機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.15-1 戦力

コルテーグ王国・王城地下

 

 

 荘厳な格納庫の中。私は頭を失ったまま直立不動を維持し続けるズイカクを、ただ見上げていた。ズイカクの周りには、木製の足場が何層にも重なって備え付けられている。

 

「……」

 

 私は言葉を失った。頭のないズイカクは、それだけで異物感を増していた。機動神とは言うが、神聖さとは違うなにかをまとっていた。

 

「今日はまだ寝ないのか?」

 

 後ろからした声に振り向くと、レブリンが立っていた。

 

「そろそろ寝ないと、また倒れるぞ」

「レブリン様」

 

 私は意を決して足を一歩踏み出した。威圧的な沈黙が私たちの間に流れる。

 

「……ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

「……なんだ」

「私には……私にはなにが足りないのでしょうか。なぜ、私はハクリュウの操者に勝てなかったのでしょうか」

 

 私は、強い。それは間違いなかった。ズイカクを自分の手足のように動かせていることがなによりの証拠だ。

 

 ――それでも。

 

 それでも、私は負けた。ハクリュウともうひとつの機体を前に、ズイカクを中破させるという大失態を犯した。

 

 なにが足らないのか。そう思い、口を再び開いた時だった。

 

「もし、よければ……」

「冷酷さだ」

 

 レブリンは渋い声で断言した。予想外の答えに身がたじろぐ。

 

「お前はなぜハクリュウの操者に対して情けをかけた」

「情け……ですか?」

「その気になれば、ハクリュウの心臓部ごと操者を焼き切ることだってできたはずだ。愚民どもを大虐殺することもできた。それをなぜしなかった?」

「それは……!」

 

 私は拳を握りしめた。レブリンの言うことはもっともだった。ズイカクの力ならば、なんだってできただろう。

 

「お前は優しすぎる。敵に情けをかけて何になるというのか。その優しさはお前自身を苦しめるだけだ。事実、ズイカクは撃破されてもおかしくなかった」

「……その通り、です」

「……ズイカクの役割を知っているか」

「はい。"輪廻"を破壊し、新たな世界を構築する……」

 

 レブリンが頷く。首にぶら下げられた宝石がガチャリと音を立てる。

 

「そうだ。新たな創造は破壊からしか生まれない。お前はそれを恐れた。破壊の先にある新世界を信じきれなかった」

「も……申し訳ありません」

「……もういい。済んだことだ。それより、スピーシーズとの関係はどうだ?」

「は、はい。定期的に会話を取っています」

 

 私は半分嘘をついた。スピーシーズとは、3体の機動神であるオウキ・オウラン・コウオを動かせる、3人の操者のことだ。

 

「本当か?メッサに聞いてもいいんだぞ。お前がきちんと交流を深めているかどうかを」

「……」

「そんなことだろうと思った。メッサと話してこい。あいつもまだ起きているはずだ」

「……わかりました」

 

 私は小さく頭を下げると、レブリンに背を向けた。

 

 格納庫を後にし、王城地下の細い通路を歩く。靴と石で造られた床が擦り合う音に、私の鼓動が加わる。壁に掛けられた魔導灯が私を等間隔に照らす。

 

 ――冷酷さ。

 

 ――強さ。

 

 冷酷になれば、私は強くなれるのだろうか。

 

 長い螺旋階段を上り、地上に出る。夜の暗闇の中、またしても長い通路を歩き角を何回か曲がると、とある広間に出た。

 

 剣術道場。

 

 王城併設のその場所でひとり模造刀を振るっている少女、メッサがいた。私よりも背は低いのに、薄い赤のツインテールのせいで存在感は人一倍あった。私の茶髪ショートとは大違いだ。

 

「ふんっ!はっ!」

 

 メッサは黒と白の道着を身にまとい、模造刀で空間を切り裂く。その度に汗が飛び散り、練習の大変さを匂わせている。

 

「メ……メッサ」

 

 私が名前を呼ぶと、メッサは明らかに苛立った様子でこちらを向いた。

 

「……なによ」

 

 一言だけなのに、凄まじい威圧感を感じる。

 

「あなたと話しなさいって、レブリン様が」

「……はあ、めんど。あんたみたいな雑魚と」

 

 メッサは不貞腐れた様子でその場に座り込んだ。まるでこっちに来いと言いたげな表情を添えて。

 

 私はメッサに歩み寄り、同じような姿勢で座った。一瞬、メッサの目つきが鋭くなった気がした。

 

「ワタシ、そんな暇じゃないんだけど、なに?」

「いや……なにというわけでもないけど」

 

 チッという舌打ちが鳴る。

 

「あんた、聞いたわよ。貴重なズイカクをぶっ壊したんだって?しかも、一番機体にとって重要なあ・た・まを」

「……」

「はあ……ざっこ。あんたみたいな雑魚がトップだと、ワタシたちスピーシーズの名も廃るってものね」

「……そう、ね」

 

 私がそう返すと、メッサはつまらなそうに眉をひそめた。

 

「はあ?なんか言い返しなさいよ」

「事実だし、否定しようもないし」

「はあ……。で?レブリン様はなんて言ってたの?もっと頑張りまちょね〜って?」

「冷酷さ……」

「はぁ?」

「冷酷さが、足らないって」

 

 メッサは呆れた様子で道場の天井を仰いだ。

 

「だから言ったのよ。あんたみたいな半分人間がトップだと作戦遂行にケチがつくって。言っとくけど、ワタシのオウキちゃんに傷ひとつつけるようなクソ作戦を組んだら承知しないからね」

「わかってる」

「ぜったいわかってないわ、コイツ……」

 

 再び舌打ちが鳴る。さっきよりも大きい。

 

「いい?ワタシたちスピーシーズには、あんたみたいな人間成分はないの。コルテーグ初の完全人造人間なんだから。あんたより優れてるの」

「わかってる」

「はぁ……もういいわ」

 

 メッサはそう言うと、立ち上がって模造刀を壁に掛けた。

 

「メッサ、どこに」

「風に当たってくるの。20分後にレブリン様と話があるから。あんたはさっさと寝なさい」

 

 メッサが立ち去り、空になった道場で私は自分の手を見つめた。

 

 ――半分人間、か。

 

 確かに、スピーシーズに比べれば機体の負荷にも耐えられないし、頭も悪い。

 

 ――なぜ、レブリン様は私にトップを任せたんだろう?

 

 そんな疑問が、頭の中で深まっていった。

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