機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.4-2 Buddy

 雲ひとつない快晴の空から、眩しい朝日が降り注ぐ。季節はすっかり冬らしさを帯び、銀杏の枯葉が道路脇を埋め尽くしている。

 

「ふぁぁああ……」

「おっ、見事なあくびですねぇ」

「茶化さないでよ葵」

 

 葵が私の顔を覗き込みながら微笑む。表情にはからかいと共に、ほんのりとした優しさも込められていた。

 

「iARTSっての、もっと非現実的でSFチックだと思ってたんだけどなぁ」

「それがさ?毎日めっちゃ忙しくてさ?大変なんだよね」

「ロボットに乗って戦うだけじゃないの?」

「……ドールユニット」

 

 強めの語気で1字ずつ訂正する。

 

「私、どうしてもドールユニットでユズに勝てなくてさ。いっつも撃破されるんだよね」

「あはは、スクラップ祭りか……」

「もうちょっと手加減してくれてもいいんだけどね」

 

 私は立ち止まり、ふと自分の左手を見つめた。

 

 ――どうしたら、もっと上達するんだろう?

 

 このごろ考えてることといえば、そればかりだ。

 

 理屈では理解できない動き、迷いのない判断。何度挑んでも、そのたびに叩き落とされて終わる。

 

 ――私、全然強くない……。

 

「うん?どした?」

「ううん、なんでもない」

 

 私は小さく息を吐き、再び歩き出した。葵が「あっ、そうだ」と間の抜けた声を出す。

 

「そういえばさ、今日転校生が来るんだって」

「うちのクラスに?」

「それは分からないけど、なんかめっちゃ独特な髪の人なんだって」

「へえ」

 

 この手の学校の噂は大体当たる。おそらく、転校生の話も本当なんだろう。

 

「仲良くなれるといいね」

「うん」

 

 葵の声かけに相槌を返す。自然と、足音が軽くなった気がした。

 

 

 

 もうすぐ朝礼の始まる教室内は、いつにも増して騒がしかった。この時期にしては珍しい転校生の話題に、男女問わず大盛り上がりだ。

 

「やっぱりこのクラスに来るのかな?」

 

 椅子の背もたれの上から葵が体を振り向かせる。その目はどことなくキラキラしている気がした。確かに、私の後ろの席が空いている。

 

「それかテストだったりして」

「うっ……それは勘弁っ」

 

 洒落にならない冗談に、葵はオーバーに顔をしかめた。私の口角が緩む。

 

 やがてチャイムが鳴り、先生が室内に入るとざわめきは途端に止んだ。見ると、いつもと違う色の資料を脇に挟んでいる。

 

「起立!礼!おはようございます!」

 

 クラス委員の案内に合わせて、皆が挨拶を唱える。朝らしい、いつもの光景。

 

 ――だが。

 

「今日は大事な話があります。うちのクラスに転校生が来ることになりました」

 

 その一言に、クラス中の瞳が色めき立った。

 

 誰だろう?女かな?男かな?そんな期待の声が漏れ出るようだった。

 

「さあ、入って」

「はい」

 

 ――聞き慣れた声だ。

 

 胸の奥がざわつく。え?いやいや、まさか。そんな疑念が頭の中に溢れる。

 

 簡潔に言うと、その疑念は見事的中した。

 

 扉から入ってきた少女――レモンイエローの結んだ髪に、軽やかな足取り。整った顔つき。

 

 聖堂優月が、そこにはいた。

 

「それじゃあ、自己紹介を」

「聖堂優月です!ユズって呼んでください!」

 

 ペコリと腰を曲げる優月。その仕草ひとつひとつが、見慣れたものだった。

 

 私は、ただ呆然と彼女を見つめることしかできない。

 

 視線は縫い止められたように外れず、思考だけが遅れて追いついてくる。

 

「ねえ、もしかしてユズって……」

 

 葵の声が、前から小さく漏れた。私は両目を右手で覆い、

 

「う、うん……あの子……」

 

 漏らすように小さな声で答えた。

 

「じゃあ、聖堂さん。あなたの席はあそこね」

「分かりました!」

 

 先生が指さした席に、優月は跳ねるように向かう。

 

「杏子ちゃん!よろしくね!」

 

 おそらく本心からそう言った優月を、私は直視できなかった。

 

 

 

 昼休み。

 

 チャイムが鳴るや否や、教室の空気が一気に弾けた。気がつけば、クラス中の女子が優月の席を取り囲んでいる。

 

「ねえ、その髪って染めたの?」

「前の学校ってどんな感じだったの?」

「ユズって呼んでいいの?」

 

 そんな質問が数多の口から飛び交う。それを尻目に、私は気まずそうに弁当に箸を入れる。

 

 ――なんで?なんで!?

 

 そんな疑問にも似た叫びが口から飛び出しそうになるのを、私は堪えるしかなかった。

 

「優月ちゃん、思ったよりかわいいじゃん」

 

 葵がわざと明るく茶化すような笑みを浮かべた。

 

「全く笑い事じゃないんですけど」

「まあいいじゃん、ロボットの話もできるし」

「うう……そうだけど……」

 

 その時だった。ちゃん付けの名前が私の耳をくすぐった。

 

「杏子ちゃん!ちょっといいかしら?」

「は……はい!」

 

 無駄に恐縮した声に葵が我慢できずに吹き出す。

 

「あ、あの……葵も連れてっていい?」

「杏子ちゃんの友達?いいよ!」

 

 私は優月の提案に条件付きで応えた。

 

 

 

 校庭端にある大木の下、昼休みでも滅多に人の来ない、静かな場所。その木陰に、私たち3人は並んで立っている。

 

「へぇ、前の学校にこんな場所はなかったなぁ」

 

 興味深そうに大木を見つめる優月。それをからかいたがる葵。そして、疑問をぶつけられずにいる私。そんなちぐはぐな3人。

 

 けれども、しかし、でも。そんな接続詞が頭を舞う。どうしたら聞き出せるのか、そもそも聞き出していいのか?

 

 そう思っていた時だった。

 

「ユズちゃんってなんでこの学校に来たの?」

「え?」

「いや、なんか目的があるのかなぁって」

 

 葵がまるで代弁するかのように問いかける。

 

「ああ……これって言っていいのかな?」

 

 私は俯いたまま、軽く首を縦に振る。どこか、諦めに似た感情が溜まる。

 

「杏子ちゃんに……会うため、かな?」

「杏子に?」

「そう!実は私たちってiARTSっていう秘密の機関に所属してて、どうせなら一緒にいたほうがいいかなぁと思って。杏子ちゃんも、学校に来ていいって言ってたし」

 

 体がビクッと動く。

 

 ――ああ、確かに言ったなぁ……。

 

「そうなんだ!実はね、私もiARTSのことは杏子から聞いてたんだ!ロボットに乗ってることも」

「そうなの?じゃあ仲間だね!」

「うん!」

 

 優月と葵がガシッと握手する。初対面とは思えないほど息が合っていて、見ているこちらが置いていかれそうになる。

 

「それじゃあさ、なんか名前決めないとだよね!」

「え、名前? 面白そう!」

 

 葵の何気ない一言に、優月が楽しそうに身を乗り出す。話題はすっかり、次の段階へと進んでいた。

 

「なら……ロボット部……とかどう?」

「部ってほど大きくないでしょ」

「じゃあ、金原(かなはら)高校ロボット同好会!」

「うーん、採用!」

 

 葵が満足そうに、親指を立てた。私は勢いに圧倒されるばかりだった。

 

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