虹の軌跡Ⅱ Prism of 《ARCUS》   作:テッチー

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第130話 ラインフォルトの試練(前編)

 第三学生寮のラウンジでは、早朝からミーティングが行われていた。

「立食の準備や合同イベントはみんなでやるとして、企画や出し物は個別にやったほうがいいかもしれないな」

 Ⅶ組で囲むテーブルの前に置かれたホワイトボードには、出てきた案がところ狭しと書き連ねられている。それらを眺めながら、リィンはそう言った。

「それぞれが贈りたいものも違いますし……そうですね。それがいいかもしれません」

 ボードの横に立つクレア・リーヴェルトは同意した。彼女は自分たちのアドバイザー役としてここに来てもらっている。

 議題は一つ。サラ教官へのサプライズイベントだ。どうにもまとまりきらないアイデアだったが、結局は個人個人で何かをしようという形に落ち着いた。

 ちなみにサラは寮にはいるがぐっすりと寝ている。昨晩も飲酒をしていたし、この時間ならまず起きてくることはない。

 残された期間は一週間を切っている。そうと決まれば、すぐにでも動かねばならなかった。

「僕はやっぱり演奏かなあ。でもそれじゃありきたりだし、サラ教官のための曲を作ろうと思う。ガイウスは?」

「俺は絵だな。想いを込めた絵画を贈りたい」

 エリオットとガイウスの芸術組はすぐに決定している。

「うーん、贈れるもの……いや、物に限定しなくてもいいのか」

「単にいい思いをしてもらうというのはどうだ。接待がわざとらしくならないように工夫はせねばならんだろうが」

 一人では思いつかないらしく、マキアスとユーシスはコンビで企画を練るようだ。

「私はどうしよっかな……」

「ボクも困っちゃうな。贈り物なんてしたことないし」

 難しい顔をしているのはフィーとミリアムのちびっこ同盟だ。初めての催しに頭を抱えている。

「私は場所のセッティングや物品の調達もしますから、入用なものがあったら言ってくださいね」

 設備関係や細々した雑務も全て請け負ってくれるというエマ。

「料理だな、うん。立食パーティでは腕を振るわせてもらおう。最高の食事を約束する」

 打ち合わせの会話が飛び交う中で、リィンはラウラのその言葉を聞き逃さなかった。とっさに『自重を!』と叫びかけたが、この場でそう言うわけにもいかず、ぐっと口をつぐむ。

 とりあえず方向性は決まった。改めて皆を見回し、リィンはそこで気づいた。

「……アリサは?」

 彼女の姿が見えない。そういえば最初からだった。

「ミーティング前に部屋まで呼びに行ったんですが、返事はなくて。アリサさんですし、時間には降りてくると思っていたんですが」

 そう答えるエマは小首をかしげた。

「もしかして体調でも悪いんでしょうか。もう一回声をかけてきます」

「だとしてもアリサから何も言わないのは妙だな。シャロンさんは何か知りませんか?」

 ちょうど飲み物を運んできたシャロンに聞いてみる。彼女は落ち着き払った手つきで、リィンの前にカップを置きながら、

「アリサお嬢様でしたら誘拐されましたよ」

「ああ、そうでしたか」

 自然すぎる会話を普通に流したあと、伸ばした指先がカップに触れる直前でぴたりと止まる。

「……誘拐?」

「ええ」

「誰が? いつ?」

「アリサお嬢様が。昨日の夕方に」

「冗談ですか?」

「まさか」

 くすくすとシャロンは笑う。

「このようなことを冗談で言えるわけがありませんわ」

「いやいや! じゃあなんでそんなに穏やかなんですか!?」

「気が動転してしまいまして」

「動転したら逆でしょう……」

 いつも通りにあいさつをかわして、朝食まで作ってくれて、普段と違う様子は微塵にも感じられなかった。全員の訝しむ視線がシャロンに注がれる。

 その視線をあっさりとかわしながら、シャロンは窓際から遠い目で雲を眺めた。

「かわいそうなお嬢様。今頃どんな目に遭わされているか。きっとすごい――それはもうものすごい辱めを受けていることでしょう。そうに違いありませんわ。早く助けに行かなければ」

「……なんですぐにシャロンさんが行かないんですか」

「お昼ご飯の支度がありますので」

「………」

「どうかなさいましたか? 早く救出に向かってくださいませ」

 むしろこの人が何かやっただろ。いったい俺たちに何をさせたいんだ。どうかなさったのかはこっちが聞きたい。

「助けにと言われても、アリサの所在がわからなければ動きようがないんですが」

「ラインフォルト本社ビルです。そこにお嬢様は捕らわれています」

「捕らわれるというか、実家じゃないですか。あと、すぐ行くにしては遠すぎるんですけど……」

「問題はございません」

 しっとりと微笑むメイドは上を指さした。

「屋上に飛行艇をスタンバイさせておりますので」

「これもうシャロンさんが主犯ですよね!?」

 

 

《☆☆――ラインフォルトの試練――☆☆》

 

 

「うわああああっ!!」

 マキアスが絶叫するが、状況は全員が同じだ。差し伸べる手も手段もなく、リィンは下から押し寄せる風圧に抗って必死に目を開ける。

「なんで、なんでこんなことに……っ!」

 悲嘆に暮れて思い返すほどややこしい話でもない。発生した事態は驚くほどシンプルだった。

 ついさっきのことである。シャロンが用意した飛行艇で、空の旅に興じること50分。ラインフォルトビル直上に到達とのアナウンスが機内に流れた。

 さすがは空路。これほど早くに移動できるとは、などと誰もが感心していたら、客席モニターにカウントダウンが表示された。

 嫌な予感しかしなかったが、備えるにも備えようがなく、あっという間にカウントがゼロになる。そしてパカッと開く床面。次の瞬間にはまとめて宙に投げ出されていた。

 そういうわけで、Ⅶ組一同はルーレ市上空を落下中だ。

「パラシュートを使え! おそらくこれだろう!」

 風の音に負けない声でラウラが叫んだ。それぞれの手には小さなリュックがある。飛行艇の床が開く直前に、座席上の棚から全員の膝に落ちてきたものだ。

 悩んでいる余裕はない。急いで装着。肩にリュックを通し、胸前でハーネスを接続。降下の手順はカリキュラムで習ってはいるが、もちろん実際にやるのは初めてだ。Ⅶ組でパラシュートの降下経験があるのはアリサだけである。レイゼルに搭乗時の話だが。

 重層構造のルーレの街並みが、ぞっとする速さで近づいてくる。直下にそびえ立つ一番高い建物がラインフォルト本社ビルだ。その屋上に『welcome!』と光球で彩られた文字が見える。

 あそこに着地しろということか。今の高度はどれくらいだ。目視では測りにくい。500アージュは切っているだろう。七秒以内にはパラシュートを開いておかねば。

 リィンはリュック下部の紐をたぐりよせ、強く引っ張る。パイロットシュートが風を受けて膨らみ、そのままの流れで開傘。上方に引っ張られる感覚と同時に降下速度が緩む。

 仲間たちもうまくいったようだ。向きを調整しつつ、ビルの屋上を目指している。

「んなああああ!?」

 そんな中でマキアスだけが落下を続けていた。

「マキアス!?」

「ひ、ひもがっ!」

 彼の引いたひもが、根元から抜けている。やり方が悪かったのか、不良品を引き当てたのか、予定調和の不幸が身に降りかかったらしい。いずれにせよこのままでは真昼のルーレ市にメガネの残骸が散らばってしまう。

「エマ君、転移術でどうにかしてくれ!」

「その、ごめんなさい……」

「そ、そうだった。ならガイウス! カラミティホークで僕をつかまえて飛んでくれ!」

「すまない。そういう技ではないのだ」

「そういう技として今まで散々使ってきただろう!?」

「マキアス!」

 そこで叫んだのはユーシスだった。彼の精一杯に張った声に、マキアスは落ち着きを取り戻した。

「お、おお、ユーシス……!」

「サラ教官へのサプライズは俺が一人で考えておくから……まあ安心して逝くがいい」

「誰が逝くかああああぁぁぁー!」

 遠ざかる断末魔。頭から落ちゆく彼を、銀色の蛇が高速で追いかけた。追いついた蛇はすかさずその足を絡め取る。減速なしの急ブレーキに、マキアスはがくんがくんと股関節が壊れたブリキ人形のような動きをした。

「ふっふーん。久しぶりのガーちゃんスネークだよ。感謝してよねー」

「い、痛い。裂けるぅ……」

 得意気にいうミリアムはアガートラムを呼び出していた。蛇のように長くトランスした腕の先で宙吊りにされたマキアスは、ビルの屋上まで引き上げられるとポイッと雑に放り投げられた。

 とりあえず全員の着地が成功だ。

「よし、みんな無事だな」

「僕を無事にカウントするんじゃない……」

 恨みがましくにらんでくるマキアスから、リィンは目を逸らすしかなかった。

「出迎えはないみたいだが、いったいこれからどうすれば――うわっ!?」

 一息つく間もなく、今度は屋上の足場がパカッと開く。

 悲鳴と共にさらに落下する一同。二フロア分ほど落ちたところに床があった。ドドドッと絨毯敷きのフロアに着地する。またマキアスだけが受け身を取れずに、転がったまま苦しげなうめき声をあげていた。

「ここは……会長室か」

 かつてユーシスたちがハイデル・ログナーを拿捕するために、レジェネンコフ零式と交戦した場所だ。すっかり補修され、かつての整然さを取り戻した部屋の最奥に、その人物はいた。

「いらっしゃい。思っていたより遅かったわね」

 何かの書類に目を通しながらイリーナ・ラインフォルトが言った。その執務机の横には、鳥かごのような鉄の檻に入れられたアリサの姿もある。

「アリサ! 大丈夫か!?」

「リィン!? みんなまで……! この通り大丈夫じゃないわよ!」

「まず事情を教えてくれ」

「わからないのよ、私にも。昨日学院からの帰りにシャロンに捕まって、ルーレまで直行なんだから」

「やっぱりシャロンさんか……」

「ほら母様! みんなも来たし、何か言ってってば!」

 鉄格子がガチャガチャと揺れる。多分ずっとあんな感じで拘束されていたのだろう。さすがに気の毒だ。

 イリーナはようやく書類から目を離すと、

「じゃあさっそくルール説明から始めるわね」

「え、なんのですか?」

「今からあなた達はこのRFビルの中に作られたアトラクションに挑んでもらう。クリア条件はリィン・シュバルツァーが再びこの会長室にまで戻ってくること」

「俺が? 俺だけでいいんですか? というかなんで……」

「アトラクションは四つ。したがって四グループに分かれてもらっての同時攻略になる。クリアすると会長室に繋がるロックが一つずつ解除される仕組みよ。ロックの数は四つだから、全グループが突破しないとゴールまでの道は開かないわけね。理解してくれた?」

「はい、まあ、ルールは一応……ですが意図がわからないのと、ゴールしたらどうなるんでしょうか?」

「結構。では“ラインフォルトの試練”開始。武運を祈るわ」

「な、なんの質問にも答えてもらえない……!」

 これがラインフォルト名物、会話のドッジボールか。二の句を継ぐ間もなく、イリーナが手元のボタンをポチッと押す。

 また床が開いて、全員が落下した。

 

 ●

 

「ぶぇっ」

 ほぼ直角のダストシュートから吐き出されたエリオットは、顔面から床に滑り込む格好となった。

 痛すぎる。せめてマットとか敷いといてくれれば。痛みをこらえつつ、ひとまず顔を上げようとした直後に、ドスンと背中に追加の衝撃が走る。

「ぶぅ!?」

 勢いよく再び床にキスをする。

「いたた、マットがあって助かったーって、エリオット?」

「……うん、とりあえずどいてくれるかな、ミリアム……」

 声で彼女だとわかった。軽い身のこなしで、ミリアムはエリオットの背中から飛びのく。

「あはは、ごめんね。大丈夫?」

「一応……あれ、ミリアムだけ? 他のみんなは落ちて来てないの?」

「四つの場所に分かれるんでしょ? ここはボクとエリオットってことじゃないの?」

「そっか、そうだね」

 改めて周りを見てみる。

 通路のど真ん中だ。それもやたらとカラフルな。足元、両側の壁、天井の色がそれぞれで違う。赤、青、黄の原色でカラーリングされていて、なんとも目に痛い。

 ラインフォルトビルのどのあたりなのかはまるで見当がつかなかった。少なくとも社員とはすれ違わないし、部屋らしき部屋もない。通路にはこれ見よがしな矢印の立て看板が設置されている。

 怪しんだところで始まらず、エリオットとミリアムはその矢印に沿って進むことにした。

「楽しみだねー」

「何が起こるかわからないよ。ミリアムも警戒して」

 シャロンの態度からして裏がありそうなことは察している。身内の犯行――というべきか、しかし名目上が誘拐となっているので、念のため各自で武器は持参してきていた。

 エリオットは背負っていた魔導杖を手に持ち替える。今まで使っていたものはマクバーン戦で壊れてしまったから、ラインフォルト社から取り寄せてもらった次世代モデルだ。

「うんうん、任せて。いざとなったらガーちゃん呼ぶし」

「ミリアムはそれがあるから万能だよね。トランスも使えるし心強いよ」

 通路は一本道。突き当たりに扉があった。可愛らしくデコレーションされていて、夢の国の入り口のようなキラキラしたドア。

「露骨過ぎて不安なんだけど……慎重に中の様子を――」

「わあー! なになにー!?」

「あ、ちょっ!」

 エリオットの注意など聞きとめもせず、ミリアムは興味のままに扉を開いて、中に飛び込んでしまった。

「わああああ!」

 途端、ミリアムの歓声が上がった。慌ててエリオットも後を追う。

 戸口をくぐると、そこには色鮮やかな景色が広がっていた。

 星やら花やらで飾り付けられたその部屋は、30アージュ四方はあるだろうか。大小様々なプレゼント箱が積み上げられ、お菓子の詰まったカゴもあちこちに置かれている。そして大量の愛くるしいぬいぐるみたちが二人を出迎えていた。

「すごい、すごい! おもちゃ箱の中に入ったみたいだね!」

 ぴょんぴょんと喜色満面で跳ね回るミリアム。ミリアムはおもちゃ箱と言うが、エリオットの第一印象もまさしくそれだった。彼女が上機嫌になるのも当然だろう。

「ミリアム、置いているものに迂闊に触っちゃだめだよ」

「え、なに?」

 振り向いたミリアムは、すでに口いっぱいにお菓子を詰め込んでいた。

「あー! 何が仕掛けられてるかわからないんだから、もっと注意しないと!」

「心配性だなー、エリオットは。毒も何もないよ。エリオットの分も取ってきてあげる」

「だから慎重に――」

 ガチンと硬い音。近くのお菓子カゴに突っ込んだミリアムの手首に、金属の輪っかが装着された。

「な、なにこれ、取れないよ」

「くくく、かかりましたね?」

 部屋の奥にあった大きなクマのぬいぐるみが、のそのそと立ち上がる。顔の部分には穴が開いていて、ひげ面の男がにたりと笑っているのが見えた。

「お初にお目にかかります。ラインフォルト社第一開発室の室長を務めている者でございます」

「し、室長さん!?」

「いかにも。本日はご多忙の中、我が社が企画した“ラインフォルトの試練”にお越し頂き、誠にありがとうございます。社員を代表しまして、厚く御礼申し上げます」

「その“ラインフォルトの試練”の説明がほとんどなかったんですが……」

「イリーナ会長はあのような方ですから、何卒ご容赦を。我々の目的はリィン・シュバルツァーの抹殺――ああ、いえ、見定めることにありまして」

「いま、抹殺って言った……!?」

「とはいえ最初から詰みのゲームでは面白くない。それで協力者としてお仲間の皆様にも足をお運び頂いた次第であります。まあ、どのみち結果は変わらないでしょうが」

 クマの着ぐるみのおっさんが肩をすくめた。

「このアトラクションでのルールは一つ。私をこの場から制限時間内に一歩でも動かせたらお二人の勝ち。できなければ負けです」

「それだけでいいんですか?」

「ええ。簡単でしょう。どんな手段を使っても構いませんよ。ちなみに私からは何もしませんので」

 確かに簡単だ。本当にそんなルールでいいのだろうか。悩んでいる間に、15分のタイマーが起動された。

 話は聞いていたらしいミリアムが、ゲームスタートと同時に飛び出す。

「余裕だね! やっちゃえ、ガーちゃ――わひゃあああ!?」

 アガートラムを召喚しかけた瞬間、彼女は急にのけぞって倒れ込んだ。

「ミリアム!」

「び、びりびりするよお……なんか、この腕輪から電気が……」

「おっと言い忘れておりましたが、私は情報収集と分析の専門でしてね。その実力を買われて、今のポストについたわけです。お二人のことは徹底的に調べ上げさせて頂きました。ミリアム様が銀色の傀儡を従えておられることも、エリオット様がムービングドライブなる特殊なアーツ駆動法を習得しておられることも」

「そこまで……!?」

「当然です。顧客のニーズに応えるためには、まず情報。迅速に、かつ正しい情報を制する者が市場を制する。故にこの部屋にはお二人の対策に特化した仕掛けを無数に施してあるのですよ」

 つまりキラキラの部屋もミリアムの行動を誘導するための設えだったのだ。このフロアに自分たちが送られたのも故意だろう。完全に先手を取られている。しかもムービングドライブを封じる手段も用意しているとは。

「そしてエリオット様。あなたがクレイジーな猛将であることもね」

「情報に間違いがあるんですけど!」

「ふふ、苦し紛れの嘘はおやめなさい。先日もトールズで騒動を起こしたそうではないですか。トリスタ住民にアンケートも取りました。その結果、あなたはⅦ組で、否、エレボニアでもっとも狂暴なバーバリアン。本能のままに欲望の夜道を駆けるケモノの皮を被ったケダモノと判断せざるを得ない」

「そのアンケート書いたの絶対ケインズさんとミントでしょ!」

 人選が絶望的だ。どうせ自分たちから首を突っ込んでアンケート協力したんだろうけど。

「猛将を阻む罠もふんだんに取り揃えてますよ。さあ、かかってきなさい!」

「なんでルーレに来てまで猛将って呼ばれないといけないんだろう……もう!」

 倒れたミリアムをかばうように前に出て、エリオットは魔導杖を構える

 ケタケタケタとぬいぐるみたちが一斉に笑い声をあげた。

 

 ●

 

 戦術リンクと通信が反応しない。《ARCUS》の機能に制限がかかっている。

 ノルド高原の監視塔で用いられた技術が転用されているのかもしれない。さすがは導力学の粋を結集させた総本山といったところか。この手の細工はお手の物なのだろう。

「……こういう時に魔女の術が使えたら良かったのに」

 思わずぼやいてしまい、エマは焦って後ろのユーシスの様子をうかがった。

 よかった。聞こえてはいないようだ。今のは仲間に気を遣わせてしまう発言だ。うっかりが出ないよう注意しないと。

 しかし本音ではある。通信代わりの念話術ができれば、それぞれの状況も把握できるのだが。

 エマとユーシスは簡素な通路を歩いている。照明も控えめで、社員専用のバックヤードを感じさせた。

 いかにもな雰囲気だ。何が飛び出してくるかわかったものではない。

「ユーシスさん。お体は?」

「受け身も取ったし、ケガはない」

「そういうことではなく」

「ん? ああ……」

 そこまで言うと、気付いたらしい。

「好調だ。以前と同じ、とまではまだいかないがな。足手まといにならない程度には動ける」

「何よりです」

 不可思議な話だった。

 マクバーンの黒炎を吸った彼は、身の内から侵食されて、日々弱っていた。それはエマには改善することはできなかったし、魔女の力があったとしても無理だったと思っている。せいぜい調合した薬で、苦痛を緩和するぐらいだった。

 それがある日を境に劇的な快復を見せた。ただ原因がわからない。時間経過で治るような代物では決してなかったはずだ。

 気にかかるのは、彼が足しげく教会に通っていること。まさか祈りの力で治癒したなどという冗談はないだろうが。

 じいっとユーシスの顔を見る。

「な、なんだ」

「隠し事してません?」

「……心当たりはないが。それを委員長から言われるのも複雑だ」

「それもそうですね。隠し事は私の方が多かったわけですし」

 まあ、無用な詮索はしなくてもいいだろう。彼が快方に向かっている事実だけあれば、それ以上に望むものはない。小さなユーシスの変化が目に留まったのは、ただの勘。魔女ではなく、女子としてのセンサーが『楽しいことが起きてるよ』と告げている気がしたからだ。

「そっちこそ問題は? 魔女の力がないと不便ではないか」

「日常生活ではさほど。……強いて言えば、迫りくる用務員さんを撃退できないのが最近の悩みですね。日々追われ続けて体力の回復が追いつかないぐらいで……」

「よくわからんが、大変だな」

「あはは、こればかりはお構いなく」

 そんな話をしている内に終着点が見えてきた。武骨な両開きドアだ。

「ゴール……いや、スタート地点か」

「そのようです。どんなアトラクションかはわかりませんが、お互いに万全の状態ではありません。気を付けていきましょう」

「ああ、できれば体に負担のかかる類の内容は避けたいところだ」

「同感です」

 二人して扉を開ける。

 さして広くもなく、何もない部屋の中にはスーツ姿の男が一人立っていた。歳は三十代前半だろうか。スラリとしたモデル体型で、営業マンらしい清潔さもある。彼は慇懃に頭を下げた。

「ようこそ。僕は第二開発室の室長を務める者だよ。さあ、部屋の中心まで進んでくれたまえ」

 大手企業の重役を担うには、まだまだ若い年齢だ。実務能力が高いのか、人材育成に長けているのか、いずれにせよ洗練された柔らかい物腰で、彼はエマとユーシスを誘った。

 二人は一歩一歩ゆっくりと進む。

 室内の中央付近に到達したその時、頭上から巨大な半透明の立方体が落下してきた。寮の自室くらいの大きさがある全面ガラス張りの箱の中に、エマたちはそろって捕らわれてしまった。

「くっ、罠か!?」

「やられましたね……」

「さて、問おうか」

 ガラスの外周をつかつかと歩き回りながら、第二室長は言う。

「お客様が商品に望むものは何かわかるかな? 素敵な三つ編みのレディ」

「私ですか? そうですね。私なら安全性でしょうか」

「エクセレンッ!」

 ビシィッと珍妙なポーズを決める。自分に酔っちゃうナルシストなのかもしれない。胸元から取り出したべっ甲のくしで髪をかき上げながら、

「実に聡明だ。その通り。長持ちであったり、丈夫さであったり、安全安心なものを人は好む。ラインフォルト社の製品なら信頼できると思っていただく事が重要なのだよ。然るにっ!」

 ばばっと両手を開く。

「新商品を開発する上で不可欠なのが耐負荷実験さ! 熱、圧、重、様々な環境下に製品をさらし、どこまで耐えられるかを調査する。ここまで言えば、今から何をするかわかるね?」

「も、もしかして」

「ザッツライッ! その強化ガラスの中で、君たちにひたすら負荷をかけさせてもらうよ」

「なんで人間の方に負荷をかけるんですか!? 製品にでしょう!?」

「製品の苦しみを知ってこそ、愛が生まれるのさ」

「あああ……」

 喉の奥から悲鳴がもれる。危ない人だ、これは。

 エマはユーシスに目をやる。彼の顔が死んでいた。なんで俺がそんなことを、そういうのはどこぞのメガネにやらせておけ、と言いたげな表情だった。

 体に負担をかけたくない二人が、おそらく一番負担のかかるアトラクションに挑まされようとしている。

「失礼するよ」

 ガラスの一部分が開いて、第二室長が入ってきた。

「え、あなたもやるんですか?」

「当たり前じゃないか。勝負は我慢比べ。最後まで耐えた方の勝ちさ。どんな苦痛を味わうことになるのか。想像するだけでもゾクゾクしちゃうよ」

「なんで私が関わる人って、普通の人がいないんでしょうね……」

 

 ●

 

 第三開発室室長と名乗る年配の男に、ガイウスとフィーはこんこんと説教を受け続けていた。

「――最近の若い新人はなっとらん。もっと熱意に溢れ、泥臭く、貪欲に邁進すべきなのだ。それをなんだ。営業行くのに導力車借りていいですか、などと。足だ足ぃ! お得意様への訪問は徒歩と相場が決まっとる! そう思わんかね!?」

「別に思わないけど。目的地に着くなら早い方がいいんじゃない?」

「はぁん!? 安易な心根は態度に必ず出る! そういったものがきっかけとなって商談がご破算となる事例を私はいくつもみてきた!」

 さっきからこんな具合なのだ。第三室長のお説教にフィーがちくちく言い返し――悪気はないらしいが――その結果またお説教が長くなるという負のスパイラルに突入するの繰り返し。

「せっかく私の体験談を聞かせて糧にさせてやろうというのに。成長の機会をみすみす失っている事実になぜ気づかんのか」

「押しつけがましく感じるとか?」

「違う。敬意の欠如だ。私は社歴も長いし、愛社精神なら誰にも負けないと自負している。その私に対する敬意がまるで足らん」

「敬われて当たり前って思ってるからかな。安易な心根は態度に出るって、さっき自分で言ってたし」

「かあー! ああ言えばこう言う! 揚げ足取りだけは一人前だな! 君もうちの新人と同じ人種か? それに比べて、そちらの君はよほど見込みがある」

 彼はガイウスに視線を向けた。

「人の話を聞く姿勢ができておる。実に素晴らしいぞ」

「おそれいります」

 ガイウスは直立不動で第三室長のお説教を興味深く聞き、うんうんと時折うなずいたりしている。為になる年長者の話を素直に受け止めている。それは室長に好印象を持たれる態度のようだった。

「うむ。まったく気持ちのいい青年だ。うちの部署の若いのとは違うな。まったくあれらと来たら、飲みに誘ってやっても何だかんだと理由をつけて帰りよってからに。上司とのコミュニケーションの重要さもわかってないときたものだ」

「楽しくご飯食べたいのに、今みたいな説教されるのが嫌なんでしょ。自分の若いころは――みたいなの」

「ええい! 君は黙っておれ!」

「団長はそういうの言わないから、みんなに好かれてたのかな」

 ぷりぷり怒るおっさんをよそに、フィーは懐かしむようにつぶやいた。

 長い長ーいお説教の果てに、ようやく本題へと入る。

「やれやれ。前座はここまでにして、アトラクションを始めるとしよう」

 手元のボタンを押すと、ゴゴゴと地鳴りがした。部屋の床が真ん中からスライドして開き、下からやたらと複雑なアスレチックがせり上がってくる。かなりの規模の大きさだ。 

「顧客が求めるのは汎用性だ。用途に合わせた物をその数だけ持ち歩くのではなく、一つで多機能を兼ね備える物こそ真に望まれる商品である」

「あ、それはわかるかも。拾得ナイフって便利だよね」

「また適当なことを。そんなもの女学生が持ち歩くわけなかろう。かばんにキーホルダーでも付けておれ」

「手榴弾ならいつもぶら下げてるよ」

 さらりと言うフィーの横で、「あ、あれは飾りじゃなかったのか……?」とガイウスが戦慄していた。

「つまるところ私が欲しいのは実証データだ。君たちには今から二人一組で、この特製アスレチックに挑んでもらう。様々なシチュエーションで協力し合いながら、見事ゴールまでたどり着けたら君たちの勝利としようではないか」

 フィーとガイウスはスタート地点に移動する。

 コースには岩山やら沼やら、ジャングルジムやらベルトコンベアやらが待ち構えていた。他にも仕掛けが目白押しだ。

「そうそう。フィー君だったね。君はどうも規律や上下関係に対する認識が希薄と見える。そこで二つ、追加ルールだ」

「いいよ」

「一つ。スタートからゴールするまで、君たちは手をつながなければならない。手が離れたら失格とする」

「うん」

「二つ目。くくく、これが重要なのだよ、何よりな……」

 並ならぬオーラを立ち昇らせ、第三室長の目に炎が宿る。

「このアトラクションの最中、君には年上の男性を“お兄ちゃん”と呼んでもらおうか!」

「わかった。がんばろうね、お兄ちゃん」

 驚異的な順応力を見せ、フィーはガイウスの手を握った。

 

 ●

 

「初めまして、第四開発室の室長です。今日は宜しくお願いします」

「あ、これはご丁寧にどうも」

 差し出された名刺を、マキアスは低い腰で受け取る。

 そのやり取りを眺めながら、彼が政治家になったらこんな感じなのだろうか、とラウラは思った。

「そちらのお嬢さんにも自己紹介をさせて頂ければ」

「ほら、ラウラ。室長さんがそう仰っているぞ」

「え、ああ。初めまして」

 渡された名刺を、ラウラは慣れない手つきでもらう。こういう時の作法はわからない。マキアスが“お名刺を鮮やかに受け取れる僕はちょっと大人だろう”的な視線をよこしてくるのが、そこはかとなくイラッとするところだった。

 物腰の柔らかい、線の細い男性だ。スーツに身を包んではいるが、革靴のかかとはすり減っていないし、ふくらはぎの筋肉もさほどではない。外回りをするタイプではないようだ。やや猫背気味で、目頭に疲れも見える。デスクワークが主なのだろう。

 剣術特有の観察眼で、彼をそう評価する。こちらの思考を読まれたわけではなかろうが、第四室長は自らのことを語った。

「僕は研究者上がりでね。室長なんていう幹部ポストについているけど、経営関係には携わってないんだ。プログラミングと新規製品開発の指揮を取っている。あとは耐荷実験をクリアした物が、正式な商品として売り出せるかの最終品質チェックって感じかな」

「それはかなり重要な役割では……」

「ははは、おかげ様で忙しくさせてもらってるよ。そんなわけで僕のフロアでのアトラクションはこいつさ」

 彼の背後の空間が歪み、そこにどっしりとした人型が姿を見せた。東方の鎧武者を連想させるその出で立ちに、マキアスが反応した。

「そ、それはレジェネンコフ零式!?」

 かつてハイデル・ログナーが従えた完全自立型の人形兵器だ。ラウラは直接見たことはなかったが、潜入班の報告書では、ユーシスが魔導剣で制圧し、その後にアガートラムのビームで消滅させたと記載されていた。

「残っていたデータを元に僕が強化、復元した。名付けてレジェネンコフR式」

 ラインフォルト式とはいかにもだ。いったいどのような機能が搭載されているか想像もつかない。

「想定している用途も色々ある。現状では警備員としての役割が大きいが、ゆくゆくは災害時なんかに人が立ち入れない場所で救助活動を行うとかね。あとは人間の話し相手にもなれるように、人格投影システムや言語学習能力もついているんだよ」

「……すごいですね」

 マキアスも驚いているようだ。最新の機械に疎い自分でも、それがどれほど凄まじい技術なのかは想像に難くなかった。

「で、今日お二人にやってもらうのは、このレジェネンコフR式が実用に耐え得るものかのテスターだ。簡単に言えば戦えってことさ。壊してくれてもいい。どうせ壊れるようなら商品化はまだ遠いって結論になるだけだし」

 戦闘。二人は一瞬で気を引き締めた。マキアスはショットガン、ラウラは大剣を構える。蒼耀剣は砕けてしまったので、一般的なバスタードソードだ。

 この部屋の全面がスチール板で補強されているのは、派手に立ち回ってもいいようにか。

「うんうん、いい反応だよ。さすがはかのトールズのⅦ組だ。激戦を潜り抜けただけのことはある。さっそく開始だ!」

 グォンとジェネレーターの駆動する音。

「うっ?」

「あ!?」

 途端、大剣とショットガンが手から離れ、勝手にレジェネンコフR式の手に飛んで行く。そのままさらに後方に投げ捨てられてしまった。

 おそらくは磁力。あっという間に素手だ。

「ラウラ!」

 マキアスが叫ぶ。レジェネンコフR式が猛スピードで突っ込んできていた。ラウラはとっさに後退する。しかし後ろの壁が近かった。背中をぶつけてしまう。間髪入れずに敵の掌底が叩き込まれた。

「……っ!」

 攻撃はかろうじて顔の横にそれていた。スチール板の壁にクレーターができている。まともに食らえば、顔面が粉砕されていただろう。

「精度が甘くて助かったか……」

「違う! 違うぞラウラ! わざと外したみたいだった! まさか今のはっ!」

「そういうことだよ。戦闘にだけ使う人形ではないと言ったはず」

 と、第四室長のメガネがきらりと光る。レジェネンコフR式にも変化があった。

『言語機能オン。ダウンロード……クリア。ア、アア……ンアア』

 警戒するラウラに、機械音声が告げる。

『生意気ナ子猫チャンダ。オ転婆ナノモ、程々ニスルンダナ』

「は?」

「やっぱりそうか! よく聞け、ラウラ! さっきのは掌底じゃない。“壁ドン”だ!」

「は?」

 マキアスの言うこともわからない。

「僕は最近その手の書籍を嗜むからわかる。いいか、壁ドンとは男性が女性に強引に迫る手法の一つ。打撃音に合わせて顔を一気に近づけ、退路を断つと同時に心をも掴むという恋愛上級技だ!」

「いや、そなた、何を言って……?」

「気を付けろ! 連撃来るぞ!」

「うっ!?」

 下方に殺気。えぐり上げるようなアッパーだ。避けられない。

「んむぅ?」

 覚悟した衝撃は襲って来ず、代わりにソフトな指ざわりがあごに触れる。

 またマキアスが騒ぎ立てた。

「うああ! “あごクイ”だ! 強制的に自分に顔を向かせることで鼓動の高鳴りを誘発し、そこから口説くもよし、キスに持ち込むもよしの高難度の奥義! しかも壁ドンからあごクイのコンボ! ラウラ、逃げろ! 女子ではこいつに勝てない!」

「キ、キキキ、キスっ!? それだけはダメだ! やめろ! やめて!」

『慌てるな、ラウラ』

 レジェネンコフR式から発された声だった。しかしその合成音声は明らかに、

「リ、リィン……?」

『ああ、俺だ』

 至近距離の敵の顔面はモニターになっていた。そこにリィンの顔が映る。目鼻立ちが凛々しく加工されていた。

『ラウラ……お前、可愛いな』

 落ち着け、私。

 なるほどな。レジェネンコフ・ラインフォルト式ではなく、(リィン)式だったわけだ。

 リィンはこんなこと言わない。偽物だ。わかり切っている。

「安く見られたものだ。その程度で揺らぐとでも思っているのか。私は絶対に屈さない!」

『そういう無理に意地張っちゃうところも好きだぜ。なあ、俺と付き合えよ』

「えっ」

 

 ●

 

 リィンは一人だった。

 てっきり自分もアトラクションの攻略班だと思っていたが、どうやら違うらしい。

 長い通路の先に、頑丈そうな扉が見える。そこには見たことのない型の導力鍵が四つ付けられていた。あれがイリーナ会長の言っていたロックだろう。

 みんなが各アトラクションをクリアすれば、俺は先に進めるということか。

 しかし先に進んでどうなる。なんで俺一人の到達がクリア条件なんだ。確かに仲間の協力は必要だが……。

 引っかかるのは《ラインフォルトの試練》というネーミング。レグラムのあれと似ているが、果たして偶然の一致なのか。

「考えてもわからないな……」

 とりあえず扉までは歩を進めようとした矢先、少し先の壁にピシッと亀裂が入った。そのひびを起点に壁面が破裂、砕け散った。

「な、なんだ!?」

「貴様がⅦ組の筆頭、リィン・シュバルツァーだな……」

 恨みのこもった深く暗い声が、粉塵の向こうから届く。うすい白煙が晴れると、そこに白髪の老人がいた。

「自己紹介はいらんだろうが、あえて名乗っておく。G・シュミットだ」

「シュミット博士!? あなたが……!?」

「はん、白々しい態度を。知っておろうが、貴様らが病院送りにした者の顔くらい」

「病院送り……? あ!」

 以前、ヴァリマールの太刀を作るためにゼムリアストーンの手がかりを得ようと、またステファンを救出しようと、アルフィン皇女を始めとしたチームでルーレ工科大に潜入した。

 そこでのいざこざで、彼らはシュミットを全治三か月の状態で病院に送り込んだ経緯がある。しかもトワの弁論で事実を隠蔽さえしていた。

 リィンの額からだらだらと汗が滴る。

「この日をどれだけ待ち望んだことか。憎きトールズの者共に復讐できる今日という日をな。まずは貴様から血祭りにあげてくれるわ!」

 壁に空いた破孔から幾つものパーツが飛んできて、シュミット自身に装着されていく。さながら小回りの利く重機だ。怒りを表しているのか、カラーリングは黒一色。堅牢なアーマーに囲まれた彼は、にぃと唇をゆがませた。

「自らで作り上げた最強のオーバルギアだ。細切れにしてやるぞ。シュバルツァー!」

 左右のショルダーアーマーから、マンホールのふた程の大きさもあるノコギリ刃が突出した。腰部のミサイルポッドが起動し、脚部の機関砲にも弾が装填される。

「死いいいぃ―――ねえええ!!」

 ブースター点火。浮き上がり、突進してくる漆黒のオーバルギア。

 言っていいのか。むしろ言いたい。

 俺、工科大への潜入作戦の日は、体調悪くてずっと寝てたんですが。どうして事件に直接関わっていない俺が、率先して殺されようとしているんですか。

 あなたに電撃でとどめを刺したのは、アルフィン殿下なんですけど――

「こ、これは言えない!」

 保身のために皇女を売るなど、帝国男子としてあってはならない。

 八つ当たりの憎悪を全身に受け止めながら、リィンは素早く太刀を引き抜いた。

 みんな、どうか急いでくれ。早くロックを解除してくれないと、今度こそ俺は本当に死ぬ。

 

 

 ――つづく――

 




《ラインフォルトの試練》をお付き合い頂きありがとうございます。

Ⅶ組フル出動は久しぶりですね。ユーシスとエマでのコンビは何気に珍しい気がします。ラウラとマキアスもあんまりないかな?

しかし軌跡シリーズ、そろそろカルバード編あたりが新作で発表されないものか。閃Ⅳまで来ても出番がなかった不遇のジンさんに会いたいよ。

では次回がラインフォルトの完結話。
引き続きお付き合い頂ければ幸いです!

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