機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.3-3 Contact

 デパートにありそうなサイズのエレベーターに促されるまま乗り込む。

 

 渡辺さんは胸ポケットから職員証のケースをつまみ上げ、その奥に差し込まれていた一枚のカードを抜き出した。

 

 階数ボタンの下にある細いスリットへカードを差し込むと、エレベーターは、かすかな低音を響かせながら動き出した。

 

 渡辺さんが「ああ、これ?」とカードを指さす。

 

「これね、職員の中でも一握りしか持ってない、整備ドック行きの許可証のようなものね。ドールユニットの整備区画は、iARTSの中でも階層が違う場所にあるからね」

「わたしも持ってま〜す」

 

 優月も負けじとドレスのポケットからカードを取り出した。どこか自慢げだ。

 

「橘さんにもあとであげるからね」

「えっ……私もですか?」

「もちろんよ、白龍のパイロットが入れなくてどうすんの?」

「そうだよ〜。杏子ちゃんも、白龍をお世話しないといけないからねえ〜」

 

 えっそうなの?と聞く私に、優月はもちろんと即答する。

 

「機体の修理は整備スタッフのお仕事だけど、微調整とか新武装の提案なんかはパイロットの仕事なの」

「そうなんだ……」

「結局、戦うのはわたしたちだからねえ〜」

 

 優月はエレベーターの天井を見上げた。さっきまでと違って、どこか物憂げな表情をしているのが気になった。

 

 1分もすると、エレベーターは減速しはじめ、すぐに停止した。いかにも重厚そうな扉が開く。

 

「さて、着いたわね」

 

 渡辺さんの声とともに、視界が徐々に開けていく。ひんやりとした空気と地下とは思えないほどの明るい光が、私の感覚を満たしていく。

 

 私は唾を深く飲み込み、鉄製の箱から一歩踏み出した。完全にクリアになった世界にあったもの。

 

 それは、2体の巨大なロボット、ドールユニットだった。

 

「大きい……」

 

 鋼鉄の巨躯が立ち並ぶその光景は、神々しさすら感じる程だった。白を基調とした機体は静止しているだけなのに、得体の知れない気迫を放っている。関節部には整備用アームがつき、周囲では技術スタッフたちが慎重な動作で手を動かしていた。

 

「ただいま!わたしの真鶴!」

 

 優月は機体が目に入るや否や、細い腕を元気よく振り回し機体の方へ走っていった。

 

「あれが、白龍……」

 

 私は距離を取りつつ、機体をまじまじと見上げた。

 

 灰色をベースとしたドックの中で、白龍の白い巨躯はただならぬ存在感を放っている。全高20mほど、私の10倍以上の身長はまさしく"巨大ロボット"として遜色ない大きさだった。

 

 鋭い2つ目を持つ頭部には、3本のアンテナが突き出していた。中央の1本は金色に輝き、ドックの天井目掛けてまっすぐ伸びている。

 

 両脇に並ぶ2本は浅葱(あさぎ)色の金属光沢を湛え、左右へと張り出したのち、途中からゆるやかに後方へ反っていた。どこか神獣の角を思わせる形だ。

 

 胴体は白い装甲で覆われ、中心にはコックピットが鎮座している。脇腹を走る浅葱の塗装が、硬質な輪郭にかすかな流線を刻んでいた。

 

 両肩、両腕、両脚部の白色に対して、手や足は黒く染め上げられ、その対比は美しさすら持ち合わせていた。その中で、肘当て、膝当ての浅葱色が機体の印象を一変させる。

 

 そして、両足から生えた3本ずつの金色の爪は、生物を見ているような独特な感覚を抱かせてくれた。

 

「きれい……」

 

 ただの感嘆が漏れる。渡辺さんが、ふっと笑みを浮かべた。

 

「白龍をまともに見るのは今回が初めて?」

「はい……いつもは気がついたら乗ってたので」

「かっこいいでしょ?」

「はい、すごくかっこいいです」

 

 ――私、こんな機体に乗ってたんだ。胸の奥が、じんわりと熱くなっていくのを感じた。

 

 私は視線を右にずらす。白龍と同サイズの機体が同じような姿勢で立っていた。

 

「あっちが真鶴……」

 

 真鶴は大まかな見た目こそほぼ白龍と同じであったが、青緑の代わりに赤色のラインがところどころに走っていた。どこか情熱みを感じさせる、エネルギッシュな色。

 

「まあ、真鶴は修理中なんだけどね」

「えっ、そうなんですか?」

 

 渡辺さんは「ああ、うん」と肩を軽くすくめた。

 

「あなたが白龍に乗る前は優月が真鶴で戦ってたんだけど、ちょっと前にこっぴどくやられてね。まだ修理が終わってないんだ」

「そうだったんですね……」

 

 私の胸の奥になにか重いものが落ちた気がした。

 

 そうか、優月は私が来るまで、ひとりで戦ってたんだ……。

 

 私は整備員と談笑する優月の背中を見た。

 

 あんなに明るくて、人懐っこくて、周囲の空気まで軽くしてしまうような子が。

 

 さっき、エレベーターの中でふっと曇ったような表情を見せたのは、もしかしたら……。

 

「おーい!杏子ちゃーん!」

 

 遠くで優月が健気に手を振っている。

 

「行ってらっしゃい、橘さん」

 

 渡辺さんの口調が急に優しくなる。私の考えていること――優月の無邪気さの裏にある不安や孤独。それをきっと、渡辺さんも知っているのだろう。

 

「……はい」

 

 私は小さく返事をして、優月の方へ走り出した。ドックは思ったより広くて、少し息がきれる。

 

「聖堂さん、なに?」 

「ユズでいいよ〜」

 

 優月だから、ユズ。安直なのに、少し面白くて、少し嬉しい。

 

「それじゃあ……ユズ、なに?」

「わたしと……」

「……?」

 

 優月は私の目を真正面から見つめた。 

 

「戦ってみない?」

 

 予想だにしなかった一言だった。

 

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