過去と未来を行き交うふね   作:つるみ鎌太朗

2 / 7
1-2

 

 それでも翌朝になるとプリンプリンも綿毛の子が気になってしまった。

 ハナハナからもらったお花柄のばんそうこうを握りしめ、モンキーと因縁の岩場へ向かう。

 そっと覗いた。……誰もいない。

 そんなにいつもいるワケじゃないのかな、とプリンプリンが考えていたら。

 

「あー、ちっちだぁ」

 

 後ろから声をかけられた。

 ビクッと震えあがると、後ろで綿毛の子が目尻を限界まで下げて、にぱっと八重歯を見せている。

 

「ちっち、やっぱり、ぼんぼんとこきた。ね、おうちかえゆ?」

 

 モンキーの頭を撫でてきた。その膝を見れば……大きな四角いばんそうこうがシワもなく貼られている。

 プリンプリンはばんそうこうをパッと後ろに隠した。

 

「なにかくしてんの」

 

 綿毛がふるふると揺れる。

 プリンプリンは黙りこくっていたが、綿毛の子にそれ以上聞かれことなく、代わりにまじめくさった顔で、

 

「ん。どよぼはよくない。ちっち、かえしにきた?」

 

 などと抜かされた。

 プリンプリンはムッとする。

 

「この子、ちっちじゃない。モンキー。わたしのかぞく」

「でも、あっち捨ててあった」

「捨ててない。かくれんぼ」

「ほんと〜〜〜?」

 

 綿毛が腕組みし、目をかっ開いてズイと詰め寄ってきた。

 間近で見ると本当にふわふわしていて触りたくなる。

 だがプリンプリンはグッと堪えた。

 

「ほんと。モンキー、わたしと海から来たの。だから、ずっといっしょ」

「うみぃ?」

「しらないの?」

 

 周辺に住む大体の子はプリンプリンのことを知っているが、綿毛っ子は首を左右に振る。

 プリンプリンはいちおう説明してあげた。

 

「わたし、海でひろわれたの。モンキーと、ティアラといっしょに……」

「てぃあら?」

 

 男の子だからかアクセサリーにあまり興味がないらしい。

 銀の髪の上にプリンプリンは手を伸ばし、

 

「こ、頭のせる。おうかん」

 

 とヒラヒラさせた。

 綿毛っ子が背を正す。先ほどまでエラそうだったのに、ちょっとかしこまった感じだ。

 碧の瞳をぱちくりさせる。

 

「えっ、……きみ。……おひめちゃま?」

 

 透きとおる碧の瞳にはプリンプリンしか映っていない。

 その目はとてもきれいな色をしていて、すうと彼女を爽やかな風で包む。

 

「……そうかも、しれない」

 

 プリンプリンがもじもじしながら言うと、綿毛っ子にワアと声をあげられた。

 

「エー、ちょな、エラいひとがなんでここに?」

 

 ニコニコと笑われる。

 プリンプリンはどう説明していいものか悩んでうつむいた。

 黙っていると綿毛っ子に岩場を指される。

 

「ね、あっち。ちゅわって」

 

 そうして二人と一匹は天然の岩場の座椅子に腰をおろし、プリンプリンの出自を共有した。

 海で拾われたこと。おじいちゃんとおばあちゃんに育てられたこと。

 毎日、海で両親に呼びかけていること。

 だれも応えてくれないこと……。

 

 綿毛は相づちを打ちながら聞いてくれた。どこまでわかっているかは謎だが、フンフンと小さくうなずいている。

 聞き終えると彼はすぐに言った。

 

「きみ、おひめちゃまなのにばかだね」

「えっ……」

 

 突然の無礼にプリンプリンは絶句する。

 綿毛っ子が容赦なく続けた。

 

「うみ、こんなひろいのに。ちょどかないよ、おとな『おーい』ちても。

なんでわかんないの?」

 

 ズバズバ言われて、ぐうの音も出ない。

 綿毛はするりと岩場から降りるとプリンプリンの手を取った。

 湿った柔らかい手。

 

「ちな。いいことおちえてあげゆ」

 

 強引だが着いていくことにした。

 浜辺に二人とモンキーの足あとが踏み抜かれてゆく。

 綿毛が潮風に揺れるさまを後ろから見ると、青空と相まって雲にも似ているな、とプリンプリンは思った。

 

 たどり着いた先は、おじいちゃんと来たことがある、船を直したりする工場だった。

 金属のぶつかる音がくわんくわんと絶え間なく鳴っている。

 綿毛っ子は迷いなく入っていき、大きな船の群れをかいかぐり、ある人を訪ねた。

 

「おっとちゃぁ」

 

 呼びかけて振り返った人は、確かに綿毛っ子と似ている。

 ボリュームのある白い髪。といっても機械油で少しごわついていた。

 

「ボンボン。入ってくるなと言ったろ」

「テヘヘヘ、ごめん……」

 

 舌をペロと出す綿毛っ子。

 どうやらボンボンと呼ばれているらしい。

 お父さんらしき人が『まったく』と肩を落とす。

 

「どうした?」

「あのね、おふねかちて」

「……あ?」

 

  突拍子もないことを言い出すからお父さんも目を丸くしている。

 

「このこ、おひめちゃま。おとちゃおかちゃんとこ、かえるって」

「チャム爺んとこの子か。

いや、でも、ここにある船はみんな人んちのだ。貸せねえな」

「ちょこをなんとか……ねーがい」

 

 ボンボンと呼ばれた子が頬の横で両手をこすり合わせた。

 

「おまえ、最近いつもそれな」

「ねーがい」

「駄目だ。大体どこへ行くかわかってねえのに貸せるか」

 

 鉄の意志で断られ、ボンボンが膨れっ面になる。

 だがお父さんも鬼ではないらしく。

 

「ボンボン、最近かあさんに読んでもらった絵本のやつでも作れよ」

「どれえ」

「ほら……小瓶でさ」

 

 ピンと来たのかボンボンが身を揺すった。

 

「あー、あれ? おてがみかくやちゅ」

「そうそう。ホラ、ここのやつ使っていいから。

手紙、手紙を送りなさい」

 

 言ってお父さんは部品やらが山積みの机の上をまさぐり、小さな瓶を手渡した。

 ボンボンがフーンと眺める。

 

「かみない」

「やるから。さっさと出なさい」

「ぺん」

「あげるから」

 

 強奪した筆記具を手にボンボンが満足そうにニッと笑った。

 

「ありがと」

「はいはい。早く出な、危ないから」

 

 言われたとおりボンボンはプリンプリンの手を取って造船所を迷いのない足取りで出る。

 外へ出ると機械油の匂いが遠のき、潮の香りが漂った。

 

「おてがみ、ナンて書く?」

 

 ボンボンが聞いてくる。

 プリンプリンは突然のことで気が回っていなかった。

 

「え? えーっと……」

「おとちゃおかちゃ、あいにきてよーっ、て書けばいいよ。ここいる書いて」

「あ、ああ、うん」

 

 元の岩場に着くと、さっそく二人で手紙を書いた。

 なるべく平坦な岩を選んだので、習ったばかりの文字もしっかり書ける。

 

『おとうさん おかあさん

 

わたしはプリンプリン あなたたちの娘です

アルトコ市のチャムチャムおじいちゃん、ハナハナおばあちゃんのおうちにおさるのモンキーとすんでいます

 

このおてがみ ひろったら あいにきてね

 

プリンプリン』

 

「よし」

 

 プリンプリンは貝がらとサンゴの絵も添えてペンを置いた。

 すると、突然ボンボンが、

 

「ぼんぼもかいたげゆ。

おともだちです、ぷぃんぷぃん泣いてるよ、来なかったら怒りにいくよ……」

 

 プリンプリンの書いた裏側に読み取れない文字を書く。

 棒人間みたいな絵もあるが、もしかしたら自分とプリンプリン、それとモンキーのつもりなのかもしれない。

 呆気に取られているとボンボンがすっくと立ち上がった。

 

「ちゃ、こえ、海にながちょ」

 

 紙をポイと小瓶へ入れ、ふたを閉める。

 とてとてと海へ歩いていくので、プリンプリンとモンキーも慌てて着いていった。

 ザ、ザンと波音が聴こえる。その場でボンボンはしゃがみ込み、小瓶を両手でそっと握った。

 

「いっちょ、ながしゅ?」

「うん」

 

 ボンボンの湿っぽい手にプリンプリンは自分の手を重ねる。

 寄せて返す波へ瓶をとぽんと手渡した。

 ゆうらりゆうらり揺れて少しずつ遠ざかっていく。

 陽ざしを照り返し、ガラスがキラキラと輝いていた。

 

「いってらっちゃァい」

 

 ボンボンが手を振る。

 プリンプリンも小さく手を振り、手紙の入った小瓶が見えなくなるまで海から目を離さなかった。

 ほとんど点のようになった時にボンボンが急に左右へ体を振りはじめる。

 

 よく聴く海の童謡。その一節だけを繰り返し繰り返し唄っている。

 プリンプリンはクスリと笑い、口を開いた。

 彼の一節から続く歌詞が桜色の唇から紡がれる。

 いきなり割り込まれ、怒るかと思いきやボンボンはケタケタ笑ってきた。

 

「おお。おうた、うまいねー」

 

 パチパチと拍手される。

 

「おばあちゃんから習った」

「ちょなの? じゃ、ぼんぼにもおちえて」

 

 いいよ、とプリンプリンは彼に唄ってやった。

 元気のいい声がプリンプリンの声に被さってくる。

 

「キー」

 

 モンキーがしっぽを振り振り、それをずっと眺めていた。

 合唱を終えるとボンボンがプリンプリンの手を取る。

 

「あいがちょー。ぼんぼ、これ唄えるなった!」

 

 その瞬間、プリンプリンの手からヒラリと何かが落ちた。

 浜辺に突如咲いた花。

 持ってきたばんそうこうだった。

 プリンプリンが『アッ』と声をあげるもボンボンが先に拾い上げる。

 

「ンー? なあにこえ……」

 

 人差し指と親指でつまみ、上目で見ていた。

 プリンプリンがか細い声で答える。

 

「あの、きのう、ごめんね。おひざ……」

 

 やっと謝ることができた。

 それを聞いたボンボンが『エー』と目を細めて笑う。

 

「おっかちゃん、すぐぺったんちてくえた。だいじょぶ」

 

 そして、お花柄のばんそうこうを頬の横に持ってきて、

 

「でも、こえ。もらっとくね。

ぼんぼのだいじにすゆ!」

 

 と言った。

 それを聞いてプリンプリンは彼の笑顔をじいっと見つめる。

 

 ふしぎな男の子。

 やたら近づいてきて、そうかと思えば失礼なことを言って。

 でも、誰よりもまっすぐにぶつかってきてくれる。

 

「……うん。ありがと」

 

 プリンプリンはボンボンへ告げた。

 向こうから舌足らずな声が呼びかけてくる。

 

「ボンボーン。あちょぼよー」

「あ、その子……」

 

 ピンク色のお下げ髪の子と、水色の短髪でメガネの子。

 二人が近づいてきたので、ボンボンはばんそうこうをヒラヒラとなびかせ、

 

「オサゲちゃーん、セイちゃーん。こっちこっち〜」

 

 とこれみよがしに見せつけていた。

 

 これが、後に共に旅へ出る四人組と一匹のはじまりであった。

 

 

原作最終回後のねつ造としてはアリですか?

  • アリ
  • 大アリ
  • アリ寄りのアリ
  • おれ、もっとすごいの考えたー!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。