僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~ 作:破れ綴じ
「探したぞ二人共! また会ったな!」
「うわぁ!? 何々!? ボク浮いてる!?」
「ヴィク! お姫様抱っこはやめ……ちょっ、恥ずかしいだろ!」
……ヴィク?
……え、何が起こってるの?
急に体が持ち上がったと思ったら、すごい勢いで触手が離れていって。
あれ?
これ、触手が離れてるんじゃなくて、ボクたちが遠ざかって……えっ?
「エスクリ! 待たせて悪かった! 大丈夫だったか?」
──ヴィク……だ?
ヴィクがいる。ヴィクの声で、ヴィクの腕で、ヴィクの体温で、今、ボク抱えられてる。
なんで、なんでってどういうこと、なんで。
……ヴィクだヴィクだヴィクだ、ヴィクだ!
うそ、うそ、うそうそうそ、うそじゃない、本物、本物のヴィク!
待って待って待って、心臓、心臓どうにかなる、どうにかなっちゃう。
ヴィクの胸元がすぐそこで、顔近い、近すぎる、近い近い近い!
「おま、なんで……死んだはずじゃ!?」
「ルメドが蘇生してくれた。蘇生されるの初めてで、なんかちょっと変な感じはあるが……特に問題はない!」
「それ大丈夫なのか!?」
……っ! ……、っ!
なんでって、戻ってきたんだから戻ってきたんでしょ。当たり前、当たり前じゃん。
ヴィクだもん、ヴィクが死ぬなんて最初から信じてない、信じてなかったから今こうやって戻ってきてくれてる、ね、ね!
なのにボクなんで泣きそうなの。信じてたなら泣くことないはずなのに。
ううん、しっかりしなくていい、ヴィクが戻ってきたんだから取り乱していい、取り乱させて!
やっぱりヴィクは生きてたんだ!
ルメドの蘇生は成功したんだ!
待ってた。待ってたんだよ、本当に!
信じてよかったずっと信じてた!
ボクのヴィクが帰って来た!
「大丈夫かエスクリ? 舌噛んでないか?」
「う、うん……!」
……ふっ、ふぅっ……うん、ちょっと落ち着こう。
落ち着こうボク。死にかけてた直後に再会の感動でショート寸前なのは仕方ないけど、ずっとこのテンションで居たらヴィクに引かれるかもしれないし、何より状況がそれを許してくれない。
というか、今の体勢ってあれだよね。
腰のあたりに腕回されて、片手だけで持ち上げられてる感じ。脇に抱えるみたいな、それでいて支えはしっかりしてる、っていう絶妙な抱え方で、凄い安定感があるけれど……。
リュトのそれは──お姫様抱っこだよね。
いやまぁ、両方お姫様抱っこなんて腕二本じゃ足りないし、片方は仕方なくこっちになるってだけで、別にがっかりとかしてないよ? してないし。してないけどさ。
あの懐かしいトレントを二人一緒に倒した時は、ボクのことお姫様抱っこしてくれたよね。いや、思い出しただけだし。比べてないから、比べてないけどさ。
……いや。
今そういう場合じゃない。
ついさっき魔物に追い回されて、剣でぶった斬りまくって、もう頭ん中ぐちゃぐちゃで、それなのに今お姫様抱っこに浮かれてるって、流石にどうかしてる。
……どうかしてるけど、ヴィクが居るんだから、しょうがないじゃん。ヴィクが居るって事実の前ではボクの頭の中身全部上書きされちゃうんだから、しょうがない。
「じゃ、じゃあ……テメェ、どうやってここまで」
「全速力で走って来た。ルメドには止められたが」
「当ったり前だろうがよ!」
「それよりアイツを倒す作戦についてだが」
「話聞けテメェ!」
……あ、うん。
それは当たり前だ。
冷静になって来たけれど……もしかして今って蘇生直後なの?
えっ蘇生直後って安静にしてなきゃいけないとか、リハビリしないといけないとかじゃなくて? 直後にボクのこと助けに来てくれたの?
しかもソワンってすぐ近くとはいえ、そんな数分で来れるような距離じゃないよ?
……まぁボクのヴィクならできてもおかしくないか。
……『アイツを倒す作戦』?
「待ってヴィク、作戦って?」
「ん? ああ。アレの弱点は後頭部だ」
「は? どういうことだ?」
それは……なんで?
なんでそんなこと知ってるの?
「全部治したはずだったのに、後頭部にだけまだ傷跡が残ってたからな」
……?
「要はあそこの傷が前世じゃ相当重症だったってことだ」
……??
「あっこれルメドしか知らないのか。まあ詳しい話は後だ、今は遠くへ移動するぞ!」
……ルメドしか。
……むぅ。
「あー……じゃあ何はともあれ、アイツの後ろ頭に致命傷ぶちかませば倒せるってことなんだな?」
「そうだ。なんとなくそれがトドメになってたって朧気な記憶もある」
「じゃあなんで今オレ達は遠くへ逃げてるんだ? それにあんな高い場所までどうやって?」
「そ……そうだよヴィク! 弱点が分かっても、その倒し方がまだ分からないよ!」
だ、だって。後頭部って。
ボク達がさっきまで切り回してたあの黒い塊なんて、いつぞやの巨大ワームぐらいあるんだよ? そのてっぺんなんて言われても、何メートル、何十メートルあるかも分からないよ。
ボクのジャンプじゃ届かないし、今エペが手元にないから変形も使えない。リュトの仲間達が今集中砲火してくれてるけれど、それだって上の方には届いてないし。
それにわざわざ敵の位置から離れる意味も分からない。ヴィクが猛スピードで移動してくれてるから段々あの触手攻撃も届かなくなってきてるけど……射程外になってるのはボクたちも一緒。
届かない、これ。
弱点が分かってても、届かないんじゃ意味ないよ?
「だから──『作戦』があるんだ」
……っ!
「二人の力が必要だ。ひとまず射程外まで移動する、そこで話すぞ!」
……ふふ、ふふふ。
そう、そうだよね。ヴィクが何も考え無しでこんなこと言う訳ないもんね。
むしろ具体的な考えがあるからこそこんなことしてる。やっぱりいつも通りのヴィクのままだ。生き返ってすぐだとしても──ボクの理想の『頼れる男』のヴィクそのまんまだ。
うん、ボク、信じてるよ。
ヴィクの作戦、何でも聞かせて!
*
「リュトに俺とエスクリを上空へ投げてもらう」
「……?」
……お、おお。
おっけー……?
やっとあの魔物の射程外まで避難して、いざ作戦を聞くって段階になった訳だけど……。
……リュトがボクとヴィクを上空まで投げる?
それで後頭部まで行こうってこと? 超脳筋戦法?
本当にヴィク大丈夫なのかな。蘇生直後でまだ頭が回ってないだけだったりしないかな。
いやまぁ確かにさ。
リュトが投げる役になるなら、その間リュトは一人になって完全に無防備な状態になるから、敵の攻撃の射程外に避難してからじゃないと実行できない……それは理解できるんだけど。
もしそうだったとしても……。
「オレ……そんな正確に投げられねェぞ? 上空までならできるだろうが、後頭部に辿り着けるかは運次第になっちまう」
……だよね。
リュトはものすごいパワーがあるから人二人を数十メートル上まで投げ飛ばす……ぐらい普通にできるかもしれないけれど。それができる筋力っていうのも相当凄いけれどさ。
それをいざ巨大な魔物の後頭部付近まで正確に投げるっていうのは……無理なんじゃないかな。このままじゃあらぬ方向に飛んでいく可能性だってあるんじゃない?
それに後頭部まで行くだけならまとめて二人を投げるんじゃなくて、一人ずつ投げた方が良いんじゃない?
「ああ。だから……」
「上空で俺がエスクリを投げてアイツに叩き込む」
……あっなるほど!
そうかそうかその手が……。
「え、えぇ!?」
「ハ、ハァ!?」
「上空まで届けば後は俺がやる。位置がずれても俺が空中で調整すればいい」
……そういうこと!?
だから二人を投げるってこと!?
待って待って。やっと今理解できた。
ヴィクがボクを投げる、それは別にいいよ、既に経験あるし。ヴィクの腕で投げられるって考えたら正直ちょっとドキドキするし……あっいや、そういう問題じゃなくて!
そうか、そういうことか。リュトが高い位置までボクたち二人を投げ飛ばした後、めちゃくちゃ投擲の上手いヴィクがボクを弱点の位置まで正確に投げるってことだよね?
だから──空中で、調整する。
ヴィクが、空中で、ボクの位置を、調整する。
……いやそれってつまり、空中でヴィクがボクを抱えてくれるってこと?
もう一回? もう一回ヴィクの腕に抱かれられるの? しかも今度は空の上で?
って違う違う違う、戦闘戦闘、戦闘の話。
後頭部に叩き込まれる役、ボクが弾になる話。
そう、剣でぶった斬る役、そういう真面目な話。
「……分かった。ボク、やるよ! ヴィクの腕を信じてるし!」
「マ、マジか……じゃあ、やるしかねェか」
リュトはヴィクがものすごく投擲上手いってことを知らないから、ちょっと乗り気じゃなさそうだけど。
もし失敗すれば貴重な戦力を一気に二つ失うことになっちゃうし、そんな作戦にすぐ乗っかっちゃって後悔したくないからね。
でも大丈夫。ヴィクの投擲の腕は折り紙付きだよ!
「ありがとう二人共。そうと決まれば今すぐ始めるぞ」
「い、今すぐか!? ちょっと緊張してんだが……」
「時間がない。いつ魔王が再び動き出すか分からないから」
「ああそうだよな分かってるよ! やってやるさそこ並べ!」
あ、うん。
えっと、こうかな。ヴィクに抱き着くみたいな感じで掴まって、剣も落ちないようにしっかり握りしめて。ヴィクもボクを離さないようにしっかり抱え込んで、力強いけどどこか優しいフィット感で……。
……ヤバイ、ドキドキしてきた。
ヴィクの体とボクの体がぴったりくっつきそう……っていうか完全にくっついてる。リュトに投げられる関係上、二人ともぎゅっと寄せられてて、ヴィクの体温がもう、ボクの体の右半分から伝わってきて。
……えっ、これ、これ、近すぎない? 投げられる前から心臓持つの、ボク。
ていうかこれからぶっつけ作戦本番なのに何考えてるのボク。
「行くぞエスクリ、構えとけ」
「う、うん!」
ヴィクの声、すぐ耳元。
耳に直接息かかった、かかったよね今、絶対かかった。
いや集中! 集中、集中、戦闘、敵、後頭部、斬る、斬る、斬る!
よし!!
「いっくぞオラァッ!」
──ぐっ!
……と、飛んだ!
体が消えたみたいな……いや消えてない!
上、上に持ってかれてる、ものすごい速さで、視界の景色が縦に流れて、地面が遠ざかって、風が顔に叩きつけて、ヴィクの腕がボクをしっかり掴んで離さない、ヴィクの腕、ヴィクの腕がある、それだけで何でもいい、何でもできる、何でも。
ついさっきまで地面だったのに──空、空、空、まだ上がってる、まだ上、もっと上、ヴィクと一緒に、空の上、二人で。
ふふ、ふふふ、なんか楽しくなってきちゃった。
これ作戦中なのに、不謹慎、不謹慎だけど、でもヴィクと一緒に空飛んでるんだもん、しょうがないじゃん。
「エスクリ! 行くぞ、構えろ!」
「う、うん!」
ヴィクの腕の力が変わった。
これあれだ、抱える腕から投げる腕に変わったんだ。
よし、集中、集中しないと!
これからボクは──あの魔物の後頭部にまっすぐ突っ込んでいって、いつぞやのトレントみたいにヤツをザクっと──!
なんか、視界の端に。
何かが、こっち、来てる?
いや、これ。
ボクじゃなくて、ボクの剣に向かって──
「なっ! エスクリ!」
「えっ──」
──バッキィィィン!
*
今まで握ってた重みが……ない。ない、ない、ない!
ボクの、剣が……! 触手が飛んできて──剣が吹き飛んだ!
「エスクリ! 大丈夫か!」
「ボクは……で、でも剣が!」
ヴィクが急いで引っ張ってくれたから、ボクは当たらなかったけど……。
ボクの、ずっと振るってきた、シエルだった頃から振るってきた、ボクの剣が。
散った、散ってる、破片になって、触手に持って行かれて、空に散らばって。
ボクをシエルたらしめていた、ボクの剣が──こんな一瞬でバラバラに……!
……あぁ、そうだ!
そりゃそうだ、今までずっとこの剣が大量の魔物を吸い寄せるところ見てきたじゃんか!
それなら、同じ魔物の触手だって例外じゃない、あの触手が吸い寄せられるようにこの剣をまっすぐ狙ってくる可能性だってゼロじゃない! むしろ高い!
……うそ、うそでしょ、うそだって言ってよ、誰か。
武器が、ヤツを倒すための武器が、こんな形で……!
これから、どうすれば……!?
──「ふぅ。やっと脱出できた。ちょっとの魔力でどんな武器にもなれるエペ素敵」
──『いやそれどころじゃないよ! 結界が解けたってことは今緊急事態ってことで』
──「分かってる分かってる。わたしにかかれば迅速にこのまま脱出を……ん?」
──『え!? エスクリと……ヴィク!!? ど、どうして!?』
……サシナ!?
……と、エペ!?
えっ、なんで二人……一人と一本共あんな場所に!?
なんか、あの魔物の体表から、肉を解体するみたいに出てきたけれど……えっ、ちょっ、どういうこと!?
……いや、違う! そうじゃない!
エペがいるってことは……!
──「な……なぜヴィっくんがあそこに。イマジナリーが宙を漂い始めた……?」
「サシナ、エペを投げろ!」
──「む。よく分からないけど承知した。さらばエペ。短い間だけど楽しかった」
──『ちょっと待って、なんかすごい色々起きすぎててよく分からな……うわあ!?』
エペがいるってことは──それ即ち武器があるっていうこと。
サシナがエペを投げて、ヴィクがボクを投げて、エペを魔王の後頭部までの軌道上に完全なタイミングで合わせられれば──ボクほどの剣士が武器をキャッチできない訳がない!
「行くぞエスクリ!」
「え、あ、うん!」
ヴィクの腕の力がまた変わった。
エペと一緒のタイミングで、エペが届く位置で、ヴィクが計算してくれてる。
ヴィクの投擲の腕、ヴィクが計算してくれた軌道、絶対外さない、ヴィクが外すわけがない!
今、今! 今だ! 来る!
「頼む!」
「任せて!」
──ぐっ!
──ビュオッ!
「!!」
来た!
投げられた!
すごい風が顔に叩きつけて、視界が流れて……でも見える!
エペが見える、銀色の刃が、ボクの方に、近づいて、近づいて、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ……!
手を伸ばせば、エペに、エペの柄に、届け、届け、届……!
──ガシッ!
『エスクリ!!』
「エペ! おかえり!!」
来た!
『……!? なんかすごい魔力だよエスクリ!?』
「え、そうなの!?」
なんでだろう。今まであの剣で散々魔物を斬りまくってたから?
それが魔力になって体に溜まってたのかな。どちらにせよ好都合!
『と、とにかく! 今の状況は──とりあえず察した! 僕は君の武器として』
「そう! いつも通り斬るだけさ、エペ! 『十メートル/グレートソード』!」
今思えば、ボクが過去の自分の剣を見つけたのは、過去の自分と向き合うための運命だったのかもしれない。
ヴィクを失って自暴自棄になって、自分ならできるって独りよがりを貫いてた。そのまま突き進んだ自分を……前世の『ボク』が引き留めるために準備してくれた贈り物が、あの剣だったのかもしれない。
今、あの剣は無くなってしまったけど、それはボクがボクでなくなったんじゃなくて。
新しい、現世でのボクを受け入れたってことなんだ。
柄から、ボクの魔力を吸い取って、エペを長く、太く、鋭く、もっと、もっと、もっと!
ボクの中にあった、呪いから絞り取った魔力、行き場のなかった魔力、それが全部エペに流れ込んで。エペがボクの一撃のために、最高の形に、エペが応えてくれる!
黒い後頭部は目の前、すぐそこ。もう、届く。
ヴィクが計算してくれた通り、寸分の狂いなく、ボクは弱点の真上、エペは最高の形。後は振るだけ。
全身のバネを使って、重力で加速しつつ、空中で回転しながら──
……斬る!!
「ハァァァァァァァァ!!」
──ズバァァンッ!
ちょっと駆け足かもしれませんが……。
まぁ状況が状況なので大目に見てくれると嬉しいですはい。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
可能であれば、感想や意見や評価やここすきを頂けると嬉しいです。大喜びします。
次で最終話です。
とはいってもほとんどエピローグみたいなものなんですけども(´・ω・`)