機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.12-2 Another

「なるほど、そんなことが……」

「はい……中津川さんならなにか知ってると思って」

 

 iARTS本部の廊下。医務室に向けて先導して歩く中津川さんに、私は四谷での出来事を詳らかに話した。黒いロボットの影が見えたことも含めて。

 

「iARTSができたのは、確かに5年前に空間動を初めて計測したこと、世界線が聖堂さんの父によって明らかにされたことがきっかけです」

「その空間動がロボットによるものだったことは……」

 

 彼女の頭が横に触れる。

 

「いいえ。その点まではわかってませんでした。ですが、本当にロボットによるものとすると、侵略は想像以上に早期から始まっていたことに……」

 

 中津川さんが「失礼」と言葉を切る。見るからに動揺しているようだった。

 

「そもそも、ロボット……ドールユニットって、どうして作られたんですか?」

 

 私はかねてからの疑問を口にした。いままで頭には思っていても、聞く機会がなかった。

 

「ドールユニットは、遺跡に遺された情報をもとに作られたんです」

「遺跡?」

「はい。今度、橘さんにも見せたいと思ってます」

 

 ――遺跡……。ドールユニットってそんなに凄いんだ。

 

 そんなことを考えていると、医務室の扉が見えてきた。

 

「……本当に3人だけでいいんですか?」

「はい、そっちの方が心から話せると思うんです」

 

 私は中津川さんにお辞儀をすると、リーダーに職員証をあて扉を開けた。

 

 3つほど戸をくぐると、ベッドに寝転がるラグールとアリアの姿が見えた。2人とも、私を見るなり目を丸くし背を上げた。

 

「こんばんは……ラグールさん、アリアさん」

「杏子、お世話になってます」

 

 ラグールが頭を下げる。一拍遅れてアリアも追随する。

 

「ここ、座ってもいい?」

「あっ……もっといい場所が……」

「いいのいいの、ふたりに近い方がいいから」

 

 私はアリアのベッドに腰掛けた。フカフカな感触が伝わってくる。

 

「あのさ。今度、東京タワーにみんなで行こうかなって思ってて」

「東京タワー?」

 

 ラグールが疑問そうに首を傾げる。

 

「あっ、東京タワーっていうのは、都心の方にある赤い塔なんだけどね。私が子供の頃、よく両親に連れてってもらったんだ」

 

 私はスマホに東京タワーの画像を映した。最後に訪れた時に撮った写真だ。

 

「これ、333mあるんだ!」

「へえ……機動神の10倍以上もあるわね」

 

 アリアが興味深そうに写真を見つめている。

 

「ラグールさんとアリアさんにも東京の街を見せたいんだよね」

「東京を……ですか?私たちに……」

 

 ラグールの言葉に躊躇いが見えた。自分にはふさわしくないとでも言いたげな口調だ。

 

「私たちは東京の街を破壊しました。人々もたくさん殺してしまいました。杏子が守りたかった人を……」

「だからだよ」

 

 私は断言した。

 

「私は東京を、友達を、弟を守るために戦ってる。だから、ラグールさんとアリアさんにも、私が、私たちが守ろうとしているものを見てほしいんだ」

 

 笑みを浮かべる私を、2人は複雑そうな表情で見ていた。

 

「まあ、私も2人の世界を見てないんだけどね」

「杏子……」

「まあ辛気臭いのはやめてよ」

 

 ラグールとアリアの手に触れる。少し冷たい。

 

「もう、敵じゃないんだからさ」

 

 医務室に静かな時が流れる。わずかな機械音だけが耳に入る。最初に口を開いたのはアリアだった。

 

「……優しいんですね、杏子は」

「エレーナ姫の生まれ変わりらしいお考えだ」

 

 2人とも頷くのが、私にとっては少し愉快だった。

 

「そうなの?」

「はい。エレーナ姫は、敵味方分け隔てなく考えられる、とても優しい方でした」

「そうそう、敵ですら名前で呼ぶんだよね」

 

 私の胸が少しあったまる。幸せな空間とは、こんなことを言うのだろう。

 

「エレーナ姫が生まれ変わって人々を守る世界……もしかしたら、この世界は恵まれているのかもしれませんね」

 

 ラグールの言葉は、いつまでも耳に残った。

 

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