機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.19-2 目的

「タマナ、ハレリール」

 

 後日、王城の中庭。桜の木がピンクの花弁を散らす下に、2人は居た。丈の低い草が靴越しに足裏をくすぐる。

 

「なんだい?エレーナ」

 

 木に背をもたれ座るハレリールが、私を名前で呼んだ。スラッと流れる薄い青色のロングヘアに整った顔、まさに美男子というべき容姿が夕空に映える。

 

「次回の作戦の計画を持ってきました」

「いつもご苦労さん」

「また、トウキョウかしら?」

 

 原っぱに寝そべっていた彼女、タマナが上半身を起こして私を見つめる。彼女の駆る機動神・オウランとよく似たピンクの短髪が風にそっと揺らぐ。

 

「ズイカクの映像見たけど、もっと自然豊かな場所の方がいいなあ。ハレリールもそう思うでしょう?」

「まあ、そうだが……」

 

 タマナとハレリールは恋人関係にあると聞いたことがある。それも、ここ数ヶ月ではなく数年来の恋人という話だ。

 

「だが、そっちの方が敵に与える精神的ダメージが大きいのだろう」

「そんなもんなんかねぇ。なんか性格悪くて嫌になるわね。まあ、戦争やってる時点で言えた口じゃないかあ」

 

 私は2人に紙を渡した。襲撃すべき場所や機体の運用方法、戦略上の注意点が書かれている。

 

「……本当はズイカクで私も出撃したかったのですが、できなくてすみません」

「まあ、私たちでどうにかなるでしょ。ね?ハレリール」

「ああ、必ず勝ってみせます」

「……ありがとうございます」

 

 私はそそくさと立ち去ろうとした。このあとはレブリンへの報告も待っている。

 

 ――早めに済まさなければ。

 

 そう思った時、ハレリールの言葉が背中に刺さった。

 

「……エレーナ。なにか、悩んでいるのか?」

「え?」

「いつもの覇気がないぞ。キミはそんなんじゃないのに」

「確かに!もっと元気だよね」

 

 ――勘づかれたか。

 

 私はため息をそっと吐き出し、瞬間項垂れてから2人の方へ身体を向き直した。

 

「実は、私はエレーナ姫ではないとレブリン様から言われて……」

「どゆこと?」

「レブリン様が言うには、私はエルハの一般国民に人工的にエレーナの記憶を埋め込んだ存在らしいです。それで、真にエレーナの生まれ変わりなのは、ハクリュウの操者の方だと」

「それでショックを受けてたわけか」

「辛かったねぇ」

 

 タマナは立ち上がり、私の頭に手を乗せて撫でた。少しこそばゆい。

 

「レブリン様は、たまにキツイこと言うからねえ。わたしも言われたことあるよ?お前よりもアリアの方が優秀だってね。でも、そのうち楽になるよ」

 

 タマナはお気楽な調子で言ったが、ハレリールは顎に手を当て深刻そうな顔をしていた。

 

「……レブリン様の唱えていることは、本当なのだろうか?」

「ハレリール?」

「こちらの世界の延命のためにアザーズ世界を破壊し、彼らの神々の力を奪う。それが、レブリン様の唱えている説だ」

「うん、そうだよ」

「でも、おかしくないか?彼らの有する機動神は所詮レプリカだ。我々の機動神の寿命を減らしてまで、無理に改造してまで奴らを倒すメリットはどこにある?」

 

 確かにそうだ。いくらハクリュウが覚醒しつつあるとはいえ、アザーズ、あちらの世界の機動神を倒して、あちらの世界を破壊して得られる魔力は微々たるものだ。こちらの機動神の寿命を削るだけの利点は大きくない。

 

「僕は、レブリン様はなにか真の目的を抱えていると思う。それも、もっとシンプルななにかを……」

「ちょっと、ハレリール……」

「……エレーナ。この後レブリン様と話すのだろう?よかったら確かめてくれないか?それが、本当に僕たちが命を賭すのに見合う目的なのかを」

 

 私はすぐには返答できなかった。ハレリールの言うことはもっともだが、本当に聞き出すことなんてできるのだろうか。それも、姫ではなく、一般人の魂が刻まれた私に。

 

「……私、いままで自分はエレーナ姫だと思ってた。負傷したエレーナ姫を人工的に補強した存在であると。でも、違った。私はただの一般人だった。エレーナ姫のそれらしい記憶を埋め込まれただけの、一般人だった」

「エレーナ……」

「私は、名もない人間だった。自分の本当の存在も知ることができない。誰にも勝てない。全く強くもない。そんな、存在価値のない人間……」

「違うよ」

 

 タマナは私の言葉を強く否定した。

 

「存在価値なんて、そんな簡単に見つかるものじゃないよ。わたしたちもそう。完全に造られた存在に、存在価値なんてあるわけがない。でも、それでいいの」

「……」

「価値なんて、他人が押し付けるものでしかないの。他人の定規でしか推し量ることのできないもの。そういうものよ」

 

 タマナの言葉には確かな重みがあった。スピーシーズとして。一から造られた人造人間として。替えのきく存在として。

 

「生きるのに必要なのは、なにをするために生きているかという"目的"よ。わたしたちは、コルテーグの国民のみんなのために戦っている。きっと、アザーズの操者もアザーズの民のために戦っている。それぞれに目的があって、正義があって、だから衝突してる」

「そう、タマナの言う通りだ。だからこそ、知りたいんだ。俺たちの生は、正しいのかを」

 

 私は言葉を返せなかった。

 

 私はなんのために生まれたのかわからない存在だ。一般人として生を終える"輪廻"をレブリンによって捻じ曲げられた存在だ。

 

 だけど。

 

 もし、この生がタマナやハレリール、コルテーグのみんなのために使えるなら。それはそれでいいのかも知れない。

 

「……わかった。レブリン様に聞いてみる」

「……ありがとう」

 

 タマナとハレリールは深々と頭を下げた。そこには、人造人間らしからぬ、重苦しいまでの気持ちがこもっていた。

 

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