「しかしあんなチビッコだった沙地も大きくなったなぁ」
「誠二先生それ一週間前にも言ってましたって」
今までも何度も誠二先生と一緒にご飯を食べてきたが店で酒を飲む姿を見るようになったのはつい最近のことだ。理由はきっと俺が成人したからだ。一緒に飲めるようになってからは毎回滝のように飲んでいる。
「大学での勉強はどうだ?確かスポーツ医学を学んでるんだろスケートの観戦を通じて何か気づけたりしたか?」
「んーあんまですね。凄い人とかはちょっとした動きで症状を見抜けるらしいんですけどホントかよって思ってます」
「まぁそのうちなにか気づきを得られるようになる」
そう言うとグイッとビールを飲み追加を注文する。俺の倍のペースで飲み進める目の前の人に驚愕するも両親もこんな感じだったことを思い出し大人はそういうモノだと勝手に納得しておく。
「それにしても選抜に選ばれる程のサッカー選手が引退してスポーツ医学の勉強か。俺がコーチなり監督なら絶対に引き留めてただろうな」
「俺は自分に限界を2年前ぐらいからずっと感じてたんで長持ちした方だと思いますよ。味のしないガムをずっと噛んでたんですから」
「どうだかな、お前の事だからいるかの為に辞めたんだろ。というかあのタイミングじゃなくても絶対どっかで理由付けて辞めてただろうな。指導者泣かせだぜホント」
「まぁ多少の申し訳なさはありますよ。多少は」
サッカー初めたのはをクラウンFSCをいるかちゃんが辞めて会えなくなってからだ。暫くはサッカーへ熱量が集中していたけどいるかちゃんと再会してからはもう熱量の殆どはいるかちゃんに移っていた。極めつけは高2で代表に選ばれた時だ、あの瞬間俺はサッカーへの情熱の残り火を使い切ってしまったんだと思う。
「前から言ってるが少しは自重しろそのいるか至上主義」
「昔よりは大分配慮してると思うんですけどね」
「お前基準の大分は一般基準だと少しだ。依存する事は否定しないが適度じゃないと身を滅ぼすぞ」
誠二先生は優しい人だからこうやって全否定せず何度も諭してくれている。俺もこの現状が健全ではないと自分なりに分かっているつもりだ。だがこのスタンスを辞める気はない、というか辞められない。辞めてしまったら自分がどうなるか分からない。それがとても怖い。
「スポーツ医学を始めたのだっているかのためだろ。人生の選択を他人の為に使うなんて普通は出来ない」
「いるかちゃんが理由ってのは当たりです。けど巡り巡って自分の為でもあるんで」
「お前なぁ毎回言ってるけど変な大人に言われた事なんて気にするな。お前が居なくちゃ乗り越えれなかった試練だって合ったはずだ」
「そうだと良いんですけど」
焼けたカルビを皿に取りタレをつけて食べる。やっぱカルビが一番だな。誠二先生の方はあまり箸が進んでいない様に見えるからホルモンにした方が良かったかなと少し思ったがカルビは今しか食べれないんだと思い直し誠二先生を見ながらもう一枚カルビを食べた。
「それにしても不思議なもんだなぁ小さい頃から面倒見てたお前と酒を飲むなんて。嬉しいもんだよ」
「中学の先生してたなら成人式でそういうの経験してそうなのに大袈裟じゃないですか?」
「お前はまた別なんだよ」
そういうモノだろうか?あんまり実感を得られないから共感できない。いるかちゃんが成人したら似たような気持ちになるのだろうか。あまり酒を飲んでいる所を想像したくないな酒癖が悪い姿しか思い浮かばない。いや待てよ酒に酔ったいるかちゃんを介抱するというシチュエーションに遭遇できるのではないか、そう思うとアリな気がしてきた。
「おい、話聞いてるか?」
「え?聞いてますよいるかちゃんなら酒癖悪くても可愛いって話ですよね。流石せんせい分かってますね。多分いるかちゃんはデレてくるタイプですよおれにはわかりましゅ」
「駄目だコイツ酔ってやがる」
「べつによってないですよぉ」
そう別に酔ってない。誠二先生より全然飲んでないしペースも遅い、ただ顔に出てるだけだろう。いや嘘酔ってるかも意識し始めたら急に頭がぽわぽわする。あーいるかちゃんに会いたいなぁ
「こりゃもう駄目だな、帰るぞ沙地」
「誠二先生いつもありがとう」
「酔ってる時に言われても嬉しくないな」
誠二先生に車まで運んでもらい後部座席に座らせられる。その後運転代行の人がやって来て運転をしてくれた。レッツゴーと叫んだ所までは記憶にあるがその後は寝てしまった。
「うわ酒くさ」
「あ、いるかちゃんだぁ~」
次に目が覚めると目の前にいるかちゃんがいた。結構近い所にある彼女の顔は相変わらずビジュがいい、特にまつ毛とか目の周りがいい。何故か無性に抱きしめたくなり抱きつこうとするとスッと避けられた。ちょっと前まで抵抗されず受け入れてくれていた事を思うと少し悲しい。
「普通に酒くさいから嫌、もう酒飲まないで」
「分かった。もう酒は絶対飲まないようにする」
「私との約束一生守ってくれる?」
「うん大好きいるかちゃん」
「何これおもしろ」
なんか眼前のいるかちゃんがニヤニヤしている。耳たぶを掴んで弄られながらなんか言われている。あんま詳細に何を言っているか酔ってて理解できないが取り敢えず首を縦に振る。その姿を見ているかちゃんは大爆笑している。何かは分からないが笑ってくれてるならいいや。暫くそんな遊びをしていたが限界がやって来て再び意識を手放した。
翌日そのまま五里邸でお世話になった俺はいるかちゃんから昨日の様子を動画で見せられた。いるかちゃんのした質問にひたすら肯定するだけの動画だったが時々変な質問が混じっていてそれに俺が肯定する度にいるかちゃんが爆笑していた。
酔った俺が悪いんだけどいるかちゃんお願いだから消してほしい、ただただそう思った