様! 術師の集中が持ちません!」
「手早く交代して術式を維持してください! 今、確かに繋がったんです!」
「は、はい!」
す、すごい!
偶然に偶然が繋がり続けた結果ですが──今確かに繋がってる感覚があります!
指先の先の先、腕の長さじゃ届かないところ、視界に映ってるあの遠い人影のところまで、僕の魔力が伸びていって、糸みたいに、縫い針みたいに、するすると入り込んでいって。
これですよ。これが欲しかったんですよずっと!
周りの治癒術師の皆さんの魔力が、僕に流れ込んでくるのを感じられます。人数が多いから前みたいに途中で精度にぶれが出たりもしない。
当然ですよね。国には「今から魔王を弱らせるから術師を大量に寄越してくれ」って頼んだんですよ。しかも全員僕のことを知ってくれている。これで協力しない方がおかしい。本当にありがたいです。
……ありがたい、なんて思ってるくせに、僕、この人達のために魔法を組んでるわけじゃないんですよ。
国民のためでも、ソワンのためでも、災厄を止めるためでも、ない。
ヴィクトールさん。貴方の肉体、すぐ後ろの台に運んでもらいました。
冷たいまま、上半身だけですが。あとは魂、魂さえ来れば、戻ってくる。
戻ってくるんですよ。貴方が。
待っててください。もう、すぐです。
他人の魂を奪ってまで、っていう話なんですけどね。
奪うんですよ、僕は。何の躊躇もなく。プレヴィの魂、引き剥がして、持ってきて、貴方の中に注ぎ込みます。それで「貴方」が戻るなら、何でもしますから。
自分で自分に呆れるぐらい最低だって自覚してますが……もしかしたら、僕は貴方を初めて治癒したときから、こんな真っ黒な気持ちを抱いてたのかもしれませんね。
毎日少しずつ治しますね、なんて、嘘ついて。あの嘘ついた瞬間から、もう、戻れなかったんですよ、僕は。
戻れないなら、戻れないでいいんです。貴方さえ戻ってくれるなら。
「……!」
「ルメド様! 今、確かに魔力の反応が!」
「はいっ!」
明らかに手応えが違う。
これまで何回も術を試して、何回も「届かない」って弾かれて、その全部の感触を覚えてるんですけど、今のこれは違います。
抵抗されてる感じもしますが……どこまでこの魔法の魔改造に力を入れたと思ってるんですか。
届いてる。届いてるどころか、掴んでる。掴んだものを、今引いてる。プレヴィの魂を。
……貴女の代わりに、ここに来てくださいね。
貴女が居場所を奪ったあの人の代わりに、ちょうどいいでしょう?
魔王が残した穴を、魔王で埋めるんですよ。
皮肉ですけどね。皮肉ですけど、もう、何でもいいんです。
ヴィクトールさん。僕、ここまで来ましたよ。
貴方一人のために、本当に、ここまで来てしまいました。
国を背負ってるふりも、皆さんに頼られてる治癒術師のふりも、全部、貴方を取り戻すための道具にして。
貴方以外の命の重さが、僕の中で、本当に軽くなってしまったんですよ。
最初は怖かったんですけど、今はもう、怖くもない。
……貴方が戻ってきたら、軽蔑、しますか。
軽蔑されても、いいです。戻ってきてくれるなら。
「……入った……!」
繋がってる魔力が、向こうで、何かを引き剥がした。
いつも移植魔法を使ってるときと全く同じ感覚です。向こうと部位の接続が切れて、そのまま魔力のレーンに乗って伝わっていくような感覚が。そのまま、魔力に導かれるようにこっちへ飛んできて。
ああ。
ああ、ああ!
蘇生魔法が動いてる。魂の喪失しない量まで回復してる。
再生魔法も動きだしてる。ってことは、それって、つまり……!
「ヴィ、ヴィクトールさんっ……!」
「っ!? お、大きっ……!? あ、あああ下着着せるの忘れてました! ごごごごめんなさいヴィクトールさん!!」
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