虹の軌跡Ⅱ Prism of 《ARCUS》   作:テッチー

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第135話 想い巡る緋の帝都(後編)

 帝都競馬場は二百年に及ぶ歴史を有する。かの獅子戦役よりも以前に造られたそれは、エレボニアを象徴する建築物の一つと言えるだろう。

 コースは一周でおよそ2100アージュと聞いている。そこをぐるりと覆う観覧席はさらに広いスペースを設けているのだから、端から端まで移動しようとするならそれなりの時間がかかるものだ。

 それはそれであの二人の時間ができるし、まあ良いかもしれない……と観覧席の外周を歩くアルフィンはそう思った。

「それにしても……実際のところ、お兄様とシェラお姉様はどういうご関係なのかしら」

 考えるともなしに口に出し、小首をひねる。

 昨晩はシェラザードを自室に招き、あれやこれやと問い詰めてみた。彼女は困ったように、しかし当たり障りのない返答でうまくごまかしてくる。

 さすがは対外折衝にも長けた歴戦の遊撃士というべきか、腹の探り合いに不慣れな小娘の勢いに任せた問答を、鮮やかかつ穏便にやり過ごすなど造作もないことらしい。

 皇族という立場への遠慮を感じなくもなかったが、結局わからず仕舞いだった。リベールの異変を共に解決した仲間――というだけではない気がするのだけれど。

「えっと……、この辺りのはず……?」

 すれ違う大勢の観客の隙間を縫いながら、アルフィンは右に左に視線を巡らせた。レース予想の記事があるのだろう新聞を握りしめるおじさんや、仲間内で競馬を楽しみにきたらしい集団に、年若い女性も結構いた。さすがはビッグイベントだ。

 彼らに紛れて席の一角を陣取る二人の後ろ姿をようやく見つけた。自分も含めて素性が知られると騒ぎになるので、髪をくくったり、帽子をかぶったりで変装している。だから探すのに手間取ってしまった。

「お兄様、シェラお姉様。ポップコーンとジュースを買ってきました。どうぞ」

 言いながらカップを差し出すと、それをシェラザードは頭を低くして受け取った。

「申し訳ありません、皇女殿下。本来なら私が買いに動かねばならないところを」

「そんな。シェラお姉様はお兄様についていて頂かないと。ただわたくしはアルコールは購入できませんので、そこはごめんなさいね」

「お気遣いありがとうございます。ですが普段からお酒は嗜むほどにしか口にしませんので」

 彼女の横でオリヴァルトが物言いたげな視線を向けていたが、さりげなく足の甲を踏むシェラザードの微笑みによって、その何がしかの意見は封殺されていた。

 まもなく審判の時が訪れる。

「落ち着け、オリヴァルト・ライゼ・アルノール。信じるんだ。しかし万が一外れてしまった場合は……くっ、悪い結果だけを考えてはいけない。ふひゅう~」

 コースを凝視するオリヴァルトは額にびっしりと玉の汗を浮かべ、ぶつぶつ一人ごちつつ馬券を胸に添えて祈りを捧げる。

 第四レースまでを終え、次が最終レース。それら全ての一着を当てるという、高難度にして高倍率の賭け。ほぼ全財産を投入した彼が仮に勝った場合、確かに億単位の配当金が支払われる。

 そしてここまでの戦績は、なんと全的中。

 占いで勝ち筋を示したシェラザード自身も『なんだか今日はめちゃくちゃ調子がいいみたい』と驚くほどだった。

「大丈夫ですよ、お兄様。なんと言っても今日は勝利の女神様がついているじゃないですか。ね、シェラお姉様?」

 シェラザードは数列前の席の二人組を訝しげに見つめている。先ほどやってきた男女のペアだ。二人とも帽子を目深にかぶり、サングラスをかけているので顔はわからない。

「おい、もう吐くなよ。頼むから吐くなよ?」

「わかってる。当たるまでは吐かないわ」

「当たっても吐くな! もう知り合いにばれないよう変装までしたんだ。変に目立つのだけは勘弁だぜ……」

 そんな会話をしている。

「彼らがどうかしましたか?」

「なんだか見覚えが……いえ、気のせいね。失礼、なんでもありません」

 その時、ひと際大きな歓声が上がった。アナウンスに導かれて、馬と騎手たちが入場してくる。ついに運命の最終レースが始まるのだ。しかし割れんばかりの歓声にざわめきが混じる。

 アルフィンもその異様な光景に、首をかしげざるを得なかった。

 登場する騎手の全員が、妙なマスクで顔を隠している。しかも七人中二人はモヒカンでトゲトゲでギラギラだった。なんというのかこう――甲高い雄叫びを上げながら弱者を虐げるオーラ満載のアウトローな感じだ。

 そこに続けて、着ぐるみのマスコットがレース場内に踏み入ってくる。クロスベルで人気のみっしぃとみーしぇだ。

 こういうマスコットは観客席側で、客寄せとか販売員のサポートをするものではないのだろうか。普通にコースの中に入ってしまっているが。イベント色の強いレースだから、パフォーマンスも兼ねて……?

「あら? 変ね」

 シェラザードが言う。

「運命の流れが複雑に交錯してる。事前の占いと結果が違う……?」

「なっ!? シェラ君、困るよ! もう馬券は買ってあるんだ!」

「そ、そんなの知らないわよ。占いは占いなんだから。外れるとも限らないでしょ!」

 動揺しだすオリヴァルトはよそに、アルフィンは七人の騎手たちに目を凝らした。

 顔は隠してあるものの、雰囲気というか存在感というか、言葉にできない直感というか――

「わたくし、あの人たち全員知っているような……」

 

 

《――★想い巡る緋の帝都(後編)★――》

 

 

 どうしてこうなった。

 マキアスのデートプランに従い、ブリジットと競馬観戦に来たはずなのに、気づけば馬に乗せられ、本物のレースに挑まされようとしている。

「どう、どう。いい子だ。とにかく宜しく頼むよ」

 とりあえず振り落とされないよう、アランは馬を落ち着かせた。幸いにも気性の穏やかな馬をあてがわれたらしい。番号は➁番、名前は《ラブジャッジメント》だそうだ。

 むしろ情報がその程度しかない。能力とか癖とかスタミナとか一切わからない。

 まあそれは良しとしよう。問題は一緒に走る他の六人の騎手たちだった。

 番号は➀、毛並みの綺麗な白馬に乗るのは、アイマスクで目元を隠したブロンド髪の男だ。彼はマントも羽織っていて、レース前のアナウンスではノーブル仮面と紹介されていた。馬の名前は《オキゾクノタワムレ》とかなんとか。

 ➂番の馬は《クダケチルメガネ》。アウトロー二人組の下っ端的な方である。すぐとなりのコースにいる彼は、なぜかちらちらと俺を見てくる。こちらは素性がばれるとまずいので、口元にスカーフを巻いて顔の下半分を隠しているが、やたらと疑惑の目でのぞき込んでくるのだ。

 ➃番は《コウハイデストロイヤー》。アウトローの兄貴的な方だ。もう雰囲気がやばい。瞳孔を開かせた目でナイフの刃とかべろりと舐めてそうなイっちまってる感がある。このあと村とか襲撃にいくだろ。若い娘とか余裕でさらうだろ。

 ➄番は《カラミティホーク》。騎手は黒いフェイスマスクにマフラーを着けた長身の男だった。腕にタトゥーを入れてる。どこかで見た紋様のような気がしたが思い出せない。それにしても馬に乗り慣れてる感じがすごい。

 ➅番は《アンコクノシュラ》。➄番と同様のフェイスマスクにマフラーだが、こちらは黄色だ。マスクから漏れ出す殺意が凄まじい。このレースになんの恨みがあるのだろう。しかもその殺意は➂番の騎手に注がれているようだった。

 ➆番は《ハキチガエタジャスティス》。➄と➅も同じ団体の所属なのだろうか。赤いマスクとマフラーという恰好で馬にまたがる彼は、自分の馬ではなく殺気あふれる➅番の騎手を「どう、どう」と鎮めていた。

 いやいや、なんだよこのレース。

 全員の顔が隠れてるし、まともなやつがいなさそうだし。競馬なんて出場はおろか、まともに見ることさえ初めてだが、こういう仮装イベントみたいなのもあるのだろうか。

 コース内ではみっしぃとみーしぇがウロウロしている。あれはいったい何の意味があるんだ。わからないことだらけだ。

 ただ一つ確かなのは、観覧席のどこかでブリジットが俺を応援しているということ。

「とにかく……ブリジットに無様な走りは見せられないな」

 ファンファーレが鳴り響き、各馬がそれぞれのゲートに誘導される。ここまできたら、やるしかない。

「ブリジット? 君、今ブリジットって言ったか?」

「へ?」

 となりの➂番ゲートに入った《クダケチルメガネ》のアウトローが話しかけてきた。

「に、人間の言葉がわかるのか」

「僕をなんだと思っているんだ」

 君とか僕とか、アウトローらしからぬ二人称と一人称。しかもブリジットの名前に反応したような。

 互いの顔を注視し、『まさか……』と同時に発した瞬間、間髪入れずにゲートオープン。一斉のスタート。場内に轟く大歓声。

「あっ……!」

 コンマ一秒反応に遅れつつも、アランは反射的に馬を走らせる。➂番もスタートに遅れ、アランの後ろに続いた。 

 

 ●

 

 遠くから届く歓声に、エリゼは後ろを振り返った。ヘイムダル全域を覆う赤い外壁が、大勢の熱狂に震えているかのようだった。

「競馬だと思うよ。最終レースが始まったんじゃない?」

 前を歩くリゼットは、止まることも振り返ることもなく言った。

「リゼットさんはしないんですか、賭け事」

「気が向いたらする程度かな。でも競馬はしない」

「どうして?」

「ポーカーとか、対人の読み合いが発生するゲームは勝ちの目を拾いやすいけど、馬となるとどうもね。負け越す勝負に金を突っ込むなんて馬鹿げてる」

「ちょっと意外です。そういうの好きなタイプだと思っていました」

「嫌いじゃないよ。でもギャンブルなんて火遊びくらいの感覚が丁度いい。火傷する前に身を引かないやつが馬鹿を見るもんさ」

 サンクト地区で出くわしたトヴァルの顔がよぎる。今頃は競馬場の中で、歓声の一人になっているのだろう。まったく本当にあの人は。

「さて……人気もないし、ここらでいいか」

 ヴェスタ通りで出会ったリゼットに連れられて、エリゼはヘイムダルの外門を抜けていた。

 街道を逸れて、少し進んだ先。着いたのは無秩序に草花が生い茂る広い空き地だった。

「連れ出して悪かった。っても素直についてくるとも思ってなかったんだけど」

「事情は理解してるつもりです」

「助かるよ。これでも追われる身でね」

 リゼットは笑っていた。

 十月戦役の終結後、貴族連合軍に所属、加担していた者は、その立場相応の罪に問われる。もっともそれらの大半が領邦軍なわけで、一度に拘束したりすると領地運営に支障が出てしまう区域もあるから難しいところらしい。

 ちなみに極刑になったケースはまだ発生していないが、現状ではカイエン公爵とアルバレア公爵がもっとも重い厳罰を下されるという見込みだ。

 エリゼもここ数か月、リゼットの行方を探そうとした。だが捜査の状況などクレアに聞くわけにも行かず、自分一人にできることには限界があった。

「セラムさんたちもリゼットさんのことを心配していました」

「あいつらが? まだ繋がりがあるのかい」

 カレル離宮で共に過ごしたセラム、サターニャ、ルシルの侍女三人組だ。

 彼女たちはいずれもが無事に実家まで戻っている。離宮に在留中は色々あったが、今では手紙のやり取りで近況を報告し合う仲だ。

 みんな元気にしているらしい。お互いの状況が落ち着いたらまた会おうとも約束した。

「あたしの心配ねえ。散々こき使ってやったのに健気なこった」

「そこはまだしっかり恨んでるみたいですけど」

「はは、そうでなくちゃ。まあ安心したよ」

「侍女とはいえカレル離宮に詰めていましたから、正規軍からの聴取は怖がっていましたが、それも今のところないみたいで」

「ああ、そりゃそうだろうね」

 わかっていたみたいに彼女は言う。

「カレル離宮を離れる前に、侍女とか使用人の名簿は燃やしておいた。調べようと思えばできなくはないけど、正規軍も世話係連中を躍起になって捕まえようとはしない。もちろんエリゼの痕跡も消しといたから」

「じゃあその時にリゼットさんの名前も消しておけば……」

「隊長業務も兼ねた副隊長だよ。あらゆる書類にあたしのサインや、何らかの履歴が残ってる。限られた時間で全部を消去するのは無理だった」

「限られた時間……戦闘中でしたよね」

「そう。あんたの兄貴を撃ったあとのことだ」

 しんと空気が冷えた。

「先に言っておいただろ。ここに来るまでに何も聞かなかったのはなんで?」

「聞けなかった、聞きたくなかったというのが半分」

「もう半分は?」

「やっぱりそうだった、という感じです」

「気づいてたの? あたしが撃ったって」

「なんとなく」

 テオとルシアがリィンが撃たれていた事実をエリゼに教えたのは、最終決戦後に意識を取り戻した後、それなりに彼女の体調が整ってからだった。精神的な落ち込みに配慮してのタイミングだったのだろう。

 根拠はなかったが、撃ったのはリゼットだと思った。理由もなく、そう直感した。

 悲しいのか、憤りたいのか、それ以外なのか、自分の感情がよくわからなかった。ただ奇妙に受け入れている自分がいた。

「兄様とわかって撃ったんですか?」

「いや。撃った後にわかった。そもそも最初にあたしが狙ったのは、金髪の女子だった。その子をかばおうとして、あんたの兄貴が飛び出したんだよ」

「多分……アリサさん、ですね。でもなんで撃とうと思ったんです?」

「それは……」

 核心を突く問いだった。

 リゼットの性格は知っている。その場面でわざわざ狙撃しにいくなんて判断、自分の知る彼女ならまずしない。もっと合理的な行動を取る。だから違和感を覚えた。

「……あたしにもわからない。ただ意識がぼやけて……現実と思考の境界が曖昧になって……そうだ。確かあの時、黒い霧のようなものを見た気が……ぐっ!?」

「リゼットさん……うっ!」

 ずきんと頭蓋の内側が軋み、二人してよろめく。

 空気が尖った。変質した一帯の空間がゆがみ、無数の輝きが立ち昇る。そこに顕現されていく輪郭が巨獣の像を結んだ。見上げるほどに巨大で、全身を体毛に覆われた狼のような獣。

「こ、この気味悪い光、カレル離宮で戦ったやつと同じ……!」

「ええ、間違いありません。……幻獣です」

 幻獣の双眸が見開かれ、地響きに似た唸り声を上げて、エリゼとリゼットを睥睨した。

「なんでこんなとこに出る! くそ、ライフルなんざ持ってない。逃げるよ、エリゼ! ……エリゼ!?」

 エリゼは立ち尽くしたまま、動こうとしなかった。今にも襲い掛からんと身を屈める幻獣を、無表情で見上げている。

「……カレル離宮に幻獣が現れたあの日。あれが分岐点の一つだったんでしょうね。私とリゼットさん、両方の」

「何を言ってんの!? 早く!」

「リゼットさん。私、クレアさんに嘘をつきました」

「は!?」

 体調は大丈夫か。体に異変はないかと問われた時に、何もないと、そう答えた。

 そんなことはなかったのに。

「エリゼ……!?」

「下がっていてください」

 ゆらりと腕を掲げる。赤い光が渦を巻き、エリゼの手へと収束されていく。熱を帯びた大気が膨れ上がり、竜の息吹のごとき鳴動が大地を揺らした。

「起きなさい。《テスタ=ロッサ》」

 

 ●

 

「くそっ、出遅れた!」

 必死に手綱を繰り、馬の足を速める。

 初心者に扱いやすいという触れ込みで自分の元に回ってきた競走馬だが、《クダケチルメガネ》とはふざけた名前だ。馬の名前には遊び心を入れることが珍しくないとは知っているものの、あまりにもあんまりだろう。まるでこれまでの僕の顛末を示しているようで、どうにも嫌がらせを受けている気分になる。

 だがそれは、あくまでもこれまで。ここから先の僕の未来もそうなると思うのは大間違いだ。

 レースの勝敗はさておき、まずは確かめねばならないことがあった。マキアスは一つ前を走る《ラブジャッジメント》に追いつく。

「➁番の騎手に訊きたい! 君はアランか!?」

 単刀直入の質問に、彼はこちらに目を向けた。

「そうだ。てことはやっぱりお前はマキアスか!」

 向こうも察していたらしい。

「なんでこんなとこにいる! さてはまた何か仕込んだな! というかなんだ、その恰好!?」

「君に黙って付いてきてしまったことは謝るが、仕込みがあったわけじゃない! あとこの服装はロギンス先輩のセンスだと言っておく!」

「ロギンス先輩もいるのかよ!」

「➃番の馬だ!」

「しかも走ってるのかよ!」

 馬上で詳しい経緯など説明できない。とにもかくにもこのレースを終えてからか。勝ちにはこだわらない。まずは完走することに集中して――

「マキアス・レーグニッツ!」

 少し先を行っていたはずの➅番《アンコクノシュラ》が割り込んでくる。黄色いマスクの男だ。

「なぜ僕の名を……? 待てよ、その声は!?」

「そういうことだ!」

 ➅番の騎手はマスクをわずかに上げて顔を見せた。吹奏楽部部長のハイベルだ。

「ハイベル先輩、どうして!?」

「何もかもが僕のセリフなんだよ! そんなやさぐれ一直線の格好をして、恥を知りたまえ!」

「くっ! ここは言い返せない……」

「僕には君の目的がわかっているぞ。クレア大尉だろう。休暇の彼女を追い回していたんだな。その威圧的な扮装で近づいて、あわよくば、い、い、いやらしい所業をもくろんで……っ!」

「何を馬鹿なことを……え? 来ているんですか? クレア大尉が? この競馬場に? このレースを見ている?」

「下手な演技はやめてもらおうか。見苦しいことこの上ない」

 マキアスは頭脳をフル回転させた。

 ハイベルが現れたことには驚いたが、経緯は自分と同じようなものだろう。あの支配人に捕まったのだ。むしろそれ以外に考えられない。

 そしてクレア大尉が競馬場に来ているというのもあり得なくはない。本当に休暇で単純にイベントを楽しんでいるのかもしれないし、一般人に紛れての警備の一環かもしれないからだ。

 こんなトゲトゲの格好である。クレア大尉には自分がマキアスであることはわからないし、逆に知られたくもない。

 だがハイベルは簡単に正体を明かすことができる。たとえばそう――レースに勝利して颯爽とマスクを脱ぐとかして。

 つまり今の状況を利用して、自分に勝つと同時に大尉へのアピールも行う腹積もりだ。しかもモラルの欠如したこの男のこと、アウトローに扮しているのがマキアス・レーグニッツだと暴露するといった最悪の行動も考えられる。阻止するには勝つしかない。

「品性下劣の外道め……!」

「それが仮にも上級生に言う言葉か! 品位が足りていないのは貴様だ!」

 二人のメガネが瘴気を揺らめかせた。尋常ではない悶気に当てられた馬のスペックが跳ね上がる。

「アラン。悪いが話はあとだ。目障りな輩を先に排除させてくれ」

「口利きがなっていないと言ったはずだぞ、小僧!」

 ブーストオン。それぞれの背に修羅を乗せ、土を蹴立てて爆走する二頭。

 一言も会話に参加する余地はなく、アランはただ彼らを追いかけるしかなかった。

 

 

「ありゃあ、やっぱアランだよな……?」

 似てるなーとは思っていた。マキアスが話しているのを見て、ロギンスの疑念は確信に変わった。

 競馬場の周辺で見つからないのも道理だぜ。細かいことはどうでもいい。あの➁番がアランであるなら、成り行きで参加させられたこのレースにも意味は出てくる。

 アランを一位にさせてやることだ。

 ブリジットは観覧席のどこかであいつを応援しているに違いない。自分の彼氏がごぼう抜きでトップに躍り出て、鮮やかに優勝をかっさらう瞬間を見たらどうなる? 惚れ直すに決まってんだろ。私もかっさらってとか言うに決まってんだろ。

「あいつは……」

 馬を走らせながら、ロギンスは後方の様子を確認する。

 マキアスと➅番のイエローマスクが猛烈な勢いで迫っていた。アランは最後尾だが、二頭に続く形で速度が上がってきている。

 レースは中盤に差し掛かるところ。アランの位置からでもまだどうにかなる。とはいえそれは、走れる技術を持っていればの話。あいつの乗馬スキルでそこまでの巻き返しは難しいだろう。

 ならば自分のやることは一つ。先頭を行くやつらを、俺の手で走行不能にする。どうせこの風体だし、ヒール役やるくらいが丁度いいってもんだ。

 そして残った俺を、アランが追い抜いていくというシナリオだ。お前の為に、俺はピエロを演じよう。今日まで苦楽を共にした可愛い後輩に贈る、去りゆく先輩の最後の置き土産だと思ってくれや。

「待て、この巨悪!」

「あん?」

 ➆番の騎手と並んでいた。《ハキチガエタジャスティス》を駆るレッドマスクの男は、馬上からビシィッと指を突き付けてきた。

「お前の邪悪な企み、この正義戦隊が止めてみせる!」

「てめえ……今考えたばかりの俺の作戦を見破ったっていうのか?」

「ハイベルの読みが当たったな。公にできない悪事を水面下で進めていたんだろう。こちらはずっとお前たちアウトロー兄弟を尾行していたんだよ」

「いや、別に兄弟じゃねえけど。そっちの事情なんざ知らねえが――」

 鎖がじゃらじゃらと波打ち、モヒカンがしゃきーんととんがった。

「俺は何が何でもあいつを勝たせてやりてえんだよ! 邪魔すんじゃねえ!」

「巨額が動くレースで、やはり八百長の片棒か。ならガイウスが一位を取れば、お前たちの企みは勝手に潰れるというわけだ」

「うだうだと意味のわからねえことを……いい加減どきやがれ!」

「お前はここで俺が討つ。ジャスティスレッドの名に懸けて!」

 正義と悪の相容れない主張が衝突し、互いの視線の中心で不毛な火花が散った。

 

 

 ぶにょんぶにょんと飛び跳ね、ふりふりと肉球を振って、コミカルに踊ってみせる。わずかな練習時間できっちり仕上げてきた、みっしぃとみーしぇのコンビネーションダンスだ。

『ねえねえ、ラウラさん』

 着ぐるみの中の通信機からフリーデルの声が届く。

「なんでしょうか?」

『マスコットらしくダンスでレースを盛り上げるって方向性は間違っていないと思うのだけれど、観覧席から遠すぎるのよ。私たちが何やってるか、ほとんど見えないと思うわ』

 コース場のど真ん中である。どれだけ派手なパフォーマンスをしても、この距離では地味な挙動にしか映らない。

「むう……正直なところ、少し残念ですが」

『帰りにマーテル公園あたりで披露すればいいじゃない。ちゃんと付き合うから』

「ありがとうございます。しかし我々の第一の目的はアランとブリジットの捜索ですし、このままずっと競馬場から出られないのも困りますね」

 成り行きでここまで来てしまい、とりあえずイメージマスコット的な何かをしようとした結果がこれだ。

『そのことだけどね。➁番の馬の騎手。あれってアランだと思うわ』

「え?」

『で、➃番はロギンス君。➂番はⅦ組のマキアス君よ』

「そんなまさか……あのトゲトゲのギラギラの二人組がですか?」

 ラウラは走る馬たちを視線で追いかけ、じっと目を凝らす。

 フリーデルが言うアランとロギンスの方はよくわからない。だが➂番がマキアスなのはわかった。筋肉の付き具合、動作のくせ。見知った者の動きだから、すぐに判別がついた。

「確かに……」

『私の予想だけど、ロギンス君とマキアス君も二人のデートを見届けに来たんじゃない?』

「それがどうして今の状況に?」

『それはわからないわ。でも意図して作れるような状況でもない。だからアクシデントに巻き込まれたんだと思う」

 さすがの洞察力というべきか、完全な憶測ではあるものの筋は通っている。

『ただ、善意であるのは間違いないでしょうね』

「善意……ですか?」

『そう、善意。ロギンス君ってああ見えて凄く後輩想いなのよ。これが不測の事態だとしても、アランのことを考えて、彼のプラスになることをしようとするはず。でも思考はシンプルだから。大方、アランをこのレースで勝たせてブリジットさんにいいところでも見せてやろう――みたいなことを考えてるんじゃないかしら』

 くすくすと彼女は唇をほころばせた。

「よく理解しているのですね、ロギンス先輩のことを」

『それはそうよ。フェンシング部で二年もの間、同じ時間を共有したんだもの。お互いに良いところも悪いところも知ってるし、それを認めてもいる』

「その……少々立ち入ったことを聞くのですが、フリーデル先輩はロギンス先輩のことをどう思っているのですか?」

『もっと彼が強ければとは思うけど。私よりも強く、ね』

「なぜ?」

『さあ? なぜでしょう』

 要領を得ない答えで煙に巻かれてしまった。

『とはいえ、心配は心配よね。私たちでフォローできることもあるかもしれないから、一応先回りしておきましょうか。何もないならないで勝者を讃える感じで行けば、マスコットとしての職務は全うできるでしょうし』

「何と言いますか、物の考え方が勉強になります」

『けっこう適当よ?』

 ラウラみっしぃとフリーデルみーしぇはコースのゴール地点に向きを変えた。

 

 ●

 

「んっ……っ」

 オリヴァルトとシェラザードの後ろで、アルフィンは胸を押さえた。

 血が熱い。一瞬、空が赤く染まった気がした。

 だが何もない。青い晴天のままだ。胸の熱もすぐに平常通りに戻った。

 今のはなんだったのだろう。どこかで覚えのある熱さだったような……

「お兄様」

「ん、なんだい?」

 振り返るオリヴァルトに異変はなさそうだった。

「ああ、いえ。レースの展開はいかがと」

「……劣勢だ」

 苦々しげな声を絞り出す。

 オリヴァルトが一位に賭けたのは➁番の《ラブジャッジメント》だ。これが当たればパーフェクト。負債額を返せる配当金が手に入る万馬券だ。

 だがその馬は最後尾だった。

「その割には落ち着いていらっしゃいますね?」

「ははは、レースの結果というのは応援一つで変わるものじゃない。ただ信じて見守るというのが、大人の観戦というものだよ。アルフィンには難しいかな?」

「んー……ですね。わたくし、スポーツの観戦なんかは熱が入りやすいですから」

 席から立ちあがって応援旗をぶんぶん振り回したいタイプだ。

「ほら、シェラ君も大人しいだろう?」

「私を引き合いに出すのは止めなさいよ。でもそうね、もともと感情をむき出しに叫ぶ性格じゃないっていうか。それに遊撃士って常に冷静沈着な対応が求められるし。職業柄、そういう振る舞いが肌に馴染んでるから」

「ついでに前の席のお二人さんも見てごらん。彼らも良識ある大人みたいだよ」

 レース開始直前にやってきた男女ペアだ。

「ねえ、どれに賭けたのよ。あたし➀番の白い馬よ」

「俺は➄番の黒いやつだ。雰囲気あるぜ、あれは」

 などと穏やかに語らっている。

 オリヴァルトはゆったりと椅子に座り直した。

「こういう勝負事は一歩引いて戦局を見渡す者が制するんだ。彼らもそれがわかっているね。さあ、アルフィン。おしゃべりはここまでにして、レースの結末を余裕をもって見届けようじゃないか」

「あら、お兄様が賭けた➁番が追い上げてきましたわ」

「いけえええええああああっ!!」

 コース場に飛んで行きかねない勢いで、オリヴァルトは目を血走らせた。

「そこよ! 抜かしなさい!!」

「走れ走れ走れえーっ!!」

「とーばぁせぇーっ!!」

 シェラザードも前の二人組も身を乗り出して、喉が破れんばかりに絶叫する。全員が瞬間沸騰だ。

「……大人の観戦……?」

 反芻した兄の言葉はなんとも虚しい響きだった。

 

 ●

 

 宿敵と呼べるほど深く関わった相手ではない。強いて言うなら怨敵。自らの道を阻むただの障害物だ。

「僕はこの先、あなたとわかり合うことはないだろう!」

 マキアスはハイベルにそう言った。拮抗する速さの馬上から、彼はにらみ返してくる。

「わかり合うとは笑わせてくれる。その必要性さえ僕は感じていないぞ、マキアス君。ここで君は僕に敗北し、見るに堪えない醜態を衆目にさらす。事あるごとに今日という日の無様を思い返し、死ぬまで羞恥心に悶え続けるがいい」

「なんて陰湿な発想なんだ……! ――アラン!」

 すぐ後ろのアランに声を飛ばす。

「僕はこの男を倒さねばならない。ここは任せて君は先に行け。大丈夫だ、すぐに追いつく!」

「競馬ってそういうルールじゃないような……」

 三頭が横一列に並ぶ。

「……ブリジットさんも見ているんだろ」

「マキアス……?」

「僕がしばらく休学する話はしたな。父さんの手伝いをしながら政治を学ぶつもりだ。その道を選んだ大きな理由は、君たちの存在があったからだ」

「どういう意味だ?」

「君にはいつか教えるよ、僕の姉さんの話を」

 誰に後ろ指を差されることもなく、平民の君と貴族の彼女が過ごしていける社会を作ってやりたい。君たちが堂々と肩を並べて、道の真ん中を歩いていける――そんな未来を。

 だがそれは、アランとブリジットの良好な関係が続いているのが大前提だ。

「行け! とにかく勝て! 格好いいとこ見せろ!」

「よ、よくわからないがわかった!」

 戸惑いながらもアランは鞭を入れ、マキアスとハイベルの前に出た。

 ハイベルが嫌味ったらしく鼻を鳴らした。

「➁番の騎手と知り合いかい? なんだか感動的なものを見せてもらったよ。もっとも君の主張に興味はないけどね」

「人の幸せを願えない者に、己が幸せになれる道理はありません。あなたには永遠にわからないでしょうが」

「まさか、理解できるよ。だからまずは僕の幸せを願いたまえ。そしてその為に、君はここで沈め!」

「ここまで狂った思考の持ち主だったとは! やっぱりクレア大尉に近づけていい人間じゃない!」

「何か言ったかァ、小僧!!」

 ハイベルが馬を寄せてきた。接触ギリギリの距離だ。

「何度でも言ってやる! 大尉にはもっと勤勉で誠実な男が似合うんだ!」

「クレア大尉の魅力の何たるかを知らないくせに、知ったことを口にしないで欲しいな」

「魅力? バカバカしい。三日三晩を徹夜で語れますよ」

 マキアスはハイベルの馬を押し返した。

「まず麗しい、美しい。外面だけではなく内面も! 頭もいいし、それを鼻にかけることなく、誰にでも優しい!」

「稚拙なテンプレートの美辞麗句だ。いいか、僕ならこう讃える。その存在は青い宝石のごとし。透き通るような双眸は、まさしくアクアマリンと呼べるだろう。発されるお声の凛とした響きは、さながら闇を晴らす夜明けの太陽に――」

「もういい! 無意味な比喩が渋滞してる!」

 二頭が互いに体当たりを仕掛ける。ぶつかり合う衝撃。態勢が崩れたのはマキアスだった。

「うっ!?」

 さらに黄色いマフラーが腕に絡みつき、崩れた体勢に拍車をかける。ハイベルの首に巻かれていたものだ。さっきの体当たりの時にやられたのだろう。

「卑怯な……!」

「なんとでも言え、負け犬」

 《クダケチルメガネ》から落ちていくマキアス。修羅と化して高々と笑うハイベル。

「見て下さっていますか、クレア大尉! あなたの周りを飛び回るハエを仕留めてやりましたよ。ふはははは――なぁっ!?」

 しかし彼も不自然にバランスを崩した。

 ハイベルの腕に鎖が巻きついている。頭から落ちゆく最中のマキアスがにたりと頬を歪めた。彼もまた自身の装飾具のチェーンを投げ放っていたのだ。

「死なば諸共。愛に殉じるとはこういうことです」

「貴様……!」

 受け身も取れず、そろって派手に落馬。

 砕け散った二人分の眼鏡のレンズが、くすんだ土煙の中で星空のように瞬き、そして消えた。

 

 

「くっそ、あいつらめちゃくちゃ速え……!」

 ロギンスは引き離されないようにするのが精いっぱいだった。集団のトップを走るのが黒マスクの➄番《カラミティホーク》と白マントの➀番《オキゾクノタワムレ》だ。実質、一着争いはこの二頭で繰り広げられている。

 なんとかしてその戦いに加わりたいが、うっとうしくまとわりついてくる赤マスクが邪魔だった。

 攻撃してくるならともかく、「お前にも家族がいるだろう」とか「故郷のお袋さんが泣いているぞ」とか「どんな挫折を味わったらそんなんになるんだ。打ち明けてみろ」とか、やたらと情に訴えてくる。

 こいつの目的と、それを叶える為の手段がマジで意味わかんねえ。レース中に身の上話なんざ語れるかよ。

「やっかましい! 勝手に俺の過去を不幸だと決めつけんな! 挫折とかねえから!」

「うそをつけ! まっとうに育ってそんなモヒカンが生えるものか!」

「モヒカンはそういうシステムで生えねえよ!」

 そもそもズラだし。

 ちらと後ろを見る。アランがすぐそこまで来ていた。さらにその後方では、イエローマスクとマキアスが落馬するところだった。

 マキアスは➁番がアランであることに、いち早く気づいていたようだった。きっとあいつもアランを勝たせようとしたのだろう。そのためにイエローマスクと相打ちになって駒減らしをするとは見上げた根性だ。

「マキアス、あの野郎……! 俺も負けていられねえ!」

 レッドマスクの外側に回り込み、すかさず接近。脇腹にボディブローを見舞う。

「ぐっ!? ラフプレイに転じたか。悪の権化だな!」

 競馬のルール上、競走中に斜行や押圧により他馬の走行を妨害した場合、裁決委員の判断によって降着または失格となる。

 さらには極めて悪質で他の騎手や馬に対する危険な行為があり、競走に重大な支障を生じさせた時は、選択肢なしの失格一本だ。

 ロギンスの今の殴り込みは、言わずもがな後者である。だが彼にとってそれはどうでもよかった。

 自分が降着や失格認定を受けても、全馬に相当な影響が出なければ基本的にレースは中断されない。順位変動が発生し、むしろアランの着位が繰り上がる。そして俺が以降のレースで騎乗停止措置を食らったところで、どうせ今回限りのエキストラ出場だ。痛くもかゆくもない。

「悪だあ? はっ、それでいいさ。こうなりゃとことん徹するのみだぜ。全員ぶっ潰してやるよ!」

「ならこちらも力をもって正義を執行する!」

 レッドマスクが殴り返してきた。

 ここでアランが追いつき、三頭の馬が横に並ぶ。

「ロギンス先輩なんでしょう!? なにやってんですか!?」

 マキアスに聞いてか、こちらの素性は知っているらしい。だがレースは終盤に近く、細かな説明をする時間もない。

「走れ! お前が一位を取れ! 質問はなしだ!」

「マキアスにも言われましたけど、無理ですって!」

「➁番までグルだったのか! 競馬業界の闇が深すぎる……!」

 誤解に誤解を重ねたレッドマスクが戦慄していた。

「いいから全力を尽くせ! 空の上での大告白に比べりゃ、こんなもん屁でもねえだろうが!」

「い、言わないで下さいよおお!」

 顔面をぼっと赤くしたアランのスピードがさらに増す。そこにロギンスたちも続き、トップ争いの二頭へ追いついた。

 けたたましく蹄を鳴らし、五馬が入り乱れての混戦。まもなく最終コーナーに差し掛かる。

「ガイウ――いや、ジャスティスブラック!」

 レッドマスクがブラックマスクに呼びかけた。

「やっぱりこのレースは黒だ。陰謀が渦巻いてる! ➁番、➂番、➃番は裏で繋がっていたみたいだ!」

「なんという……馬を使って悪事などと……」

「だがお前が勝てば企みはおじゃんだ。ノルド仕込みの力を見せてやれ――ごあっ!?」

 レッドマスクの意識が逸れた隙を狙って、ロギンスが顔面にパンチを繰り出していた。

「どうしたどうした、正義の味方さんよお? レース中におしゃべりたあ余裕があるじゃんか。つーか知り合いみてえだし、そっちも結託してんじゃねえのかぁ?」

 わるーい顔とわるーい声で「ひゃははは」と嘲笑うロギンス。悪に徹すると決めた彼は卑劣だった。

「巨イナル悪め……!」

「どっかで聞いたフレーズだなあ……?」

「お前たちを勝たせはしない! はああああ!」

 レッドマスクの拳が血管を浮きだたせ、メキメキと唸る。対するロギンスも腰をひねって一撃の溜めを作った。

「正義執行!!」

「巨悪上等!!」

 馬上で炸裂するクロスカウンター。互いの顔面に勢いよくめり込む拳。

「っだらあああ!」

 果たして押し込んだのはロギンスだった。「がはっ……」とうめいて馬の背から落ちゆくレッドマスク。

「先輩!」

 ブラックマスクが彼に手を差し伸べる。レッドマスクはすかさず自らの覆面を剥ぎ、その手のひらに握らせた。

「俺の戦い続けた証だ。今ここに正義の意志を継承する。ジャスティスシックスを頼んだぜ――」

「せんぱ―――い!」

 レッドマスクはゴシャッと顔から落下した。

「確かに受け取りましたよ、クレイン先輩。俺の本気を見せます。……それにしてもこの名の馬があてがわれるとは、奇妙な運命を感じるな」

 何かしらを託されたらしいブラックマスクから強い力を感じた。彼の周りに風が集まっている。

 烈風は馬の背に集約され、左右に展開されたそれはさながら不可視の翼のようでもあった。

「なんかすげえことやってっけど! あれいいのかよ、ルール的にいいのかよ! このあと絶対空飛ぶだろ!?」

 率先してルール違反をしたロギンスが言う。しかしその間にもブラックマスクと、彼の乗る馬のエネルギーは臨界に達し――

「カラミティホァ――――ック!!」

 馬の名前だか技の名前だかわからないが、とにかく爆発する気合。予想通り、馬はペガサスと化して離陸した。

 しかし勢いがつきすぎて最終コーナーを曲がることはできず、ブラックマスクとペガサスは観覧席の一角に突き上がるようにして突入した。まるで彗星の衝突のようだった。花火のように大勢の人間と瓦礫が宙を舞う。

「勝手に自滅したのか……? だがこれであとは➀番の白馬だけ――お?」

 先頭だった白馬が急にスピードダウン。走るのをやめた。

「やはり蹄鉄が馴染んでいないな。ここまでにしよう。無茶をさせてすまなかった、シュトラール」

 ロギンスは彼の横を通り過ぎる瞬間にそんな声を聞いた。

 事情は知らないが、リタイアでいいのか? ということは、今走っている馬は自分とアランだけだ。図らずも思い描いていた展開になってしまった。

 最終コーナーを抜けて、ゴールが見えてくる。アランは並走していた。ロギンスは馬を寄せる。

「あとは俺がうまくやる」

 それだけを告げて、鞭を振り上げた。終盤の追い上げに見えるだろうが、下手な鞭の打ち方をして馬を興奮させるのが目的だ。それに乗じて自分は上手に落馬するという算段だった。

 馬には悪いとは若干思いつつも、ピシィッと鞭を強く打つ。しかし距離が近すぎたせいで、ほとんど密着状態のアランの方の馬を、しかも変な角度で叩いてしまった。

 太い鳴き声を上げて暴れる《ラブジャッジメント》

「うえええええ!?」

 あっさりと放り出され、地面を転がるアラン。

 軽やかにゴールゲートを駆け抜ける《コウハイデストロイヤー》とロギンス。会場の大モニターに一着の自分が映し出されていた。

「……あれ?」

 なんでアランがゴール手前で死んでんだ。なんで俺が優勝しちゃってんだ。

 呆然としながら馬から降りたロギンスの目の前に、二体の着ぐるみがやってきた。みっしぃとみーしぇだ。愛くるしい容貌なのに、隠しようのない殺気をまとっている。

『ロギンスくぅん』

「その声……? おまっ、フリーデルか!? なんで着ぐるみに入ってんだ!」

『どーでもいいじゃない。ねえ、ラウラさん。ここは私に任せてくれる?』

『わかりました。では私はマキアスに制裁を』

 みっしぃはコースを逆戻りして、マキアスの方に向かった。その背には鬼が宿っているように見えた。

 フリーデルみーしぇは言う。

『ロギンス君。私、あなたはアランを勝たせようとするものだと思っていたわ。それが良いことなのかそうでないのか、そこの是非はこの際問わない。でもまさか自分が一位になっちゃうなんてね。しかもあんな汚い手段でアランを追い落とすなんて考えもしなかった。ゴール付近にいたからよーく見えちゃったのよ』

「ち、ちち、違うぞ、フリーデル。俺は本当にそんなつもりじゃ……」

『へえ、知りたいわ。教えて。詳しく。その面白い恰好のことも含めて』

「か、格好はお前も人のこと言えねえだろが」

 カタカタと足が震え、発する言葉も消え入りそうなロウソクの火のように頼りなく揺れる。

 みーしぇの肉球に闘気が立ち昇った。

「あなたを一から鍛え直してあげる。卒業後の予定は全てキャンセルなさい。私といっしょに武者修行の旅に行きましょう」

「てめ、なに勝手なこと抜かしてやがる!」

「決めたの。決定事項よ」

 にじりよるみーしぇ。あとじさるアウトロー。異様な光景だった。

「でもその前に、ここでのケジメはいったんつけなきゃね」

「今回のことで弁明はしねえよ。だが黙ってやられるわけねえだろ。どうせこっちの素性はバレねえんだし、少々雑にいかせてもらうぜ。卒業前にてめえのすかした顔を土にうずめてやりてえと思ってたとこなんでなあ」

 トゲトゲの肩を回し、威圧感たっぷりに歩み出るロギンス。

 その二秒後、彼は観覧席までぶっ飛ばされていた。

 

 ●

 

「オワタァ……」

 発音の狂ったカタコトで、オリヴァルトは白目をむいた。『終わった』と言ったらしい、とアルフィンは遅れて理解する。魂の抜けた兄の手のひらから、紙くずと化した馬券がはらりと足元に落ちた。

 アルフィンはそれを拾い上げた。彼が賭けたのは➁番。レースを制したのは➃番。覆らない事実だけがそこにあった。

 とはいえレース内容に審議はかかった。やたらと落馬するし、普通に殴り合っていたし、ペガサスが混じっていたし。一位の騎手に歩み寄ったマスコットが問答無用の暴行を加えた件も物議を醸した。そこそこ凄惨な現場だった。

 その上で裁決委員は、本レースを有効とした。順位変動もなしである。今回の勝負は人選からして、運営側にも公にできない事情があるらしかった。

「お兄様、お兄様。元気を出してください。お兄様の人生までオワタァわけではありません」

「そうだろうか」

「たかだが二億七千三百万ミラじゃないですか。一生を費やせば……まあなんとか」

「ははは。さようなら、僕の生涯。こんにちは、就労と内職の日々よ」

「わたくしもお手伝いしますから。ご存知ですか、500ミラ貯金。気づいたらけっこう蓄えが増えるそうで。一年あれば二億くらいは貯まるような貯まらないような?」

「そうだ! いいアイデアを思いついたよ!」

 焦点の合わないオリヴァルトの視線が不意に空に向けられた。

「リベールに逃げよう! そしてブライト家に永住するんだ。懐の広い一家だし、養子が一人くらい増えても気づかないだろう。今日から僕はオリビエ・ブライトだ!」

「やめなさい」

 ペシッとシェラザードが頭をはたいた。

「エステルたちに迷惑でしょうが。それにあんたが居候したところで、なんの役にも立たないし、むしろややこしいだけだし」

「だ、だけどシェラくぅん……」

「はあ、そんな情けない声出さないでよ。これあげるから」

 さっきオリヴァルトをはたいた紙ペラを、そのまま彼に渡した。

「ん? 馬券……って……え?」

 目を見開くオリヴァルトの横から、アルフィンもその馬券をのぞき込んだ。

「あ、当たってますわ。➃番に賭けてます」

「ど、どういうことだい。シェラ君も馬券を買っていたのか?」

「まあね。第四レースまではあんたと同じとこに賭けてたの。でも最終レースの雲行きがどうも怪しかったから、私の方は別の馬に賭けた。➃番を選んだのはただの勘だけど」

 当然のように彼女は言う。

「いや、でも……僕は残った全財産をつぎ込むほどの額を賭けたんだ。そうしないと億越えなんてしないから」

「だから私も相当額を賭けたんだって」

「仮に僕が当たっていたらシェラ君が外れていたんだよ?」

「あんたの配当金から取り戻すつもりでいたし」

「二人とも外れる可能性だってあったじゃないか」

「その時はそろって一文無しね。また働けばいいだけの話よ」

「いいの、ホントに? だってこれ冗談抜きで、に、に、に、二億八千万の馬券なんだけど……。人生変わる額なんだよ……?」

「だからいいって。それであんたが助かるんでしょ。今さらお金で変わるような安い人生でもないわ」

「シェラ君……」

「なによ」

 顔をうつむけて、ふるふると震えて、

「大好きだ――!!」

「は、はあ!?」

 弾かれたようにシェラザードの胸にダイブしようとしたオリヴァルトは、雷のような拳骨を食らって撃沈した。

「愛……愛ですわ。これが真実の愛ですわ!」

 良いものを見たと感激するアルフィン。はあはあと息荒く顔を紅潮させるシェラザード。外れたらしい馬券を紙吹雪にして屍と化している前の男女ペア。

 全霊を賭したギャンブルの果てに、オリヴァルトの借金はここに完済した。

 

 ●

 

「――はい。そうなんです。たまたま旧知の方に出会って。帝都を離れると言うので見送りを。ごめんなさい。すぐにそちらに戻りますので」

 エリゼはクレアに連絡をしていた。ずっとヴェスタ通りを探してくれていたという。事前に事情を語れるような状況でなかったとはいえ、申し訳ないことをしてしまった。

 通信を終え《ARCUS》をしまうと、エリゼはリゼットに向き直った。

「お待たせしました。あとは適当にごまかしてみます。クレアさん鋭い人なので、見破られちゃうかもですけど」

「エ、エリゼ。今のは……なんだ……?」

 ばらばらになった幻獣の残骸が転がっていた。それらは辺り一帯に刻まれた蹂躙の痕の中で、紫光にまみれながら虚空へと消えていく。

 すでに《テスタ=ロッサ》もいない。

「いつからそんな力を持っていた。少なくとも初回の幻獣戦ではなかったはずだ」

「色々あって。煌魔城で……呪いを受けました」

 そうとしか説明のしようがなかった。

「呪い……? さっきカレル離宮の幻獣が分岐点だったって言ったよね。あれはどういう意味だ。あんたは何を知ってんの?」

「知ったというか視たんです。この呪いを受けた時に。カレル離宮に出現した幻獣は、やはりセドリック殿下を狙っていました」

「皇太子を? なぜ?」

「あの幻獣は第三者の手引きによって顕現したもの。すなわち暗黒竜の呪いを宿した《テスタ=ロッサ》によってです。正確に言うなら《テスタ=ロッサ》の最奥に宿る《ゾロ=アグルーガ》の意志によって、となりますけど」

「………」

「殿下を標的とした理由は、複数の意志が絡んでいたので特定はできませんでしたが……自身の起動者として相応しいか秤にかけようとした。あるいはその血を直接手に入れようとした。そんなところだったと思います」

「………」

「ですがその差し向けられた幻獣を、私たちが倒してしまった」

 致命的だったのは残滓程度だったとしても、自分がアルノールの血を引いていたこと。

 その瞬間に、暗黒竜の狙いはセドリック・ライゼ・アルノールからエリゼ・シュバルツァーへと変わった。見定められてしまったのだ。

 そしておそらく、自分に近かったが為にリゼットは利用された。運命の一つを決定づけるトリガーを引かされたのだろう。

 今しがた出現した幻獣は、自分とリゼットという“二つの歪み”に呼応して現れた偶発の産物だ。

 リゼットは深く黙考しているようだった。その聡明な頭脳で何を考えているのだろうか。いずれにしても、《緋の騎神》を見られてしまった。見せてしまった。これで私と彼女の関係はもう――。

「なんとなくわかった」

「え、今の説明でわかったんですか。すごいですね……」

「半分くらいね。あとは推して知るべしってとこかな。で、エリゼはこれからどうすんの?」

「リゼットさんこそどうするんですか」

「質問に質問で返すんじゃないよ」

 リゼットは嘆息した。

「……正規軍の追跡から逃れながら、家族に会いに行こうと思ってる」

「家族……それはリゼットさんのお兄様たちに?」

 以前、四兄妹の末っ子だと聞いたことがあった。鉄道網の拡大で領地はなくなり、なし崩し的に離れ離れで暮らすようになったという彼女の家族。

「兄貴たちの居場所はこれから探すんだけどさ。急に里心がついたってわけじゃない。なんでもいいから目先の目的が欲しかったんだ。人間は目的なしには生きられない」

 無気力になって腐っていくのは御免だと、彼女は肩をすくめてみせた。

「……色々失くして、自分がまだ持っているかもしれないものを確かめたくなったってのが本音なのかもね。さ、次はエリゼの番だよ」

「私――」

 小さく口を開く。

「聖アストライア女学院を辞めるんです」

「自主退学ってこと?」

「ああ、いえ。つい先日に中等部の履修は終了したんですけど、そのまま高等部には進学しないって意味です」 

「そういえばアストライアってエスカレーター式だったか。せっかく敷かれてるレールから降りて何するのさ」

「トールズ士官学院に入学します」

 予想しない返答だったのだろう。リゼットは驚いていた。

「ちなみにアルフィン殿下もセドリック殿下も同じ、トールズに入学です」

 クラスもすでに決まっていた。

 一年特科Ⅶ組だ。

 四月からは自分たちも第三学生寮に移り住むことになる。学院に唯一残留する現Ⅶ組のリィンが新Ⅶ組のメンター役となり、各地への特別実習も引率する予定だ。実は他にもう一つ、重要なことがあったりするのだが――

「なんでまたそんなとこに……士官学生ってガラでもないだろうに」

「リゼットさん、私ね。この力を捨てたいんです」

 ヴァリマールの一太刀によって両断された《エンド・オブ・ヴァーミリオン》は、消滅する寸前に“マダ終ワラセナイ”と意志を発し、エリゼの中に逃げ込んだ。

 あれは未だに私の深い部分に確かに存在している。わかるのだ。さっきもそうだった。《テスタ=ロッサ》を召喚するたびに、わずかながら力を取り戻している。最終的には私の心を侵食しようとするだろう。

「トールズの旧校舎には騎神に関わる歴史と秘密があると、セリーヌさんから聞きました。特別実習で各地を回る中でもその方法を探します。魂の根幹に絡みついてしまった赤黒い呪縛を消し去るために。……セリーヌさん含めて、私の状況は誰も知りませんが」

「セリーヌさんって?」

「猫です」

「あんたの交友関係も極まってんな……」

 エリゼは目を細める。

「派手にやってしまいました。誰かが来る前にもう離れた方がいいでしょう。憲兵に見つかると面倒ですよ」

「……わかった。そうさせてもらう。……じゃあ元気で」

 リゼットは踵を返す。何かを言いかけ、結局何も言わず――

「リゼットさん」

 エリゼはもう一度呼びかけた。

「色々失くしたって言いましたよね。その失くしたものの中に、私は入っていますか」

 リゼットは立ち止まって、振り返って、やっぱり何も言わない。

「私たちはまだ……友達ですか?」

 耐えかねて問う。

 つらかった。つらくて、つらくて、どうしようもなかった。

 思い出が巡る。

 あなたは私の支えだった。カレル離宮でたった一人になってしまった私の寄る辺だった。あなたがいたから孤独にならずに笑うことができた。

 私とあなたの関係を、兄様とクロウさんに重ねたから、クロウさんを最後に救うことができたのだと思う。

 たとえ兄様を撃ったのがあなたでも。たとえば人ならざる身になってしまった私を恐れたとしても。私はあなたを――

「あんたが私を、まだそう思ってくれているのなら」

 少しだけ互いに見つめ合ったあと、静かな微笑だけを残してリゼットはどこかへと去っていった。その背中を、エリゼは見えなくなるまで見つめていた。泣かなかった。

 リィンのことが今なら理解できる。

 己の内の禍々しい力を忌避し、近しい人を傷つけないために、自分と外側を分ける線を引いていたその苦痛と苦悩が。

 兄様。

 傷を負った分だけ、兄様に近づいた――そんな気がするのです。

 

 ●

 

「ん……うぅ……」

 アランは目を開いた。うっすらと霞がかる視界に、ブリジットの顔が映る。

「よかった。大丈夫?」

「頭が痛い……えっと俺――」

 そうだ。競馬だ。ゴール目前まで走っていて、ロギンス先輩が鞭を振り上げて、そこからの記憶がない。

「馬から落ちちゃったのよ。すごく心配したんだから。でも大きなケガがなくてよかった」

「そうか。ってうわ!?」

 跳ね起きる。ブリジットに膝枕されていたことに気づいた。

「びっくりした。……嫌だったかしら?」

「嬉しいけども!」

 力強く宣言してしまった。ほてった首元をぱたぱたと手で仰ぐ。

「ここって……マーテル公園か」

 ようやく周囲に目が向いた。もう夕刻なのだろう。茜色の空の下、広大な面積の芝が広がっている。自分たちがいるのは、公園にいくつも設置されているベンチの一つだった。

 数か月前にカレイジャスが不時着し、《イスラ=ザミエル》と死闘を繰り広げた場所だ。一般開放されている区画もあるが、とりわけクリスタルガーデン付近の損壊は激しく、いまだに補修は完了していない。件のクリスタルガーデンの修復費用はオリヴァルト殿下が受け持つとうわさで聞いたが、果たして本当だろうか。

「ブリジットが俺をこんなところまで運んでくれたのか?」

「いいえ、みっしぃとみーしぇが手伝ってくれたの。さて、どこから話そうかしら」

 ブリジットが語るに、あの着ぐるみの中身はラウラとフリーデルだったという。心配でついてきてしまったと散々謝られたらしい。

 アランもアウトロー二人がマキアスとロギンスだったと打ち明けた。彼女らと同じく自分たちのことが心配だったのだろう。

 二人して怒る気にもなれず、呆れ半分で苦笑するほかなかった。

「思い出に残る初デートになっちゃったわね」

「せっかくだったのに、ごめんな」

「謝らないで。とても楽しかったわ。またお出かけしましょう。いっしょにいられる時間は、これからたくさんあるもの」

「その時こそ、あいつらにはしっかり留守番を言いつけておかなくちゃな」

「ふふ、そうね」

「でもまずは今日のことだ。帰ったら最初になんて言う?」

「んー、色々やってくれたから」

 散々に引っ掻き回されて、下手をすればデートが台無しになっていたかもしれなくて、でも一生懸命に力になろうとしてくれていて、

『ありがとう』

 そう伝えたい。異口同音に出した言葉に、二人は顔を見合わせ、こらえきれずに吹き出した。

「マキアスがさ。俺たちが過ごしやすい世の中を作るって言ってた。だから政治の道に進むって」

「優しい人ね。そして強い人だとも思う」

「親友だ。ブリジットにもいるだろ?」

「うん」

 誰かのことを思い浮かべる彼女の横顔は、ただ美しかった。 

「寒くなってきたし、日が落ち切る前に帰ろうか」

 アランは手を差し出した。

「え?」

「嫌か?」

「嬉しいけど」

 ブリジットがその手を握り返す。手を繋いだままで二人は駅に向かって歩き出した。

「私、彼女らしくできたかな」

「彼女らしくとかいいよ。ブリジットらしくいてくれるのが一番いい。俺もそうする」

「あの日、告白してくれてありがとう。とっても格好良かった。私の一生で一番大切になる思い出だと思う」

「い、今それ言う?」

「これから何度でも言うわ」

 頬を赤く染めた彼女の肩が寄せられる。

「ずっと離さないでね」

 

 

 ――A/B恋物語 FIN――

 

 

 

 




《想い巡る緋の帝都》にお付き合い頂きありがとうございます。

何気に頭を悩ませたところが『乗馬技術がトップクラスのガイウスを、どうやってロギンスたちが追い抜くか』でした。
そりゃまあトラブル系の自滅しかないだろうと思い、YouTubeで“馬、レース、落馬、騎手、派手、反則、転倒”などの不穏なワードで検索を繰り返しつつ、参考になりそうな乗馬の事故映像を漁ること数時間。
そうした真剣な捜索の果てにたどり着いたのは、目隠しした髪の長いボディコン姿のお姉さんが「ベルレフォーン!!」と叫んでいるクラッシュ映像でした。
これだ、と思いました。

ついでに今回で《世直し任侠譚》もFINです。長い間、正義の為(?)にお疲れさまでした、先輩たち。

ガイラーさんやルシアさんや知事閣下などのイロモノを除き、現時点での最強戦力は《テスタ=ロッサ(エンド・オブ・ヴァーミリオン)》を所有しているエリゼ嬢だったりします。
幻獣を蹴散らした時点で、20パーセントくらいしか力を解放していません。やり過ぎたら銀髪赤目になって戻って来れなくなっちゃいます。
トヴァルさんが下手なことをやらかそうものなら、リアルに消し炭ですね。焼き肉店の網の端にこびりついているような焦げ跡みたいになるのでしょう。

さていよいよ終幕となりました。
構成次第ですが、ラスト二話の前後編か、短編を挟んだ三話で最終話として締めくくらせて頂きます。

どうぞ完結までお付き合い頂ければ幸いです。
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