ラインハルト転生   作:パワーワード大好きおじさん

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みなさまのお気に入りや感想で続きました。


03. in the whole wide world

グラン歴 ×××年

 

 

あいつのことか。ああ、知ってる。

話せば長い……そう、古い話だ。

 

しってるか?

英雄は3つに分けられる。

 

危険をかえりみず、自分の意思をつらぬくヤツ。

 

世界に危機をもたらす敵と戦い、打ち勝つヤツ。

 

人々に希望を見せ、救いや恩恵を与えて導くヤツ。

 

この3つだ。

 

ヤツは ――確かに英雄だった。

 

 

 

その老人は、かつて『最強』と呼ばれた傭兵。

『彼』に雇われ、『彼』を最後の雇い主と決めていた律儀な男。

私が追う『ある人物』の元仲間……いや、今でも仲間なのだろう。

 

 

かつて、世界を巻き込んだ戦争があった。

 

 

―― 『聖戦』

 

 

その戦場に軌跡を描き、歴史から消えた英雄がいた。

畏怖と敬意の狭間で生きた、一人の騎士。

私は『彼』を追っている。

 

そして ――

 

『最強』の言葉で物語の幕は上がる。

 

 

あれは雪の降る寒い日だった。

 

 

 

 

グラン歴 761年

 

 

バーハラの悲劇が夏に終わり、その半年後。

 

凍てつくような冬の風が、フリージ城の回廊を吹き抜ける。

窓の外には、少し前の熱狂が嘘のように静まり返った雪景色が広がっていた。

 

ラインハルトは、磨き上げられた軍靴の音を響かせ、謁見の間へと歩を進める。その足取りは確かなものだったが、胸中には冷徹な計算が渦巻いていた。

 

(……史実通りだな。いや、この世界の「歴史」通りと言うべきか)

 

彼は半分がこの世界の人間ではない。

かつて別の世界で、シグルドの悲劇も、その後に続く暗黒時代の到来も、ゲームという名の記録として知っていた転生者だった。

だが、知識があるからといって、すべてを覆せるわけではない。

 

半年前のバーハラ。

あの日、ラインハルトの父も、当主のレプトールと共にアルヴィスの謀略に巻き込まれ、露と消えた。表向きは反逆者掃討の戦死。しかし、実態は口封じを含めた粛清に他ならない。

ラインハルトは十二歳の若さで家を継ぐこととなった。

 

(父上の死すら、大きな流れの一部に過ぎない。……特に嫌いな父ではなかったが、何も出来ずに送り出してしまった。オルエン以外には心が動かされることのないオレは、結局は冷酷ってことなんだよな……仕方ないじゃん)

 

重厚な扉が開かれる。玉座に座るのは、次代の当主ブルーム。

父を死に追いやった元凶の一翼を担う一族の男だ。

ラインハルトは騎士としての完璧な所作で膝をつき、深く頭を垂れた。

 

「フリージのラインハルト。これよりは閣下を新たな主とし、忠誠を誓います。我が剣は主の盾となり、我が身は主の矛とならん。我が剣に宿るは天を裂く迅雷。悪意がフリージに届くより早く、私は光となって敵を討ちましょう。」

 

感情を排した声が、冷えた大理石に反響する。

内心ではあくびが出るような思いを抱えながらも、その表情には一片の曇りもない。

ただ忠実な「剣」としての役割を全うする姿勢を見せた。

 

「よかろう。その忠誠、行動で示せ」

 

ブルームは、満足げに鼻を鳴らした。

ラインハルトという類まれな魔道騎士を配下に置くことは、権力の象徴そのものだ。

 

「なおるがいい……近々、私は王都バーハラへ向かう。王への変わらぬ恭順を誓うためだ。ラインハルト、貴公も供をせよ。陛下の御前で、フリージに比類なき騎士ありと見せつけるのだ」

 

ほんの瞬きの間、返答が遅れる。

 

「御意のままに。閣下の御身、このラインハルトが命に代えてもお守りいたします」

 

再び頭を垂れるラインハルトの瞳が、静かに閉じられた。

 

(王都バーハラ、か。あの呪われた地へ赴くことになるなんてな……)

 

 

 

 

はい、ラインハルトです! 何でこうなったか、明日まで考えといてください。

そしたら何かが見えてくるはずです。……オレが考えるんだよ。何も見えねェ。

 

馬に乗り家路につく途中、ゆっくりと歩きながら考える。

 

そもそも、いくら優秀だからといって、家を継いだばかりの十二歳にさせることか?

護衛ならフリージが誇るゲルプリッターの精鋭がいるだろうに。

 

我が新当主、ブルームについて少し考えてみる。

 

父親のレプトールは、権力欲と名誉欲の強い、非常に貴族らしい性格で、結局はそれを利用される形でアルヴィスに謀られて殺されてしまった。

対して息子であるブルームは、恐怖と保身が強い、臆病な性格を持っていると言える。

王への恭順と言っていたが、実際はアルヴィスへの忠誠を誓いに行くのだろう。

アルヴィスへ下るのも、すべては己の地位を揺るがせぬための足掻きに見える。

 

かつてレプトールが納めていた頃のフリージ家には、まだ貴族としての誇りがあった。

しかし今の当主にあるのは権力への執着のみだ……と言うのは言い過ぎかな?

転生前の記憶をたどってみても決して無能な人物ではない。

北トラキアの支配では民に圧政をしいて弾圧などもしたが、どこか人間くさい。

 

そういえば、妹のティルテュがバーハラの悲劇を生き延びて連れ戻された話を聞いた。

嫁のヒルダが、ティルテュをいびり殺すっていう設定はマジなのか?

たしかに美人だが、険のある顔をしたレズのサディストみたいな女だったわ……こわ。

妹を守らないのは兄としては減点失格だな、ブルーム。

 

イシュタルの姿は遠目に見た。

オルエンとは同じくらいの年齢で、すでに存在は把握していたが、まだ接点がない。

美しさの片鱗が見える可愛らしい姿をしていて、オルエンと互角といったところか。

 

話を戻そう。

そんな男が、優秀な若輩の騎士を連れていく理由は、周囲への牽制と……他には……

オレ自身のアルヴィスへの謁見?

うわぁ、なんかありそうだ……いや、さすがにないだろ……自意識過剰だよな。

 

 

パカパカと馬を歩かせていると、屋敷の門前でオルエンが手を振っているのが見えた。

馬から降りてオルエンに近づき頭をなでる。え?髪型が乱れるから止めて欲しい?

それじゃあ、抱っこだ。恥ずかしがることないじゃないか。あれ、ちょっと重くなったか?

 

オルエンがバシバシとオレの頭を叩くのを、笑いながら抱きしめる。

妹のぬくもりが沈んだ心や疲れた体にスーッと効いて……これは……ありがたい……。

 

オルエンは五歳になった。時の歯車は止まることを知らない。

彼女はかなり活発に育ってきていて、おてんばといえるくらい元気に駆け回ってる。

やがて、貴族令嬢としての教育も本格的になるだろう。

彼女がどのような将来を選びとるかはわからない。だから、せめて今は自由に。

 

お兄ちゃんは男装半ズボン魔道士推しだぞ!

 

抱きあげた妹の重さを感じながら、未来に想いを馳せるのだった。

あっ、コラ!前髪を引っ張るのは止めなさい!そこは未来が怪しいんだから!

 

 

 

 

バーハラの悲劇から半年。かつて戦火に包まれた王都は、いまや新生グランベルの象徴として、異様なまでの熱気と静謐が同居する都市へと変貌を遂げていた。

 

シグルド軍との決戦で傷ついた市街地は、アルヴィスが命じた迅速な戦後復興により、見違えるほどの輝きを取り戻している。崩れた石壁は白亜の石材で積み直され、大通りには王国の威信を示すかのように、聖戦士たちの紋章を象った旗が隙間なく翻っていた。

 

中央広場に集う民衆の表情に、半年前の悲劇を悼む影はない。

彼らの目に宿っているのは、終わりの見えない諸公国の内乱を平定し、真の平和をもたらした「救世主」への熱狂的なまでの崇拝である。人々にとって、シグルドは「国王暗殺の逆賊」であり、クルト王子を失った絶望の淵から自分たちを引き上げたのは、他でもないアルヴィスであった。

 

特筆すべきは、これまで地方貴族の圧政に苦しんでいた平民たちの支持だ。

アルヴィスは腐敗した旧貴族の特権を次々と剥奪し、能力ある者を登用する改革を断行すること約束した。

すでにいくらか成されたそれは、民衆にとって彼が古い世界の垢を焼き払う「浄化の炎」そのものであると認識させた。

 

 

バーハラ城、この国の栄華を象徴した広間の空気は、氷のように張り詰めている。

 

若きラインハルトは、他の騎士たちに混じりブルームの後方に控えていた。

弱冠十二歳。少年特有の細さを残しながらも、その佇まいには歴戦の将軍にも劣らぬ静謐な存在感が漂う。周囲の近衛兵たちの視線が、フリージに現れた「早熟の天才」へと注がれるのがわかった。だが、そんな雰囲気もすぐに霧散する。

 

謁見の間の最奥、玉座の傍ら。

病床にあるアズムール王に代わり、政務のすべてを掌中に収める男 ――アルヴィスがそこに立っていた。

 

赤く燃えるような髪と、すべてを見透かすような琥珀色の瞳。

彼はまだ皇帝の座には就いていないが、その背負う覇気はすでに一国の主としての器を越え、大陸全土を支配する者のそれであった。

 

(……あれが、アルヴィス。歴史の転換点に立つ男か)

 

ラインハルトは、視線を床に落としたまま思考を巡らせる。

転生者としての知識が、目前の男の複雑な内面を告げていた。正義感と野心、そして血筋への呪縛。彼は今、この大陸に「平等な楽園」を築こうと本気で信じているはずだ。

その足元が、ロプトの闇によって浸食されているとも知らずに。

 

ブルームが、仰々しく膝をつき、追従の言葉を並べ立てる。

 

「アルヴィス卿、我が領地における不穏分子の掃討、滞りなく完了いたしました。今後もフリージ家は、卿の掲げられる新秩序の礎となるべく、忠誠を尽くす所存」

 

アルヴィスは、ブルームの卑屈な言葉を、感情の読み取れない無表情で受け流す。

その視線は、ブルームを通り越し、背後に立ち並ぶ騎士たちへとわずかに向けられる。

 

「フリージのその言葉、しかと受け取った。病床の王もお喜びになることだろう。不幸な行き違いなどはあったが、共にグランベルをもりたてて参ろうぞ」

 

アルヴィスの声が低く響いて耳に残った。

 

その後は言葉少なく、謁見の時が無事に終わる。

こういうものは根回しが済んでおり、単なる立場表明と意思確認の作業なのだ。

何日かを王都で過ごしたあと、フリージへの帰路についたのだった。

 

 

 

 

どうしてこうなった?

 

オレは王都からの帰り道に、暗黒教団の司祭とその手勢たちに囲まれていた。

 

 

ぬわああん疲れたもおおおん!などと脳内で騒ぎながらアルヴィスのヤバさを考えていた時だ。

不自然な吹雪に見舞われ、気づけば一人分断されて、盗賊のような連中に囲まれていた。

 

「何奴だ、フリージに仇なす者共か!」

 

鋭く問いただす声に答える者はいない。

返答の代わりに、森の闇が物理的な質量を持って這い出してきた。

 

連中の背後から現れたのは、顔を不気味な髑髏の仮面で覆ったロプト教団の魔道士たちだ。

彼らは一切の言葉を発さず、呪文の詠唱さえも押し殺した唸り声に変えている。

まあ、怪しい格好で丸わかりなんだけどね。これで暗黒教団以外の連中だったら、そっちの方が驚きだ。

 

次の瞬間、盗賊のような風体をした男たちが次々と襲いかかって来た。

 

一人目の斬撃を、馬を寄せて華麗に避け、剣を抜き放ち切り払う。

二人目が襲いかかってくる前に、自分から馬を飛び降りて屈み、その姿勢から勢いをつけての突きを食らわせる。次だ!

三人目は逃げる馬が後ろ足での全力キックをお見舞いした! ナイスゥ黒王号!(白馬です) 

 

とうぞくくん、ふっとばされた! そのまま逃げててくれ黒王号!(白馬)

 

弓を射てこようとする連中は雷の魔法で薙ぎ払っていく。

今のはダイムサンダではない、サンダーだ!

 

魔道士たちの魔法は持ち前の魔力でなんとか耐えた。

 

「死に損ないの逆賊か!貴公らのような輩が、この平穏を乱すことは許されん!」

 

オレは大声をあげて鋭い眼光で周囲を射抜く。少しでも怯んで、隙が出来てくれれば……

しかし、教団の狙いは単なる排除ではなかった。

魔道士たちの中心に立つ男が、杖をかかげて発動する。

 

これは……サイレスだとッ!?

おまえ、それはおまえ……ダメだろう……! レギュレーション違反だ!! 異議ありっ!!

通るかっ……!こんなもん……!

 

 

杖を持った男が進み出て低く濁った声で呟く。

 

「……見事な器だ。若く、力強く、魔力との親和性も高い。我らが主が、お主の体を所望している。素体としてこれ以上のものはないだろう、大人しく捕まれば苦しみはないぞ」

 

お前のあるじホモかよぉ!(驚愕)などと声をあげて返しそうになるが、まずい。

魔法が封じられるだけではなく声も出せなくなるのか。これでは助けも呼べない。

 

本格的にまずいぞこれは……!

 

襲撃は暗殺ではなく、生け捕りを目的とした組織的な捕獲だった。

暗黒司祭の主、おそらくマンフロイ大司教が、器だの素体だの言い出すことから連想するのは……

 

 

『十二魔将』

 

 

この世界の歴史では、かつてグラン共和国を滅亡させてロプト帝国成立を導いた「十二魔将の乱」において語られる、ガレ率いるロプト教団の伝説の戦士達。

ゲームの知識では、物語の終盤に出てくる中ボス的な扱いで、特に説明もなかったが、実際は、その伝説にあやかって作りだされた優れた傀儡の戦士たちだったらしい。

オレが、それの素材にされる?

 

意思は無く、ただ命令を受けて戦うだけの戦闘人形のような存在。

そんな姿に成り果てて、万が一にもオルエンと対峙することになったら……

 

飛んでくる弓矢を切り捨て、暗黒魔法をかわし、死にもの狂いで剣をふるう。

周囲を取り囲まれていく状況に、例の「チクチク」が脳裏をよぎるがすぐに隅に追いやる。

馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!

 

やらせはせん!やらせはせんぞ!!……タスケテー!!

 

なんとか隙を作り出し、手薄になった一角を突破して駆け出す。

目の前の林をかき分け、長い森を抜けると、そこは雪で白く染まる廃村だった。

廃屋に取り囲まれた広場に躍り出る。しまった、追い込まれたか……!?

 

 

暗黒魔法が地面に着弾し、体が勢いよく吹き飛ばされる。

すぐさま起き上がるが、手足が鉛のように重くなり、視界が赤く染まっていく。

暗黒教団の魔道士たちは、まるで獲物を追い詰める蜘蛛のように、一定の距離を保ったまま包囲網を縮めてくる。

 

先ほどの敵が次々と追いついて来て、周囲を取り囲んだ。

 

こりゃ、覚悟を決めたほうがいいかな……チクチクよりもひどいことになりそうだ。

 

オルエン……そうなるくらいなら、オレは……

 

 

 

あわや絶体絶命の危機かと思われた、その時。

 

廃屋からフラリと、隻腕の男が気配を感じさせずに歩み出て来た。

 

 

 

誰もが男のことを不審に思い視線を注ぐ。

その瞬間、空気を切り裂く鋭い風音が響き、教団兵の喉笛に一本の短刀が突き刺さった。

 

速い!

 

短刀を投げ放ったその右手で、男は背中から大剣を抜き放つ。

長年使い込まれただろう鋼が、冬の陽光を鈍く反射した。

 

男が疾走した。崩れた壁を蹴り、矢弾のような速さで円陣のまっただ中に飛び込む。

その動きは、腕一本を失ったことで、体全体の重心と踏み込みの精度が極限まで研ぎ澄まされているかのようだった。

 

最初の一撃は、オレに刃を向けた賊の脳天を縦に割った。

返り血を浴びる間もなく、男は独楽のように旋回する。

右手一本で振るわれる大剣は、遠心力を味方につけ、防陣を敷こうとした二人の教団兵の胴をまとめて両断した。

 

「な……貴様、何者だ!」

 

驚愕に凍り付く教団兵たち。だが、男は答えない。

 

 

なんだかわからんがチャンスは今しかない!

 

オレは気力をふりしぼると、浮き足だった敵へと向かって突っ込んで行く。

狙うのはサイレスの杖を持った暗黒司祭の男……おまえだ!

 

狼狽える周囲の護衛を次々と突破して……届い……たッ!!

 

迫り来る剣を防ごうと咄嗟に杖をかかげたのだろうが、その腕ごと斬り飛ばす。

サイレスの杖、ゲットだぜ!!

 

斬られた腕を庇い、司祭の男は悔しそうな表情をして後方へと下がる。

あ、仲間が杖を掲げてワープさせた。周囲の魔道士たちも次々と杖を掲げて消えていく。

 

どうやら助かったみたいだが……危なかった。

ひと息ついて、背後で戦っている男の方を見ると、それはもはや戦いと呼べるようなものではなかった。

 

地を這うような低い姿勢からの逆袈裟。さらに、斬り上げた勢いのまま空中で身体を捻り、背後から迫る槍使いの心臓を正確に貫く。その剣筋には、迷いも、躊躇もない。ただ「死」を熟知した者だけが描ける、最短にして最速の軌跡。

返り血で濡れた廃村の地面に、次々と黒衣の骸が積み上がっていく。

 

そして最後の一人の首が宙を舞い、静寂が戻った。

 

「チッ、また生き残っちまったか……」

 

男は片手で大剣を振るって血を払うと、ボソリと呟いた。

再びチラチラと降り始めた雪が、死体をゆっくりと覆い隠していく。

 

 

 

いや、強すぎるだろう。誰だこの人? ネームドキャラか?

事態を見極めようとするこちらの姿に気づくと、男が話しかけてきた。

 

「よう、ボウズ。まだ生きてるか? 生きてるなら、さっさとこっちに来て死体を埋めるのを手伝え」

 

有無を言わせない調子で言ってくるので、ついうなずいてしまう。

口を開き、感謝と名乗りを告げようとするが声が出ない。

とりあえず胸に手をあて頭を下げる。

 

「フン、人の家の前で騒ぐ馬鹿どもがいると思ったら、どうやらただ事じゃなかったようだな……。その症状はサイレスの杖だな? 戦場で一度か二度見かけたことがある。たいそう高価なシロモノで、お前のようなガキに使うもんじゃねえはずだが」

 

男がこちらを探るように鋭い眼差しをむけてくる。

その目が鎧に刻まれたフリージの紋章に向けられるのがわかった。

 

「へえ、フリージの騎士サマかい……。謝礼はたっぷりと貰えるんだろうな? お貴族サマの誠意に期待させてもらうとしよう。とりあえず、名乗らせてもらうぜ。俺の名は ――」

 

 

 

 

グラン歴 ×××年

 

 

老人はよどみなく流れるように語る。私も熱をいれてその話に聞き入る。

まさか、『彼』についてここまで詳しく知ることが出来るとは。

そして老人の話は、いよいよ佳境へと近づく。

 

あの最後の決戦の時、老人は増援部隊を引きつけて、しんがりをつとめたという。

そして記録に残る、大きな爆発と閃光。天まで昇ろうかというほどの巨大な光の柱。

 

「痛む体を引きずってたどり着いた場所は、あの光の爆心地だったんだ。

何も無い光景。それがなんだか悲しくてしょうがなかった。

でも、そこにまだ生き残る仲間たちがいた。俺は彼らに助けられたんだ。」

 

老人は片足をあげて見せ笑う。義足だ。

隻腕に加えて片足では、さぞかし不便なことだろう。しかし老人の気迫は衰えていない。

身体中にみなぎる力強さは、今にも駆け出して戦えそうなほどだ。

 

「もうそこに、アイツの姿はなかった。」

 

老人はポツリと呟いた。

 

 

聖王セリスの治世は安定している。

各国との連合、その盟主としての活躍は戦時よりも評価が高いほどだ。

他の英雄たちも、それぞれ自分が生まれた国へ戻ってうまくやっているようだ。

 

世界にはこれ以上、英雄なんて必要ないかもしれない。

しかし忘れるだけでいいのだろうか? 私はまだ彼を探し続ける。

 

ここは『彼』が生まれた国だ。確かめたいのだ、『彼』がここにいた意味を。

そして、ここで生きる人々の意志を。

そこに答えなど無いのかもしれない。でも探したいのだ。

 

きっとこの老人も……私と同じく……

 

 

老人は、『彼』との出会いから、これまでを語り終えると息をついた。

 

「アンタはまだアイツを探し続けるのかい? もし会ったら伝えてくれ」

 

私は快くうなずく。それが私の使命なのだから。

 

 

「よう、ボウズ。まだ生きてるか? 生きてるならさっさと帰ってこい。

俺がきっちりとどやしつけてやるからな。

それが出来るのは、世界ひろしといえども俺くらいのもんだ ――」

 

老人が嬉しそうに笑う。

 

「それと、ありがとう。我が主君殿。またな」




ラインハルトは戦後に教会やら神殿やらの宗教関係から追われています。
いったい何をやったんでしょうね。
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