機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.10-1 Adapted

「あ……あの」

 

 私はやたら重々しい手をゆっくり差し出し、握手を求めた。既に2回も会っているのに、親しさよりも緊張感が勝る。

 

「わ……私、橘杏子と言います。白龍の……」

「知ってる」

「え?あ、そ……そうだよね」

 

 あははと空笑いをする私の胸に、智の光なき目が突き刺さる。胸が締め付けられた気分になる。

 

「わたしは聖堂優月、真鶴のパイロットです!」

 

 そんな私をよそに、優月はやや強引に智の右手を掴みギュッと握手をした。

 

「ユズって呼んでね!」

「……ああ」

 

 智は無愛想に言葉を返した。不快さも喜びも感じられない、平坦な表情で。

 

「まあ、仲良くしてね。戦術とか組むのにも、仲が悪いと影響が出るから」

 

 渡辺さんは適当に仲介すると、「じゃ私は検査があるから」と言って青麟のもとへと走っていった。

 

「……どうしよっか」

「……どうしましょう」

 

 私と優月は顔を見合わせた。智とはどうも仲良くできなさそうな気がする。

 

 そう考えているのを見抜いたのか、智は

 

「俺はシミュレーターに行く」

 

 と言い残してそそくさとエレベーターに乗ってしまった。

 

 

―――――

 

 

「うーん、私なんにしよ」

「わたしはハンバーグ定食で」

 

 私は今日の夕食をどれにしようか思案していた。相変わらずiARTSの食堂はメニューが多くて考えがまとまらない。

 

「じゃあ、私はきつねうどんで」

「また麺料理?」

「うっさい」

 

 やがて出来上がった料理をプレートに乗せ、私たちは適当に空いている席に真向かいに座った。18時を回った頃ということもあり、食堂は結構混んでいる。

 

「あの神谷くんのこと、どう思う?」

「うーん、気難しい子よね」

 

 優月はフォークでハンバーグを刺しながら言った。

 

「でもあの子の声、聞いたことがあるような気がする」

「そうなの?」

「うん、もしかしたらあの子かも……」

 

 思わせぶりなことを言いながら、優月はハンバーグを口に運んだ。口元がソースで少し汚れる。

 

「あのね。わたしが戦い始めた時、オペレーターの中に若い子がいたんだ」

「若い子?」

「わたしと同年代くらいの、少年みたいな子がいたの。中学生くらいのね。若いのに物凄く的確な指示を出してくれて、戦いやすかったわ」

「その子が……神谷くん?」

 

 私の問いに優月は首を軽く横に振った。

 

「わからない、結局誰にも聞けなかったし、本人にも会えなかったし……。でも、可能性はあると思う。あの空間認識能力があるなら、ドールユニットにも乗れるわ」

「そっか……」

 

 私はうどんの麺を箸で持ち上げ、ズズズと麺を啜った。あったかい汁が舌をくすぐる。

 

「でも……それなら、なんでわざわざ危険なドールユニットに乗ることにしたんだろ」

 

 私の口から至極当然な疑問が出た。

 

 

―――――

 

 

 更衣室でパイロットスーツへ着替えを済まし、シミュレーター区画へと歩く。無機質な廊下に、靴音が反響する。

 

「やっぱりまだやってんのかなあ」

「うん?なにを?」

「練習。神谷くん」

 

 私は天井を軽く見上げながら言った。

 

「あれ、結構疲れるんだよね」

「あはは、まあ緊張するよね」

「そうそう、なんか肩凝るしさぁ、下手したら本物に乗るより……」

 

 続きの言葉を吐こうとした時、壁の奥から実験機のジェネレーター音が聞こえた。どうやら予想通り、まだ練習中らしい。

 

 ドアロックを外し、区画内に入ると音はより一層大きくなった。実験機の一つが上下左右に激しく揺れている。

 

「勤勉だなぁ」

「そうね……」

「なんかスポドリでも買ってあげようかな」

 

 そう言いつつ、私は壁に掛けられたモニターに目をやった。モニターには智の模擬戦の様子が映し出されている。

 

「あれは……富士山?」

「無人機がいっぱい出てきた戦いじゃないかしら?」

 

 画面には月明かりに照らされた夜の富士山と、その麓に広がる広大な森林が映っている。そして、夜空には敵機が7機浮かんでいた。

 

 ――あの戦いだ。

 

 優月と2人がかりでなんとか倒した、あの戦い。

 

 でも。

 

「あれ?1人だけ?」

 

 画面左下の地図には、白龍の位置しか表示されていなかった。おそらく、智が暫定的に乗っているのだろう。

 

「1人であの数を捌くの……!?」

 

 到底無理な話に思えた。何年も戦ってきた優月ですら1人では対処できない数を。

 

「まだ実戦経験もないのに……?」

 

 私は画面をひたすらじっと見つめた。

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