機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.8-1 Arousal

「ヴォエエ!!」

 

 赤く染め上げられたコックピットの中で、私は吐き散らかした。吐瀉物がパイロットスーツを汚す。

 

 ――いまのは、なんだ!?

 

 私の頭を疑問と不快感の混ざった不思議な感覚が満たす。

 

 一体、私はなにを見せられたのか。その答えは、案外早くもたらされた。

 

「あんたが見たのはねえ!こっち側の世界の"記憶"だよ!」

「記憶……!?」

「そうさ!あんたはねぇ!熱線でその機体ごと爆散して死んだんだよ!!」

 

 ――死んだ。言葉が重くのしかかる。

 

 死んだ。

 

 死んだ。

 

 この機体と、共に?

 

「そんなの、信じるわけが……!」

「あんたもラグールから聞いてるんじゃないのかい?こっちの世界で死んだってねえ!」

 

 私の意識の奥底から記憶が舞い戻る。

 

『あなたは、前世、あなたがたが"フロンティア"と呼ぶ世界で、死んだんです』

 

 死んだ。

 

 死んだ。

 

 死んだ。

 

「そ……んな……」

 

 私の手が不意に操縦レバーから離れる。白龍が草薙を地面に下ろす。

 

 直後、私の全身に激しい力が押し寄せた。モニターが激しく揺れたと思いきや、一面に空と白龍の胸に跨る敵機が映し出される。

 

 敵機は白龍の首を掴み上げた。金属同士が擦れる音がする。

 

「杏子ちゃん!」

「撃ったらこいつに当てるよ!」

 

 女は冷酷な宣言をした。優月が撃ったら白龍を盾にする気だ。

 

「この角度だとその刀も使えないねえ」

「くっ……」

「で?一応聞くけど、こっちの世界に興味はないかい?来たらあんたにはそれなりの地位をくれてやるよ。毎日遊び放題だ。こんな死闘もしなくて済む」

「杏子ちゃん!騙されちゃダメ!」

「あんたは黙ってな!!」

 

 優月の必死の叫び声が耳に響くも、女はそれを一蹴した。

 

「こ……」

「ん?」

「こ……断る!」

「は?」

 

 私の口を確固とした意志がついて出る。

 

「私は……私はこの街を……人たちを……友達を……弟を守りたい……!」

 

 春翔……優月……葵……お父さん……お母さん……。私はいろんな人に生かされた。助けて、助けられて……。

 

 ――だから。

 

 だから、私は。

 

「あんたたちに、負けない!」

 

 その瞬間だった。白龍の右腕が、光った。

 

「こ……これは……」

 

 私は理解できなかった。いや、本当は分かっていた。なにが起こっているのか、なにが起こるのかを。

 

 白龍のシールドが緑色に発光し、空間を包む。コックピットを包んでいた赤色も消え、視界がクリアになった。

 

「これが……白龍の……力……」

 

 シールドは形状を変え、研ぎ澄まされ、湾刀の形を帯びた。

 

「草薙……」

「なっ、バカな!」

 

 女が焦りを隠さずに叫ぶ。

 

 私は手をそっと動かし、レバーを握ろうとした。すると、白龍は緑色の刀で敵の左肩を突き刺した。

 

「えっ、なんで……?」

 

 私の手は、まだレバーを握っていなかった。

 

 ――それなのに、動いてる……?

 

「その動き……覚醒したか!」

 

 覚醒……。私は女の声に合わせて手を見つめた。

 

 ――まさか、私の思考に合わせて動いている……?

 

「この、化け物がぁぁぁあああ!!!」

 

 敵機の刀が天を指した。隙が生まれた。

 

「そこ!」

 

 白龍のスラスターが起動し、突き出された刃が敵機の左胸を正確に貫く。刃はそのまま持ち上げられ、敵機の首をはねた。

 

 首は道路上に転がり、敵機は膝から崩れ落ちた。

 

「参ったよ……降参だ」

 

 女は全てを諦めた声でそう言った。

 

「だけどねえ、まだあたしたちは本気を出してない。その気になれば、この世界など……」

 

 声が途切れる。私は言葉を待ったが、聞こえたのは予想外のものだった。

 

「あぁ……、ああああああああ!!!!」

 

 女が悲鳴を上げる。それと同時に、私のパイロットスーツのポケットが光り輝いた。

 

 その光の正体は、勾玉だった。勾玉の光に合わせて、女が叫ぶ。

 

 そして、女の口から言葉がこぼれ落ちた。

 

「あれ……?私、なにをしてたんだろう……?」

 

 

 

 目を覚ました私の意識は、高校の校庭にあった。周りは相変わらず騒がしい。

 

「私、勝った……?」

「うん……うん!!」

 

 隣にいた優月が喜びを抑えきれない声で返す。

 

 だが、私は素直に喜ぶことができなかった。

 

 ――前世で、私はあんな死に方をしたんだ……。

 

 足の力が抜け、膝をつく。砂利が食い込んで痛い。

 

「私……私……」

 

 私はしゃくり上げるように泣いた。

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