機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.9-3 Days

「あー明日から新学期かあ」

 

 冬休み最終日。私たち3人は街で随一のアーケードを歩いていた。都内でも有名な商店街なだけあって、人通りも多い。

 

「そうだねえ、杏子ちゃんと葵ちゃんは宿題やった?」

「うん?まあね。流石に戦ってばかりで勉強してませんじゃ話にならないし」

「でも、杏子は昨日までひいひい言ってなかったっけ?」

「葵、そういうこと言わないの」

 

 肩をすくめる私を見た葵がニンマリと笑う。余裕そうな顔だ。

 

「ユズは学校楽しみ?」

「わたしは友達に会えるから楽しみ!」

「そういう視点があったかあ」

 

 私はアーケードの屋根をそっと見上げた。

 

 ――私って、どれくらい優月のことを知ってるんだろう?

 

 そう思い詰めた私を察したのか、葵が素っ頓狂な声を上げた。

 

「あー!私クレープ食べたい!」

「クレープ?」

「いいわねえ、わたしも食べたい!」

 

 そんなこんなで立ち寄ったクレープ屋で、私たちはメニューを吟味した。チョコ、いちご、ストロベリー。どれも美味しそうで迷い甲斐がある。

 

「私はチョコがいいなあ、葵は?」

「私はチョコバナナ!」

「え……選べない……」

 

 頼んだクレープをベンチに座って食す。結局優月はストロベリーにしたらしい。

 

「なんかさあ、意外だなあ。ユズがストロベリー選んだの。というか、迷ってたの」

「そう?杏子ちゃん」

「うん、ユズはもっと即断即決なイメージがあった」

「わたし、結構迷う人間なんだよねえ。戦う時もどうすればいいか迷っちゃって、それでピンチになることもあって。……でもね」

 

 優月は恥ずかしそうにクレープを一口かじった。

 

「わたし、迷ってる時間も好きなの」

「好き?」

「うん、迷うってことは自分について考えてるってことだし」

「それ、さくらさんとかにも言える?」

「うーん……怪しい……」

 

 優月が微笑する。どこか可愛らしさと美しさが混ざった微笑みだ。

 

「でも、杏子よりはいいんじゃない?杏子、突っ込んでばっかだし」

「ちょっと、怒るよ葵」

「確かに、杏子ちゃんはいつも先陣きってるわねえ」

「それは私の機体が接近戦型だから……」

 

 もじもじする私を横目に、2人はクレープを次々と口に運ぶ。それに一拍遅れるようにして、私もチョコクレープで頰を満たした。穏やかな甘さが日々の疲れを癒す。

 

「わたしたちっていつまで一緒に居られるのかなぁ……?」

「いつまでって?」

「わたしたちってフロンティア人と戦っているから一緒なわけで、その敵がいなくなったら……」

「そんなの、ずっとに決まってんじゃん。iARTSとかドールユニットがいらなくなっても」

 

 優月が「うん、そうだよね!」と軽やかな声で返す。それと同時に、彼女の目線がある場所を向いた。

 

「あっ、ゲーセン行かない?ゲーセン!」

「ゲーセン?」

「ほら、あそこの!」

 

 優月の指さした方向に目を向けると、確かにゲームセンターがあった。結構大きそうな店だ。

 

「ユズってゲームとかするんだ」

「わたし、こういうの得意なんだ。職業病かしら」

 

 葵の素朴な疑問に優月が照れる。

 

「じゃあ、クレープを先に食べた人がゲーム代を奢るってことで!」

「えー、そんなんユズが有利じゃん」

「うそうそ、わたしが払うよ」

 

 

 

 入ったゲーセンの中で、私たちは筐体を1台ずつ吟味する。クレーンゲームから対戦ゲームまで、いろんなジャンルが並んでいる。

 

「そういえば、ユズってどんなゲームが得意なの?」

 

 という私の質問に、優月は「んー」と悩み声をあげてから

 

「レースゲームかな?」

 

 と答えた。

 

「レースかあ……。じゃああれは?」

 

 葵の目が向いていたのは、大人気レースゲームのアーケード版だった。4台並んでいて、対戦できるようになっている。

 

「いいわねえ、やりましょ!」

 

 そんな優月の鶴の一声で遊ぶゲームが決まった。筐体に腰を下ろし、100円玉を2枚投入する。

 

「私、弟と家でこのゲームは沢山やってるから。負けないよ」

「わたしに勝つなんて10年早いわよ?」

 

 結論から言うと、優月の発言は本当だった。私と葵もこのゲームはかなりの時間遊んでいるはずだが、そのプレイスキルにはかなりの差があった。アイテムの使い方も巧みとしか言いようがない。

 

「ユズ、上手いね……」

「わたし、こういう瞬発さが必要なゲームは得意なんだよね」

「にしてもショートカットとか知ってたの?」

「ううん、このコースは初めてよ」

「はじめて……」

 

 葵が疲れた口調で呟く。がっくしと来たような声だ。

 

「こうしないと、本当の戦いに勝てないからねぇ」

「戦い?」

「フロンティア人との戦い。勝てないと、死ぬから」

 

 勝てないと、死ぬから。言葉が心に深く沈む。

 

 優月の声色は、さっきまでと何も変わらなかった。クレープを食べて、ゲームに笑って、いつもの優月のままの顔で。

 

 なのに、その言葉だけが妙に重たくて、空気の温度を一気に下げた。

 

「……ユズ」

 

 私は思わず名前を呼んでいた。優月は「あ、ごめんね」と小さく笑う。

 

「次のコースやろっか」

 

 ちょうどその時、もう1台の席に見知らぬ男子が座った。私たちと同い年ぐらいの、茶色のコートに身を包んだ子。短めの黒い髪と整った顔を携えた、男の子。

 

「あっ、乱入してもいいかだって」

「別にいいんじゃない?せっかくだし」

「わたしもいいわよ」

 

 その男子は一言も発することなく、マシンとコース選択をした。抽選の結果、私のコースが選ばれた。

 

「おっ、私のだ。ここ得意なんだよね」

 

 私はそう言いながら、男子に目をやった。彼は微動だにせず、ハンドルを握る。

 

 ――あの子、何者なんだろう?

 

 やがて始まったレースは、私のぼろ負けだった。いや、それだけじゃない。優月すら、負けたのだ。1位は、謎の男子だった。

 

「え、すご」

「わたしと10秒差……」

 

 葵と優月が相次いで驚嘆のリアクションをとる。優月は自分が負けるとは思っていなかったらしく、相当なショックを受けているようだった。

 

「あ、あの……」

 

 私は男子に声をかけた。

 

「なにか?」

「さっきのレース、凄かったですね……。良ければ名前でも……」

「必要ない。明日わかる。橘」

「……え?」

 

 男子は私の名前を口にすると、そそくさとゲームセンターを後にした。

 

 私の心に、不思議な親近感を残しながら。

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