ネコミミ美少女に進化してヒロイン達から勇者を奪うペット枠に転生したので未来を変えたい   作:日ノ 九鳥

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最終決戦

 目の前には黒い城がそびえ立っていた。

 

 道中では地平線の向こうから突き出すように見えていたその城は、近づいて尚、その迫力を損なわずに僕たちを見下ろしている。朝日を浴びてもなお黒々とした影を落とし、周囲の空気さえ重苦しく感じさせる。王城よりも大きく、これよりも高い建物は前世まで遡らないと見たことは無い。

 

 この旅の終着点。パーティの四人はこの中に座している魔王を撃破する為にここまで歩んできた。

 

「……いよいよだな。覚悟は大丈夫か?」

 

 レオンが剣の柄に手を置きながら確認する。その声には緊張が滲んでおり、自分に問うた部分もあるのだろう。

 

「あぁ。ここまで来たんだ。今更な話だ」

 

 カタリナが毅然とした様子で答える。騎士の家系に生まれ、幼少より戦う者として育った彼女は、やはりこういった時の頼もしさが違う。

 

「ようやくこの時が来たのですね……。」

 

 リリアナが柔らかく笑う。けれど僕の低い視点からは彼女がローブを強く握りしめているのが見えている。やはり不安な気持ちはあるのだろう。

 

「やるしかないね。ここで引き返すわけにもいかないし」

 

 ノエルが杖を握り直す。

 

 そして僕は——四人の後ろを歩いていた。

 

 レオンが城門に向かって歩き出す。城門は不気味に開いたままで、中は暗く、招かれているような気持ちさえ覚える。……いや招いているのだろう。ここまでの道中で明らかに強力な魔物を差し向けられている。僕たちの存在は把握されていると考えるべきだ。

 

 四人が城内に足を踏み入り、僕もその後を追った。原作と違って戦闘では使い物にならない僕だけれど、危険を察知して伝えるという役目だけは全うする。ここは既に敵方の城。不意打ちにはもってこいの場所なのだから。

 

 

 

 城の中は暗く、壁には奇妙な装飾が施されていた。人の顔を模した彫刻。悲鳴を上げているような歪んだ表情。禍々しい紋章。人類に勝るとも劣らない技術が垣間見えるが、その感性は大きく異なるのか僕たちの基準では悪趣味と言わざるを得ない。

 

 廊下を進む。足音が静寂に響く。

 

 その時だった。

 

 闇の奥から複数の足音。魔物だ。襲撃を隠す意図はないようで僕が叫ぶまでもなくみんなが戦闘に向けて構える。

 

「来るぞ!」

 

 レオンの声と共に、廊下の奥から魔物が現れる。巨大な獣の姿をしたもの、翼を持つもの、異形の姿をしたもの。どれも強力な気配を放っている。

 

「カタリナ!」

 

「ああ!」

 

 カタリナがレオンと共に前に出て敵を受け止める。剣がぶつかり合う音が響く。

 

「撃つよ!」

 

 前衛が魔物の相手をしている間にノエルの放った炎魔法が廊下を照らし、魔物を焼き尽くす。

 

 激しい戦闘。魔物は強かった。けれど四人の連携はそれ以上だった。

 

 一体、また一体と魔物が倒れていく。

 

 廊下を進み、階段を登り、また廊下を進む。その度に魔物が襲ってくる。けれど四人は止まらなかった。致命的な被害はなくリリアナの回復で問題ない範囲。

 

 時折、隠密性に長けた魔物の襲撃はあったりしたが僕がいる以上、それが通ることもない。

 

 そしてついに——。

 

 玉座の間の扉の前に到着した。

 

 流石に無傷とはいかず四人には少なくない疲労が見える。けれどその目には戦意が宿っている。

 

 レオンが扉に手をかける。

 

 重い音を立てて、扉が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋は広かった。

 

 高い天井。黒い柱が並ぶ。そして——。

 

 玉座に、ソレが座っていた。

 

 規格外に大柄な体躯。人型だが、黒髪に赤目で前世でいうところの西洋風の顔。その特徴はこの世界のどの人種にも当てはまらない。なによりも頭には黒い角が生えており、それが彼が人外であると証明していた。

 

 こうして向かい合っているだけで圧倒的な存在感。

 

 魔王がゆっくりと僕たちを品定めするかのように見る。

 

「……よくぞここまで来た、勇者達」

 

 低く重い声が玉座の間に響く。

 

「魔王……だな?」

 

 レオンが聖剣を構える。

 

「貴様を倒す。それが俺達の使命だ」

 

「ふむ。勇者の剣を持つ者よ、貴様には資格がある。だが——」

 

 魔王が立ち上がる。その瞬間、場の空気が変わった。

 

 重圧。威圧感。恐怖。

 

「貴様ら程度がこの私を倒せるとでも?」

 

 魔王の声に嘲りが滲む。

 

「試させてもらおうか!……いくぞ!」

 

 レオンが魔王に向かって駆け、カタリナも続く。

 

 ノエルが杖を掲げて長い詠唱を始める。

 

 リリアナが何か呟いて前衛の二人に青い光を纏わせる。

 

 戦闘が始まった。

 

 僕はそそくさと隠れた玉座の裏で、四人の戦いを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオンの聖剣が魔王に迫る。

 

 どこからか取り出したのか、あるいは生成したのか聖剣との対になるかのような闇を固めたかのような剣で魔王がそれを受け止め、弾き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

 レオンが吹き飛ばされ、受け身をとる。

 

「レオン!」

 

 追撃をしようとする魔王に対して、カタリナが前に出て牽制する。

 

 魔王が詠唱もせずに炎の魔法を放つ。それはノエルのとは異なり黒く、規模も大きい。黒い太陽が部屋を照らす。離れた位置で玉座の裏にいる僕にすら熱気が届いている。

 

「くっ……ノエルいけるか!?」

 

「あんなん消すのは無理!……リリアナ手伝って!」

 

 ノエルが全力で水球を生成し太陽にぶつける。それでも相殺は叶わないがリリアナが障壁を張って四人を守る。

 

「回復を」

 

 リリアナの魔法がレオンを包み剣戟で受けた傷を癒していく。

 

 彼が立ち上がり、再び魔王に向かう。

 

 一進一退の攻防。

 

 魔王の強さは圧倒的だった。けれど四人も引かなかった。

 

 カタリナはレオンをカバーするかのように前衛を務めあげる。

 

 ノエルの魔法が魔王の魔法を弱め、決定打にはならなくとも少しずつ削る。

 

 レオンの聖剣が魔王を傷付けていく。

 

 リリアナの回復と補助が四人を支える。

 

 徐々に魔王の動きが精彩を欠いていく。

 

 四人の連携が魔王を追い詰めていく。

 

 僕は離れた場所から見守っていた。

 

 みんな強い。僕は何もできないけど見守っていたかった。コメディが主体の原作では大した描写をされなかった戦闘だったけれど、実際に目の前にすると圧倒的な緊張感に包まれていた。

 

 魔王の動きがさらに鈍くなり、傷が増えていく。

 

 そして遂に大きく均衡は崩れた。

 

 致命打を与えられないので動きの妨害に徹していたカタリナとノエルの連携攻撃が魔王の動きを崩す。

 

 魔王が膝をつく。

 

「終わりだ!」

 

 レオンが聖剣を構えて突進する。

 

 聖剣が魔王の心臓を貫き、そのまま魔王の体は部屋の中央で倒れる。

 

「がっ!……私が、こんな、ところで?……馬鹿、な」

 

 魔王の体から力が抜けていく。……そしてその動きを完全に止めた。

 

「……終わったのか?」

 

 カタリナが呟く。

 

「ああ……倒した」

 

 レオンが聖剣を引き抜いて、魔王に向かいつつ残心を取る。

 

 魔王は動かない。

 

 倒れたまま、微動だにしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……な」

 

 レオンが剣を下ろす。

 

「ああ。魔王を倒したんだ」

 

 カタリナが安堵の息を吐く。

 

「よかったです……みんな無事で終われて」

 

 リリアナが涙ぐむ。

 

「やったじゃん。魔王討伐、達成だね」

 

 ノエルが笑う。

 

 「……帰ろうか」

 

 レオンがそう言うと四人が出口に向かって歩き始める。

 

 僕も玉座の裏を出て、その後を追う。

 

 ……みんなが魔王を撃破しても僕は進化しなかった。

 

 これで原作と違う未来が手に入る。みんなに嫌われない未来が。これからこのパーティがどうなるかはわからない。けれど最悪の未来は回避できたのだ。

 

 安堵が体を包む。

 

 よかった。本当に——。

 

 その時だった。

 

 微かな音。

 

 僕の耳だけがそれを拾った。

 

 鋭い猫の聴覚が、物音を捉える。

 

 僕は振り返った。

 

 倒れていたはずの魔王が——彼らを睨みつけていた。聖剣で心臓を貫かれたその身は死に体だ。けれどその眼光は怒りや憎しみで爛々と輝いていた。

 

 魔王の指先に禍々しい光が収束していく。闇色の光が渦を巻くように集まっていく。先程の戦闘中ですら見せなかった出力だ。……きっと残りの力を全て放つ気なのだろう。

 

 そして、その指先は——四人の背中に向けられていた。

 

「ニャアッ!!!」

 

 僕は叫んだ。

 

 彼らは振り返る。けれど全てが終わったと確信し、安心していた彼らに対応する手段はない。カタリナが前に出て盾を構え、リリアナが全力で結界を張っているが意味はないだろう。

 

 魔王の指先の光が膨れ上がる。

 

 あと一瞬で放たれる。

 

 考える暇はなかった。

 

 僕は地面を蹴って魔王に向かって走った。

 

 戦闘が終わりみんなに合流する途中だった僕は、倒れている魔王に近くにいた。

 

 四人に向けられていた魔王の腕に体当たりする。視線を四人に固定し余力も無かった魔王は、僕程度の突進に容易にその腕をズラされる。

 

 腕ごと光線が逸れる。

 

 そして逸れた光線が——魔王自身の胸を貫き、更にその勢いで天井すら吹き飛ばした。

 

「ぐあああああああ!」

 

 魔王の絶叫が玉座の間に響く。

 

 魔王の体が黒い粒子となって崩れ始める。

 

「よりによって……魔王たる私が、魔物に」

 

 魔王の声が途切れ途切れになる。

 

「それも、こんな小さなッ……」

 

 驚愕に目を見開いていた魔王の体が完全に脱力し、崩壊していく。

 

 黒い粒子が舞い上がり、消えていく。

 

 魔王が——消滅した。

 

 四人が驚いた表情で僕を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王が完全に消えた瞬間、体が熱を持ち始めた。

 

 更に光が体を包み込む。

 

「ニャ、ニャア!?」

 

 僕は驚きの声を上げる。

 

 これは——進化だ。

 

 馬鹿な。いくら魔王の経験値といえど大丈夫な計算だったのに。

 

「ミーニャ!?」

 

 離れた位置から四人が僕を見つめる。——そうか!彼らとの距離は離れている。それで分配が行われず、僕は魔王の経験値を独り占めする形になってしまった。

 

 光がどんどん強くなる。

 

 再び覚える、体がきしんで作り変えられる感覚。しかし徐々に高くなる視点は前の比では無かった。

 

 そして——。

 

 光が収まる。

 

 僕は自分の手を見た。

 

 「あ、あぁ……」

 

 人間の手だった。

 

 全身を見下ろす。どこから生成されたのか簡素なワンピースを着ている。それに腰の後ろ側からは、感覚もあって動かせる何かがふらふらと動いている。猫の時からあった尻尾が生えているのだろう。

 

 人型に……おそらく原作と同じ姿に進化してしまった。

 

 僕の頭の中が真っ白になる。

 

 四人が呆然と僕を見つめている。

 

 静寂が流れる。

 

 そして——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく無言の時間が流れる。

 

 そしていち早くレオンが動き出し僕に向かって歩き出す。

 

 そして——。

 

「か、かわいい……」

 

 そう呟いて僕の手を握った。

 

 レオンの顔が紅潮している。その瞳は——明らかな熱を持っていた。

 

「お前……ミーニャなのか?」

 

「え、あ。えっと」

 

 答えに窮した僕はロクな返事を返せないが、元より確信していた彼は言葉を続ける。

 

「綺麗だな……いや、その……」

 

 レオンが言葉に詰まる。明らかに三人には見せたことのない態度。

 

 その視線は他の三人の存在を忘れたかのように僕だけに注がれている。僕は目の前のレオンには目もくれず、三人の様子を伺う。

 

 三人は言葉も発さず、顔を赤くしたレオンに手を取られている僕に視線を向けていた。

 

 カタリナの目が、驚愕に目を見開かれている。

 

 リリアナの笑みは消え、真顔でこちらを見つめている。

 

 ノエルは杖を握りしめて震えている。

 

 ——僕の脳裏に原作の結末が蘇る。三人に罵倒されるミーニャの姿。畜生、クソネコ、アバズレ——。

 

 ここから巻き返す手段も思いつかない僕は、目の前が真っ暗になるような気持ちでただ三人を呆然と見つめていた。

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