今日はいるかちゃんの強化練習を長久手まで見に来た。ジュニアの練習にはいるかちゃんは両親の所に行っていたので参加していなかった。そのためこの時間での参加となっている。今日はただ見学しに来ただけでなく用事で来れない愛花ちゃんの両親の代わり愛花ちゃんを送り届ける必要のある誠二先生の代わりにいるかちゃんを五里邸に帰す役目を俺が承った。
そんな訳で会場に入るも世代が違うからか保護者席に見知った顔がない。ココで変な動きをしたら不審者に思われそうなので堂々と歩く。いつも通り隅の方へ行きリンクを眺める。まだ選手の姿はないことから、練習前に間に合ったと思って良いだろう。
暫くして練習が始まった。リンクに出てきたときイライラしていたいるかちゃんは曲かけが始まって雰囲気が一変する。さっきまでイライラしてた人とは思えないほど綺麗な滑りをしている。周りの小学生たちもその滑りを見てはしゃいでいる、その気持ち分かるよいるかちゃんは凄いんだ。その後に小学生たちが滑っていたがいるかちゃんレベルで滑れている子は一人しかいなかった。いや1人でもいる事が凄いのか。
「岡崎いるかにお前がつるむと岡崎いるかは狼嵜光に簡単に喰われるぞ」
過去によく知らない爺さんコーチに言われた言葉だ。他にも多くの人に似たような事を言われてきた。その結果嫌なイメージが定着してしまった狼嵜光という名前はしっかり脳裏に刻まれている。実際彼女の滑りは素人目でも上手なのが分かり滑りが簡単に見える。こうして見ると今までの人たちに言われたことが正しいような気もしてくる。まだ小学生なんだ、きっとまだまだ伸び代があるのだろう。
練習が終わり外でいるかちゃんが来るのを待つ。季節はもうすっかり冬が近づいていて日中でも寒い、それなのに今は真っ暗闇の夜だ上着を着なくては凍ってしまいそうな寒さである。
「寒いのにありがとうサチ」
「あれなんか上機嫌?」
てっきりイライラした状態で来るものだと思っていたが今のいるかちゃんはなんか嬉しそうだ。何があったのか全く見当がつかない。時間も遅いので取り敢えず車に乗り込み出発する。
「なんか良いことあった?」
「すげーアホな奴が居たんだよ。実叶の妹なんだけど」
その言葉を聞いて一瞬心が冷めてしまう。偶に超能力みたいな読心をするいるかちゃんに今のを気づかれてないと良いけど。努めて冷静を装って会話を続ける。
「実叶ちゃんの妹か、俺も会ったことあるかな?」
「覚えてないけど多分あるんじゃない?あの時期はずっと3人でいたし1回ぐらいはあるでしょ」
頑張って記憶を探り掘り起こそうとするも上手く頭が回らない。落ち着け冷静になるんだ、そんな事をしてもいるかちゃんは喜べない。自分に言い聞かせて心を落ち着ける。
「まぁ何であれいるかちゃんが楽しそうで良かった」
「前から思ってたけどそんな感情分かりやすい?」
「他の人は分かんないけど俺はなんか雰囲気で分かるんだよな」
感情が読みやすいかなんて話なんて普段なら絶対にしないような会話をしているこの状況だけを見てもいるかちゃんがご機嫌なのは分かる。この後も道中楽しそうに今日あったことを話してくれる彼女はとても可愛らしい。ただ話の内容が結束姉妹関連ばかりで五里邸に到着する頃には立派な嫉妬心が俺の中で産まれていた。
いるかちゃんの居なくなった車内で1人思い出す。結束実叶の話が最初に出てきたとき一瞬怒りが溢れてしまった。さっきのいるかちゃんの様子を見ると気づかれてなさそうだ。それにしても久々に結束実叶の名前を聞いた気がする。俺と彼女の関係性は一時期一緒にスケートを学んでいたクラスメイト、ただそれだけだ。だがいるかちゃんにとっては違う。彼女にとって最もであり心の傷にもなっている人だ。結束実叶が居なくなったばかりのいるかちゃんは荒れに荒れていた、今でこそ嬉々として話題に挙げているが以前までは「みか」の2文字が入る単語になら何でも反応してキレるぐらい荒れていた。
そんないるかちゃんを見ていたからこそ俺は結束実叶が大嫌いだ。彼女の性格が変わっていないなら今でも彼女は太陽のように明るいのだろう。だからこそ俺はいるかちゃんを傷つけておいて一度も会いに来ずのうのうと生きている結束実叶が許せない。結束実叶にはいるかちゃんと同じだけ傷ついて後悔してほしい、そう心から思っている。
どうやってあの結束実叶がを傷つけるのか。目には目を歯には歯をの理論ならばいるかちゃんの大切な人が居なくなったのだから結束実叶の大切な人を彼女から奪えば同じ苦しみを味わってくれるだろう。長らく関わりも無かったので大切な人が誰か分からなかったが今日の話を聞く限り妹の方は姉である結束実叶との関係性は良好なのだろう。ならば結束実叶と接触して反応を確かめて見ても良いだろう。
昔のいるかちゃんならいざ知らず今の彼女は結束実叶に執着が薄くなっているし復讐なんて望んでいないだろう。だからこんな事を俺がしても悲しむだけだって分かっている。それでも俺は結束実叶に苦しんでもらわないと気が収まらないんだ。まずは妹の方に接触して話を聞いてみようかな、頭の中でそんな計画を立て始めた。
コレってアンチ・ヘイトになるのかな