いるかちゃんの両親はロクでもない奴らだった。幼い頃のいるかちゃんに暴言を吐くのは当たり前、酷い時には暴力も振るっていたらしい。俺自身数回しかアイツらと会ったことが無いのでどうしてそういう事をしたのか深い所までは分からなかったが害である事は確かだった。
どうして今そんな事を考えているのか、それはいるかちゃんがその両親に会いに行っていて心配だからだ。過去に色々あった結果いるかちゃんはあの家を出て五里邸で生活出来るようになった、ただ条件として定期的に両親と会うことになっているのだ。
「そんな殺気立つなって。いるかなら大丈夫だから」
「そう言ったって誠二先生だって内心ヒヤヒヤでしょ」
過去を思い出してイライラしていたのが漏れていたのか誠二先生に咎められる。今は駅で帰ってくるいるかちゃんを五里夫妻と待っている所だ。毎回来なくても良いと言われているが結局来てしまっている。
「お前はもう少しいるかを信じて良いんじゃないか」
「別に俺だっているかちゃんのこと信じてますよ。あの馬鹿共を信じれないってだけです」
「それもそうだな」
『もうすぐ着く』というメッセージを最後に3人とも無言でいるかちゃんが来るのを待つ。メッセージが来てから数分たった頃に電車が到着したくさんの人が改札を抜けていく。
「あ、来たわよ」
泰子さんのその言葉を聞いて必死にその姿を探す。人が多くすぐには分からなかったが何とか見つけられた。変わらぬ顔、変わらぬ髪、変わらぬ雰囲気に少し安心する。
「みんないんじゃん。来なくても良いって言ったのに」
「いるかちゃんが無事で良かった〜」
何ともなさそうないるかちゃんに思わず抱きついてしまう。以前と変わらぬその感触がいるかちゃんが無事なんだと実感させてくれる。
「サチはいつも大袈裟なんだよ」
「アイツらのことに関しては大袈裟ぐらいが丁度良いよ」
抱き合っている姿を温かい目で見守ってくれていた五里夫妻も俺の意見に首を縦に振ってくれる。俺がこんなに取り乱してるから冷静なだけで俺がいなかったら絶対2人も感情爆発させてたと思う。
「なんであれいるかが無事で良かった」
「そうね帰ってご飯にしましょ」
一旦いるかちゃんから離れる。もう家に帰ってしまうのか、邪魔しても悪いし俺はお暇させてもらおうかな。俺は別の機会で良いし前回は2人でご飯に行かせてもらったし。
「なら邪魔しちゃ悪いし俺は帰りますよ」
そう言うと3人が帰るの?みたいな顔で見られる。あれコレは俺も含まれている感じだったのかと思いすぐさま訂正しご一緒することにする。そんなに認められてたんだと少し嬉しく思いながら先を行く3人について行った。
「いつもみたいにしてれば良いんだよ変な所で気を使わずに。」
「俺って普段から気を使える方だと思うんだけど」
そんな俺の反応を見て嘘嘘と言いながら笑ういるかちゃん。彼女が手を絡めてきたから手を繋ぎ五里夫妻の後ろを2人で並んで歩いて付いて行った。
「今から作るから待っててね。いるかも手伝わなくて良いからゆっくりしてなさい」
五里邸に到着した俺は左手に持っていた袋をキッチンに置くと泰子さんに待機を命じられる。泰子さんの言葉に甘えてソファに座ってくつろぐ。そのすぐ隣にはいるかちゃんが座っていてスマホを触っている。
何をしているのか凄い気になるが勝手に人のスマホを覗くのは良くないなと思い踏みとどまる。誠二先生は仕事してるらしくこの場にいないので話相手がおらず暇だ。ホントにやる事がないのでいるかちゃんに許可をもらい彼女に長い髪の毛を三つ編みしようとする。
「前も思ったんだけど三つ編みにするの慣れてない?」
「昔いるかちゃんなら似合うだろうなと思って自分の髪で練習したんだよね。」
「私の髪が短かった頃?」
「そうそう」
緩く会話をしながら左右に2つ三つ編みを作っていく。サラサラしているのでとてのも編みやすく時間も大してかからないうちに完成する。前にしたときも思ったがやはり三つ編みが似合う。
「写真撮ってもいい?」
「撮ったの後で送って。あとサチも入って撮って」
「いるかちゃんだけで良いじゃん俺いる?」
俺は後で消したって良いので取り敢えず今の状態を自撮りの要領で撮影する。撮った写真を確認して見るとあまりいるかちゃんの可愛さが伝わらないのでもう一度何枚か撮影する。その写真をスマホを渡して良いものを選んでもらう。結構いい写真が撮れたと思う。
「コレにする。」
「良いよねそれ、特にいるかちゃんの表情が凄い良い。これだけで良いの?別に全部送るけど」
「この写真だけで大丈夫」
そう言って携帯を返して貰うといるかちゃんは自分のスマホを触り始めた。撮った写真微妙だったかなと思い見返そうとスマホを見ると待ち受けがいるかちゃんから男女2人の写真に変わっている。目の前の彼女にどういう事かと聞こうとすると一件のメッセージが送られてくる。
『お揃いだから勝手に変えるなよ』
疑問で埋まっていた思考が一気に喜びで溢れかえる。幸せのあまり立ち上がりいるかちゃんを抱きしめる。
「いるかちゃん大好き」
「ちょ、バカ止めろ」
「何してんのアンタたち!」
抱きしめたままくるくる周りいるかちゃんを振り回す。そんな所を泰子さんに見られてしまい止められる。そうして解放されたいるかちゃんにも怒られほっぺを引っ張られた。流石に興奮しすぎた。
この後は泰子さんの用意してくれたご飯を4人で食べた。献立はすき焼きだったのだが良いお肉なのかとても美味しかった。