もしかしたらもう一本あるかも?
ジュニアグランプリでいるかちゃんがタイに行くことになった。前々からいるかちゃんの海外遠征に着いていきたいと言っていたのだが今回それが叶った形だ。
「高校以来だから久しぶりに飛行機に乗るよ、昔乗ったときは凄い怖かったんだよな」
「確かに移動するとき電車ばっかだよね、サチの手メッチャ震えてるしビビってる?」
「い、いや?全然ビビってないよ?」
「嘘ついても手握ってるから丸わかりだって」
いるかちゃんが俺の震える手を持ち上げながらマスク越しでも分かるぐらい読み取りやすく呆れた表情を見せる。飛行機って人が簡単に死にそうだから昔から怖いんだよな、鉄の塊で空を飛ぼうとする人類は頭おかしい。でもいるかちゃんの前なんだし少しぐらい格好つかせて欲しかった。
誠二先生と泰子さんの後ろを2人で付いて行き他の選手との合流場所へと向かう。全く関係者では無い俺が混ざって良いのかと思うが誠二先生曰く問題ないらしい。立場的には保護者枠って泰子さんが言っていた、保護者?とはなったがこの立場のお陰で現地のチケットとかを融通してもらったので文句は言えない。
「あ、明浦路さん久しぶりです。結束いのりさんのコーチだったんですね、サッカーの時は気づきませんでした」
「久しぶりです沙地さん、あと岡崎選手も!!話に聞いてた通り仲良しなんだね!」
「いや俺はゲロって無いからね、俺じゃないからね」
司先生の言葉を聞いているかちゃんの手を握る力が強まる、俺は一応被害者側だからね?犯人は隣でこっちを見て気配を消そうとしている誠二先生だから。
「選手の皆さん集まってください、写真撮りますよ~」
「あ、呼ばれてるよいるかちゃん!行かないと!!」
「後でちゃんと問い詰めるから」
丁度良いタイミングで少し離れた所から連盟の人が呼びかけている。なんとか一度ヘイトをそらせたが後で問い詰められるらしい、誠二先生視線でこっちに助けを求めないでくださいよ普通にやらかしたの先生じゃん。普通に俺はいるかちゃんに先生を売るからね。
「はーいコッチ見てね〜」
「ジャパンジャージ似合ってるよ!カッコいい!!」
「いるかちゃんコッチ見てー」
集合写真を撮ったあとも俺と明浦路さん、ライリー先生が並んでそれぞれの選手を撮っている。角度を変えながら何枚も写真を撮る、いるかちゃんは途中で疲れたのか抜けたので一緒に離れた。残されたコーチ2人は俺達が離れたあとも撮っていて羨ましいと思ってしまった。
長いフライトを終えてバンコクの地に降り立った。飛行機の席はいるかちゃんと離れていて残念だったが少し寝ていたらあっという間だった。
「なんかサチ顔色悪くない?」
「え?別にちょっと寝てただけなんだけどな」
「それ絶対気絶してたでしょ」
いるかちゃんに支えてもらう訳にもいかないので誠二先生に肩を貸してもらっている。前はもっとマシだったんだけどなぁ。たった3年空いただけでこうも酷くなってしまった。そのままタクシーに乗せられホテルへと向かった。残念ながら体調が悪く途中で見える街の景色なんて見る余裕は無かった。
「なんか思ってた食事と違うんですね、コーチだけ別のもの食べると思ってました」
「選手のためにそんな事をする訳にはいかんよ」
「ホント現役時代の俺に見習わせたいですよ」
ホテルに着いてから休憩し復活した頃には既に夕食の時間になっていた。てっきり現地の料理を食べるのかと思っていたがみんな日本食を提供された、普段のリズムを崩さず余計なストレスを感じないようにするためらしい。俺の現役時代はそこまで気にしたことが無かったので体調管理の徹底ぶりに尊敬する。
「飛行機はムリなのに変なとこで図太いんだよな」
「それとコレは違うんですよ」
皿に盛られた焼きそばをすすりながらキッパリと言っておく。誠二先生はどうだかと懐疑的な目で見てくるがどうしよもない。隣のいるかちゃんはこのやり取りに興味がないのか無言でご飯を食べている。と思ったら突然席を立ち上がりズカズカ進んで行く。
「おい、テメェは何しにココに来たんだよ…体調悪いならさっさと行けよ」
なんか後輩2人に圧を出して脅している。何やってんだろうと眺めているとそのまま女の子を連れてテーブルに戻ってきた。結束いのりだ、いるかちゃんの隣に立つ彼女はこっちを見て凄いビビってるけど何かしたかな?
「初めまして俺は斯波沙地、よろしくね」
「あ、結束いのりです…」
「ほらポテト食べな、あとサチビビらせないで」
「俺が悪いのコレ理不尽じゃない?」
俺の向かい側に座った彼女に初対面なので笑顔を意識しながら挨拶をしてみたがあんまり効果は無かったみたいで凄いキョドっている。その様子がポテトで餌付けしようとしているいるかちゃんが不満そうな顔をしているが俺は何も出来ないよ。
「いるかちゃん、どうやったらこの大会勝てると思う?」
しばらくして慣れてきたのか結束いのりがとんでも無い事をいるかちゃんに聞いている。いるかちゃんも予想外だったのか吹き出してしまっている。この子キョドってた割に結構図太いんだな。俺の興味がない専門的な話にシフトを始めたのでご飯を最後まで食べ切る。
「いるかを取られてつまらないねサチくん」
「別にこの瞬間ぐらいなんとも思いませんよ」
「ホント?凄い眼してるけど」
「してないです」
「眼を閉じても凄い眼だった事には変わりないから」
食べ終わって暇だから2人の話を眺めていたら泰子さんにそんな事を言われた。眼が凄いってなんだ?頭のなかでイメージするのも難しいので取り敢えず眼を閉じて対応するも意味は無かった。
「あぁー!!いるかちゃんも自分で言ってたのにいのりちゃんにベタベタしてるじゃん」
「初心だな別にベタベタなんてして無いよ、サチがいるのにする訳無いじゃんガキ」
いるかちゃんの隣を離れて俺の後ろに来るいるかちゃん、後ろから首に腕を回し抱きしめてくれる。それを見た男子の子は何故か顔を背けてどこかに行ってしまった。分かるよ思春期にこれ見ると恥ずかしくなっちゃうよね。結束いのりも固まっちゃったしどうしようかと思っていたが明浦路さんの併設リンクへの案内で元に戻った。
このあとホテルの5階にある併設リンクに行くときも部屋に戻るまでの道中もずっとべったりだった。何だったら今もいるかちゃんの部屋のベランダで彼女を抱きしめながら星を見ている。日本より多少暗いからか星がよく見える気がする。
「嫉妬するサチとか久しぶりに見たから楽しかった」
「別に嫉妬してないよ、微笑ましいと思ってたけど」
「顔を見てくれない時点で答えは分かってるけどそういうことにしてあげる」
腕の中のいるかちゃんにほっぺを突かれながらそう言われる。上から見るいるかちゃんの笑顔も可愛い。ずっとこうしていたい、そう思ったが明日はそれなりに早いしこれ以上邪魔する訳にはいかないなと思って部屋に戻って寝た。