機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.11-2 Kyoko

 ペコリと頭を下げて入る、ラグールとアリアの2人。緊張しているのか、どこかぎこちない所作の中、ラグールが口を開く。

 

「姫様……いえ、橘杏子様。お話、聞かせてもらいました」

「ラグールさん……アリアさん……」

 

 スタッフの間に割って入る2人を、私は目で追う。一気に部屋の空気が変わった気がした。

 

「お身体は……大丈夫ですか?」

「あ、ああ……私?私は大丈夫だよ、ちょっと気絶しただけ」

「レブリンと戦ったと聞きました……」

 

 ――レブリン。あの有人機に乗っていた男の名前。

 

「戦ったっていうか、戦えなかったっていうか。逃げられたんだよね」

「あの男、なにか言ってませんでしたか?」

「ああ……」

 

 私の目が宙を泳ぐ。言葉が淀む。

 

「あの……なんか無人機に魂が刻まれてるとか言われたけど、よくわからないんだよね」

「そんな……」

 

 アリアが口を手で押さえる。なにかを察した様子だ。

 

「ついにあの技術を……」

「ついに?」

「はい……禁呪刻印術です」

 

 アリアの言葉がわずかに詰まる。

 

「禁呪……?」

「亡き人々の残留思念を器に刻印し、兵器として転用する……。極めて非人道的な技術です」

 

 ラグールが言葉を繋ぐ。

 

「元来フロンティアでは、人は死んだ後、思念として新たな世界を漂い続けるものでした。死後の世界、こちらの考えでは別の世界線を、です」

「死後の……世界?」

 

 聞き返す私に、ラグールは頷いてみせた。見ると、彼の口元はギュッと絞められていた。

 

「はい。なおかつ、想いが強ければ強いほど、その思念が現実世界にもたらす影響は強いとされてきました。なかには輪廻転生する者もいると」

「じゃあ、もしかして……」

 

 頭の中で点と点が結ばれていく。私がフロンティア世界で死んだこと。そしていまここにいること。

 

「私がいまこの世界で生きてるのは……」

「おそらく、前世のあなた、エレーナ姫が遺した想い、『エルハを守りたい』という気持ちが強かったからではないかと……」

「私が……」

 

 困惑の中に微かな嬉しさが混じる。前世の私はしっかり生きたのだという、確かな喜び。

 

 アリアが話を付け足す。

 

「しかし、コルテーグの王・レブリンはその流れを変えてしまいました。肉体から放出されなければならない魂を、兵器という器に閉じ込める……。それは人の尊厳を、生き方を否定する、卑劣なものです」

「だとしたら、やっぱりあの話は本当……」

「はい……おそらく……」

 

 重い肯定。けれども。

 

「ですが、橘杏子様。あなたのしたことはなにも間違っていません」

 

 ラグールが私の考えを先回りして否定する。

 

「エルハの兵士はみな、国に、姫様に従順でした。国を守るべく散ったものばかりです。エレーナ姫がこうして転生し、新たな世界を守っているのならば、彼らも本望でしょう」

「そう……でしょうか……」

「エルハの軍師の言葉を信じてください」

 

 ラグールは固く言い切った。その口調には、しっかりとした信念が込められていた。

 

「それじゃあ……信じます。ラグールさん、アリアさん」

 

 私がそう答えると、ラグールとアリアはわずかに目を伏せ、深く息を吐いた。

 

「……ありがとうございます。橘杏子様」

「その様って言うのやめてよ、恥ずかしい」

「では、どのようにお呼びすれば……」

「杏子、でいいよ」

 

 私は2人の手に触れた。穏やかな体温が伝わる。

 

 その時、私の頭にある考えが浮かんだ。

 

「……もしかして、戦い方を工夫すれば機体に刻まれた魂を解放できたり、しない?」

 

 ラグールとアリアが顔を見合わせる。アリアの瞳が私を見つめる。

 

「……できるかもしれません」

「本当!?」

「ですが現実には極めて困難かと……。刻印された魂は、器と半ば同化しているはずです。機体の中枢を無傷で制圧するなど……神業に等しい……」

 

 ――神業、神業かぁ……。

 

 これまで戦うのに手一杯だったのに、いきなり話がハイレベルになった。しかし、頭の中にはある経験があった。

 

「……あれ、そういえばなんで2人は仲間になったんだっけ?」

「仲間?」

「敵だったのに、いまはこんなに親身になって話を聞いてくれてるじゃん」

 

 私はベッド横のテーブルに置かれた勾玉に視線を送った。

 

「もしかして、勾玉……のおかげ?」

「勾玉……魔石のことですか?」

「そう。これのおかげで、2人の洗脳的なものが解けたのかなあって」

 

 ラグールはしばし黙り込み、私の手元にある勾玉――魔石をじっと見つめた。やがて、ゆっくりと頷く。

 

「……それだ」

「へ?」

「それです。私は確かにコルテーグの兵として東京を侵略しました。しかし、この医務室で杏子を見た時、自分の中でなにかが変わった……まるで霧が晴れたかのように」

「あたしも……なぜかハクリュウと戦った後に思考がガラリと変わったような……。もしかしたら、その魔石のおかげで……」

 

 アリアの言葉に、私の頭でなにかが繋がった。

 

「じゃあ……やっぱり」

 

 勾玉をギュッと握りしめる。

 

「倒すだけじゃなくて、救えるんだ」

 

 私の目に光が戻ったような、そんな気がした。

 

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