過去と未来を行き交うふね   作:つるみ鎌太朗

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「ママァ〜、ちっち描いた」

 

 スケッチブックを握りしめ、リンリンがヨチヨチと歩いてくる。

 プリンプリンは今にも転びそうな息子を抱き留め、どれどれと見てやった。

 茶色いクレヨンで画用紙からはみだしそうなほど大きく描かれたお猿さん。黒で目を塗ってあり、歯もしっかり描かれている。

 

「上手ね、リンリン」

 

 プリンプリンが褒めてやるとリンリンが『エヘヘ』と笑った。ちっちゃな八重歯が口から覗くのは夫とそっくりだ。

 リンリンは四歳。プリンプリンの一人息子で、プリズムのふわふわした髪を持つ男の子。

 大きな瞳は柔和なとび色で、長いまつ毛がプリンプリン……またアイリーンを思い出させる。

 今は亡きモンキーの息子キッキといつも一緒だ。

 その姿に過去の自分を見るようで、プリンプリンは目を細める。

 

 あれから十五年。

 プリンプリンはすっかり大人になり、銀の髪を後ろでひとまとめのお団子にしていた。

 アルトコ市で、二階建ての小さな木造の家屋を海のそばに建て、家族と幸せに暮らしている。

 

 ライラックの石橋での約束のあと、プリンプリンたちは懐かしいアルトコ市へ帰ることにした。

 ラマーナに暮らすのであれば、元いた世界で出会った人々と別の時を生きることになってしまう。

 騒がしい一年間の、かけがえのない旅。

 あの日々から離れて生きるのはプリンプリンには耐えられなかった。――一度は、母との別れも覚悟した。

 

 だが、そこに文字どおり助け舟を出してくれたのが船長さんだ。

 彼はアイリーンへ娘と一緒に行くように薦めた。

 最初こそアイリーンは『わたしがいることで侵略国の追手が』と渋っていたが、船長さんはこう言った……。

 

『その子らは世界じゅう旅して、「マリーン」の「マ」の字も聞いたことがなかったんだろ?

じゃあ、もう忘れられてんのさ。

それにアンタもう若くねえし、連中もわかんねえかもしれねえよ』

 

 意地悪なことを言いながらも彼のまなざしは優しかった。

 

『せっかく会えたんだ。グズグズしてたら、すぐ時間の渦に飲まれちまう。

さあ、行きなよ。これはオレのポケットマネーで用意した乗船券。

……最後ぐらいカッコつけさせてくれ』

 

 中学生料金の券四枚と、おとな料金の券が一枚。

 最後まで『中学生』が何なのかわからなかったが、アイリーンも船長さんの提言に折れ、今はアルトコ市で一緒に暮らしている。

 アルトコ市の外れ、時の海と繋がった港で、船長さんとたまに顔を合わせては冒険譚を聞かされているらしい。

 

 名探偵マイホームとワット博士も別れたあとに紆余曲折を経てアルトコへちゃんと帰ってきていた。

 黄金バットを追いかけるワットをなだめながらの帰路は大変だった、とマイホームは疲れながらも幸せそうな顔で語っていた。

 今ではマイホームは世界じゅうの謎を解き明かす探偵として名を馳せ、ワット博士は元のアルトコ動物園の研究所で熱心に動物学を極めている。

 

 食いしん坊のオサゲはパン職人になって忙しそうにしている。

 食べ物への飽くなき欲求が美味しいパンのアイディアに次々とつながり、なかなかの人気店だ。結婚して、四人組の中ではいちばん多く子どもを設けた。

 家族で並んでいると小人のようでとてもかわいい。

 

 カセイジンは……旅の間に出逢ったあの子と無事に結ばれた。

 今では小学校の先生で、子どもたちへ知識とヨカンを存分に振る舞っている。

 いつかはリンリンに授業してくれる日もあるのかな、なんて、プリンプリンは考えていた。

 その前に、彼の一人息子の担任を受け持つことになったりして。

 ひいきしないように気を遣う姿が目に浮かぶ。

 

 そして――忘れてはならない人がもう一人。

 リンリンがお絵描きしているのを見守っていたら、すっかり夕方になっていた。ピーンポーンとドアホンが鳴る。

 

「あっ、きっとパパだよ。パパァ〜」

 

 リンリンが危なっかしい足取りで玄関まで駆けていく。キッキがチョロチョロと後を追った。

 

「ああ、転ばないでね……こないだおでこぶつけたばかり……」

 

 プリンプリンも慌てて追いかけるが、リンリンのほうが先にドアを開ける。

 ドアからひょっこりと顔を覗かせたのは、白い綿毛のような髪の彼。勤務するタクシー会社の帽子を被っている。

 

「ただいま、リンリン。キッキ。……プリンプリン!」

 

 目が糸になるような笑顔は今も変わらない。八重歯だって。

 ボンボンはリンリンを抱き上げて、柔らかい頬へキスを贈る。

 

「パパァ、おかえんなちゃい……」

「キー、キッキャァ」

 

 身をゆすりながらリンリンが父親へしがみついた。

 キッキもその肩にぶら下がり、重たがられている。

 

 五年前、プリンプリンはボンボンと結婚した。

 その一年後にリンリンを授かり、母アイリーンにも支えられながら、現在は子育てに追われる日々……。

 

 でも毎日が充実している。

 自分で選んだことだから。

 

 プリンプリンが人生をともに歩む相手としてボンボンを選び、彼と愛し合い、リンリンが生まれてきた。

 旅人でもない、お姫さまでもない、一人の女性として。

 プリンプリンがこの生き方を望んだ。

 

「リンリン、パパとお風呂はいる?」

 

 ボンボンが尋ねると、リンリンにしかめっ面をされていた。

 

「まだあちょぶの。おえかきしてたの。おふろ、やっ、やっ」

「キッ、キッ、キッ」

 

 リンリンがイヤイヤするのをキッキも真似している。

 ボンボンが苦笑いを浮かべた。

 

「なあに、言ってんだい。お風呂に入らないとリトルプリンス失格だよ? 臭い王子さまなんて、いないんだから」

「エー? ぼく、王子ちゃまじゃなァ〜い」

 

 伸びをしてリンリンが腕から逃げようとするのをボンボンがしっかりと抱き留める。

『コラコラ』と軽く叱りながら、するりと口にした。

 

「王子さまだよ。ママがプリンセスなんだから」

 

 もう、ティアラを宝箱にしまって何年も経つのに。

 ボンボンの中でプリンプリンはまだプリンセスらしい。

 大人になった今は、妙なむず痒さもあるものの、彼がずっと自分を大切にして。

 そして一緒に生きてくれていることが嬉しかった。 

 

「ほんと〜〜〜?」

 

 リンリンがキッキと一緒に疑わしそうに見てくる。

 それに対し、プリンプリンは茶目っけたっぷりに答えた。

 

「パパの言うとおりよ。ママはプリンセス・プリンプリン」

 

 久しぶりに口にした呼び名。

 聞いたリンリンはというと、彼女とよく似た目をぱちくりさせながら、

 

「ちょォなんだ……じゃあ、ぼくもリトルプリンしゅ・リンリン……?」

 

 なんて、信じているのかいないのやら、神妙な顔して呟く。

 そんな息子の様子には内緒で、プリンプリンとボンボンはこっそりと微笑みあうのだった。

 

ーーーおわりーーー

【『あの海のリンリン』へ続く】

 

 





あとがき

 つるみです。
 また長くなってしまった。三万字か……中編程度ですね。

 小さなころのボンボンとリンリンが『ちっち』と言ってるのがおんなじでかわいいね、というだけの話のつもりだった。
 しかし間の話があれよあれよと膨らんだので、膨らむに任せて書くことにした。

 皆さんは『プリンプリン物語』の最終回に出てきた『希望という名の船』を何だと思いましたか?
 
 わたしは最初に視聴した時、素直にお母さんが船を手配してくれたのだと受け取った。
 なるほど、これからプリンプリンはお母さんに会えるんだ。だからボンボンに新たな門出を祝ってほしくて『唄って』とお願いしたんだ。
 そしてボンボンの唄声で幕。
 なんて希望に満ちて素敵な終わり方だろう、と思った……。

 だが、ネット上ではあれは比喩って意見が多いらしい。
 旅は続くよどこまでもエンド、だとか。

 ええっ、そうなの?
 わたしはとっくに『リンリン』を書き終えたあとなので愕然とした。

 でも同時に激しい違和感が。
 え、めっちゃ清々しい終わり方だったけど? どうしてボンボンあんな明るく唄って終わったん?(笑)

 てかさ。てかさ。
 もし比喩だとしたらお母さんはどれだけ畜生だよ(笑)
 あんなに会いたい、って旅を続けてるのにさ。頑張れ〜、ってどういうことなの?
 そんなポエムいらないよ。そんなポエマー、親の資格ない……。
 わたしがエエ歳なのでつい考えてしまう。

 なので、わたしは用意しました!
 カモン『きぼう』という名の船!(物理)
 母の人生、全bet!!

 これくらいしないと親じゃないよ。
 わたしはね、デル一デル編で夜空に向かって『お母さ〜ん』と叫んだプリンプリンを見てるんだ。『おかあさんのうた』を淑やかに唄う彼女も知ってる。
 そんな娘をだね、放置する親、許せないよ。人生かけて迎えにいきなさいよ!

 そんなワケで、
『ぼくが考えたさいきょおの母』
 アイリーンが生まれました(笑)
 いかがでしょうか? プリンプリンの母にふさわしい風格があったでしょうか?
 長編『あの海のリンリン』で既に登場していましたが、どうやって出会えたのかの解体度が爆上がりしました。
 ふーん、こんなことがあったんだね(全ておまえの妄想)

♢

 マイホームさんとワットさんがいきなりリストラされた。
 ちょっと悩んだけど、これにはワケがあります。
 まず、船に乗ることでこの子たちはお母さんの庇護下に置かれることになる。
 これまでの旅とは違うんです。だから、お二人がいるとお母さんの影が薄くなっちゃう。
 原作メンバーをオリジナルキャラのために退場させるなや、というご意見はごもっともですが、理由としてはそんな感じ。

 もう一点。アイリーンが現在は王妃でないことを早くから示しておきたかったからです。
 子どもたちの料金は払えるけど、おとな料金は支払えない。だからごめんなさい、と手紙で謝罪する誠実さはある。

 その上でプリンプリンに『わたしは会いに行く』とさせたかった。

 本文中に明確なセリフはありませんが、まあ、わかるよね。
 お母さんがお金を切り詰めて用意してくれた船なんだ、って。

 原作劇中のプリンプリンもお金や地位に執着があったワケではない。
 それならランカーがオサラムームーへ友だちも一緒に連れていってあげると誘った際に受け入れるはず。
 だが断った。
 彼女にとってプリンセスとは、

『心のつっかえ棒』だから! 誇りであり、自分の背を正させる強さだから!
 そんな汚いお金で行きたくないわッ!

 つまりプリンプリンの言うプリンセスって精神性なんですよ。
 なので、ここでも自然に『わたし行きます』だし、終盤の展開も特に悩むことなく『わたしはこういう出自なんだ』と受け入れさせました。

 いや、もっと葛藤するんじゃない!? の思われた方はごめん。
 わたしの中ではそうじゃなかった、、
 てか姫であることに変わりはないし。ね?

 そもそもプリンセスを海へ流した国がまともなワケが(ry

♢

 その代わりに登場した船長さん。
 チョイ役のはずがだいぶ出張った。ごめんて! オリキャラ目立たせてごめんて!

 最初はうさんくせえ男として船に乗せてくれるだけの役だったのに、気がついたらお母さんの面倒をめっちゃ看てた(笑)
 あの狂犬事件もね、解決してくれて。

 狂犬事件は入れるかどうか迷った。
 プリンプリンがかわいそうだし、ボンボンがあまりにも狂気的すぎる。
 なんだけど――あるのとないのとではアイリーンに会った時のボンボンの号泣の重みが違うよね。
 あれだけ体を張ってくれたあとだから、肩の重荷がなくなって、単なる子どもに戻ったんだよね。
 そう考えると入れとくか……、と。
 できるだけ生々しくないように描写は極限まで削っておきました。
 特にプリンプリンに性的な真似はさせないようにしました。かわいそうなので(二回目)

 阿修羅のようだった、という表現がありましたね。
 アレは入れたかった。
 えっとー阿修羅像って言ったら興福寺の阿修羅像がまず頭に浮かぶんですけどお。

 初代ボンボンのお人形、ちょっと似てない?

 わたしはアク夕以降のボンボンより初期のほうが好きなんですよ。いや、アク夕以降のまばたきできるボンボンも好きだけど。
 初期のほうがね、気が強そうで手足がスラッとしてる。
 その初代のボンボンが美少年と名高い阿修羅像にチョット似てるなあって思ったんです。
 だから文として入れておきました。
 まあ阿修羅像って本当は憤怒の表情が多いらしいんですけどね。

『死ねええええええ』って言わせたのは、単なる雄叫びに変えたほうがいいかなあとも考えたけど、、
 変えてしまったら切実さが失われる気がしたのでそのままです。
 あの時、もしも手加減していたらボンボンが倒れてプリンプリンがひどいことになっていたかもしれない。
 すでにモンキーに手荒い真似してる相手だもん。
 だからボンボンも全力だったんですね。それが伝わればいいなあ、とあんなに必死な描写だったんです。

 ここで駆けつけた船長さんが無双したね(笑) たぶん不思議な力がある(ふわっふわ) 時の海とかいう不思議な空間だから、生半可なひとじゃ船持てないんだよ。きっと。

 何だかんだみんなと仲良くなってる。船長さん、良いキャラに育った。
 だから出張ってても許してね♡

♢

 アイリーンがプリンプリンと離れて四十五年。
 去年までの再放送がはじまった時も本放送から四十五年。
 これ、狙ったワケじゃなくて、、テキトーに四倍速って設定にしたらピタリと合った(笑)
 さすがにすぐ着くことはないだろうから、五年ぐらい放浪したことにして……十年が四十年。ああっ! みたいな。
 だからすぐに採用した。設定ってこじつけるものなんですよ。

 プリンプリンにとって祖国とは何だったのか?
 わたしは帰るべき場所なのであって、国そのものではなかったと思うんです。だからお母さんの腕に抱かれた時に彼女の本当の目的は叶えられた。
 愛に満ちた場所、といえば家族の腕の中。かなあ?

 お父さんがいないのは、
 そしてマリーンがどうなったのかは、

『あの海のリンリン』を読んでください(笑)

 三ヶ月で狂気の二十四万字。
 文庫二冊ぶんの子世代編です。
 今回のラストで出てくるリンリンが八歳になったころのお話です。
 これは、GWの時期に何となくリンリンの絵で描いたら、この子が主人公の物語が書きたくなったんです。
 そしたら一日でプロットが出来上がったので、ぜひ書こう! と。
 ちなみに最後まで大まかな筋は変わりませんでした。細々したところは変更したけども。

 初回はまずぷらいべったーで上げて、ついったで『書いてみました』と流したんです。
 そしたらフォロワーさんが『いいね』と言ってくださって。
 だって子世代ですよ? 原作のキャラじゃないんですよ?
 それなのに読んでくださる。ありがたい〜。
 pixivや他SNSでも読んでいただいて、ご感想いただき、感謝です。

 おかげさまで一週間に一話、とハイペースで書き切りました。もうできない(笑)
 最終話だけは無理だった、、四万五千字だったから(笑) 二週間頂きました。
 そのかわり十話を書き終えて三日で十一話を書ききる最速は出してた。
 クライマックスだったのでハイになっていたんですね。
 出社時のバスでNola立ち上げてスマホでぽちぽち、帰宅してNolaでデータ引き継いでそのままiPadでカチカチ……。
 小説を書く方はNolaおすすめです! データ簡単に引き継げるし。みんなも書こう。

 わたしはリンリンに繋がる世界線を『リンリン時空』と呼んで、この世界をたまに想像しています。
 原作って、オープンエンド。だからその後のプリンプリンたちは視聴者に委ねられている。
 こんな世界があったのではないか? と、、

 とりあえずボンボンと結婚する世界線を作りました!
 推しの悲願を叶えた(笑)

 ボンボンの恋を成就させるには、まずプリンプリンが旅の目的を果たさないとね。
 彼女、祖国を見つけない限り、目の前の相手に全力になりそうにないじゃない。
 ボンボンも、その目的が達成されていないのに『おれを見ろ!!』とか言わないと思う。

 だから決着が必要なんですよ。
 祖国というか、彼女の旅の決着をつけないと。進めない。

 その上で彼女は初めて『今ここにある世界』を歩きだせるんじゃないかなあ。
 と思ったので、こんなお話になりました。
 最終回後のねつ造としてアリだったでしょうか。

 あとがきがめちゃくちゃ長くなりました。いろいろと話したいことはあるけど、もうやめよ。

 今後は、ボンプリは大前提だけど他の切り口でボンボンを愛でるお話でも書こうかな。愛でる=受難にあうなんだけどね(笑)


 その時はまた読んでやってください。
 では、また!

   つるみ 2026.01.07

原作最終回後のねつ造としてはアリですか?

  • アリ
  • 大アリ
  • アリ寄りのアリ
  • おれ、もっとすごいの考えたー!
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