機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.6-4 Rebirth

 人影の消えた街に、白龍のスラスターが咆哮する。最高速度で飛行する白龍の姿は、まさに龍そのものだった。

 

 私の目が敵機を捉える。敵は、大通り上で静止していた。足元には、いくつもの大破した車が転がっている。

 

「距離を詰めれば……!」

 

 ビームライフルさえ排除すれば、攻撃力を大幅に削げる。いまの私の頭には、それしかなかった。

 

 白龍が草薙を抜刀する。家々から噴き出す炎が刀に反射した。

 

 ――きっと、あの家にも人が……。

 

「このぉぉぉおおおおお!!!」

 

 レバーに合わせて白龍の脚部が前へ揃えられ、足裏のスラスターが逆噴射する。急減速と共に脚が大きく開かれ、刀が振り上げられる。

 

 刀は、ビームライフル目掛けて一直線に振り下ろされた。

 

 ――これさえ除けば……!

 

 だが、シートに座る私の視界には、切断されたビームライフルではなく、数多の電流が走っていた。

 

 草薙は、敵機の左腕から展開された緑のシールドに弾かれていた。見た目は白龍のものとそっくりだ。

 

「邪魔……!」

 

 私の手がキーボードを打ち込み、白龍の左脚が弧を描くように振り抜かれる。

 

 それを察した敵機は、足裏のスラスターを噴かせ瞬時に後退した。

 

 回し蹴りは、空を切った。

 

「なんで……!」

 

 私は敵機の方に目をやった。

 

 瞬間、ビームライフルが発光する。

 

 一瞬、世界がスローモーションになり、全ての音が消え去ったような気がした。

 

 ――しまった、やられる……!

 

 そう思った時、突如として敵機は大きく跳ねた。同時に、道路に大きな穴が空いた。ダン!という音が遅れてやってくる。

 

「外した!」

 

 優月の悔しげな声が聞こえる。再び、弾の発射音が鳴り、敵機がまたしてもそれをかわした。

 

「アハハ!2対1とは卑怯だねえ!」

 

 突如、スピーカーを聞いたことのない女の声が通過する。

 

「誰!?」

 

 思わず声を上げた私に、女はぶしつけな返事をした。

 

「あれぇ?ラグールから聞いてないかしら?まぁいいわ。あたしはアリア、王立機動軍のエースよ」

 

 アリアと名乗る女の声は、明らかに興奮していた。

 

「王立……機動軍?」

「ありゃ、それも知らないのかぁ。ラグールの口は思ったより堅いのね。簡単に言えば、あんたらが言う"フロンティア"の正規軍よ」

 

 ――軍隊?

 

 私は耳を疑った。私たちはそんなものと戦っているのか?

 

 目線が空中に止まる敵機を見上げる。恐らく、いま地上にいる白龍が攻撃しても倒せないだろう。

 

「軍隊なら、なんで街を襲うんですか!?敵は私たちだけでしょう!?」

「きみ、お子ちゃまだねぇ」

 

 敵機がシールドを展開している左腕を構えた。かと思えば。

 

 シールドはみるみるうちに形を変えていった。楕円形から、直線になり、そして。

 

 刀になった。

 

「なっ……!」

「あんたたち、あたしらの技術を相当解析したらしいけど、こういうのはまだ身につけてないみたいねっ!」

 

 敵機が空中で一回転し、刃を叩き落とす。

 

「くっ……!」

 

 私の足が瞬発的にペダルを踏み込む。白龍の足裏のスラスターが動作し、刃を寸前で避けた。

 

「おっやるねぇ、でも!」

 

 敵機の刃は止まることを知らない。私は白龍のシールドを展開し、攻撃を防ぐことに専念した。刀が振るわれる度に腕が激しく揺れる。

 

「アハハ!それじゃあ勝てないよお?」

 

 女の余裕を帯びた声が耳を通り抜けていく。

 

「杏子ちゃん!敵を空中に上げて!あいつの機体、背部スラスターが少ない!空中戦に弱い!」

「でもどうやって!」

 

 優月の言っていることは本当なのだろう。けれども、どうすれば。

 

 ――いや、ひとつある。

 

 そうか。

 

 そうすれば!

 

 私は白龍のシールドを畳んだ。

 

「ちょっ……杏子ちゃん!?」

「作戦が、ある!」

 

 白龍が左手に収まっていた草薙をも捨てる。

 

「降参かなぁ!?」

 

 緑色の刃が迫り来る。白龍の右腕を切り落とそうとしている。

 

 その直前、私はペダルを一生懸命踏んだ。手が操縦レバーを操る。

 

 白龍は刃を避けるように身を屈ませた。そして。

 

「いっけえええええええ!!!!!」

 

 白龍の左拳が、敵機の顎をぶち抜いた。あまりの衝撃に、敵機が空中に打ち上げられる。

 

「そこだ!」

 

 優月の嬉しさの混ざった声がする。直後、レールガンの弾が敵機のビームライフルを貫通した。

 

 ピンク色の爆発の下、白龍の右脚が回転する。

 

「喰らえ!」

 

 渾身の蹴りが、敵機の胴体へと叩き込まれた。

 

 衝撃波を残し、敵機が大きく弾かれるように吹き飛んでいく。

 

「やった!」

 

 私はコックピットの中でガッツポーズを決めた。勝てた、そう信じて疑わなかった。

 

「へえ?やるねえ、きみ。舐めてたよ、正直」

 

 女の声が鳴る。不思議と、悔しさは感じなかった。

 

「ひとつ教えてください。なぜ、私たちの街を襲うんですか?」

「……まあ、ご褒美に教えてもいいか」

 

 女は深く息を吸い込み、吐き出した。

 

「あんたらの街を破壊するとね、こっちの魔力が増すんだ」

「……魔力?」

「そう。魔力。要はぶっ壊せば壊すほど強くなるってこった。お前らみたいな雑魚の命でも貢献できるってこったな」

 

 私は開いた口が塞がらなかった。

 

 ――そんなことのために?そんなことのために、命を。

 

 奪ったのか?

 

「……なんですか、それ」

「は?」

「そんなことのために、何人の命を犠牲にしたと思ってるんですか!?」

「心外だな、エレーナ姫さんよ」

 

 ――エレーナ姫?なんで。

 

「なんで、その名前を……」

「魔力が増すとね、いろいろと便利なんだよ、姫さんよ。あんたは連れて帰れとのお達しだ、だから」

「あんたらの世界になど行かない!!!」

 

 白龍が再び草薙を握る。目的は、至極単純だった。

 

「殺す……!」

 

 私が操縦レバーを握り、白龍が刀を高く掲げた。

 

 刹那、シートから溢れんばかりの赤い光が放たれた。血にも似た、赤い光。

 

「な、なに!?」

「アハハ!引っかかったねえ!」

 

 女の跳ねるような声が脳を揺らす。

 

「あんたにねえ!こっち側を見せてやるよ!」

 

 女の言葉が脳に直接叩き込まれる。

 

 赤い光は、止まらない。

 

 脈打つように明滅しながら、視界を、意識を侵してくる。

 

 そして――

 

 私を、コックピットごと包み込んだ。

 

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