ネコミミ美少女に進化してヒロイン達から勇者を奪うペット枠に転生したので未来を変えたい   作:日ノ 九鳥

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レベルを上げなければいいかも

 僕はカタリナの肩に乗って、ゆらゆらと揺れながら前方を見ていた。歩く度に鎧がかすかな金属音を奏でる。

 

 もう自分で歩けるからテクテク歩いていたのだけど、ひょいと持ち上げられて肩に乗せられてしまったので大人しくしている。

 

 次の街へ向かう旅路。朝から出発して、もう数時間が経っただろう。空は高く澄んでいて、時折吹く風がヒゲを揺らす感覚が心地よい。

 

「天気がいいな。このまま何事もなく着きたいものだが」

 

 先頭を歩くレオンが空を仰いで呟く。

 

「そうですね。でも油断は禁物ですよ」

 

 リリアナが優しい声で返す。

 

「アタシの魔力は十分だから、何か出ても大丈夫さ」

 

 ノエルが杖を軽く振りながら言った。

 

 僕は四人の会話を聞きながら、この数日間ずっと考え続けていたことに思いを巡らせる。

 

 ——どうすれば原作の未来を避けられるか。

 

 あの結末。三人に嫌われる結末。それだけは絶対に避けたい。

 

 僕は考え続けた。原作の流れを思い出しながら、どこで何が起きるのかを整理した。

 

 原作ではミーニャが進化して人型になったことで、勇者が一目惚れする。そして三人に嫌われる。

 

 つまり目指すところは簡単だ。進化さえしなければ、原作の結末は回避できるはず。

 

 問題は、どうやって進化を防ぐかだ。

 

 進化は一定の成長によって起きる。所謂レベルアップ。原作内でも言及があったので、今はステータスを直接確認することは叶わないがレベルの概念があるのは間違いない。

 

 おそらく、この世界では戦闘に参加するとパーティメンバー間で経験値が分配される。原作の描写もそうだったし、何より今までリリアナの懐に入っていただけの僕がこうして進化しているのだ。そうでなければ説明がつかない。

 

 逆に言えば——敵を撃破した瞬間に距離を取っていれば、経験値分配を回避できるんじゃないか?

 

 完全に推測だ。確証はない。でも試してみる価値はある。

 

 僕はカタリナの肩の上で小さく身を震わせた。

 

「おや、寒いのか?」

 

 カタリナが僕を見て、手で僕の体を包み込んでくれる。温かい。

 

「……大丈夫か、ミーニャ」

 

 その声は普段の凛々しいものとは少し違って、柔らかかった。カタリナは人前ではあまり甘やかす姿を見せないけれど、時々こうして優しくしてくれる。

 

 僕は小さく鳴いて返事をする。

 

「ミャ」

 

「そうか」

 

 カタリナが納得して、再び前を向く。

 

 僕は彼女の手の温もりを感じながら、心の中で決意を固めていた。

 

 進化を避ける。レベルアップを避ける。それが僕のやるべきことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 街道を進むうちに、周囲の景色が変わってきた。木々が増え、森の中に入っていく。

 

 僕は歩きながらも周囲の気配に意識を集中させていた。

 

 進化して視力を得た今でも、僕の危険察知能力は健在だ。むしろ前よりも鋭くなっている気がする。

 

 そして——。

 

 ざわり。

 

 背筋に冷たいものが走る。

 

「ニャアッ!」

 

 僕は必死で鳴いた。

 

「……来たな」

 

 レオンが即座に反応して、全員に指示を出す。

 

 リリアナがいつでも回復できるよう位置取りをする。カタリナが剣を抜く。ノエルが杖を構える。

 

 森の中から気配が近づいてくる。複数。足音。唸り声。

 

 そして——。

 

 茂みから飛び出してきたのは、緑色の皮膚をした人型の魔物。ゴブリンだ。全部で……6体。

 

「ゴブリンか!……油断するなよ。」

 

 レオンが叫ぶ。

 

「わかっている」

 

 カタリナが前に出る。

 

「魔法で援護する!」

 

 ノエルが杖を振りかざす。

 

「回復はいつでも」

 

 リリアナが後方で構える。

 

 僕は少し離れた場所で戦闘を見守る。

 

 ——これだ。この戦闘で、レベル抑制を試す。

 

 戦闘終了時に距離を取る。経験値分配を避ける。

 

 上手くいけば僕は経験値を得ずに済むはず。

 

 僕は小さく息を吸って、戦闘の行方を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタリナが最初のゴブリンに斬りかかる。剣が風を切り、ゴブリンの腕を斬り飛ばす。

 

「一体目!」

 

 カタリナの声が響く。

 

 レオンが横から別のゴブリンに突進する。剣を振り下ろし、ゴブリンの頭部を叩き割る。

 

「二体目、倒した!」

 

 ノエルが後方から魔法を放つ。炎の塊がゴブリンに直撃し、爆発する。

 

「三体目、消し飛んだよ!」

 

 残りは三体。

 

 カタリナが二体を相手にしている。レオンがもう一体に向かう。

 

 僕は距離を取りつつ戦闘を見守る。

 

 ゴブリンが死ぬ瞬間には決して近くにいないように。

 

 カタリナの剣が二体のゴブリンを斬り裂く。ゴブリンが悲鳴を上げて倒れる。

 

「四……と五体目!」

 

 レオンが、ヤケになって飛び込んできたゴブリンに剣を突き刺す。

 

「おっと、……これで全部だな」

 

 レオンが剣を引き抜く。ゴブリンが地面に崩れ落ちる。

 

 僕は後ろに飛びのいていた。レオンに飛び掛かったゴブリンは同時に僕との距離も詰める形になっていたから。

 

 勢いあまって茂みに突っ込む。

 

 その瞬間、中で何かに激突した。

 

 弓を持ったゴブリン。狙撃型だ。

 

 そしてソイツは丁度狙いすまして矢を放つところだった。

 

 僕が突進した衝撃で、ゴブリンが怯んで矢の狙いがずれる。

 

 矢はカタリナの頬を掠めて、木に突き刺さった。

 

「!?」

 

 カタリナが驚いて振り向く。頬から血が流れている。

 

「カタリナ!」

 

 レオンが叫ぶ。僕の横のゴブリンに気づいて、即座に駆けつける。

 

 剣がゴブリンを斬り裂く。ゴブリンが倒れる。

 

「……隠れていたのか!」

 

 レオンが息を荒げて言う。

 

 僕は茂みから這い出して、カタリナを見た。

 

 彼女の頬に浅い傷。血が流れている。

 

 ——完全に偶然だ。

 

 僕はただ経験値分配を避けるために距離を取っただけだ。茂みに飛び込んだのも勢いあまっただけ。

 

 狙撃モンスターに突進したのは、完全に偶然。

 

 でも結果的に——カタリナを救った形になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミーニャ!」

 

 カタリナが僕を抱き上げる。その手が震えている。

 

「お前……私の為に……」

 

 カタリナの顔は青ざめている。彼女は今、自分が死にかけたことを理解したのだろう。

 

 もし狙撃モンスターの矢がそのまま当たっていたら。もし僕が茂みに飛び込まなかったら。

 

 カタリナは死んでいたかもしれない。

 

「ありがとう、ミーニャ。……救われてしまったな」

 

 カタリナが僕を胸に抱きしめる。その声は震えていた。

 

 僕は彼女の腕の中で、複雑な気持ちを抱えていた。

 

 感謝されているけど偶然なんだよね。

 

「カタリナ、怪我を見せてください」

 

 リリアナが駆け寄ってくる。カタリナの頬に手を当てて、回復魔法をかける。

 

 淡い光が傷を包み、血が止まる。傷が塞がっていく。

 

「……浅い傷です。毒等も塗られていないようですので、もう大丈夫です」

 

 リリアナが安堵の息を吐く。

 

「気づかなかった……俺の失態だ」

 

 レオンが自分を責めるように言う。

 

「ミーニャがいなかったら、カタリナは……」

 

 ノエルが僕を見て、感謝の目を向ける。

 

「……ありがとう」

 

 カタリナが僕をもう一度ぎゅっと抱きしめる。

 

 僕を見つめるその目は普段の愛玩動物を見る目とは異なっていた。

 

 カタリナの腕の中で、複雑な気持ちを感じていた。……僕は自分の為に動いていただけなのでここまで感謝されると居心地が悪い。

 

 それでも——カタリナが無事で良かったとも思う。

 

 もし本当に死んでいたら。もし間に合わなかったら。

 

 そう考えると、肝が冷える。

 

「……ミーニャ」

 

 カタリナが僕の名前を呼ぶ。その声は優しくて、温かい。

 

 僕は小さく鳴いて返事をする。

 

「ニャア」

 

 カタリナが微笑む。普段は見せない、柔らかい笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティは森の中で休憩することにした。

 

 カタリナが僕を膝の上に乗せている。何度も何度も頭を撫でてくれる。

 

「……ミーニャ」

 

 その声は普段の堅い口調とは違って、とても優しい。

 

「……カタリナ、ミーニャを独り占めしすぎじゃないですか?」

 

 リリアナが少し拗ねたように言う。

 

「いいではないか。少しくらい」

 

 カタリナが僕を撫でる手を止めない。

 

「さて、そろそろ出発しよう」

 

 レオンの声がして、パーティは再び歩き始める準備をする。

 

 カタリナが僕を抱き上げて、肩に乗せる。

 

「今度は私がお前を守るからな」

 

 その声は優しくて、温かい。

 

 全くの偶然だったけど、結果的に彼女の命を救うことになった。そしてカタリナの中で僕はただのペット以上の存在になったみたいだ。

 

 僕はこの関係を維持するためにも未来を変えようと気を引き締めた。

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