機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.11-4 Kyoko

 放課後。校庭の端っこにある木の下に、私は寄りかかって立った。少し項垂れながら。

 

「……で、どうするの?杏子」

 

 私の話を聞いた葵が問い詰める。腕組みをする彼女の姿には、私を信じる心が見え隠れしていた。葵の両隣には優月と智も立っている。

 

「……行きたい」

 

 私は思ったままのことを呟いた。静かな声が、風に揺らぐ葉音にわずかに勝る。

 

「行って、確かめたい。父さんと母さんの……想いを」

「……そっか」

 

 葵は短く言葉を切った。たった3文字が重く感じる。

 

「でも、杏子ちゃん……。交差点には行ったことないんだよね?」

「うん、初めて行く」

「もしものことがあったら……不安だよ」

 

 優月が私の瞳を見つめる。優しさに満ちた、ユズらしい目だ。

 

「だから……みんなにも来てほしいんだ」

「わたしたち、にも?」

「うん。隠すべきじゃないな、って思ってさ」

「あはは、杏子らしいや」

 

 葵の軽妙な口調が胸に降る。

 

「精神的負荷は大きいぞ。それでも行くのか?」

 

 智が口を開く。いつも通りの落ち着いた調子だが、視線は私に真っ直ぐ向けられていた。

 

「覚悟はしてる……取り乱すかもしれないけど、それでもいい。それでも、知りたい」

「……わかった。だが、条件がある。俺たちが危険と判断したら、引き返すこと。それと」

「それと?」

「困ったら俺たちに頼ること、以上だ」

「……ありがと、神谷くん」

 

 私は覚悟を決めた。

 

 ――本当に行くんだ。あの場所へ。

 

 その現実味が、急に増した。

 

 

―――――

 

 

 翌日。甲州街道、四谷交差点。

 

 ひっきりなしに車が行き交うこの地に、私たち4人は立っていた。夕日がビル窓に反射し、空間を橙色に染め上げている。

 

「……ここが」

 

 "事故"の現場。そう思うと、自然に胸がざわつく。なんの変哲もない白線を前に、呼吸が少し早まり、足が重くなる。

 

「大丈夫か?」

 

 声をかけたのは智だった。

 

「うん、いまは」

 

 ポケットに手を突っ込む。勾玉に触れた瞬間、温かみを感じた。取り出すと、やっぱり淡い光が指の間から滲み出ていた。

 

「やっぱり、ここが……」

 

 短く呟く。

 

 一歩前に踏み出す。コンクリートの硬さがダイレクトに伝わる。

 

 だが、それだけではなかった。

 

 次第に、行き交う車のスピードが遅くなっていった。救急車のサイレンが、信号機の音が、遠くに連れて行かれたようだ。

 

 空間を支配していた色が滲み始める。全てが淡白になっていく。

 

 いや、それどころではない。私は"それ"を見た時、言葉を失った。

 

 ビルの一部が、融解し始めたのだ。

 

「どうなって……?」

 

 困惑の言葉を吐こうとしたが、それよりも前に葵の悲鳴が聞こえた。

 

「な、なにこれ……っ!」

 

 葵の声は震えていた。強気な彼女がここまで動揺するのは珍しい。

 

 私は振り返った。3人とも同じ光景を見ているらしく、あちこちに視線を移している。

 

「世界線の干渉がここまで強いとは……。これが……勾玉の真の力なのか?」

 

 智が低い声で言う。

 

「こんなのを毎回経験してたの……?」

 

 葵の問いかけに私は横に首を振る。

 

「ううん……こんなの初めて……」

 

 私は空間を舐め回すように見た。ビルはそのまま残っているものもあれば、完全に溶け切ったものもある。全てがチグハグで、混乱していた。

 

 ただ、一点を除いて。

 

「……あそこ!」

 

 その一点を指差す。交差点の、真ん中。そこだけは全く変わっていなかった。

 

「見て!杏子ちゃん!」

 

 優月が何かに気づいたように叫ぶ。

 

「空からなにか降ってきてる!」

 

 私は視線を上げた。

 

 黒い物体が、見える。段々と近づいてくる、黒い物体。

 

 ――私と白龍が出会った日と、同じ光景。

 

「……まさか」

 

 私の中にある仮説が生まれた。

 

 ――あれは、事故じゃない……?

 

 ――あれは、"攻撃"だったの……?

 

 吐き気がした。いますぐ、逃げ出したい。そんな気すらした。

 

「杏子ちゃん!」

 

 私がしゃがみ込むと、優月が慌てて近寄ってきた。私の背中にそっと手が加えられる。

 

「だい……大丈夫……」

 

 嘘だった。なに一つ大丈夫じゃない。

 

 でも。

 

 私は再び立ち上がり、一歩ずつ交差点へと踏み出した。後ろで智の声がする。

 

「もど……ばな……かんしょ……つよ……」

 

 声が途切れ途切れになる。このまま進んだら、命の保証はなかった。

 

 でも。

 

 私の足は止まることを知らなかった。

 

 一歩進むたびに、黒い影が交差点に浮かび上がった。黒い、巨大な影。5階建てのビルに匹敵しそうな程の、高い影。

 

 その形が現実味を帯びた時、私の中でなにかが崩れた。

 

「ロボット……」

 

 私が最初に戦ったのと、よく似ているロボット。

 

 その姿が、そこにはあった。

 

「ロボットが……父さんと母さんを……」

 

 ――殺した……?

 

 そう思った時だった。懐かしい声が、私の耳をくすぐった。

 

『杏子……?』

 

 私はもう一度振り返った。そこに立っていたのは、葵でも、ユズでも、神谷くんでもない。

 

 父さんと、母さんだった。

 

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