ラインハルト転生   作:パワーワード大好きおじさん

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ラインハルトはネームドキャラでも覚えていないことが多いです。
ヴォルツのことにも気づいていません。フレッドはオルエン関係でたまたま覚えてた。


08. トライアングラー

グラン歴 761年

 

 

秋が訪れ、ようやく長かった暑さも鳴りを潜めた。

窓から入る空気が入れ替わり、空の高さが一段と増したように感じられる。

 

こちら、ラインハルト。待たせたな!

 

今日はいよいよ、新しい三人の教え子たちとの顔合わせだ……。

あらかじめイシュタル様のもとに集まっておくとの話なので、そこで紹介してもらうのだ。

 

オルエンを連れて、教えられた部屋への道を歩く。オルエンは周囲をキョロキョロと見回しながらついてくる。ほら、落ち着いて。これから一緒に学ぶ子たちに挨拶するんだぞ。

オルエンの状態から察するに……楽しみ半分、緊張半分といったところか。

 

「仲良くなれるといいのですが……いえ、こんな気弱じゃいけませんね。」

 

えい、えい、むん! と気合いをいれるオルエン。かわいい。

 

まあ、実際にそんなに心配はいらないだろう。

聞く話によると、あちらの家格はこちらと似たり寄ったりか、少し上くらいだ。

フリージでは基本的に力のあるやつは優遇される。実力主義というかなんというか……。

オレの評判と実力が知れわたってる以上、オルエンも無下にはされまい。

 

 

部屋にたどり着き来訪を告げると、イシュタル様の元へと案内された。

どうやら皆で茶会のようなことをしていたようで、部屋の中には良い香りが漂っていた。

イシュタル様がこちらに気づいて、談笑を切り上げて話かけてくる。

 

「来ましたね、ラインハルト。彼女たちが、あなたに教えを求める者たちよ。三人は姉妹で、それぞれ自分の魔道の力を高めたいそうなの。」

 

イシュタル様の言葉に三人の少女が立ち上がり、頭を下げてくる。

フッ……見せてもらおうか、フリージの有力な魔道の家の実力とやらを。

 

 

それじゃあ、まずはお名前と年齢をお願いします。

 

ふんふん、長女のヴァンパちゃん十歳に次女のフェトラちゃん八歳に三女のエリウちゃん六歳か……。みんなしっかりしてるね。こちらはオレの妹のオルエン、よろしくね。

あ、リラックスしてもらっていいよ。いつも通りの感じで敬語もなしでいいからね。

 

どんな魔道士になりたいのか……初めて魔法を使った年齢も教えてもらおうかな?

 

へえ、五歳から学びはじめて……なるほど。三人にそれぞれ得意な属性の魔法が……。

妹は最近になって魔道を学びはじめたばかりなんだよ。みんなとても優秀なんだね。

とりあえず属性特化の魔道士として才能を伸ばしていってみようか?

……ほらほら、オルエンはすねないの。競うな! 持ち味をイカせッッ!

 

マージナイトに興味ない? 女の子だから重装甲冑は無理だろうけど、馬に乗ってさぁ。

 

え? 馬には乗れるけど、剣を持ち上げることが出来ない? ……ちょっとキツイか。

それじゃあ魔道を極める感じで、将来は杖も使えるのが理想だね。セイジってやつだ。

馬に乗る訓練は、一応きっちりとやっとこうか。損はないよ、ホントホント。

 

それじゃあ、最後に軽く魔法を使ってもらいましょう。さあ、訓練所のほうへどうぞ!

 

……あっ、すげえ。普通にオルエンよりも魔道の才があるわ。

 

いてっ、オルエンつねるなって……別に悪気があったわけじゃ……いたいいたい!

ほら、イシュタル様が笑って見てるからヤメテってばよ……!

 

 

 

それはフリージの片隅、幼き姉妹たちの物語。

 

 

重厚な石造りの廊下を、三人の少女が小さく体を縮めながら歩いていく。

ヴァンパは十歳、フェトラは八歳、エリウはわずか六歳。

イシュタルの招きにより、この日、彼女たちはフリージの奥深くへと訪れていた。

 

「姉様、あの、何をするのでしょうか」

 

エリウが不安げにヴァンパの裾を引く。

長女のヴァンパは少しでも姉らしくあろうと努め、小さく首を振った。

 

「お父様のご命令ですもの。きっと、高名な方にお会いするのよ」

 

案内されたのは、イシュタル公女の私室だった。部屋に入ると、エリウと同じ六歳とは思えぬ気品を纏ったイシュタルが、穏やかな微笑みを浮かべて待っていた。

 

「待っていたわ。ヴァンパ、フェトラ、エリウ。さあ、どうぞ座って」

 

最高級の茶と菓子が振る舞われ、少女たちは恐縮しながら、イシュタルの向かいに座る。

イシュタルは幼い彼女たちの緊張をほぐすように、世間話を交えながら優しく語りかけた。

三姉妹の父は何も言ってくれなかったが、どうやら自分たちはこれから魔道の教えを受けるらしい。

 

やがて、部屋のドアが静かに開く。

 

「失礼いたします、イシュタル様」

 

現れたのは、凛とした佇まいの少年だった。

濃い青髪を揺らし、部屋の空気を一変させるような静かな存在感を放っている。

 

イシュタルは楽しげに、少年を彼女たちに紹介した。

 

「ヴァンパ、フェトラ、エリウ。紹介するわ。彼が、ラインハルト。今日からあなたたちの魔道の師となる人よ」

 

三人は目を見開き、目の前の少年の姿を見つめた。

 

ラインハルトは部屋に入ると、イシュタルへ丁寧に一礼し、三人の少女へと視線を向けた。

その瞳は、十三歳とは思えないほど深く、静かだった。彼が視線を巡らせるたび、部屋の空気が少しだけ張り詰めるような気がした。

 

ラインハルトは三姉妹にも静かに一礼し、深みのある瞳で姉妹を一人ずつ捉えた。

その視線だけで、彼女たちは自分が並の魔道士ではない存在の前に立たされていることを悟った。

 

 

ヴァンパは、目の前に立つ少年の名を知っていた。

いや、フリージに生きる魔道士で、その名を知らぬ者などいない。

 

ラインハルト。弱冠十三歳にして、「天才」の二文字を冠され、イシュタル公女の守役という重責を担う少年だ。

 

先日のことだ。フリージ領内に侵入した暗黒教団の徒党を、ラインハルトがわずかな手勢、あるいは単身で討伐したという噂が、駆け足で城内を駆け巡った。その凄まじい雷魔法の威力と、迷いのない剣術の腕前は、多くの騎士や魔道士たちの知るところとなっていた。

 

(あのラインハルト様……)

 

ヴァンパ自身も、魔道を家業とする家の生まれである。実力は同年代の子供たちの中でも頭一つ抜きん出ており、両親や親族からは「フリージの未来を背負う一人」と期待され、厳しい修行を課されてきた。しかし、目の前にいる少年は、期待という枠を飛び越え、すでに現実の力としてその強さを示している。

 

強くなりたい。自分の炎魔法で、多くの敵を倒し、家を守れるようになりたい。

その憧れにも似た感情が、ヴァンパの胸の奥で、小さな炎のように熱を帯び始めた。

 

それは、彼女が得意とする炎魔法の爆発的な熱とは異なっていた。

もっと静かで、持続的で、確固たる意志を持った熱だ。

 

「よろしく頼む。イシュタル様より話は聞いている。君たちの力、引き出してみせよう」

 

その声は落ち着いており、ヴァンパの心の中の小さな炎を、さらに熱く燃え上がらせるのに十分な言葉だった。ヴァンパは緊張で強張っていた体を少し緩め、力強く頷いた。

 

「はい! ご指導、よろしくお願いいたします、ラインハルト様!」

 

ヴァンパの声に合わせるように、八歳のフェトラと六歳のエリウも、つられるように深々と頭を下げるのだった。

 

 

フェトラは、目を奪われていた。

目の前に立つラインハルトの姿に、言葉を失って見とれていたのだ。

 

彼がイシュタルに一礼し、顔を上げたその瞬間。

端正な顔立ちと、凛とした気品……そして、彼から漂う圧倒的な強者の雰囲気。

そのすべてが、八歳の少女の目には、騎士物語から抜け出してきた英雄そのもののように映った。

 

(なんて……格好いいのかしら)

 

フェトラもまた、長女のヴァンパと同じく、家の期待を背負い、幼い頃から雷魔法の英才教育を受けてきた。当然、フリージの天才として名高いラインハルトの名は知っていたし、その実力が凄まじいことも理解していた。

 

正直に言えば、少し年上の天才に対する、子供らしい対抗心のようなものがなかったわけではない。「いつか、彼を超えてみせる」と、修行中に拳を握りしめたことも一度や二度ではない。

 

だが、今、本人を目の前にして、その対抗心はあまりにちっぽけなものに感じられ、霧のように瞬く間に散ってしまった。超えるなど到底及ばない。ただただ、その姿に憧れ、近付きたいと思う。

 

もし、この人のもとで学べるのなら。

もし、この人の後ろ姿を追いかけることができるのなら。

自分は今いる場所よりも、もっとずっと高い場所へ行けるのではないか。

 

その瞬間、フェトラの背筋を、一つの感覚が駆け抜けた。

それは、彼女自身が操る雷魔法の、鋭くビリビリと皮膚を刺すような衝撃とは違っていた。もっと柔らかく、心地よい、甘い痺れだ。

胸の鼓動が早鐘のように打ち鳴り、頬が少し熱を帯びるのを感じる。

 

緊張で動けなくなっていたフェトラの心に、憧憬と、それとは少し違う、形容しがたい何かが生まれていた。

 

「……よろしくお願いいたします、ラインハルト様」

 

ヴァンパの後に続き、絞り出すような声でそう言った時、彼女は確信していた。

この出会いが、自分の運命を大きく変えるのだと。

 

 

エリウは、両姉の緊張や憧憬とは裏腹に、ぼんやりとラインハルトの姿を眺めていた。

幼いながらに周囲の視線や期待の重さを感じてはいたが、それ以上に、ただの子供らしく部屋の調度品や、イシュタルが淹れてくれたお茶やお菓子の香りに興味を惹かれていた。

 

(……おでこが広い人)

 

それでも、ラインハルトと目が合った瞬間、彼女は優しそうな人だと素直に思った。

天才的な強さや、騎士としての凛々しさは、六歳のエリウにはまだ少し遠い世界の出来事のように思えた。

 

エリウもまた、ヴァンパやフェトラと同じ家の生まれである。

両親からはその高い才能を期待され、幼少期から厳しい訓練をされていた。

しかし、彼女の心は、姉たちのようには魔道に向いていなかった。

 

本当は、厳しい家の生活から離れ、外で小鳥を追いかけたり、ただ自由に過ごしたかった。

だが、彼女は幼い頃から聡明だった。自分が「フリージ公国の将来を担う魔道士」として生まれた立場にあることを、嫌でも理解できるだけの知性を持っていたのだ。

逃げられないのなら、せめて少しでも退屈を減らしたい。そんな彼女の心に、この突然の魔道の教導は、日常を少しだけ変えるスパイスのように感じられた。

 

(毎日の訓練が、お姉様たちといっしょなら少しは楽しくなるかな?)

 

ふと、エリウの視線がラインハルトの傍らに立つ少女に移った。

ラインハルトの妹だと言われていた、オルエン。

まだ幼いけれど、しっかりとした意志を感じさせる瞳をした少女だ。

 

(あの子とも、仲良くなれたらいいな)

 

もしそうできたら、魔道の厳しい訓練も、ただの苦行ではない時間になるかもしれない。

 

そう考えた瞬間、エリウの胸の中に、どこからか爽やかな風が吹き抜けていった。

それは、彼女が得意とする、鋭く空気を切り裂く風魔法とは全く違う、頬を優しく撫でるような心地よい風だった。

 

「……よろしくお願いしまーす」

 

姉たちに遅れて、ほんの少しのんびりとした声でそう言うと、エリウは小さく首を傾げ、オルエンに微笑みかけた。この新しい環境が、自分の運命をどこへ運んでいくのか。

まだ幼い彼女は、ただ無邪気にその風を感じていた。

 

 

 

 

グラン歴 777年

 

 

北トラキア半島を支配したフリージの威光は、セリス率いる解放軍の猛攻の前に、音を立てて崩れ去ろうとしていた。

 

嫡男イシュトーを討たれ、ブルームは窮地に追い込まれながらも、自らアルスターの城へ入り指揮を執っている。だが、その背中に以前のような余裕はない。

フリージ王国の終焉は、誰の目にも明らかだった。

 

ヴァンパは、出撃直前の薄暗い部屋の中で、手に持った魔導書を閉じた。

彼女の心は激動する戦況とは裏腹に、過去の記憶へと漂っていた。

 

ラインハルトは、マンスター近くのトラキア大河の砦に身を寄せていると聞く。

かつて自分たちを導いた最強の守役は、いま主の元を離れ、独り何を想っているのか。

それを考えるだけで、胸の奥が締め付けられる。

 

その妹のオルエンは、リーフ率いる反乱軍へと下り、兄と対峙する道を選んだ。

そして、フリージの誇りであるイシュタル様は、神の雷「トールハンマー」を保持したまま、グランベル本国へと帰還してしまった。

 

最前線は、いまや我々三姉妹の連携と、残された兵たちに委ねられている。

 

(……あの子は、どうするのだろう)

 

ヴァンパの脳裏に、ティニーの姿が思い浮かぶ。

フリージの血を引きながらも、その過酷な運命に翻弄され、傷ついていたイシュタル様の従妹。

イシュタル様がいなくなり、ラインハルトが去った今、あの子を取り巻く環境は、かつてないほど混沌としたものになっている。

 

昔は彼女を疎ましく思ったこともあった。自分は聖戦士の血筋に嫉妬していたのだ。

だが、共にラインハルトに学び、ふれあううちに、いつの間にか情が芽生えていた。

自分たちがここで命を落とせば、ティニーが頼る者は誰もいなくなるかもしれない。

 

 

「ヴァンパ姉様、そろそろ時間よ」

 

フェトラの静かな声が、ヴァンパの思考を現実へと引き戻した。

隣には、落ち着いた面持ちのエリウが立っている。

 

「……ええ。行きましょう」

 

ヴァンパは深く息を吐き、姉妹の顔を見た。

彼女たちが受け継いだ、ラインハルトの魔道の教え。

その炎魔法の熱が、静かに彼女の全身を駆け巡り、差し迫る死の気配を追い払っていた。

たとえこの城が陥落しようとも、自分はフリージの誇りとして、最後の連携を見せつけるつもりだった。

 

ヴァンパは、手にした魔道書をきつく握りしめた。

その手は、かつてないほど激しく震えていた。

出撃を告げる鐘の音が、アルスター城の石壁に虚しく響き渡る。その音を聞きながら、彼女の頭の中には、これまで聞いた様々な噂や、散っていった仲間たちの顔が走馬灯のように巡っていた。

 

 

国への忠誠か、それとも個人への忠誠か。

 

守るべきはフリージという国そのものか、それとも自分たちに目をかけて親身になってくれたイシュタルという恩師か。

与えられた任務を果たすことか、それとも自分の思想を貫くことか。

軍としての仲間への誓いか、それとも……

あの時、自分たちに微笑みかけてくれた人への、個人的な情か。

 

ラインハルトは、イシュタル様を選んだ。そのうえで彼女との距離を置いた。

イシュタル様は、あの方の呪縛を選び、グランベル本国へと去った。

自分たちが慕った人々は、すでにそれぞれの答えを選び、そして離れていった。

 

(私たちも……選ばなければならないのね)

 

ヴァンパは、隣に立つフェトラとエリウの顔を見つめた。

二人の表情は、不思議と凪いでいた。

 

幼い頃、ラインハルトと初めて出会ったあの日のことを語り合ったことがある。

その教えを受けるときに心をよぎった、感じたモノの正体………。

甘い痺れも、爽やかな風も、二人にとっては、今はもう遠い昔のことなのかもしれない。

 

自分たちは、これまでどれだけのものを犠牲にしてきたのだろう。

両親、誇り、平穏な日常……。それらすべてを犠牲にしてまで守るべきフリージは、いまや恐怖政治で人々を支配し、己の力を持て余しているだけの存在に成り果てているのではないか。

 

そんなもののために、自分たちは命を落としていいのか。

守るべきものは、本当にこの「国」なのだろうか。

 

脳裏に、ふとイシュタル様の悲しげな瞳と、ラインハルトの静かな眼差しが浮かぶ。

もう、誰も自分たちを導いてはくれない。

 

(自分が従うものを……自分で決めるのだ)

 

何かを。誰かを。

ヴァンパは、迷いを振り払うように、深く大きく息を吸い込んだ。

 

 

「フェトラ、エリウ。行くわよ」

 

 

声は震えていなかった。その力強い響きに、二人の妹が表情を引き締めて頷く。

それが、彼女が最後に導き出した、一つの答えだった。

 

 

ヴァンパが腹を括り、死地へと赴く覚悟を決めたその刹那。

フェトラの言葉がその張り詰めた空気を台無しにした。

 

 

「ええ、お姉様。このまま戦場を離脱して、ラインハルト様に合流しましょう!」

 

 

明るい、あまりに明るいフェトラの声に、ヴァンパは思わずズッコケそうになった。

 

「えっ……?」

 

ヴァンパは呆然と妹を見つめた。自分は特攻するつもりだった。

ラインハルトから受け継いだ魔道の教えを、この命と引き換えにセリス軍に刻み込む。

そうやって、フリージの誇りを全うするつもりだったのだ。

 

(……この子、頭が桃色になってるんじゃないの?)

 

思わずそう毒づきたくなるのを、ヴァンパは懸命に堪えた。

ラインハルトへの憧れが強いのは知っていたが、今ここは激戦の最中だ。

当主ブルームを死地に置き去りにして、個人的な愛に走って戦場を放棄するなど、騎士の風上にも置けない行為ではないか。

 

呆然とする長女を尻目に、今度はエリウが静かに、しかしきっぱりと言い放った。

 

 

「違う、フェトラ。私たちはレンスターに行って、オルエンと合流するの」

 

 

ヴァンパの目が見開かれる。

 

「えぇ……?」

 

こっちはこっちで、予想の斜め上をいっていた。

いまレンスターは反乱軍が籠城している場所で、まさにフリージ軍が総力を挙げて攻めている真っ最中なのだ。そこへ乗り込むなど、自殺行為どころか、同僚に刃を向けることに等しい。

 

(オルエンと仲が良かったのは知っているけれど……。あの子が反乱軍に行ったから、この子も行くつもりなの?)

 

ヴァンパは頭を抱えたくなった。確かに自分も、国の在り方に疑問を持っていた。

だが、それはあくまで「どう死ぬか」を選ぶためであって、戦場を放棄したり、敵に寝返ったりするような決断のためではなかったはずだ。

 

 

「あなたたち、本気なの……?」

 

 

ヴァンパの問いかけに、フェトラは恋する乙女の瞳で、エリウは当然といった瞳で頷いた。

 

妹たちの突然の突拍子もない提案に当惑するヴァンパだったが、フェトラが真剣な表情になり、言葉を続けた。

 

「……イシュタル様からのお言葉よ」

 

その名を聞き、ヴァンパは背筋を伸ばす。

フェトラは、いつもとは違う、どこか凛とした声色で語り始めた。

 

 

「『私は最後までユリウス様の側にいる。あなたたちも自分の意思で生きなさい。私がすべてを許します』……そう、おっしゃっていたわ」

 

 

それを伝えると、フェトラが、急に恥ずかしげに体をクネクネとくねらせ始めた。

その表情は、言葉の内容とは裏腹に、甘い夢を見ている少女のそれだった。

 

(もしやこの子、何か妙な妄想をしているわね……?)

 

ヴァンパは呆れを通り越して、ため息が出そうになるのをこらえた。

しかし、イシュタル様が自分たちに「自由」を与えたという事実は重かった。

 

「……それと、ティニーからの伝言もある」

 

今度はエリウが、淡々とした表情で口を開いた。

 

 

「『わたしのことは心配しないで。適当に防衛したあとは、うまくやるから』だって」

 

 

エリウは言葉を区切り、少しだけ表情を和らげた。

 

「ヴァンパ姉さんは心配しすぎだよって、ティニーがプリプリ怒ってた」

 

その言葉に、ヴァンパの張り詰めていた心が、わずかに緩んだ。

自分が幼い頃から見守り、その過酷な運命を案じていたティニー。

あの自信たっぷりな口調を想像すると、ヴァンパの胸の奥に小さな温もりが灯る。

ティニーはもう、自分が思っている以上に強くなっているのかもしれない。

 

イシュタル様……そして、ティニー。

彼女たちがどのような思惑でその言葉を伝えたのか、真意はわからない。

ラインハルトは去り、王国は滅びゆく中で、その言葉がどういう意味を持つのか。

 

だが、ヴァンパは直感していた。

その言葉に、きっと嘘はない。イシュタル様は自分たちの人生を尊重してくれたのだ。

そしてティニーは、彼女なりの方法で生き延びようとしている。

 

ヴァンパは深く息を吐いた。先ほどまでの特攻という考えは、もう消え去っていた。

 

「……分かったわ」

 

ヴァンパは妹たちに向き直った。その目は、少しだけ未来を見据えていた。

 

 

「……決めた。今から三人で出るわよ」

 

ヴァンパが力強く宣言する。その瞳には、もはや迷いはなく、己の意志で選び取った未来への確固たる覚悟が宿っていた。

 

「まずはこのアルスター城に迫る解放軍に、一矢報いる! フリージの意地を見せつけ、隙を作ったその瞬間に、戦場を離脱するわ。その後はレンスターの状況を見極め……エリウ、あなたが言っていた通り、オルエンと合流して反乱軍に協力する道を試す。もしそれがどうしても不可能なら……フェトラ、あなたの案を採用してラインハルトの元へ向かう」

 

長女らしい現実的な判断と、妹たちの願いを折衷したその提案に、フェトラとエリウは顔を輝かせて頷いた。

 

ヴァンパは、自身が駆る黒いペガサスの手綱を握りしめ、気を引き締める。

この黒天馬は、かつてラインハルトが彼女たちのために用意してくれたものだ。

軍務の枠を超え、個人としての絆の中で与えられたこの翼があれば、重苦しい軍律や、国という枷からは逃れられる。

 

 

(私たちは……自由なのだ)

 

 

風が、三人姉妹の頬を撫でる。それはかつてエリウの心に吹き抜けた爽やかな風のようでもあり、フェトラの心に走った甘い痺れのようでもあり、そしてヴァンパ自身が心の奥底に灯し続けた炎のぬくもりのようでもあった。

 

三人は黒天馬を駆り、アルスター城の庭から空へと飛び立つ。

かつての恩師が与えてくれた翼に乗って、彼女たちは自分たちの人生を選びに行く。

その背中は、滅びゆくフリージのどの騎士よりも、まばゆく輝いていた。




ヴァンパ三姉妹のクラスはダークペガサス。ただし、槍は使えない。
山岳などの歩兵たちが侵入出来ない場所からメティオやサンダーストームを放つ。
頑張って近づいてきた相手には、引き撃ちからの疾風迅雷トライアングルアタックだ!

ラインハルトの愛馬である黒王号(白馬)が、なんか黒い子馬たちを保護して育てていたので、ママエアロと気にせず放置していたら、いつの間にか羽が生えていた。
ちょうど三匹いたので、ラインハルトが思いつきでヴァンパたちに引き合わせたらクラスチェンジしちゃった。

将来はセイジか、ワンチャン、マージナイトかと思ってたのでラインハルトもびっくり。
さらにトライアングルアタックらしきものを目撃して、白目をむく。
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