僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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その力強さが好きで

 ──「ハッ……ハッ……! な、今、何が……!? わた、しは……!?」

 

 な、なんなんださっきの!? 

 

 ま、待て。整理しろ、オレ。

 作戦だと、あの化け物の進行方向に先回りして、何週間もかけてデカい罠仕掛けようって話だったよな? 地面ぶち抜いて掘って、塞いで、あの化け物がちょうど来そうなところに大穴を仕込んで動きを封じようっていう。で、相手が動けなくなったら遠距離から対魔王軍が弓矢なり魔法なりで集中砲火して障壁を削れるだけ削る。そういう作戦だったはずだ。

 オレは最前線で待機してあの化け物が罠を出ようとしたり、こっちを攻撃して来ようとした時にそれを叩く……そういう役回りだった。あくまで監視役だったんだ。そういう風に把握してたんだよオレは。

 

 ……じゃあ何だったんだあの水魔法はよ。

 

 水なのかあれ? 水でいいんだよな? 人生であんな水量見たことないから分かんねェ。

 なんで山ン中から水が飛んできて、ばっこーんって突き刺さって、それであの化け物がぐらついてんだよ、聞いてねェぞこんなの。いやそれどころか全員聞いてねェだろこれ。

 あんなとてつもない高火力出せるようなヤツ、対魔王軍にはいなかったはずだし……作戦じゃ、危ねェからそもそも罠に完全にかかるまで攻撃はしないって話だったろーが。 

 シュヴァが知ってんなら別だが、知ってたなら絶対オレに事前共有してくるよな。オレが一番前線にいるから周りに確認できるヤツなんていねェが……あの真面目野郎が伏せて動くわけねェ。

 

 というか、それより。

 それよりっていうか、今のも大事だが──それ以上に。

 

 オレの身体能力はずば抜けてる、視力も聴力も良いからよく見えるしよく聞こえる。

 あの化け物のてっぺんから出てきたヤツ……。

 

 

 

 ──「さ、災厄ル・マル……! 私に、エネルギーを……!」

 

 ……あれ、もしかしなくてもプレヴィだよな。

 

 

 

 あのとんでもない水魔法が直撃して、ちょっとしたらあの女が出てきた……まァそこまではいいんだよ。理解できる。多分障壁破られたから反撃するか、対策しようとして出てきやがったんだな。

 でもその直後に急に動きが止まって……今はあのザマだ。何があったか知らねェが、あからさまに様子がおかしくなってやがる。

 なんとなくさっきからあの化け物からなんか吸い上げてるみたいな気の流れしてやがるし、まるで──自分を維持できなくなったから、エネルギーを吸い上げてギリギリで踏みとどまってるみたいな……。

 

 何があった。さっきの水か? 

 いや、水は化け物に当たっただけで、頭の上のアイツは攻撃を受けてから出てきたはずだ。アレが原因なら順番がおかしいし、そもそも出てきた瞬間は別に問題無かったはずだしよ。

 じゃあ、何が起きてる? 

 

「いや、オレたちにとっては都合良いんだよな……」

 

 助かってんだよこっちは、思いっきり。

 あの化け物は今明らかに動きが鈍い。穴に嵌まった足を抜こうともできてねェ。ビリビリくる障壁の感じも消えてるし、今なら攻撃が届くってこったろ。

 別に動けないまま戦うことはまだまだできそうだが。頭脳役のプレヴィの様子が明らかにおかしいし、エネルギーも吸い取られてる感じだから全開って訳じゃなさそうだ。

 問題があるとすれば、対魔王軍の方も混乱してるのかさっきから全然攻撃できてないってとこか。オレも同じ同じ。何が起こってんのか全く分からねェし、多分それはシュヴァも同じなんだろ。このまま作戦続行していいのか? 

 

 どうすべきだ? 

 一回本隊に戻ってシュヴァと話し合うべきか? 

 でも、今のこれってまたとないチャンスだよな。これが仕組まれた罠とかじゃなくて、本当に偶然が色々重なって怒ったミラクルだってんならこのチャンスを生かさねェ手はないし。

 オレが下がることで、オレのすぐ後ろにいる対魔王軍を攻撃から庇えなくなっちまうってデメリットもある。善意と正義感で協力してくれてる一般人の集団を一番あの化け物に近い場所に置くわけにはいかねェからな。

 だから……。

 

「……ん?」

 

 なんか、遠くで、何か、動いたような。

 あの化け物の向こう側、これまでプレヴィ達が進行して来た方向から……砂埃が上がってるような。

 一度あの化け物が通ったせいで何もかも踏みつぶされて、木の一本も生えなくなってる……なんもないはずの方角から──何かが、走ってきてる。

 それも一個や二個じゃねェ、塊で。塊で、まっすぐこっちに、向かってきてんぞ。

 

 ──ズドドドドドッ! 

 

 ──ギャァァァアス! 

 

 ──グォアアアアッ! 

 

「……は、はァ!?」

 

 魔物! 魔物の群れだ! 

 数、ざっと、見えるだけで数十。後ろにもまだいる。

 土煙でちゃんと数えらんねェが、もっとずっといるぞ!? 

 なんで魔物がこっちに走ってくるんだ!? 

 

 考えろ、やっぱ罠だったのか? 

 あんな量の魔物がこっちに押し寄せてきたら対魔王軍じゃかなり厳しい。今すぐ撤退の指示を出すべきだ。

 でも、こんなチャンスを前にして? 

 ふざけんなよ、そもそも罠が成功するってことが奇跡的なイベントだし、アレの準備にも恐ろしい時間と労力かけてんだよこっちは。そこに謎の水魔法とプレヴィの不調まで重なってんのに、雑魚魔物の集団のせいで一時退避なんてやるせないどころの話じゃねェぞ。

 

 そもそも、この集団、誰が率いてやがんだ。

 魔物の集団がバラバラにバラけたりせず、一直線に固まって走ってくるってどういう魂胆だ。そんな習性聞いたこともねェ。あの化け物に追いついたところで踏みつぶされる以外の末路はねェし。

 だから、先頭にいるヤツがこの集団を率いてるってことになる。魔王軍の幹部か、めちゃくちゃ強力な魔物か、それ以外の気狂いか。

 

 ……ん? 

 そういやそんな噂を前に聞いたことがあるような……。

 

 

 

 ──「何で止まったか知らないけどやっと追いついた! 切り刻んでやるプレヴィーッ!」

 

 

 

 エスクリじゃねェか! 

 いやなんでだよ!? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「リュト!? なんでここに!?」

 

「いやこっちの台詞だテメェ! 何したらこんなことなるんだよ!」

 

 よくテメェは器用に魔物の集団から逃げながらあの化け物を切り回れるな! おかげで思わず飛び出しちまったじゃねェか! 

 噂の、怪しげな剣持って魔物引き連れてる謎の人物ってテメェのことだったのかよ! 

 

 いやちょっと待て、エスクリの様子もなんかおかしいぞ。

 目が、こう、据わってるっつーか、笑ってんのに笑ってねェっつーか。

 

 ハイになってないかコイツ? 

 

「これ? アザールで偶然、前世のボクの剣見つけてさ。それを取ったら沢山ついてきて……でもコイツらを斬ってると力が湧いてきて! ずっと動けてるんだよ!」

 

 いやまァ確かにその刀身には見覚えがあるぜ? 柄の彫り、刃の反り、根本のあの妙に曲がった護拳とか。前世のオレが使ってた剣だよな、それ。

 いや、シエルの剣って言うべきか。なんかややこしくなんなオレらの場合。とにかく、前世のオレらが振り回してた剣だ。それは間違いねェ。

 

 ……それをアザールで見つけて? 

 それ取って今までこの化け物追い回してたっていうのか? 

 オレ達が一回離散してから相当時間経ってるよな? 

 その間ずっと戦闘と追跡を繰り返してたって? 

 

「明らかに呪いの装備じゃねェか!」

 

「や、やっぱりそうかな……」

 

「どう考えてもそうだろうがよ!」

 

 あの剣にこんな魔物吸い寄せる効果なんざなかっただろ。どっからどう見てもとてつもない魔改造施されてんじゃねェか! 

 それに魔物を斬れば斬るほど力が湧いてくるだァ? どう考えても殺した相手からエネルギー吸い取ってる魔剣中の魔剣に変貌しちまってるぞ!? 

 

 元々魔王軍の施設の中枢担ってるアザールで見つけたんだよな。じゃあ、そこが魔王軍の実質的な武器保管庫みたいな役割になってて、この剣もオレの死後回収された後そこで保管されてたっつーことだ。

 やろうと思えば大量の部下を一切指示も出さずに統率あるいは扇動できる代物って訳だろ。しかも長時間飲まず食わずで動き回ってようが問題ないくらいのエネルギーを供給出来て、使用者の強化にだって使えちまうって点で文句なしの化け物装備。あくどい使い方しやがるぜ魔王軍ってのはよ。

 

 エスクリだって今は平気そうだが、後で反動がヤベェことになるぞ。幸いすぐ近くにソワンがあるから最悪どうにでもなりそうだが……少なくとも使い続けてていいような武器じゃねェのは確かだ。

 不幸中の幸いなのは、あの化け物が通った跡に湧いて出てきやがった大量の魔物が問答無用でエスクリについていくから道中の被害は最小限で済んでるってことぐらいか。

 

 ただ……エスクリの強さは折り紙付き。

 今、戦力切るわけにいかねェ。

 

「とにかく、一人で突っ込むな! 今罠にかけてる最中だ! 嵌まってる間に削るって計画だから近づきすぎんな!」

 

「でも、今、物凄く力が……おっとリュト危ない!」

 

「……って、うおっ!?」

 

 

 

 ──ズガガガガガガガガガガッ! 

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 地面の至る所から、触手……? みてェなもんが次々と……! 

 なんだありゃ。威力も速度もとんでもねェし、エスクリに着いてきてた魔物共なんか見る影もないくらい……あのままエスクリが引っ張ってくれなきゃ今頃ミンチにされちまってたぞ!? 

 範囲だってとんでもねェ。オレが元々見張ってた最前線の方までぐちゃぐちゃになってやがる……! もしあのままあの場所に残ってたりしたら……。

 

「プレヴィが反撃して来たんだ! いいさやってやろうじゃんか!」

 

「待てエスクリ! 普通に戦っても勝ち目はねェぞ!」

 

「わわっと」

 

 いくら好条件がそろってようが──コイツは数百年前にあれだけ猛威を振るった魔王の成れの果てなんだろ。個人個人が接近戦でちまちま斬ってようが入るダメージなんざ微々たるものでしかないはず。

 エスクリが安定して重要な戦力であることには変わりない。ハイになった状態でほぼ利きもしない攻撃繰り返してぷちっと潰されでもしたらとんでもないマイナスだ! 

 

 とか考えたらまた来やがった! 

 クソッ、指示役がいなくなって完全に暴走してやがる! 

 

「エスクリ! とにかく移動だ! 魔物と触手から逃げつつ、隙を探すんだ!」

 

「ぐぬぬ……分かった!」

 

「大丈夫だ! あと少しすれば、時間が稼げるはず……!」

 

 そうだ。

 オレ達はたった二人で戦ってる訳じゃねェ。ここまで大規模な作戦を実行するためにどれだけの戦力を備えてきたと思ってる。強化魔法も相まって、下手な大国の軍隊よりも強力な人員が揃ってんだよ。

 だから──シュヴァの野郎が戦況を理解して指揮を執り直せば……。

 

「……来た!」

 

 弓矢に砲撃に魔法に。こっちの反撃だ。

 集中砲火が始まる! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「こっちに飛んできた攻撃はオレが全部受け流す! 移動しながら弱点を探せ!」

 

「分かった!」

 

 こうなりゃ自棄だ! 

 対魔王軍の攻撃が始まったからオレらを狙おうとしてる攻撃も追っかけて来る敵共もだいぶ減ってる! このチャンスに一気に懐へ突き進んでオレ達がトドメを刺してやる! 

 味方の攻撃に巻き込まれないように、こっちに伸びてくる触手を片っ端からぶち折りながら走って、殴って弾いて殴って弾いての繰り返しだ! 

 正直拳の方が痛くなってくるくらい硬ェんだけど骨は折れねェからシエルの体に感謝するしかねェな! 

 

「リュト、後ろも!」

 

「分かってるっつーの!」

 

 後ろに回り込んでくる触手も横から来るやつも下から這い上がってくるやつも……みたいなもう数えてる暇なんかねェ! 

 息があっという間に上がりやがる、エスクリも上がってる、こんなもんが何時間も保つわけねェ。一撃一撃があり得ないぐらい重いし、決めるなら一気に短期決戦だ。小さな人間一人の剣筋でもトドメを刺せそうな隙を見つけ出すしかない! 

 

 あの化け物も苛立ってきてやがるな。穴に嵌まったまま動けねェのに、表面が波打ち始めてやがる。

 さっきまで地面から伸びてた触手が今度は本体からも生え始めて、本数も太さも速度も上がってきやがった。これ全部捌くのは流石にキツいぞ! 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 

 

 !? 

 

「エスクリ!? おいエスクリ! どこいった! なにがあった!」

 

「リュト、ボク大丈夫だからそっち気をつけ──!」

 

「チッ、クソッ!」

 

 マズイ、離されちまった! 

 

 クソッ、ホントに集中砲火受けてんだよな!? ただの攻撃でさえ敵一匹すら逃がさねェってぐらいの激しさだぞ!? 

 畜生が。こうやって分断されちまうとできることが半分になっちまうし、無理に合流しようとするとまた隙を晒しちまう! 厄介なこと極まりない! 

 周囲の魔物合わせて完全に無差別攻撃なのに、明確に殺意を持って一人一人ぶっ潰そうって魂胆が丸見えだし、性格悪いぞテメェ! 

 

 仕方ねェ。もうこうなったらオレはこの場で凌ぎ続けて、エスクリか対魔王軍か、誰かがコイツの息の根を止めるまで粘るしかねェ。

 できるだけこっち側の触手を引きつけて、化け物の意識を少しでもこっちに分散させるってのが今打てる唯一の手だ。それしかねェだろ、それしか! 

 

 ──ヒュンッ! 

 

 ──バキィッ! 

 

 ──ヒュンッ! ズバァッ! 

 

 ──ドガァッ! グシャァ! 

 

 ああもう! 

 そう思うと段々腹立ってきやがった! 

 

 

 

「オイ! オレの方見てろよクソ魔王! テメェには色々世話になったんだ!」

 

 

 

 テメェ、どうせエペの言ってた三つの魔王ってうちの一つで合ってるだろ。ヴィクとプレヴィと、もう一つはお前だろ? 

 エペは「どうして三つに分割したのか」の理由については黙ってたが、プレヴィが操ってたんだからテメェが三つ目で合ってるよな? 

 

 てことはテメェ──ヴィクと元々同じ存在だったっつーことだろ。

 どうしようもなく腹が立つぜ。

 

「畜生が! この野郎!」

 

 ヴィクのマッサージ知ってるか? アイツ、あんだけの規格外の力を持ってるくせに、オレの体に触る時はちゃんとオレが壊れねェ範囲で力を込めてくれてたんだ。

 それでも普通の人間なら耐えられねェレベルだったけど、あいつにとっちゃそれが精一杯の力加減だったんだろ。アイツにはいつだって、必ずあの優しさがセットでくっついてやがったんだ。

 オレはアレが好きだった。必死さと、力強さと、優しさが感じられて気持ち良かった。

 

「ふざけんなよ、この外道がァッ!」

 

 なのに目の前のテメェはなんだ? 

 誰彼構わず殺すためだけの殺意塗れの力で、優しさなんてまるで感じねェ。何も考えてないってことはねェだろ? ここまで戦略的にオレ達を追い詰めてんだからよ。

 元は同じ存在だってのに、性根はとことん正反対だ。ヴィクの優しさなんて自分には要らないってか? 強くあるためにはそんなもん邪魔でしかないってか? 

 ヴィクの優しさだけキレーに捨てて、力の部分だけ転がして使って、重要なモン切り捨ててんのはそっちの方だぜ。ふざけんなよマジで。

 

「アアアアアアアッ!」

 

 もう腕が上がらなくなってきた。足はもつれるし、視界もぼやけてきた。

 ああこれもう立ってらんねェやつだな。

 多分これ以上は捌ききれねェ。

 まだまだオレを狙っていくつも触手が突っ込んできてるってのに。

 

 

 

 ……まあ、こんなもんか。

 

 思えば奇妙な人生だったよ。

 逃げて逃げてやり過ごして、最後の最後にちょっと殴って終わり。

 中途半端なまま中途半端に死ぬっつーのも、向いてねェ勇者業の終わり方としては妙にしっくりくるじゃねェか。

 

 ……ハッ。もう目の前に触手が来てる。走馬灯に耽る猶予も無いってか。流石魔王。

 結局最期も、中途半端な結果のまま終わるっていう、オレにお誂え向きの……。

 

「……ッ!」

 

 

 

 ……。

 

 ……あれ、来ねェな? 

 

 来ねェどころか、なんかめっちゃ風を感じるような。

 ん? 浮いてんねェかオレ。足の下に地面の感触がねェんだけど、これどういう状況だ? 

 誰かが持ち上げてる? よく見れば、これって所謂「お姫様抱っこ」ってヤツじゃ……。

 

 ……いやいやいや。

 誰がこんな戦場で。夢でも見てんのかオレ? 

 

 ただ、この力の強さは──オレは知ってる。

 そんなことあり得る訳がねェのに……。

 

 ……あれ。

 でもコイツ、真っすぐエスクリの方にも向かって……。

 

 ………………まさか。

 

 

 

 

 

「探したぞ二人共! また会ったな!」




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