岡崎いるかに選ばれたい   作:姉小路

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岡崎いるかを応援したい

あのデートの日が終わってからすぐシーズンが本格的に始動した。いるかちゃんは今まで以上に練習に打ち込むこととなったし海外に行くこともあった。お土産としてよく分かんない置物を貰ったが未だにコレが何をモチーフにしてるか分かってない。俺としても何もしてなかった訳でなく大学の試験や実家の手伝いなどをしていた。

 

この間全くいるかちゃんと会えなかった訳では無い。一緒にご飯食べたり車で送迎したり色々な機会で会っていた。ただ以前と比べたら回数は確実に減っている。ほぼ毎日のように関わっていたのが週に2回会うかどうかぐらいになってしまった。もの凄く寂しいけどいるかちゃんが頑張っている事を邪魔したくないので我慢している。そんな日々の中いるかちゃんを送迎する機会がやって来た。

 

「いるかちゃん今日制服なんだ」

 

「流石に開会式があるのに私服のやつはいないでしょ」

 

「そりゃそうか」

 

助手席に座るいるかちゃんは普段のように私服ではなく制服を着ている。もう見慣れた姿ではあるが何度見ても可愛い。初めて制服姿を見たときは可愛いを連呼しすぎて翌日から全く褒め言葉が機能しなくなってしまった事があった。あの日のいるかちゃんがしていた虚無みたいな眼は忘れられない。

 

「それじゃ頑張って。今日も全力で応援するから」

 

「そっちこそ絶対私から目を逸らさないで」

 

「ヤッバ」

 

現地付近に到着したのでいるかちゃんが車から降りる。別れ際に軽くエールを送ると強烈なカウンターを返される。突然のことに凄い動揺してしまった。すぐに車を出すつもりだったがこのまま出ると事故りそうなので少し待ってから行くことにした。

 

今日の大会はノービス前に行われる地区予選、所謂ブロック大会だ。いるかちゃんはノービスでの調整のための大会として見ていそうだけど多くの選手は自身を賭けるだけの価値がある大会だと判断しているだろう。会場周りの保護者らしき人もそわそわしている。自分も昔はあんなんだったなと懐かしい気持ちになった。

 

そんな大人たちを横目に会場入る。訳でもなく会場周りを散策する。目当てのいるかちゃんの滑走は夕方ぐらいから始まる。今がちょうどお昼なのでだいたい4時間ぐらいは暇なのだ。スマホと財布だけを持ちまだ知らぬ土地の探索を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結構色々な場所を歩き回り概ね満足できた。歩いている途中で匂いにつられて買った大判焼き、アレだけでお釣りが来るレベルで良かったと思える。そんな探索をしている間に時間は過ぎ去りいるかちゃんの練習が始まる時間も近づいている。誠二先生に滑走順を教えてもらっていたお陰で余裕を持って会場に入ることが出来た。そんな俺の視界に変な男が写る。

 

「あ、サチじゃん。今日も観戦?」

 

「そうだけど」

 

「よく飽きないね」

 

「俺がいるかちゃんに飽きるなんて絶対無いから」

 

変な男の正体は誠二先生がヘッドコーチをしている愛西ライドのアシスタントコーチ王仁敦士だ。輝也くんともう1人の千羽さんと同世代でよく3人でご飯に行ってるらしい。

 

「敦士、お前今日は財布落としてないな?」

 

「ちょっと待ってね。大丈夫まだある」

 

「絶対無くすなよ。また探すとかゴメンだから」

 

この人はよく財布を落とす。ホントによく落とすんだ。過去2回財布探しを手伝った事がある。そのうちの1回で財布を探してる間にいるかちゃんの滑走が終わってしまい見逃した事がある。あのときは泣いた、そのくせ敦士はありがとねと言いながらヘラヘラ笑ってるもんだから当時相当頭にきた。ただ今日は無くしていないらしいので探すことにはならなさそうだ。

 

「また財布無くす前に誠二先生と合流しろ」

 

「なんか言葉強くない?」

 

「自分の言動を振り返れ敦士」

 

「まぁいいや、誠二先生に連絡して…」

 

誠二先生に子守を任せたほうが良いと思い敦士を誘導する。誠二先生も忙しいだろうが元教師だ、きっと問題児が1人増えたぐらいなら大丈夫だろう。これで逃げれる、そう思った矢先に敦士が何かを探す様子を見せる。嫌な記憶と一致して走って逃げたい気持ちになるが見捨てても後味が悪いので踏みとどまる。そして一言

 

「ゴメン携帯無くしたわ」

 

「マジで巫山戯んな」

 

怒っても仕方がないのでいるかちゃんの滑走までに絶対見つけ出す。まず最初に管理センターに行き落とし物にないか聞いてみる。結果としては落とし物の中に携帯は無かった。そうしたら後は敦士の足取りを戻って行くしかない。地道に記憶を辿っていく。トイレ、客席、自販機前、車、会場近くのベンチ…新しい記憶からひたすら辿って行くも見当たらない。

 

「マジでどこに置いてきたんだよ」

 

「ここの前はどこに居たんだっけ?」

 

そう言って大人2人が頭を悩ませている。いるかちゃんの滑走に間に合わなかったら絶対ぶん殴ってやる。そんな状況で1人の女の子が声をかけてくる。

 

「もう先生どこ行ってたの!探したんだから!」

 

敦士の教えている子でいるかちゃんの後輩でもある炉場愛花ちゃんだ。首にかけている銅色のメダルを見るとこの大会で彼女がどんな成績だったかが分かる。

 

「こんにちは愛花ちゃん。あと3位おめでとう」

 

「あ、サチくんありがと!今日もやっぱりいるかちゃんを見に来たの?」

 

「そうだよ。俺はいるかちゃんの事が好きだからね」

 

そんな俺の返答にキャーと黄色い声を出す愛花ちゃん。やっぱり女の子はこういう話が好きなのかなと思う。それにしてもわざわざ敦士を探しに来るなんてどうしたのだろうか?

 

「俺を探すなんてなんか俺に用でもあった?」

 

「用も何もコーチが私に携帯預けたんでしょ!」

 

そう言って敦士に携帯を差し出す愛花ちゃん。それを受け取った敦士無言でこちらを見てくる。別に怒ったりしないから何か言いなよ、愛花ちゃんも困惑してんじゃん。

 

「それじゃ俺はいるかちゃんの滑走見に行くから」

 

「ありがとな」

 

「サチくんまた会おうね」

 

顔を合わせようとしない敦士と可愛らしく手を振って挨拶してくれる愛花ちゃん、こっちも手を振って挨拶して観戦に行く。割と時間ギリギリだったので走って客席に向かう。少し息が上がっているがいるかちゃんの番までには落ち着くだろう。

 

「すっご」

 

いるかちゃんの滑走が始まって思わず一言出てしまった。あんまりスケートの細かい所が分かっていない俺でもこの感想が出るんだ。詳しい人ならどこを切り取っても詰め込まれた技術を語れるぐらいなのだろう。

 

最後まで走り切ると会場が大きな拍手に包まれる。俺も席を立ち拍手する。プログラム中彼女に言われた通り一瞬も目を離せなかった。激しい振り付けに高いジャンプ、会場の多くの人を虜にしただろう。そんな彼女がキスクラに向かう所を眺めているとこちらを見つけたのか軽く手を振ってくれる。その時見せてくれた一瞬の笑顔に再び心を打ち抜かれた。

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