機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.16-1 神裂き

「神谷くん。青麟のバックパック、装着完了しました」

「ありがとうございます」

 

 俺は操縦レバーを握った。シミュレーターとは違った、確かな感触が掌を舐める。コックピット内の全てがシミュレーション通りなのに、全てがなにか違っていた。

 

 ――これが、本物。

 

 緊張が心をくすぐる。予想はしていたが、それを遥かに超えていた。

 

 スピーカー越しに聞こえる情報は、秒単位でアップデートされていった。

 

「敵機、館山市沖5kmに出現!データにはない機体です!」

 

 モニターに衛星からの空撮写真が表示される。オレンジ色の機体が海に重なっていた。

 

「これは……!」

 

 黒鉄弐式のアリアが声を失う。

 

「知っているのか?」

「機動神の1体、オウキです!こんなに早く2体目を……!」

「初戦からこれか」

 

 俺は天命を呪った。初戦にブランク有りでは、苦戦は必至な相手だ。

 

「……だめです!世界線移動、できません!」

「もう一度手順をやり直せ!」

「やってますが、何度試しても……!」

 

 スピーカーの奥で情報が混線する。なにが起きているかは、なんとなく察した。

 

 ――また、民間人がいる状態で戦わないといけないのか。

 

「中津川さん」

「神谷くん……今回も」

「わかってます。足下に気をつけて戦え、ですよね」

「現在、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の全域にJアラートを発令しています。避難が間に合えば良いのですが……」

 

 俺は覚悟を改めた。どうしても犠牲が出てしまう戦い。負け戦にしかならない戦い。

 

「……聞いたな?ふたりとも」

「「はい」」

 

 ラグールとアリアの平坦な声が鳴る。どことなく、どう反応すべきか悩んでいる声に聞こえた。

 

「転送準備完了!転送予定位置、横浜市磯子区沖7km!いつでも転送できます!」

「了解しました」

 

 スピーカーを通して叫ぶ中津川さんに事務的な返事を返す。

 

 ついにこの時が来た。橘と聖堂が何度も繰り返したことを、俺もする時が。

 

「神谷智、青麟、出撃する!」

「セドリス・ラグール、黒鉄壱式、出る!」

「マローラ・アリア、黒鉄弐式、出ます!」

 

 コックピットが電流で包まれ、モニターに『転送中』と赤文字が表示される。

 

 数秒の後、機体は東京湾上空に浮かんでいた。

 

 

―――――

 

 

「ラグール!アリア!機体の状態はどうだ?」

「大丈夫!」

「大丈夫です!」

 

 俺の問いかけに、2人は声を張った。モニターにはオウキの現在地が記されている。

 

「敵機は現在、東京湾富津岬沖2kmを時速200kmで移動中!会敵予想時刻54!」

「54分って……4分後!?」

 

 アリアの驚嘆が聞こえる。

 

「青麟は強襲機だ。まず3機でオウキの行く手を阻む。速度を落としたところで俺が背後を取る。ただ、青麟の活動可能時間は短い。敵の武装を除去した後は黒鉄2機で撃破だ」

「「了解!」」

 

 2人の声の後に、中津川さんの報告が飛ぶ。

 

「敵機接近!まもなく会敵します!」

 

 モニターには、こちらに向かってくるオウキの姿が拡大画像で映し出されていた。白を基調とし、肩や前腕、下腿がオレンジで彩られた機体。アイカメラは水色の一つ目、両手にはビーム状の鉤爪が嵌め込まれている。

 

「オウキは鉤爪攻撃による近接型です」

「どうやらそうみたいだな」

 

 俺はラグールの報告を流した。青麟は支援機を兼ねていることもあり、敵機の細かな動作までも把握できる。

 

 オウキは真っ直ぐに飛行している。不気味なほどだ。

 

 ――なにか、変だ。

 

 俺は目を凝らした。なにかが変なのに、その正体がわからない。

 

「なにを企んでいる……?」

 

 そう口にした時だった。

 

 オウキの脚部が、腕部が折り畳まれた。折り畳まれた脚部が機体後方へ回り込み、腕部の鉤爪が前方へ突き出される。胸部装甲が左右に展開し、背面のユニットが尾翼のように広がった。

 

「なっ……!」

 

 たった3秒ほどにして、オウキはロボット形態から戦闘機形態へと変形した。

 

「そんな!機動神にあんな機能はありません!!」

「狼狽えるな!」

 

 アリアに喝を入れたが、俺自身も内心では混乱していた。

 

 ――これからどうするつもりだ……?

 

 俺はどうすることもできず、相手の出方を伺った。すると、あることがわかった。

 

 オウキのスラスターが、稼働している。

 

「まさか……!」

 

 その予感は的中した。オウキはスラスターを傾け、進路を曲げた。速度も増している。

 

 新たな進路の先にあったもの。それは。

 

 横浜の都心部だった。

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