機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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Part.2 それでも、狭間を生きる
ep.14-1 敗者


 私は、ちっぽけな人間だ。

 

 白龍に乗って、中途半端な力を手に入れて。

 

 戦って、戦って、戦って。

 

 勘違いしていた。私は強いんだって、なにもかもできるんだって。

 

 なんて馬鹿だったんだろう。なんて無知だったんだろう。

 

 私には、なにも守れない。

 

 

―――――

 

 

 昨日の快晴から打って変わって、東京を分厚い雲が覆っていた。冷たい雨がアパートのベランダに薄い水膜を張る。

 

「うわっ、雨じゃん」

「……」

「ねえ、お姉ちゃん……元気出してよ」

 

 布団にくるまる私を、上から弟が揺さぶる。声色からして、心配しているのはわかっていた。

 

 わかってはいるのに、私は返事ができなかった。

 

「テレビ、点けるよ?」

 

 弟はそう言うと、リモコンでテレビの電源を点けた。ちょうど朝のニュース番組が流れている。

 

 内容は言うまでもなく、東京タワーに現れた2体のロボットについてだった。

 

『えー、この黒い機体は、昨年練馬に出現した機体とは細かい点が異なっていますが、別の機体ということでよろしいでしょうか?』

『おそらく、そう考えてよろしいかと』

 

 50代ぐらいの人気キャスターと歳のいった科学者が問答を繰り返している。

 

『また、今回は白いロボットも出現しました。えー、こちらは破壊活動を行った黒いロボットとは異なり、ただ立っているだけでしたが、これはどう解釈すればよろしいでしょうか?』

『難しいところですね。我々を守るべく出現した機体と捉えることもできますし、黒い機体と同じく破壊活動を行おうとしたができなかっただけ、と見ることもできます』

 

 弟はそのニュースの内容にご立腹のようだった。

 

「この人、なにもわかってない。お姉ちゃんは僕たちを守ってくれたのに……」

「……」

「お姉ちゃん、ほんとに学校行ってもいいの?」

「……うん」

 

 布団の中でか細い声を捻り出す。春翔の学校はなんとか開いているが、しばらくの間は休んでも欠席扱いにはならないらしい。

 

「春翔、学校行きたいんでしょ?」

「うん……」

「なら、行きなよ……」

 

 私は半分投げやりに言いながら布団から出た。キッチンに行き、ボウルに冷蔵庫から取り出した牛乳とコーンフレークを注ぐ。

 

「沢山お食べ……」

「お姉ちゃんはいいの?」

「……食欲ない」

 

 私はボウルをテーブルに置き、床に座した。

 

 テレビには、スマホで撮られた白龍の縦長映像が映し出されている。

 

『逃げろ逃げろって!!』

『撮ってる場合か!?』

『おい死ぬぞ!!』

 

 映像ひとつでもその混乱ぶりは痛いほど伝わった。

 

 なのに、私の感情が揺らぐことはなかった。

 

 揺らそうとしても、揺れなかった。

 

「……切る?」

「……いいよ」

 

 私はリモコンに手を伸ばそうとした弟を制止した。

 

 番組は淡々と被害の様子を伝える。蒸発した高層ビル、切り刻まれた建物群、炎上する芝公園の木々。

 

 弟はコーンフレークを食すと、立ち上がり身支度を進めた。服を着替え、髪を整え、ランドセルを背負う。

 

「それじゃ……行ってきます」

「……いってらっしゃい、鍵閉めるから」

 

 私はテレビから離れることなく、ただ送りの挨拶を飛ばした。玄関扉が一瞬開き、パタンと閉まる。

 

 部屋にいるのは、私ひとりになった。白龍のコックピットと同じ、私ひとりだけの空間。鍵を閉めるのも忘れ、ただ座る私ひとり。

 

 その時だった。部屋の外で、ヘリコプターの音がした。空気が振動し、窓をほんの少しだけ揺らす。

 

 少しだけ。そう、いつもなら全く気にしないほどの振動。

 

 しかし、私を狂わせるには十分だった。

 

「あぁ、あああぁ……」

 

 私は耳を塞いだ。それでも振動は身を震わす。

 

 それは、コックピットの振動によく似ていた。

 

「ああああああぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」

 

 私は取り乱した。

 

 なにも食べてないのに胃の中が掻き乱され、強烈な吐き気に見舞われた。肺に異物でも詰め込まれたかのように、空気が入っていかない。

 

 あれは、敵じゃない。ただのヘリコプターだ。そんなのはわかっていた。頭の奥で、心の底で。

 

 なのに。

 

 なのに。

 

 なのに。

 

 私の脳内に死にゆく民間人の姿が張り付く。私が守れなかったものが、私を責め立てる。

 

 お前のせいだ。

 

 お前のせいだ。

 

 お前のせいだ。

 

 お前が、

 

 死ねばよかったのに。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

 

 気づけば、私は床に倒れ込んでいた。床に爪を立て、なにかを引っ掻こうとしている。痛いのに、痛くない。痛覚が麻痺したようだった。

 

 そんな私を救ったのは、ドアチャイムの人工音だった。

 

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