機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.9-4 Days

 いまにも氷の結晶を降らしそうな分厚い曇天の下、冬休み明けの教室は悲喜こもごもで忙しない。進路希望やら理系文系の選択やら、人生を左右する話がいともたやすく飛び交う。

 

「うちの高校、早すぎると思うんだよね」

「ん?なにが?」

 

 私の疑問に、葵は席から振り向きながら「し・ん・ろ」と1音ずつ言う。

 

「いやあのさあ?確かに大事だよ?就職か大学かっていうのは。でも、16歳の乙女に決めさせるのはどうなのよ?」

「確かに……」

「でも、わたしはいいと思うなぁ。勉強に余裕ができて」

「ユズはそれでいいかもしれないけどさぁ……」

 

 葵が少し呆れた顔をする。まるでこちらの苦労も知ってほしいと言いたげな顔だ。

 

「結局、勉強しなさいってことかぁ」

「杏子ちゃんと葵ちゃんは進路とかって決まったの?」

「「全然」」

 

 私と葵の声が妙にシンクロする。

 

「ユズは?決まってるの?」

「わたしは……メカニックかなぁ?」

「メカニック?どうしてまた」

「わたしが戦いから退いても、後の子を助けられるように、って言ったら大袈裟かな?」

「へぇ……そこまで考えてるんだ」

 

 私は自分の掌を広げて見た。

 

 ――私も、この記憶を活かせたら……。

 

 そう思った時、チャイムと共に先生が教室に入ってきた。喧騒が一気に止む。先生の脇には、封筒が挟み込まれている。起立、礼のいつものルーチンが行われる。

 

「今日から3学期です。高校1年としては最後の学期ですが、気を抜かずに頑張るように」

 

 お決まりの文句。普通なら、この後は体育館に向かうように言われるだろう。

 

 だが。

 

「それと、今日は転校生を紹介します」

 

 先生がそう言うと、教室内の誰もが互いに顔を見合わせた。いつもなら噂が立つのに、今回はなにも話題にならなかったからだ。

 

「入って」

「はい」

 

 やがて入ってきたのは、ひとりの男子だった。

 

 メガネはしているものの、見覚えのある男子。

 

 昨日、ゲーセンで会った子。

 

「自己紹介してください」

神谷智(かみやさとる)です。よろしく」

 

 その男子は、無愛想に挨拶をした。その表情はどこかダルそうで、でもどこか腹が据わっているように見えた。

 

 

 

 昼休みになると、当たり前のように神谷の周りに人が湧いた。いろんな質問が飛び交う。

 

 私はその様子を遠巻きに眺めながら、弁当の白米を口に入れた。

 

「あの子、わたしたちと昨日遊んだ……」

「うん。多分」

「知ってたのかな?わたしたちがここの生徒ってこと」

「じゃないかな?私の名前も知ってたし」

「話しかけてみる?」

 

 ユズが小声で言うのを、私は少し躊躇ってから拒否した。

 

「なんか目立ちそうだしヤだ。それに……」

「それに?」

「……ううん、なんでもない」

 

 私は口をつぐんだ。

 

 私には分かる。

 

 彼の目は、覚悟の決まっている目だと。迂闊に触れてはいけない、なにかを持っている目だと。

 

 神谷の話題はiARTSへ移動する車内でも続いた。授業が終わるといつの間にか消えていた彼とは、誰も会話できなかったらしい。

 

「にしても、ゆっくり来ていいってなんだろうね」

 

 私は渡辺さんからのメールをスマホに映しながら言った。画面には『今日は焦らないで来てもいいからね』と書かれている。

 

「なにかサプライズでもあるんじゃない?誕生日とか」

「誰の?」

「それは、杏子ちゃんのとか」

「私の誕生日は5月だよ」

 

 私は自分にまつわる説を否定しながら、車窓を眺めた。相変わらずのトンネルと流れるライトが、なんとなくゆったりと感じた。

 

 

 

 iARTS本部のエントランスに着くと、白衣姿の渡辺さんが手を振っていた。ちょっとだけ表情が柔らかい。

 

「おはよう、杏子っち、ユズっち」

 

 いつの時間帯も変わらない挨拶に、私たちは軽く会釈を返した。

 

「今日はさあ、2人に見せたいものがあるんだよね」

「もしかして、新しいドールユニットですか?」

「それもあるんだけどさぁ」

 

 そう言葉を濁す渡辺さんの先導のもと、整備区画へ降りる私たちを"それ"が出迎えた。

 

 新たなドールユニットの、脚部と胴体だ。濃い青色を纏っている。

 

「どう?驚いたでしょ?」

「これは、前に見た……」

「そそ。新しいドールユニット、"青麟(せいりん)"よ」

 

 ――青麟……。

 

 私は聞き慣れない単語を頭の中でなぞった。

 

「これが完成すれば戦力は格段に増える。あなたたちの戦いにも余裕ができる」

 

 得意げに語る渡辺さんに、優月がそっと手を上げ質問する。

 

「それで、パイロットはもう決まったんですか?」

「まあ、決まってはいるんだけど。これが特殊でね」

「特殊?」

「普通はドールユニットの操縦は選ばれた人間しかできないの。勾玉を通じて、機体と"適合"した人間しかね。杏子っちもユズっちももともとその素質があったわけ。でも今回はちょっと違う」

「違う、と言うと……?」

「今回は人工的に適合率を高めてる。もともと素質がゼロってわけではなかったけど、2人よりもかなり低かった人間をね。もちろん承諾の上、どころか本人たっての希望の上でね」

 

 渡辺さんは濃青の機体を見上げながら語った。

 

 ――私の、素質……。

 

 やっぱり、前世絡みなのだろうか?そんな思考を巡らしていると、とある人物が頭に浮かんだ。

 

 神谷智。

 

「もしかして、その人物って……」

「あっ、知ってたりする?じゃあ隠す必要もないか」

 

 渡辺さんが手招きをすると、青麟の足元からその人物が歩き寄ってきた。

 

「紹介します、神谷智くん。iARTS初の、人工適合者よ」

 

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