ラインハルト転生   作:パワーワード大好きおじさん

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なんか続いた。


02. 雷神の妹

グラン歴 759年

 

 

フリージ公国の領地内、人里離れた森の奥深くに、一人の少年が立っていた。

 

十歳という年齢に相応しからぬ、凛とした佇まい。黒に近い青色の髪を寒風になびかせ、その鋭い眼光は、遥か彼方の空――「運命」という名の不可視の壁を見据えている。

 

ラインハルト。

かつて悲劇の駒として盤上に置かれていた男は、今、自らの意思でその歩みを踏み出した。

 

 

 

オッス! オラ、ラインハルト! いっちょやってみっか!

 

カラげんきを出してみるが、別に威力が2倍になったりはしない。

さてどうするか……とりあえず魔道の修練は順調だが……

 

運命への反逆を誓ったあの日。

あれから、前世らしき人格やら知識やらは、良い感じに自分に統合されたようだ。

いささか軽薄になった自覚はあるが許容範囲だろう。外面を取り繕うのも慣れたもの。

 

目の前には、立ち並ぶ大樹の幹。

その表面には、幾層にも重なる焦げ跡が刻まれている。オレは静かに右手を掲げた。

呪文を紡ぐ必要はない。理論は、記憶の中に完成されている。

オレがすべきことは、幼い身体に眠る魔力の奔流を、かつての「雷神」と呼ばれた全盛期の感覚にまで強引に引き上げることだ。

 

「……来い」

 

短く、硬質な呟き。瞬時、周囲の空気が重く帯電し、指先から青白い火花が爆ぜた。

大気中の魔力を、肺に、血管に、神経の末端にまで行き渡らせる。

常人であれば発狂しかねぬほどの高密度な魔力負荷。

しかし、オレは奥歯を噛み締め、その苦痛すらも些事だと切り捨てた。

 

刹那、森の静寂が引き裂かれた。

放たれたのは、初級の雷魔法。しかし、練り上げられた魔力は二条の螺旋を描き、猛烈な速度で大樹を貫く。いまのはダイムサンダではない、サンダーだ。

 

雷鳴と共に、巨大な幹が中央から消し飛ぶ。

だが、オレの動きは止まらない。

着弾の衝撃を待たず、鋭い踏み込みを見せ、即座に次の術式を編み上げた。

 

かつての記憶にある「ターン制」という概念。

敵が動き、自分が動く。その悠長なルールを、オレは自身の練度によって物理的に破壊しようとしていた。もちろん、実際の時間の流れにはそんなものはないだろう。

しかし、8秒という言葉を思い出す。

肝心なのは、瞬きする間も与えず、視界に入る全ての脅威を殲滅すること。

そのために、幼い身体に鞭打ち、魔力の回路を極限まで拡張し続けるのだ。

 

「……足りないな」

 

焦げた大地の臭いの中で、オレは低く吐き捨てた。

呼吸は荒く、指先は魔力の過負荷で痺れている。なんちゃってダイムサンダは完成した。

だが、我が家に伝わる本物の魔道書を理想通りに扱うためには、まだ力が足りない。

 

この世界には、いずれ自分を「捕獲」しようとする者たちが現れる。

自分から武器を奪い、裸同然にして晒し者にする軍勢。

兄を討つために、疑いもなく剣を振るう愛すべき妹。

 

それらすべてを「拒絶」するために。

オレは、自分を英雄に祭り上げようとする周囲の期待も、歴史の修正力も、そして自分を操作しようとする見えざる指先さえも焼き尽くすための、絶対的な力を求めていた。

 

「オルエン……」

 

ふと、屋敷に残してきた妹の名を呟く。

その声には、執着も、あるいはかつての悔恨も混ざっていた。

だが、次に顔を上げたとき、オレの表情はどこかお気楽な「現在のラインハルト」のそれへと戻っていた。まあ、なんとかするしかないんだしな。

 

 

 

「ラインハルト様! このような場所で何を……!」

 

森の静寂を切り裂くように、慌てふためいた従者たちの声が響き渡る。

彼らは息を切らせ、主の無事を確認すると、安堵と、それ以上に「神童」と名高い少年の突飛な行動に対する困惑を露わにした。

 

「お一人で外に出られては困ります。ご家族の方々も、貴方様に何かあればと肝を冷やしておいでなのです」

 

「左様です。魔道の修行もほどほどになさいませんと……」

 

続く小言の数々。彼らにとって、ラインハルトは「家名を担うべき貴公子」であり、守られるべき庇護の対象に過ぎない。その内側に、未来の戦場を焼き尽くす雷神の魂と、運命への凄まじい反逆心が宿っているなどとは、夢にも思っていないのだ。

 

「……済まない。少し、空気が吸いたかっただけだ」

 

ラインハルトは、先ほどまで魔力を荒れ狂わせていた右手を静かに降ろし、整った顔立ちに柔らかな微笑を浮かべた。

それは、非の打ち所がない「完璧な貴族の子弟」の仮面であった。

 

従者の一人が、少年の周囲に散らばる抉られた大地や、不自然に折れた巨木に目を向け、怪訝そうに眉をひそめる。しかし、ラインハルトはそれを見越したかのように、さりげなくその視線を遮り、歩み寄った。

 

「屋敷へ戻ろう。オルエンも待っているだろうからね」

 

その一言で、従者たちの表情は一気に和らいだ。妹思いの優しい兄。

その美談こそが、今の彼が周囲を欺き、牙を研ぐために必要な隠れ蓑であった。

 

石造りの重厚な屋敷へと続く道中。

ラインハルトは従者たちの後ろを馬に乗りながら、内心で冷徹な計算を繰り返していた。

 

礼儀正しく振る舞い、期待される役割を完璧に演じる。

血筋が持つ権力を最大限に利用し、軍部での地位を確固たるものにする。

すべては、あの「チクチク」という屈辱の未来を物理的に粉砕するための地固め。

 

屋敷の門が見えてくる。

その入り口で、兄の帰りを待ちわびていたであろう幼いオルエンの姿が、陽光に照らされて浮かび上がった。

 

「おにいさまー!」

 

その高く澄んだ声が、屋敷の重厚な門扉に反響する。

侍女の腕の中で、千切れんばかりに小さな手を振るオルエン。

陽光に透ける柔らかな髪と、汚れを知らぬ無垢な瞳。

ラインハルトが歩み寄ると、彼女は精一杯に身体を乗り出し、小さな両腕を兄へと伸ばした。

 

彼女が自分を斬る「聖なる剣」を手にするその日まで、まだ時間は十分にある。

だが、同時にそのカウントダウンは、今この瞬間も刻まれているのだ。

 

 

オレは馬から降りるとオルエンに近づき、自然な動作で抱き上げた。

腕の中に伝わる、驚くほど軽くて柔らかな、そして確かな生命の鼓動。可愛い。

赤子の頃から片時も離れず、過保護なまでに慈しみ、構い倒してきた月日が、彼女をこれ以上ないほど甘えん坊な妹へと育て上げてしまったかもしれない。すごく可愛い。

 

「ただいま、オルエン。いい子にしていたかな」

 

口をついて出る言葉は、どこまでも優しく、穏やかだ。

前世の記憶にある、厳格な騎士としてのオレはそこにはない。

 

表向き、オレはフリージ公国の神童として類まれなる才能を遺憾なく発揮していた。

周囲の期待を裏切らぬよう、礼儀正しく、品行方正に。

だが、それが出来たのはこの子のおかげなのだ。

 

赤子のぬくもりは、時として強力な癒しとなって働く。

当時のオレは極度のストレスで、この子にすがっていた。

この温もりを知ってしまった今、かつての自分が彼女を戦場へ送り出し、敵対し、あまつさえ「稼ぎ」の道具にされる未来など、断固として受け入れられるはずがなかった。

 

そんなことになったら悲しみで爆発して周囲全てを巻き込んで死んでやる。本気だぞ?

 

 

オルエンはもう三歳になった。

「運命への反逆」を誓ったあの日から、すでに三年の月日が流れている。

そして先日、北の国シレジアで内乱が発生したという報告を聞いた。

 

オレは知っている。

 

あと一年もすれば、反逆者とされたシグルド軍がグランベルに侵攻してくることを。

バーハラの悲劇が起きて、やがて王国が帝国となり、フリージは帝国側として、これから数々の悲劇に加担していくことを。

そしていずれ、自分がその最前線で「壁」として立ちはだかる運命にあることを。

 

オレは知っている。

 

 

「おにいさま、きょうもおべんきょう? オルエン、さみしかったの」

 

衣類をぎゅっと掴み、胸元に顔を埋めてくる妹。

オレはその背を優しく撫でながら、心の中で彼女に語りかける。

 

(オルエンはかわいいな、私の宝物だ……)

 

いやマジで可愛い。お前には「聖なる剣」なんて絶対に持たせないからな。

経験値稼ぎなんて縛って、ライブ感を楽しんで生きるんだぞ? 闘技場も危ないからダメ!

 

しかし、本当にどうすっかなあ。我が家は武門だから将来的に軍と関わるのは避けられないだろ、常識的に考えて。深窓の令嬢として育てるか? 親と教育の方針でもめそうだ。

この妹、けっこう活発だから抑圧するのもかわいそうだし。でも、戦場に出すのもなぁ。

 

オルエンが甘えん坊に育ったのは、計算もあったかもしれない。

だが、その愛おしさは、もはや計算を遥かに超えた、オレ自身の魂の叫びであった。

歴史の流れは止められない。ならば、せめて。

 

 

その時、ラインハルトに電流走る。

 

 

戦いから無理矢理引き離そうとするんじゃない、逆に考えるんだ。

 

「戦わせちゃってもいいさ」と考えるんだ。

 

 

ラインハルトの灰色の脳細胞がロジックを組み立てていく。

 

重要なのはオルエンが剣を手にしないこと、つまり剣を使わないようにすればいい。

オルエンはダイムサンダを使いこなすマージナイトとして軍にいた。

つまり、魔道の才能はあるのだ。

正直、ユニットの能力としては平凡だったが、ダイムサンダが凶悪だった。

 

ダイムサンダの予備を盗むために、自分が取り囲まれた忌まわしい記憶がよみがえる。

ちがう、そうじゃない。今は妹の将来を考えろ。なんとか記憶を振り払う。

 

オルエンには剣を取らせず、魔道一本に傾注させればいいのだ。

 

 

ファイアーエムブレム名物……半ズボン魔道士! これだ!!

 

 

ミニスカートや深いスリットの入った衣装なんてオルエンにはダメだ。許しません。

そうだ、いっそのこと男装でもさせれば変な虫も寄って来なくて良いかな?

剣を手に取らせず、魔道に才能を集中させ、戦う力を得て、男も寄ってこない。

一石何鳥になるんだ? もうこれしか考えられない。

 

一応、深窓の令嬢ルートも確保しておけば完璧だろう。

サンキュー! ジョースター卿!

 

「……フッ、我ながら恐ろしい冴えだな」

 

ラインハルトの灰色の脳細胞はリトルグレイじみた結論に至った。

 

 

「おにいさま?」

 

抱き抱えられたオルエンが不思議そうにラインハルトを見上げる。

兄が口にした言葉や、その考えてることは、幼いオルエンにはわからない。

しかし、その瞳には絶対の信頼と親愛が宿っていたのだった。

 

 

 

 

グラン歴 777年

 

 

ひとつの戦いが終わりを告げようとする寸前の、最後の小休止の時。

緊張をほぐそうとしたのか、同性の仲間が雑談混じりにオルエンに問いかける。

 

 

「……戦う術を持たなかった私、ですか」

 

オルエンはわずかに視線を落とし、鎧をそっとなでた。

彼女の指先が、騎士としての手袋越しにその鎧の硬質な感触を確かめる。

オルエンは自嘲気味に、しかしどこか遠くを見るような瞳で言葉を紡ぐ。

 

「おそらく、お兄様の庇護の下で、ただフリージの貴族としての形を整え、穏やかな日々を過ごしていたのでしょう。何不自由なく、けれど、この世界の本当の姿を知ることもなく。マンスターで何が行われ、人々がどのような悲鳴を上げているか……。壁の向こう側の惨劇に気づかぬまま、刺繍を刺し、花を愛でるだけの娘であったはずです」

 

オルエンの表情に、冷たい夜風が吹き抜ける。

彼女は姉とも慕う人物から託された「聖なる剣」の柄に手を置いた。

 

「それは、とても幸福なことだったのかもしれません。ですが、今の私は知ってしまった。この剣を手にし、戦場に立ったからこそ見えた景色があります。もし私が無知な貴族の令嬢のままだったなら……今の私が見れば、きっとその幼さに絶望したことでしょう。お兄様に守られるだけの存在であることを、今の私は、誇りとは思えないのです」

 

 

わざわざ剣を使わなくても、魔道士としてやっていくのもよかったんじゃない?

ダイムサンダすごいじゃない。

仲間はオルエンが携える魔道書を見ながら言う。

 

 

オルエンは「ダイムサンダ」という言葉を聞いた瞬間、わずかに眉を動かした。

それは彼女にとって、単なる強力な魔道書以上の意味を持つものだからだ。

 

彼女は視線を鎧から、自身の腰に下げられた魔道書へと移す。

 

「魔道のみで、大成……。確かに、フリージの血を引く者として、魔道の深淵を探求する道もあったでしょう。お兄様から授かったこのダイムサンダがあれば、魔道士として軍に貢献することも、あるいは賢者への道を歩むことも、不可能ではなかったかもしれません」

 

彼女の声は落ち着いているが、剣の柄を握る指先には力がこもっている。

 

「けれど、私にとって剣を帯びるということは、自らの足で戦場に立ち、自らの意思で進むべき道を選ぶという決意の象徴なのです。魔道は遠くから敵を討つ力。ですが、剣は……この手に伝わる感触は、私が犯す罪も、守るべき命の重みも、より直接的に私に突きつけます」

 

オルエンは一度言葉を切り、夜の闇に沈むマンスターの路地の先を見据えた。

 

「ダイムサンダの雷光は、あまりにも強大で、時に私自身の未熟さを覆い隠してしまいます。もし私が魔道のみに頼っていたなら、私は自分の力を過信し、今よりも傲慢で、人の痛みに疎い人間になっていたに違いありません。剣を握り、泥にまみれる距離で戦うことを選んだからこそ、私は……お兄様の背中を追うだけの子供から、一人の人間になれたのだと思っています」

 

 

遠くを見つめながら言うオルエンの瞳に、仲間は納得したようにうなずいた。

 

 

「今は、お兄様から頂いたこの鎧と、この剣と魔法を共に使って戦いを……」

 

カーン!カーン!カーン!

 

オルエンの言葉を、あわただしく鳴り響く鐘の音が遮った。

どうやら、夜間警戒中だった見張りが敵の夜襲を察知したようだ。

仲間がオルエンに声をかけ、周囲を警戒しながら駆け出していく。

 

オルエンも素早く、その身を鎧へとすべりこませる。

フリージが誇るバロンの重装甲冑に、ラインハルトが色々と手を加えた一品だ。

オルエンに宿された二条の雷光によって異形の駆動音を上げ始める。

 

オルエンがその手に握るは、フリージの至宝「ダイムサンダ」。

本来は騎馬の上から放たれるべきその連撃の魔力は、今や彼女を包む鈍色の重装甲を強制駆動させるための脈動へと変換されていた。

 

厚い胸当ての刻印が青白く発光し、装甲の隙間から溢れ出した余剰エネルギーが、火花となって周囲の石畳を焦がす。バロンの重装甲冑は、人の力では歩むことさえ困難な質量の塊だが、ダイムサンダの魔力はそれを羽毛のように軽く、風のように鋭く加速させた。

 

一歩。踏み出した足甲から激しい放電が走り、背後の空気が熱膨張によって爆ぜる。

 

「……行きます!」

 

鋭い音と共に、巨大な盾を構えたままの彼女の体が、疾風のような速度で前方へと射出された。

 

重装鎧の質量を維持したまま、風の速度で敵へと肉薄する。

それは回避不能の質量兵器に等しい。

一撃。ダイムサンダの第一撃が、鎧の右腕部に過剰なまでの電荷を集中させる。

磁性によって加速された斬撃が、敵の防御を強引に切り裂く。

続けざまに、第二撃。反動を利用して旋回した装甲が、電磁的な斥力によってさらに速度を増し、追撃の閃光となって敵の胴を真っ二つに薙ぎ払う。

 

静止した彼女の足元からは、過熱した鎧が発する蒸気が白く立ち上る。

ダイムサンダの双雷は、今なお装甲の表面を細い蛇のようにのたうち回り、主の次なる駆動を待ちわびていた。




ラインハルトは冒頭の訓練で、魔道書を使った流星剣のようなスキルは出来ないか試行錯誤しています。目指せダイムサンダ10連撃。頭悪いですね。

オルエンの鎧は、なんやかんやあってラインハルトの手により改造され、電磁誘導による関節駆動や魔力放電による反動推進機構を備えるようになってます。なぜか思い通りには育たなかった妹に対する、彼のせめてもの愛ですね。頭悪いですね。

メタ的なオルエンのステータスとしては、クラスはバロン。
連続・突撃・待ち伏せ・大盾のスキルを持ち、移動力もブーツを使用したパラディン並みに動けます。この妹は再行動もするよ!
なぜか持っている聖なる剣で毎ターン自動回復するし、もちろんダイムサンダも撃てる。
頭悪いですね。
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