機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.11-5 Kyoko

「お父さん!お母さん!」

 

 私は一心不乱に走った。2人の体が次第に近づく。

 

 やっと、会えた。頭の中には、そのことへの喜びしかなかった。

 

 なんて言おうか迷った。会いたかった、ただいま、ごめんなさい。そんな言葉が横切っては消えていった。だが、そんなことは些細なことだった。

 

 飛び込んだ私を、お母さんの胸が出迎えた。

 

『杏子……大きくなったわね……』

『はは、そうだな。見違えたな、杏子』

 

 2人の言葉は、姿は、表情は、あの日のままだった。何一つ変わらない笑顔が、優しく私を抱擁する。

 

「お父さんとお母さんも……元気そうで良かった……」

 

 そうとしか言えなかった。既に亡くなっているはずなのに、生きているとしか思えない。

 

「伝えたいことが……話したいことがたっくさんあるの!」

『杏子……私たちもよ。春翔と2人だけにして、ごめんなさい……』

 

 項垂れる母さんの頭に、私はそっと撫でるように触れた。

 

「いいの……私たち、元気に暮らしてるから……。高校にも通ってるし、友達も沢山できたよ……」

『杏子らしいたくましさだ』

 

 父さんが豪快に笑う。生気の入った笑いだ。

 

「あのね!お父さん、お母さん!私、凄いことやってるんだよ!」

『凄いこと?』

「うん!」

 

 私は年齢不相応な無邪気さを笑みに込めた。

 

「白龍っていう、巨大なロボットに乗って戦ってるんだ!20mもあるめっちゃ大きいやつ!」

『へえ、それは凄いな!』

「でしょ!それでね、街とか友達とか、もちろん春翔もだけど、みんなを守ってるんだ!」

『そう……杏子は、誰かを守れる子になったのね』

 

 母さんの声は柔らかく、どこか誇らしげだった。

 

「うん!……でも」

 

 私は言葉を言い切れなかった。

 

「私、迷っちゃったんだ」

『迷った?』

「うん……自分のしてることが、本当に正しいのかって。わからなくなっちゃって。それで取り乱しちゃったんだ」

『あら、杏子らしくないわね』

 

 母さんはクスッと笑った。あまりにも懐かしい笑い方だ。

 

「その時は友達に助けてもらったけど、私、このままじゃ誰も守れないんじゃないかって思っちゃって……」

『そうか……。杏子はいつも戦ってきたからなあ……』

 

 私は昔から普通の人間だった。成績もなにもかもが中程度で、秀でたことはひとつもなかった。

 

 そんな私が……。

 

「戦ってきた……?普通の人間なのに……」

『もちろんよ。それに、普通でいることは難しいのよ、杏子が思っているよりもね』

 

 母さんに続けて、父さんが腕組みをしながら話しかけた。

 

『杏子は、戦うということがどういうことか、考えたことはあるかい?』

「戦う、こと?」

 

 私は思わず聞き返した。そんなこと、考えたこともなかった。

 

「わからない……」

『戦うっていうのはな、相手を倒すことだけじゃないんだ』

 

 父さんはゆっくりと言葉を選ぶように続けた。

 

『戦うっていうのは、失うことの怖さと真正面から向き合うことだ』

「失う……怖さ?」

『そうだ。杏子は失いたくないものはあるか?』

「それは……葵とか、ユズとか、神谷くんとか、もちろん春翔も……」

 

 私はひとつずつ名前を挙げた。どれも、私が愛してやまない人々。

 

『これから生きていれば、もしかしたら居なくなるかもしれない』

「……いやだ、ずっと一緒に居たい」

『だから、戦うんだ。怖いことは避けたいけど、避けられないものもある。それを恐れないことが、大切なんだ』

 

 父さんの言葉は、静かだった。

 

「私……私……」

『杏子はもう知ってるはずよ、失うことの怖さを』

「……!」

 

 あの日。父さんと母さんが死んだ日。私がなにもできなかった日。

 

 ――そっか、私。

 

 とっくに知ってんだ、失う恐怖を。

 

 戦う意味を。

 

『だから、杏子はもっと強くなれる。明日はもっとね』

「……うん!」

『わかったようだな』

 

 父さんはそう言うと、空を見上げた。

 

『俺たちの出番はこれまでだな』

『そうね……』

「……えっ?」

 

 私は2人の足元を見下ろした。

 

 父さんと母さんの身体が、夕暮れの光に透けていく。

 

 咄嗟に母さんに触れようとする手が、空を切った。

 

「お父さん!お母さん!まだ、伝えたいことが……!」

『もう、伝わってるわよ』

「え……?」

『俺たち、ずっと見てきたからな。杏子が必死に生きてることも、誰かを守ろうとしていたことも。だから……』

 

 私の視界が滲む。2人の顔がぼやけていく。

 

「だから……」

『幸せになってね』

「お母さん……うん!!」

 

 私は元気よく返事した。あの日聞けなかった言葉を聞けた、それだけでも嬉しかった。

 

 

―――――

 

 

「杏子!」

「杏子ちゃん!」

「橘!」

 

 交差点の白線を前に、私は地面に膝を下ろしていた。意識が現実空間に戻っていくのを感じる。

 

「私……」

「橘、なにかあったら引き返せって言ったよな?」

 

 智の厳しい目線が寄せられる。

 

「あのまま別世界線に閉じ込められる可能性すらあったんだぞ」

「ごめんなさい……」

「はあ……なにより無事で良かった」

 

 厳しさの中に優しさが混ざる。

 

 ――私のこと、心配してくれたんだ……。

 

「でも、なにがあったの……?」

「うん……それがね」

 

 私は沈む太陽に目を向けた。眩しい、でも、不快ではなかった。

 

「……ないしょ」

「えっ、ずるーい!」

「えへへ。あっそうだ。今度さ、東京タワーに行かない?そこで全部話すよ。春翔とラグール、アリアも混ぜてさ!」

 

 スマホを取り出し、スリープを解く。壁紙の父さんと母さんが笑みを浮かべていた。

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