機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.13-1 Paradigm

「……くっ」

 

 操縦レバーを握り直す私の手に、異様なまでの緊張が走る。ペダルを踏む足も震えている。

 

 白龍のコンディションは良好だった。だが、これもいつまで持つかわからない。

 

「弱い……弱すぎる」

 

 パイロットの声は相変わらず私の頭だけに響いていた。

 

「タチバナ・キョウコ。あなたは、なぜ自分をエレーナ姫の生まれ変わりと偽るのか」

「偽る?」

「そう。こんなにも弱いのに」

 

 ――弱い。

 

 私の頭を2文字が転がる。

 

 ――弱い。

 

 それに対抗するかのように、ラグールの言葉が蘇る。

 

『エレーナ姫は、敵味方分け隔てなく考えられる、とても優しい方でした』

 

「……私は、弱くないよ」

 

 私は俯きながら否定した。

 

「確かに、いままで何度も負けそうになったし、何度も挫けそうになった。こんな大事な機体の操縦を任されてるのが不思議なくらいだよ。でもね」

 

 息をすーっと吸い込む。胸に取り込んだ冷気を声と共に吐き出す。

 

「私は、弱くない。だって、これまでの戦いで人を守る勇気と、怖さを知ったから。前世の私みたいに……。だから、あなたには負けない」

 

 ズイカクのパイロットは沈黙した。言いくるめられたようだった。

 

 しかし、その静寂はすぐに破られた。

 

「……黙れ」

「……?」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」

 

 耳をつんざくような怒号が脳内に浸透する。

 

「私は、強い!強さこそエレーナ姫の価値!存在する意味!お前のような偽物など!!」

 

 ズイカクの左手に握られたビームライフルの銃口が発光する。ピンクの光が周りの建物を照らす。

 

「いなくなれぇぇぇぇええええ!!!!」

 

 ビームライフルの照準が白龍に向けられた。光が増していく。

 

「……っ!!」

 

 覚悟した、次の瞬間。

 

 ズドォン!

 

 放たれたビームは白龍の左肩を掠めた。コックピットが光で染め上げられる。

 

 光の束は、背後の高層ビルに直撃した。

 

 蒸発する建物、空に立ち上るキノコ雲、遅れて届く爆風と轟音。

 

 気づけば、ビルのあった一角には、もはやなにもなかった。

 

「そんな……っ!」

 

 それは、絶望的な光景だった。アリアの機体とは全く違う威力が、私の常識を壊していく。掠めただけで剥がれた白龍の装甲が、なによりの証拠だった。

 

「杏子ちゃん!!大丈夫!?」

「う、うん。大丈夫。でも……」

 

 ――あんなのを連射されたら……!

 

 その不安は的中した。再び、ビームライフルに光が満ちていく。それを狙う真鶴のレールガン。

 

 だが。

 

 ライフルの狙いは白龍ではなかった。ズイカクが左腕を大きく上に上げる。

 

 そして。

 

「えっ?きゃああああぁぁぁ!!!!」

 

 光は、真鶴のフライトユニットと左脚部を貫いた。翼が弾け、機体の姿勢が乱れる。

 

「ユズ!!」

 

 爆炎を上げながら高度を失う真鶴を、私はただ見つめるしかなかった。

 

 やがて墜落した真鶴からは、もくもくと黒煙が上がっていた。

 

「ユズ!応答して!ユズ!!」

「聖堂!!」

 

 私と智の声が混ざり合う。けれども、優月から返事はない。

 

「やはり、弱い……」

「……っ!」

「あなたも、あなたの仲間も」

 

 私の眉間に深い皺が刻まれる。怒りに似た感情が私を支配する。

 

「エレーナ姫が強いのはっ!誰かを守ろうとしたからだよ!!あなたみたいに誰かを傷つけたいからじゃない!!!!」

「……守る」

 

 ズイカクのパイロットがポツリと呟く。

 

「なら、これも守れる?」

 

 瞬間、白龍のモニターの映像が乱れる。

 

 それだけではない。どこか、気持ち悪さが心に芽生える。

 

 ――なにが起きて……!?

 

 私は首からぶら下げている勾玉に触れた。指先に微かな、しかし確かな熱が走る。

 

「……勾玉が」

 

 ――怯えてる……?

 

 ただの石のはずのそれが、生きているかのように震えている気がした。

 

「橘!どうした!?」

 

 智の叫びが鼓膜を揺らす。

 

「神谷くん!なんかモニターが……」

 

 私は答えながら目を凝らした。

 

 モニターのズイカクが重なって見えた。

 

 いや、違う。空間そのものが揺れている。

 

 ――世界線が、変わろうとしている……?

 

「なにをやって……!?」

 

 ズイカクの双眼が赤く、不気味に光る。

 

「どう?これでも」

 

 ズイカクのパイロットが落ち着いた口調で言う。こちらを試しているかのような口調。

 

「守れる?」

 

 その言葉と同時に、モニターの乱れが消えた。私は視線を白龍の足に下ろした。

 

「……えっ!?」

 

 そこにあったのは、白龍を見上げる群衆の姿だった。

 

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