機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.8-2 Arousal

 私の涙は止まるところを知らなかった。ありとあらゆる感情がバグったかのように噴出し、心を悲しみの海へと突き落とした。

 

「ちょっ……杏子……」

 

 葵が走り寄ってくる。不安そうな声がする。

 

「だ……大丈夫?」

「わ……私……」

 

 私の声がカスカスになって放出される。

 

「私……やっぱり、死んでた……前世で、機体ごと……焼かれて……」

 

 パイロットスーツの裾を握る。その力は、意外なまでに強かった。

 

 熱線で焼かれたビル、赤く染まったコックピット、ラグール、そして、エレーナ姫。

 

 その全てが、いまの私が抱えるには重すぎる光景だった。

 

「私、生きてるの、かな?」

「……」

「私、ほんとはもう死んでて、いま見てるのは単なる夢で……私が守ろうとしてるものも」

「違うよ」

 

 葵が迷いなく答える。その声は冷淡で、しかし温かみのあるものだった。

 

「杏子は……いま、ちゃんとここにいるよ。ちゃんと苦しんで、ちゃんと泣いてる。それは生きてるってことでしょ?」

 

 ――生きてる。私は、生きてる。

 

 胸を突かれたように、息が止まる。葵がしゃがんで私の背中をそっと撫でる。

 

「だから、言ったでしょ?杏子は杏子だよ。誰もそれを疑ったりなんかしないよ」

「そうよ、杏子ちゃん」

 

 優月の手も背中に合わさる。

 

「今回も助けてくれてありがとう……杏子ちゃんの声、胸にグッときた」

「声……?」

「この街を、友達を守りたいって。杏子ちゃんってものすごく優しい子だなって思った。友達になれて、よかった……」

 

 優月の声が私の胸に触れた。優しく、丁寧に。

 

 私はやっぱり泣いていた。だけど、そこに負の感情はなかった。

 

 ――私、戦ってよかったんだ……。

 

 そう思った時、優月のスマホが鳴った。「ごめん」と一置きし、優月がスマホを取る。

 

「はい……はい……わかりました」

「なんの電話?」

 

 葵が情報を聞き出そうとする。

 

「さっき戦った敵が機体から救出されたんだって……いまiARTS本部まで搬送されてる。わたしたちの元にも送迎の車が来るって……」

 

 私は俯いた。さっきまで戦った相手なのに、殺したいと思った相手なのに……。

 

「行きなよ」

「……え?」

 

 立ち上がった葵から言葉が降ってくる。

 

「思うところがあるなら、面と向かって言ったほうがいいよ」

「でも……」

「あーもう悩まない!悩まないのもロボット同好会の鉄則!」

「それ、いつ決めたの?」

「いま!」

 

 優月の質問に葵が即答する。その姿はあまりにもすっきりしていて、どこか愉快だった。

 

「ふふっ……わかったよ、行く」

「それでこそ、杏子!」

 

 立ち上がった私の背中を葵がポンと叩く。その強さに、私は元気づけられた。

 

 

 

 iARTS本部の医務室。アリア、と自称した女は、ラグールとは別の部屋にいた。

 

 白く塗装された扉が開かれると、紅色の髪が目に映った。紅の、胸までかかろうとするロングヘア。服は黒のローブで、左胸に紋章が描かれている。その姿は、ラグールのものと瓜二つだった。

 

 女は、ベッドの上に横たわっていた。

 

「あっ……」

 

 私と女の目がぴたりと合う。女からは、不思議にも敵意を感じなかった。それどころか。

 

「先ほどは、本当に申し訳ないことをしました……」

 

 彼女は深々と頭を下げた。

 

「エレーナ姫に剣を振るうなど、決してあってはならないこと。兵士として、人間として……」

「それだけですか?」

 

 私は手をきつく握った。隣の優月が「杏子ちゃん?」と声をかける。

 

「あんなに街を壊して、人を殺して、私の友達を傷つけて……それなのに……」

 

 ――それなのに。

 

「私に対する……謝罪だけですか?」

「それは……」

 

 私は女の方へと歩み出していた。1歩、2歩と近づく。

 

 そして、気づけば手が女の首へと伸びていた。周りの大人たちが制止しようとするのを優月が遮る。

 

「謝れ!私にではなく、街に!みんなに!!」

 

 怒号が跳ねる。それは、私の心からの思いだった。

 

 ――今回の襲撃で、どれだけ街は傷ついたのだろう?どれだけ人が死んだのだろう?

 

 どれだけ、友達や春翔は怖い思いをしたんだろう……?

 

「謝れ!!」

「ご……ごめんな……さい……」

 

 女の首を掴む手を涙が伝う。私はそれでも手を離さなかった。

 

「ごめん……なさい……ほんとうに……」

「杏子ちゃん……もういいよ」

 

 優月のなだめる声で、私はようやく女の首から手を解いた。女の咳き込みが聞こえる。

 

「杏子ちゃん……」

「もう行こ」

 

 そう言って私は部屋を出ようとした。けれども、その足はすぐに止まった。

 

「待って!私、知ってる!フロンティアのこと!あなたの機体のこと!」

 

 首を後ろへ巡らせる。その先には、ベッドから身を乗り出した女の姿があった。

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