天才美少女ノンデリ老古学者先輩VS絶対先輩に勝てない俺VS世界   作:覚醒HYPER

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1話

 

 

 広い空、青々と茂った草原、燦々と輝く太陽。うーむ、おもわずため息をついてしまいそうな広大な自然である。

 

「岩石一個……がんせき二個……三個……はぁ」

 

 ダメだ気が狂いそうになる……晴天が逆に憎い。前の街から三日間、ほぼ休みなく進んでるって言うのに、なんで景色が全く変わらないんだ?

 いっそのこと天変地異でも起こればいいのに……って、この世界でソレはシャレにならない。下手すりゃ男の機能が九割八分持ってかれるか、大陸ごと水没するかの二択だ。「落ち年」がいつ来るかもわからないってのに、自分からフラグを建てるバカはいない。

 

 おれの名前はコーミュラ・リアン。うだつの上がらない大学生活中なポカやらかして以降。立派に第二の生を謳歌しているぴちぴちの17歳である。

 今日も元気にお散歩…………ではなく立派な旅をしている。俺も転生者の端くれであるため、異世界ファンタジー定番のなデカい馬車! キャラバン! 護衛を依頼してくる小太りの商人! なんてものはなく、絶賛徒歩で移動中である。最も、馬車は用意できる手筈だったはずなのだが……

 

「リリっち先輩……いつ着くんすかー? ペンドラム……」

 

「ふんふん―ふーん……え? 何て? ……あーすみませんもう一回お願いします」

 

 この女。この女のせいである。この、人の話を碌に聞かない女のせいで丸三日、放置したショート動画よろしくおんなじ光景を繰り返されている次第である。

 よくよく考えたら元はと言えば先輩が……はぁ、過ぎたことをネチネチ言うのは不毛か……いや、やっぱり言う。言わなければならない(使命感)。

 

「だーかーら、いつ着きあがるんですかって話ですよ! 先輩いいましたよね! 『私の予測では……ペンドラムまでは二日とかからずに着きますよ! ここは歩いて路銀を節約しましょう!』って」

 

「そんなこと言いましたっけ? リアは記憶力が抜きん出ていますね!!」

 

「…………」

 

「……って! ほら! あの看板! あれたぶん目印ですよ目印! ほら! はやく! 走る!!」

 

 行ってしまった、クソ……あの太もも御神木め……なんだってこう運がいいんだ。進展があったらなんも言えないし……あー怒ってるよ大袈裟に……はいはいわかったから、もぅ……

 あの遠くの方で手足をぶんぶん振り回して催促しているのは、おれの先輩であり友人であり、そして唯一のパーティメンバーであるウィンレーン・リリン先輩だ。リリ先輩はおれより二個上の19歳で、5歳からの付き合いになる。とは言っても両親の仲が良かったからたまに遊んでたってだけで、実際に深く関わり出したのは3年前からだ。

 

 おれは重い腰を上げて、小走りで先輩に追いつく。

 

「ハァ……ハァ……で……結局着きそうなんですか?」

 

「良くぞ聞いてくださいました! どうやらですね……あっよそ見しない! 注目! ……こほん、看板さんによりますと、まぁ、後三時間くらいでつくんじゃないですか? 多分」

 

「自分ごとで考えましょうよ」

 

「うるさいです! 進んでりゃいつか着くんですから細かいことは気にするな! ですよ」

 

「……先輩のそう言うところが特に好きです」

 

「そうでしょうそうでしょう!」

 

 コイツ……無敵か? 

 

「それにしても、ペンドラムかぁ。久しぶりにデカい街ですね。先輩、着いたらまず何するんです? やっぱり美味いもん探しですか?」

 

 おれが尋ねると、リリ先輩は少しだけ真面目な顔つきになって、懐から革張りの手帳を取り出した。びっしりと何かの文字や図形が書き込まれているのが見える。

 

「いえ、まずは情報収集です。ペンドラムにはアレがあるらしいですからね。『波浪滉』の爪痕を残す大石碑が」

 

「……ああ、先輩が研究してるっていう、あの百年前におきた落ち年の? これで『はろうこう』って読むとか……頭いい人の気持ちは分かりませんね」

 

「なぜ? 私とリアは以心伝心仲良しこよしでしょう!」

 

「……そうですね」

 

「ええ! 話を戻すとこの波浪滉、私のの研究対象として、これ以上の素材はありません。過去の災厄を知ることは、未来の安寧な老後への第一歩ですからね!」

 

 老古学者。前世では人気なし金なし未来なし(クソ失礼)と散々な学問だが、先輩は本気だ。なんせこの世界では老古学がまさに超人気、あの魔法詠学と肩を並べるほどの地位を築いているのである。

 

 おれ自身は正直、その凄さってのがあんまりピンときていない。だけど、リリ先輩の話をまとめると、どうやらこの世界は大体百年に一度くらいの周期で『落ち年』と呼ばれるとんでもない厄災に見舞われるらしい。

 

 ある時は昨日まであった街が巨大な津波で丸ごと地図から消えたり……そんなデタラメな天変地異が、不定期に、でも確実にこの世界のどこかで起きている。そんな理不尽な環境で、過去の膨大な記録から災厄の傾向を割り出し、あらかじめ対策を立てられる唯一の学問──それが老古学なんだとか。

 

 魔法詠学が『今目の前の敵をどう倒すか』を教えるものだとしたら、老古学は『数十年後の死をどう回避するか』を導き出すための、涙ぐましい叡智の結晶らしい。

 

 まぁ、先輩がそこまで高尚な使命感に燃えているかは怪しいところだ。どうせ先輩のことだし、いつ来るか分からない『落ち年』を死ぬ気で警戒しているってよりかは、数年後確実にくる卒論を倒すためって感じか? 動機は薄っぺら極まりないが、彼女の知識は本物だ。実際それで命が助かまたこともあるし、文句は言えない。先輩との関係に言いたいことは山ほどあるが、

 

「はいはい、わかりましたよ。じゃあ着いたらまずは石碑見学ですね。……っと、見えてきましたよ、先輩」

 

 なだらかな丘を越えた先、視界が一気に開けた。

 

 そこには、これまで見てきた草原の単調さをあざ笑うかのような、巨大で混沌とした光景が広がっていた。

 

 海岸線に沿って、無秩序に、しかし力強く広がる石造りと木造が混在した建物群。港には大小さまざまな船がひしめき合い、数えきれないほどのマストが林立している。遠目にもわかるほど多様な建造物が重なり合い、街全体から熱気のようなものが立ち上っている気がした。

 

 大陸の玄関口、多民族の坩堝。

 

 港湾都市ペンドラム。

 

「うぉっ……でけぇ」

 

「ふふん、どうですリア! 私のナビゲートも捨てたもんじゃないでしょう!」

 

「はい、ギリギリ捨てずにすみましたね。よかった」

 

 減らず口を叩きながらも、おれは少し圧倒されていた。

 

 視界の先にあるのは、単なる「大きな港町」という言葉では片付けられない異様な熱気だ。

 

(でもここからじゃ豆粒だし……アレやるか!)

 

 おれは立ち止まり、軽く目を閉じて意識を切り替え、この世界の物理法則──神ですら例外なく守らなければならない『ルーティーン』を開始した。

 

 この世界には、神が定めた絶対の戦闘ルールがある。

 指を鳴らす、特定のステップを踏む……そんな「決められた手順(ルーティーン)」を完遂した瞬間にのみ発動する超常の力、それが『決め技』だ

 

 決め技『遠目』。右手の親指と人差し指を合わせ、綺麗な円(マル)を作り、そのマルの隙間から対象を覗き込むことで発動するこの決め技は、文字通り遠くの物を望遠することに特化した物である。

 

 他国への玄関口であるこの街には、タコほども人種が混ざっていると聞く。その言葉通り、建ち並ぶ家々の屋根の形、軒先に吊るされた宗教的なシンボル、その全てがバラバラで混沌としているのが遠目でもわかった。

 

「ねぇリア、さっき私が『昨日まであった街が地図から消える』と言ったのを覚えてますか?」

 

 リリ先輩は、賑わう市場の喧騒を見下ろしながら、少し真面目なトーンで言った。

 

「実は、ここペンドラムがまさにそうなんです。百数年前、落ち年の一つである大津波『波浪滉』が起きた時、街の大部分が水に攫われました。今私たちが歩いているこの道も、当時は海の底だったんですよ」

 

「……マジですか。そんな風には見えませんね」

 

「大マジです。その後、治水技術が進んで復興したのが今の姿だそうです。そしてどうやら、ここには当時の教訓を刻んだ大きな石碑があるらしいのです。老古学者の卵としては、それを見逃すわけにはいきません!」

 

 そう言って笑う彼女は、やはりどこか抜けているようにみえる。けどその実、この世界の「底知れなさ」を誰よりも見据えている……そんな気がした。

 

 おれは『遠目』を解除し、軽く指先を振る。視界が元の距離感に戻ると、磯の香りが混じった生温かい風が鼻先をくすぐった。

 

「さあ、行きましょうリア! ぐずぐずしていると日が暮れて、入町審査の列が長くなってしまいますよ!」

 

 リリ先輩はそう言うなり、手にした杖を軽快に鳴らして坂道を駆け下り始めた。

 

「そんなに急がんでも……先輩、転んでもおんぶしませんからね、重いんだから先輩の荷物」

 

 重い荷物を背負い直し、おれも彼女の後に続く。

 

 坂を下るにつれ、先ほどまでジオラマのように見えていた街が、急速に巨大な実体を持って迫ってきた。石造りの堅牢な防壁、その向こうにひしめき合う色とりどりの屋根。そして、港に停泊する無数の船が立てるマストが、まるで針葉樹の森のように空を突き刺している。

 

 坂の終着点。そこには、街の威容を象徴するような巨大な正門が待ち構えていた。

 

 門の周辺には、入国を待つ旅人や商人の馬車で溢れ返っている。タコほども人種が混ざっているという噂は本当らしく、並んでいる連中の肌の色も、喋っている言語も、服のボロさも千差万別だ。

 

 だが、その賑わいの中には、どこか落ち着かない「熱」が孕んでいた。荷物を見定める役人の目が、必要以上に鋭い。

 

(なんだ? ここはよそ者歓迎って感じでデカくなったんじゃないのか? 今更排他主義ってのも変じゃね?)

 

「……ねぇ先輩。なんか、街の空気がピリついてません?」

 

「ですね……まぁやましいこともありませんし、どっしり構えてればいいんですよこういう時は。変なことしたら逆に……です!」

 

 リリ先輩は歩みを止めず、列の先にある門の奥を見据えた。

 

 門番たちの横には、国や軍の紋章ではない、独特の外套を纏った一団が控えている。鋭い眼光で群衆を監視し、騒ぎが起きれば驚くべき速さで割って入っている。

 

 ちょうどおれたちの数人前、入町審査を受けていた一人の女が、突然顔を強張らせて駆け出そうとした。

「あ、待ちなさい! 私はただ──」

 女が懐から何か……知らんけどたぶんこの街で禁じられている密輸品か何かを懐に隠そうとした、その刹那だった。

 

 横に控えていた武装集団の一人が、まるで見えていたかのように動いた。

 無駄な予備動作が一切ない。外套を翻したかと思うと、女が地面を蹴るより早くその背後に回り込み、音もなく女の首筋に手刀を当てていた。

「……規律違反だ。連行しろ」

 一切の感情を排した声。女は悲鳴を上げる間もなく、崩れ落ちるようにその場に組み伏せられた。周囲の群衆が一瞬で静まり返り、冷たい沈黙が広がる。スレイマンの面々は、落ちた何かを事務的に回収すると、女を「物」のように引きずって門の奥へと消えていった。

 

 不審者が不審者を取り締まってる……

 

「あれが、ペンドラム独自の武装集団『スレイマン』ですか」

 

「あれが自警団ですか? なんかテロリストみたいな見た目ですね」

 

「なんでそう余計なことばっか言うんですか! ほら! こっち見ましたよ今! 絡まれたらリアのせいですからね!」

 

(先輩が言えたことじゃないでしょ……)

 

 リリ先輩の知識によると、どうやらあの集団は「スレイマン」と呼ばれる国に依存せず、この混沌とした街の治安を一手に引き受ける「自警団」らしい。いや騎士はどうしたんだよ。

 

(にしてもそんな集団が少なくない数人員を割いて警備に当たるなんて、なんかあったのか? ペンドラム。やだなぁ……ばーっと石碑見てあと観光! みたいなライトな旅を予定してたのに……厄ネタの予感がする……)

 

 ようやくおれたちの番が回ってきたころには、あたりはもう闇だった。簡素な手続きを終えて門をくぐる。

 

 一歩踏み出した瞬間、押し寄せるスパイスの焦げた匂い、家々の軒先にクソほど吊るされた宗教的シンボル、そして、多民族の坩堝(るつぼ)が吐き出す圧倒的な喧騒。

 

 やっぱ新しい街に入った時のこの感覚は何度体験してもいいモンだな。

 

「……着きましたね。港湾都市ペンドラム」

 

 おれはもう一度、腰の得物の感触を確かめた。

 

 リリ先輩の目指す「落ち年の大石碑」 は、この喧騒のさらに奥にある。

 

 おれたちの旅が、本当の意味でここから始まるのだと、肌を撫でる潮風が告げているようだった………………けどこの時間から宿取れんのか?

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