機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.18-2 普通

「え?うそ!?」

 

 真鶴のフライトユニットが敵機のマシンガンによって貫かれる。推力がみるみるうちに低下し、バランスが失われていく。

 

「切り離すしか……!」

 

 分離ボタンに手が伸びかけたその時、1機の無人機が目に入った。無人機は急加速し、真鶴を離さまいと抱きかかえる。

 

「離して!離せ!」

 

 しかし、想いが届くわけもなく、無人機はコックピットの目の前で爆発した。視界いっぱいに赤黒い爆炎が広がり、真鶴は大破した。

 

「はぁ……っ」

 

 真正面のモニターに『シミュレーション終了』の文字が踊る。富士山麓上空での戦い。杏子と共に初めて戦った戦い。

 

 いくらシミュレーションとはいえ、真鶴単機での戦いとはいえ、敗北した事実はわたしを厳しく責め立てた。

 

 実験機の扉が開く。わたしはポッドに連なる金属製の階段をゆっくり下りた。コンコンという冷たい音が鳴る。

 

「負けたこと、なかったのになぁ……」

 

 富士山麓のシミュレーションは何度かやっているが、負けたことはただの一度もなかった。全戦全勝がお決まりだった。

 

 ――それが。

 

「この結果かぁ……」

 

 激しい落胆が襲う。休みすぎたせいでわたしの腕が落ちたのか。それとも戦意が低下しているのか。

 

 ――きっと、どっちもだろうなぁ。

 

 もうすぐ3月。暖かくなる季節なのに、心は冷える一方だった。

 

 

―――――

 

 

「へえ……もうここまで直ってるんですね」

「そう、支援企業も見つかったからね。想定より速く進んだよ」

 

 iARTSの整備区画で、わたしは真鶴を思いっきり見上げた。工事現場用のヘルメットが少し邪魔くさい。

 

「大破した左脚はいちから作り直し。配線の接続とかはあるけど、あと2日もすれば元通りになるね。フライトユニットは前言った通り、設計から見直してる。推力は1.6倍、スラスターの動きも格段に良くなってる」

 

 渡辺さんは手元のタブレットを見ながら、淡々と説明を続けた。数日前に白龍に興奮していた人とは到底同じに見えなかった。

 

「ユズっち、なんか質問ある?」

「いえ……ないです。ここまでしてくれてありがとうございます」

「いやいや、これが私たちの仕事だから。むしろ、白龍が勝手に修復しちゃう分、こっちで働かないとね。まだ黒鉄弐式の修理も立て込んでるし」

 

 ――白龍。

 

 もはや単なる機械の範疇を超え、生物、神にすらなろうとしている機体。

 

 その名前に、わたしは複雑な気持ちを抱いた。

 

「渡辺さん……」

「うん?なに?」

「やっぱり、ひとついいですか?」

 

 わたしは意を決して想いを口にした。

 

「真鶴は……白龍にはなれないんでしょうか?」

「白龍に……?」

「白龍はもはや常識の範疇に押さえることができない、そんな機体になりつつある。それは渡辺さんがいちばんわかっているはず……」

「そう、だけど……」

「なら、白龍にあって真鶴にないのってなんですか……?」

 

 白龍は『普通の』機体ではない。いや、白龍だけじゃない。杏子ちゃんももう『普通』では……。

 

「それを聞いても無駄だと思うけどねえ」

「どうしてですか?」

「だって、白龍と真鶴って根本から違うし?それに、真鶴は普通の機体でもある。それは誇っていいことなんだよ」

「……」

「杏子っちには言ったけど、白龍は正直兵器としては落第点かもしれないんだよね。いろんな意味で安定性に欠けすぎてる。爆発力は規格外だけどね」

 

 渡辺さんはタブレットを脇に挟み真鶴を見上げた。

 

「でも、真鶴は違う。真鶴は設計通りに動く。整備した分だけ応えてくれる。パイロットが癖を掴めば掴むほど、きちんと強くなる。そういう機体。まあ、それが普通ってことなんだけど」

「……こちゃんになりたい」

「ん?」

「いえ、なんでもないです」

 

 わたしは言葉を訂正した。

 

 わたしにとって、杏子ちゃんはバディだった。わたしが先輩で、杏子ちゃんが後輩だった。先輩風を吹かせたいわけではなかったけど、どちらかといえば特別だったのはわたしだった。

 

 だけど、戦うにつれて状況は一変した。杏子ちゃんはどんどん強くなって、前世がお姫様なんて箔までついた。白龍も力を増し続けている。

 

 杏子ちゃんはとっくに『普通』ではない。わたしはそのことに薄々気づきながらも、頭の奥底では否定していた。

 

 でも。

 

「……ありがとうございました」

「こちらこそ。じゃあ私は黒鉄の方に行くから」

 

 立ち去る渡辺さんの背中をそっと見送る。

 

 わたしは、『普通に』生きたいと思っていた。『普通に』生きて、女子高生らしい生活を送りたいんだと思っていた。

 

「うそだったんだなぁ……」

 

 それは真っ赤な嘘だった。心のどこかに、憧れがあった。特別な存在になる杏子ちゃんに。なんでも完璧にこなす杏子ちゃんに。そして、神になりつつある白龍に。

 

 わたしは、特別になりたいんだ。誰かにとっての特別に。

 

 杏子ちゃんにとっての、特別に。

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