機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.16-4 神裂き

「これが、横浜……?」

 

 白龍のコックピットの中。眼下に広がるみなとみらいの惨状に、私は目を疑うほかなかった。モニターに表示されている生体反応の多さが、逃げ遅れた人の数を如実に表している。

 

「橘!」

 

 智の怒号が鼓膜に鋭く突き刺さる。

 

「お前、なんで白龍に乗ってるんだ!!」

「話はあと!それよりも、どうなって……」

 

 表示された地図に目をやる。敵機は横浜ランドマークタワーのすぐそばに立っていた。

 

「……あの機体、オウキがタワーを切り裂こうとしてる」

「タワーを!?」

 

 私は声を張り上げた。まだ、あんなに人が残ってるのに……!

 

 すると、女の声が鳴った。

 

「あんたがハクリュウの操者ぁ?いいところに来たわね」

「なにをしてるんですか!やめてください!!」

「聞いた通りのアマちゃんね。くっだらない」

 

 オウキのスラスターが噴かれ、上空へと舞い上がる。かと思えば。機体の各所が折り畳まれ、頭部から脚部までスラリとした戦闘機形態へと変貌を遂げた。

 

「えっ!?」

 

 私が驚く暇もなく、オウキは白龍との距離を詰めた。目の前に巨大な鉤爪が迫る。

 

 ――やられる!!

 

 だが、オウキは軌道をわずかにずらした。静止する白龍に対し、高速で移動するオウキ。すれ違った時のコックピットの振動が、その速度差を表していた。

 

「橘!後ろ!!」

 

 青麟からオウキの軌道予測が共有される。何重にも重なる白線。その全てが、ある地点に収束していた。

 

 白龍の背後。

 

「まさかっ!」

 

 白龍を180度回転させた瞬間、視界全体をオウキのオレンジ色が満たした。

 

「取ったぁぁああ!!」

 

 オウキの鉤爪が、白龍のコックピットを突き刺そうとしている。

 

 ――終わった。

 

 そう思い、反射的に目を瞑った時だった。

 

「……はぁ!?」

 

 オウキのパイロットが間の抜けた叫びを放った。一拍遅れて私の目が開く。

 

 私の目に映ったもの。それは、白龍の前に展開された、巨大なシールドだった。

 

「なに、これ……?」

 

 初めて見るものだった。白龍には本来搭載されていない機能だ。

 

「覚醒したのかあっ!!」

 

 敵パイロットの声と共に、再びロボットになったオウキの左脚が白龍を蹴り飛ばす。ドンッという衝突音と共に、凄まじい衝撃が私の全身にのしかかる。

 

「きゃあああ!!」

 

 白龍は地上に墜落していった。まだ人が沢山いる地上へと。

 

 ――キィン。

 

 脳内に、あの"声"が響いた。

 

 ――私に、応えてくれるの?

 

 ――キィン。

 

「……わかった!!」

 

 私は頭の中に軌道を思い描いた。白龍が取るべき動きが、小さい頭に構築される。

 

 白龍は、その通りに動いた。操縦レバーもペダルも動かしていないのに、スラスターが躍動する。

 

 白の巨体が空中で姿勢を形成する。背部スラスターの火が一斉に吐き出される。

 

 高層ビルに衝突する寸前で、白龍は止まった。ビルの外壁がスラスターの風で剥がれ、地上に落下する。けれども、人には直撃していない。

 

「……やった!」

 

 空に浮かぶ白龍の中で、私はそっとガッツポーズを取った。

 

「今の動き……お前がやったのか?」

 

 智の声が通信に割り込む。

 

「ううん……白龍がやってくれた」

「白龍が?」

「そう。私の思った通りに動いてくれた……!」

 

 なにが起きているかは、全くわからなかった。でも、理屈なんてどうでもよかった。

 

 私と白龍が一心同体になった、そんな気がした。

 

「それが、ハクリュウの真の能力。いや、これですらその一部に過ぎない……」

「ねえ!あなた、なにがしたいの!?」

「うっさい!小娘風情が!!」

 

 オウキが急加速する。軌道予測上にはランドマークタワーがあった。

 

「それなら……!」

「やめて!!」

 

 ――キィン。

 

 白龍の右腕が前方に突き出される。

 

 いや、それだけじゃない。腕から、光が溢れている。

 

「……放て!!」

 

 私は衝動的に口走ったのと同時に、白龍の腕から白い流れが放たれた。

 

 光が幾重にも分かれる。そして、その全てがオウキの軌道予測に被っていた。

 

「なっ……!?」

 

 オウキは複雑な回避行動を取ったが、全てを避けることはできなかった。1発が右腕、もう1発が頭部に直撃し、大きな爆発が起きた。

 

「散弾なのに!?」

 

 敵パイロットは声を荒げた。爆発のあと、脚と胴体だけになり攻撃手段も失ったオウキが落下していく。

 

「ハクリュウに……ハクリュウごときに!!」

 

 白龍は再びスラスターを作動させた。落下するオウキを止めるべく。オウキのパイロットを助けるべく。

 

 しかし、青空を切り裂く一筋の緑が、その願いを打ち砕いた。

 

 青麟から放たれたビーム弾が、オウキのコックピットを貫通した。

 

 脳内に響く、声と共に。

 

 ――ありがとう、ワタシを、解放してくれて……。

 

「そんな……!!」

 

 白龍の両手が、オウキをそっと抱きしめる。黒煙に包まれたオウキからは、なに一つ返答がなかった。

 

「橘。オウキのパイロット……メッサは死んだ」

 

 冷酷な宣言をする智を前に、私の鼓動はひたすらに早まっていった。

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