機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.17-1 現実

「解放……か」

 

 宙に浮く白龍、その腕に収まるオウキの残骸を前に、私はそっと呟いた。きっと、オウキのパイロットにも想いがあったのだろう。こんな残虐的な行為に及ぶほどの、強い想いが……。

 

 街並みを見下ろす。依然としてあちこちから黒煙が上がり、サイレンの音も聞こえる。

 

「橘」

「……なに?」

「もうすぐ転送が始まる。オウキも送る。そのままの位置を維持しろ」

「……わかった」

 

 直後、光に包まれるコックピットの中で、私はそっと目を瞑った。今回の戦いで亡くなった全ての人々への、自分なりの追悼だった。

 

 

―――――

 

 

「杏子ちゃん!おつかれさま!!みんなも!!」

 

 iARTSの整備区画。白龍から降りた私を、優月が黄色い声で出迎える。会うのは2週間ぶり、骨折もしているがテンションはなに一つ変わらない。

 

「……うん。久しぶり」

「いきなり白龍が転送されちゃうからもしかしたらって思ったら、やっぱり!」

「なんか、呼んだら来ちゃったんだよね。白龍」

 

 私は振り返って白龍を見上げた。いままでも不思議な機体とは思っていたが、ここまで来ると不思議の一言では収まりきらない気がした。

 

「白龍、あなたは……」

 

 問いかけようとした、その時。

 

「橘」

 

 智の声がした。見ると、ラグールとアリアの姿もあった。

 

「お前、どうして白龍で出撃したんだ?」

「ごめんなさい。でも、なんか呼んだら出てきちゃって……」

「違う」

 

 智は冷静に否定した。

 

「どうして白龍を呼んだかと聞いているんだ。呼んだのは橘の意思でだろう」

「……」

「俺たちはお前のことを気遣って言っているんだ。お前が背負い込みすぎるのが不安で言っているんだ。どうしてそれがわからない」

 

 智の声は逐一胸に刺さった。心配しているのが手に取るようにわかる。

 

 しかし、私の口から出たのは自分でも驚くほど硬い言葉だった。

 

「……じゃあ、なんで撃ったの」

「なにをだ」

「オウキのパイロット、メッサだよ!」

 

 声に怒りに似た感情が混じる。自分でも制御できない怒りが。

 

「メッサは……メッサは助けられた!神谷くんが撃たなければ助かった!なのに!」

「メッサは横浜で虐殺をした。多くの人を殺したんだ、それはお前もわかっているはずだ」

「でも!」

「それに、あそこで撃たなければ逃げられたかもしれない。逃げられたら、またこっちに攻めてくる。そうしたら、また犠牲が出る。それをわかっているのか?」

 

 全くの正論だった。あそこで逃げられたら、今度はもっと酷い被害が出てもおかしくない。

 

「それでも、私は助けたかった……。メッサは私にありがとうって言ってくれたんだよ……。解放してくれてありがとうって。もしかしたら、過去に辛い経験をして、それで!」

「……今だ」

「……え?」

「大事なのは過去じゃない。今この瞬間だ。過去にどんな善行を積もうとも、今酷いことをすれば報いを受ける。メッサは死んでも当然のことをした。それだけだ」

 

 智は立ち去ろうとした。だが、そんな彼の背中を私は許せなかった。

 

「……じゃあ、神谷くんは過去なんてどうでもいいんだ」

「……」

「そんなんだから、家族にも内緒でドールユニットに乗れるんだ!傷つく人もいるのに、平気な顔をして乗れるんだ!」

 

 八つ当たりだった。私だって春翔に黙って乗っていたのに。人のことなんてなにも言えないのに。

 

「もういいよ!神谷くんなんて……神谷くんなんて!」

 

 嫌い。その一言すら言えず、私はエレベーターへと走り出した。後ろで優月の「杏子ちゃん!」と叫ぶ声が聞こえた。

 

 叩くようにしてエレベーターのボタンを押す。閉まりかけた扉の向こうに見えた優月を、私は直視できなかった。

 

「……最低」

 

 その言葉が誰に向けたものなのか。神谷くんなのか、メッサなのか、それとも守れなかった自分なのか。いまの私にはわからなかった。

 

 上昇する箱の中で、私はしゃがみ込んだ。

 

 メッサのしたことは、確かに許されるものではなかった。神谷くんの言うことは至極真っ当なものだった。私を、民衆を殺そうとしたのだから、殺されても仕方ない。戦場の論理としては正解だった。

 

 でも。私は戦場に身を置きたいわけではない。みんなとおしゃべりして、勉強して、クレープを食べて、ゲーセンで遊んで。そんな普段の生活がしたい。それだけなんだ。

 

「それすら、できなくなったんだなぁ……」

 

 エレベーターが上がりきった時、私の心の中を諦めと悲しさ、かすかな悔しさが充満していた。

 

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