機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.14-3 敗者

「……はく、りゅう?」

 

 iARTS本部、整備区画の中。ゲージの中に立つ白龍を私は見上げている。周りにはスタッフがいるはずなのに、誰ひとりとして視界には映っていない。

 

 ――なら、これは現実ではない……?

 

 動悸が速まる。胸が忙しなく鼓動し、肺の空気が絶え間なく交換される。現実ではないとわかっても、この感覚は変わらなかった。

 

 愛着すら感じていた自機に、もはや恐怖心が芽生えていた自分に驚かされる。

 

「白龍。私、やれなかった……。誰も、守れなかった……」

 

 私は白龍の足元まで歩き、背中を機体のつま先に預けた。トンという空虚な音と、金属ならではの冷たさが身に染みる。

 

「私って、馬鹿だよね。自分が強いって誤解してた。なんでもできるって思い込んでた。本当は、あなたのおかげなのに……」

 

 いつの間にか胸にぶら下げられていた勾玉を手に持つ。滑らかな浅葱色が私を見つめる。

 

「私さ、お父さんとお母さんに会ったんだ。それで、わかったんだ。戦うことって、失う恐怖と向き合うことなんだって。でも私、向き合えなかった」

 

 俯き、自分の足を見下ろす。

 

「そりゃあ失いたくないよ、もうこれ以上誰も。誰ひとりだって私の側からいなくなってほしくない。それが見知らぬ誰かでも……。だけど、いつかはいなくなるんだよね」

 

 ――いつかは。

 

 私はその4文字を頭で繰り返した。

 

 いつかって、いつだろう?

 

「ねえ、白龍。あなたも、いなくなるのかなぁ……?」

 

 機体を見上げる。巨大な頭部が遥か頭上、胴体に備え付けられている。

 

「いままで、何回も戦ってきたよね。何回も修羅場を潜り抜けてきて、何回も一緒に傷ついた。もう、友達みたいなもんだよ」

 

 友達。不思議な感覚だった。人じゃないのに、生き物ですらないのに。

 

「私、あなたをもっと知りたいんだ。あなたを知ったら、私も、あなたももっと強くなれる気がするんだ……だから」

 

 知りたい。そう言おうとした時だった。

 

 ――キィン。

 

「……!」

 

 脳内に音が響いた。初めて聴いた、いや、既に聴いたことのある音。

 

 練馬で戦った後に聴いた音。

 

 ――キィン。

 

 甲高い音が何度も鳴る。まるで、私に気づいてほしいかのように。

 

「なんて、言ってるの?わかんないよ……」

 

 わからなかった。なにを言おうとしているのか。そもそも、本当に言葉を発しようとしているかどうかすらわからなかった。

 

 ただ、それでもわかることがあった。

 

 白龍は、私を責めていない。

 

 キィンという音は、不快なものではなかった。私を見守るような、暖かな音だった。

 

「……ありがと。白龍」

 

 でも。

 

「私、どうやったらあなたのこと、知れるんだろう……」

 

 ――キィン。

 

「え……?」

 

 音が、今度は言葉として聞こえた。少しだけど、なにか言葉が聞こえる。

 

「……私、そこに行けばいいの?そこに行ったら、あなたのことがわかるの?」

 

 ――キィン。

 

 今度は確かに聞こえた。「うん」という言葉が。

 

「……わかった。ありがとう、白龍」

 

 私は背中を浮かした。白龍の姿が、いつになく雄大に見えた。

 

 

―――――

 

 

「杏子!杏子!!」

 

 葵が呼ぶ声に、私は目を覚ました。少しずつ目が開け、光が入ってくる。

 

 背中にジンとした痛みが走る。背中を打った時の痛みだろう。

 

「私……」

「よかったぁ、急に倒れ込むから心配しちゃって……」

 

 葵はほっとした安堵の声で言った。

 

「ほんと、休んだほうが……」

「私、白龍と会ってきたんだ……」

「え?白龍?」

 

 絶妙に噛み合わない会話が私と葵、双方の口から飛び交う。

 

「うん。白龍がさ、キィンって言ってて。最初はなに言ってるかわからなかったんだけど、次第にわかるようになってきて」

「ロボットと……会話?」

 

 葵が私を懐疑的な目で見つめる。変人を見るような、正気を疑うような目に近い。

 

「それで、私わかったんだ。あそこに全てがあるって。白龍が、教えてくれた」

 

 私は中津川さんの方を向いた。

 

「中津川さん、私を、遺跡に連れてってください。白龍のことを知りたいんです」

「でも、橘さん。いまはもっと安静にしてないと……」

「わかっています。でも、知りたいんです。あの機体のことを……」

 

 頭を下げて懇願する。

 

「お願いします、私をそこに連れて行ってください」

「……」

 

 中津川さんは一瞬返事を躊躇った上で、

 

「……わかりました。私たちも同行するなら大丈夫です」

 

 私の願いを承諾した。

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