機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.18-3 普通

 2ヶ月ぶりのアーケード街は、思ったよりも閑散としていた。前に来た時はそこら中に人がいたのに、いまはすっかりまばらだ。

 

「ユズ……やっぱり、人少ないね」

「うーん、そうだねぇ」

 

 軽く見渡したところ、観光客が少ない気がした。店もところどころ閉まっている。

 

「杏子ちゃん、大丈夫?」

「なにが?」

「いや……人の目とか気にしてないかなぁって」

「……慣れたよ」

 

 諦めに近い言葉がもたらされる。

 

「結構スマホとか向けられたりするけど、もう慣れたというか、気にしなくなったというか」

「そっかぁ」

 

 黄色い髪の毛をクルクル束ねる。微妙に絡まってプチっという音と共に指に毛がまとわりつく。

 

「そういえば、葵ちゃんも来ればよかったのにね」

「うん……」

「どうしてるんだろ」

「なんか、塾の見学に行ってるんだって」

 

 今日は神谷くんも葵ちゃんもいない。わたしと杏子ちゃんの2人だけのバディ旅だ。

 

「塾かあ……」

「私も勉強頑張らないとね。白龍に乗ってるばかりじゃいけないし」

「そうだよねぇ」

 

 ――今度中津川さんに聞いてみよっか。

 

 わたしの鼻をかすかに甘い匂いがくすぐる。

 

「あっ!クレープ屋さん!」

「あぁ、前も来たあの」

「そ!今日も食べようよぉ」

 

 わたしと杏子は店前に並び、ショーケースのクレープを吟味した。とはいえ、目は前回も選んだストロベリーに吸い付いていた。

 

「わたし、今回もストロベリーにしよっ」

「私はブルーベリーかなぁ」

 

 その時、店の中から男性店員の跳ねる声がした。

 

「あっ、あなたは!」

「えっ?」

「あの!白いロボットで横浜で戦ってくれた人ですよね!?」

「あっ、はい……。そうです」

 

 答える杏子に、店員の興奮は止まらない。

 

「僕!家族と一緒に、ランドマークタワーの展望デッキにいたんですよ!オレンジのロボットがビルを壊そうとした時、白のロボットが現れて!」

「……」

「それで白いロボットからビームがバーって出てオレンジのロボを倒して!しかもパイロットが僕の妹と同じぐらいの女の子と聞いてビックリしちゃって」

「あはは……ですよね」

 

 杏子は受け流すような返事をした。見ると、眉間に皺が寄っている。

 

「あのロボットってどうやって動かしてたとか物凄く気になっちゃって!」

「まあ……ノリで動かしてたというか……」

「凄いです!尊敬してます!あっ……注文ですよね!」

「……ブルーベリーで」

「わたしはストロベリーで」

 

 わたしたちはそっとメニューを指さした。

 

 

―――――

 

 

「あの店員の気迫、凄かったね」

「……うん」

「まあ、ちょっと熱こもりすぎてたよね」

「……うん」

「……大丈夫?」

「……うん」

「ブルーベリー、口についてるよ」

「……あっ」

 

 杏子は口端の青い汁をそっと拭った。

 

「そうだ!ゲーセン行かない?ほら、前も行った!」

「……いいよ」

 

 わたしは「よしっ!」と腕を捲り、杏子の手を掴み走った。ゲーセンの中は意外と人が多く、あまり変わっていない気がした。

 

「じゃあ、またあのレースゲームやろうよ!」

 

 杏子がコクリと頷く。わたしは4台並ぶ端に座り、杏子はその隣に座る。

 

 コースとカートを選びゲームをスタートさせる。カウントダウンと共にレースがスタートする。

 

 ――ああ、こんな日々が『普通』なんだろうなあ。

 

 みんなとおしゃべりして、勉強して、クレープを食べて、ゲーセンで遊んで。

 

 でも。

 

「……杏子ちゃん。聞いてくれる?」

「……なに?」

「わたし、杏子ちゃんが好きなんだ」

「……」

 

 杏子は黙ったままだった。ハンドルがきられ、順位が目まぐるしく変動する。

 

「好きなんだ。守りたいんだ。助けたいんだ……」

「……」

「初めて出会った日から、ずっと好きだった。バディとして、友達として。わたしが強くて、杏子ちゃんを守っていたかった」

「……そう、なんだ」

「うん。でも、いつの間にか杏子ちゃんの方が強くなっちゃった」

 

 わたしのカートにアイテムが直撃し横転する。

 

「杏子ちゃん、凄いよね。みんなを守って、みんなから賞賛されて」

「そんな凄いことして……」

「してるよ」

 

 わたしは驚くほど低い声で杏子を遮った。

 

「だって、白龍さ。もう生き物としか思えないよ。普通の機械は喋ったりしないよ、会話なんかできないよ……」

「……」

「だからさ、知りたい。どうしたら、杏子ちゃんをもう一度守れるのか。もう一度、特別になれるのか。もう一度、杏子ちゃんが白龍に乗らなくてよくなるのか……」

 

 わたしはそっと言葉を連ねた。全てが本心で、嘘偽りなかった。

 

「私」

「……え?」

「私、そんな大層なもんじゃない……」

 

 杏子の放ったアイテムで、わたしのカートが小さくなる。

 

「だって私、あの店員のこと、知らなかった。あんな人がいるなんて知らないで戦ってた。守る人のこと、全く知らなかった……」

「杏子ちゃん……」

「でも、こうも思ったんだ。それでもいいやって。それが、普通なんじゃないかって。だって、普通はそんなもんでしょ?通り過ぎる人の顔なんて覚えてないし、名前なんて知る由もないし……」

 

 杏子の言っていることはもっともだった。わたしだって守ってる人のことなんて一ミリも知らない。殺した敵パイロットのことさえも……。

 

「私、普通でいたいんだ」

「……え?」

「普通に友達でいたい。普通の姉でもいたい。白龍とも仲良しになりたい」

 

 レースが終わる。わたしは4位、杏子は5位だった。メダルですらない、ただの順位が画面上に表示される。

 

「だからさ。私、ユズとも友達でいたい。普通の、友達に」

「……」

 

 わたしは閉口するしかなかった。

 

 ――そっか、そうだったんだ。わたし、勘違いしてたんだ。

 

 杏子ちゃんは、特別になんかなりたくないんだ。普通の少女でいたいんだ。

 

 わたしだって、普通でも特別でもない存在になりたかったんだ。

 

 友達という、存在に。

 

 やっと、その事実に気づけた。

 

「……だったらさ!」

「?」

「……もう一戦しない?」

 

 わたしは100円硬貨を再びゲーム機に投入した。レースが再び始まる。

 

「今度は1位取るから!」

「……うん!」

 

 杏子は今日いちばんの声で答えた。

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