独逸魔法学園物語   作:輝城蒼空

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2 入学許可証

「……ブロッケン・ドイツ統一――魔法、学院?」

 

マティアスの頭のでは、数えきれないほどのクエスチョンマークが浮かんでいた。

目を白黒させ、書類とそれを持ってきた役人を交互に見る。

 

「ブロッケンは――魔法使いの子供たちに、魔法を教えるための学校です」ミュラーが答えた。

「魔法使い? 魔法を教える学校?」

 

マティアスは目を閉じ、何度かうーんと小さく唸った。

二人が差し出した書類の内容を、何度も何度も咀嚼する。

しばらくして、考えがまとまり――マティアスは、ゆっくりと目を開けた。

そのオリーブグリーンの瞳は、きらきらと輝いている。

 

「――じゃあ、僕も――魔法使い、ってことですか?」

 

マティアスが尋ねると、シュミットが答えた。

 

「その通りです」

 

マティアスは息を呑んだ。

 

「ベッカーさん、あなたは魔法使いです。だから、こうして迎えに来ました」

「それなら、お姉さんたちも魔法使い? それから、その――ブロッケン! ブロッケンからきたってことは、お姉さんはブロッケンの先生なんですか?」

 

マティアスは、畳み掛けるように質問をした。

興奮を抑えきれず、顔には満面の笑みを浮かべている。

そんな彼の後ろで、両親は不安な表情をしていた。

 

「――もちろん、私も魔法使いです。先生ではありませんが」

 

シュミットが答え、ミュラーも頷く。

 

「シュミットさん、ミュラーさん――よろしくおねがいします!」

 

マティアスは、白い歯を見せて笑った。

それから、二人のことをまじまじと見つめ、「魔法使いって、本当にいたんだ……」と呟いた。

 

さて――マティアスには、この役人に聞きたいことが山ほどあった。

ブロッケンはどこにあるのか、そこにはどうやって行くのか、それから魔法使いはどんなことを勉強するのか。

いくら質問しても、彼の疑問は尽きないだろう。

 

――でも、最初に尋ねたのは、やはりこれだった。

 

「――あの、ミュラーさんは、魔法が使えるんですか?」

「もちろんです。魔法を見たら、もっと驚くと思いますよ」

 

ミュラーはそう言って――スーツの内ポケットから、金具付きの短い棒を抜き取った。

先端を軽く捻ると――「カチ、カチ」と二度鳴り、棒は瞬く間に人差し指の三倍ほどの長さに伸びる。

 

――間違いなく、立派な魔法省の杖だ。

 

マティアスはその一挙手一頭足を、見逃してたまるかというように見つめた。

ミュラーは周りを見回し、水切りラックにある皿に目をやる。

マルティナに許可をもらってから、ミュラーは杖を皿に向けた。

 

「では――浮遊せよ(ライズマルン)

 

ミュラーが唱えると、皿がふわっと浮かび上がった。

彼がもう一度杖を振れば、皿はくるくると飛び回る。

最後にもう一度縦向きに揃え、水切りラックの中にしまった。

 

――マティアスは、感動のあまり言葉を失っていた。

 

「――ベッカーさん、これが魔法です」

 

11歳の少年は、お世辞にもかっこいいとは言えない中年の魔法使いを、尊敬のまなざしで見上げていた。

 

「……しかし」クラウスが、低い声で唸った。

「俺たちは、そのブロッケンなどという場所を見たことも、聞いたこともない。

そんなよくわからない学校に、俺たちの大切なマティアスを通わせる気にはなれない」

 

マティアスの顔が曇る。

クラウスはそんなマティアスに目も向けず、思いっきり言いやった。

 

「――統一魔法省? ――聞こえはいいが、結局は東の魔法シュタージと同じだろ!?」

 

クラウスはマティアスに目をやり、「……やってしまった」という表情になった。

 

「――違います」シュミットが答えた。

「シュタージの魔法課は解体されました。

かつて、国家に仕える魔術師を強制的に集め、訓練していた組織です。

幼い子を『適性あり』と判じれば、泣き叫ぶ親の腕から引き剥がし、二度と親のもとへ帰らぬよう、記録を抹消する。

……あなたが恐れているのは、それでしょう?」

 

クラウスは頷いた。

 

「あれは国家による監視と支配の道具。ですが、ブロッケンは『教育』です。国家が子を奪うのではなく、子を守るための仕組みなのです」

「……!」

 

クラウスは目を伏せた。

 

「――クラウスさん」ミュラーさんが、割って入った。

「あなたがたが、これまでマティアスを守ってきたことは承知しています。

我々が来るまで、彼を誰にも知られず育ててきた勇気を。

ですが、これ以上は隠し続けることはできない。

今度は――我々があなたに代わって、彼を守る番です」

 

クラウスは、テーブルに視線を落とした。

その間に、マティアスは自分の意見を言う。

 

「――僕、ブロッケンに行きたい」

 

両親を見る目は、期待に満ちていた。

普通なら、怯えておかしくない状況――それでも、期待の方が大きかった。

 

クラウスの心が、ポキっと折れた。

 

「……本当に、あいつらとは関係ないんだな?」

「断言します。あれは過去の亡霊です」シュミットが答えた。

 

「では、入学準備に必要なものを揃えましょう。ドレスデンのツィーゲル横丁に案内します」

 

ミュラーさんが立ち上がり、「車を回します」と言った。

マティアスは両親と顔を見合わせる。

 

こうして、本当に――知らない世界への、扉が開き始めた。




【あとがき】

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