機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds 作:るろうに2025
「失礼します」
「入れ」
金枠に赤く塗装された重厚な扉を開けると、豪華絢爛を絵に描いたような部屋が目に飛び込んできた。所々に金があしらわれ、巨大な白のカーペットまで敷かれている。壁には自画像が飾られており、自身の権威を誇示しているようだった。
「なんだ、要件は簡単に済ませろ」
「次回のトウキョウ襲撃案が完成しました」
「ほう……」
レブリンは顎ひげを指で摘みながら話半分で聞いていた。彼の身体は窓の外に向いている。
「いつだ」
「コウオ、オウランの整備を考慮し、10日後を予定しています」
「意外と早いな」
レブリンが振り向き、こちらに視線を送る。優しさなど一切ないような冷淡な瞳だ。
「まあ、いいだろう。タマナとハレリールには話してあるんだろう?」
「はい、それは……」
「ならいい。立ち去れ。お前は早く寝ろ」
しっしっと追い出すようなジェスチャーをする彼を前に、私の決意が揺らぐ。
――ここであの話を聞いたらどうなるのだろう……?
私はもしかしたら彼の逆鱗に触れ、最悪の場合殺されるかも知れない。それほどの気迫が、いまの彼にはあった。
だが。
私にとっても、明らかにしたい話ではあった。本当にレブリンの頭の中にコルテーグの民のことはあるのか。
彼の本当の企みとはなんなのか。
「……あの」
「なんだ」
「レブリン様……。レブリン様がトウキョウ襲撃に力を入れている理由は、なんでしょうか?」
「全く……。何度も言っているだろう、コルテーグの民が飢えないためにだな」
「それは!本当でしょうか」
私の声が一瞬だけ跳ねる。
「どういうことだ」
「私、考えたんです。実は、レブリン様の中にはもう一つ別の考えがあって、そのために私たちを戦わせているのではないか、と」
「……ほう。それは、誰かに吹き込まれたのか?」
「いえ……。私が勝手に考えたことです」
私は嘘をついた。もし、正直に話したらタマナやハレリールにすら危害が及ぶかも知れない。
レブリンは天井に視線を送った。なにも言葉を発しない時間がしばらく続く。
しかし、それは思ってもみない形で崩された。
ドン!
レブリンは近くにあった金の椅子を蹴り飛ばした。
「ふははははは……。お前がここまで考えるとはな」
「教えてください!本当はどう考えているのですか!」
「……そうだよ。お前の言う通りだ。コルテーグの民などどうだっていい。むしろ、邪魔なぐらいだ」
「……え?」
「だってそうだろう。なにも生まないくせに、権利だけは一丁前に要求する。俺に対して偉そうに口答えをする。あんな奴らが大事なわけないだろう。あのような虫ケラはエルハの屑どもと同じで滅べば良いのだ」
私は閉口した。あまりの言動に。態度に。
「ああ、お前もエルハの屑の仲間だったな。感謝しろよ?本来ならば切り裂かれて終わりなところをここまでの好待遇をさせてもらっているのだからな」
「……では、どうして戦争を起こしたのですか?」
「なんだと?」
「どうして、エルハとの戦いを起こし、無辜の民を虐殺し、その上アザーズの人々とも戦争を起こしたのですか?どうして、私たちを戦争に駆り出したのですか?どうして……」
許せなかった。私たちに嘘をついたレブリンが。軽々と騙された私自身が。
レブリンはそんな私を察したのか、鼻で笑った。
「なるほど、俺の真の目的か」
「そう……なぜ、私たちを騙したのですか……?」
「冥土の土産に、と言いたいところだが。残念ながら教えるわけにはいかない。だが、別のことを教えてやろう」
レブリンの腰から剣が抜かれる。数々のエルハ兵を切り裂いたと言われる名剣が魔導灯の光でギラリと輝く。
「それは、お前は用済みということだ」
「なっ……!」
「お前はもっと賢いと思ったんだけどなあ。もっと使い道があると思ったんだけどなあ。悔いるとすれば、そう思った俺が馬鹿だったということか」
レブリンが少しずつこちらに向けて歩み寄る。一歩、また一歩近づくたびに並々ならぬ恐怖心が増していく。
「ここで我が剣の錆となれ!エレーナもどき!!」
振り上げられた剣を、私は寸前でかわした。振り返ると、カーペットが切り裂かれていた。
「あーあ、お前のせいで台無しだ。お前の命より重いんだけどなあ」
「レブリン……!」
「様だろうがあっ!!!!」
カーペットから剣が抜かれ、またしても私に斬りかかろうとしていた。
――やられる……っ!
私は後悔した。レブリンに歯向かったことではなく、私自身のことをなに一つ知らずに死んでいくことに。
コルテーグの民を、暴君から守れなかったことに。
――ズイカク!!
心の中で叫んだ。私の愛機、機動神の名前を。
その時だった。部屋の小物が一斉に揺れ出した。
「……地震か?」
レブリンの剣が空中で静止する。私の首から数十センチのところで。
揺れは段々と大きくなっていった。テーブルの上のグラスが倒れ、壁画が傾く。
そして、揺れがピークに達した時、その張本人が明らかになった。
思わず窓の外を見つめる私の視線の先に、それはあった。
頭を失った、漆黒の巨人。ズイカクだ。
「貴様が呼んだのかあっ!!!!」
レブリンの剣が再び首めがけて飛来する。私は咄嗟に上半身を仰け反らせた。顎先数センチを剣先が掠める。
「ズイカク!!」
私は窓に向けて走った。窓の向こうで、ズイカクの心臓部が大きく開かれている。まるで、私を受け入れるように。
「うおおおおおおお!!!!」
私の足が跳ねる。身体が窓を打ち破り、一瞬宙を舞う。夜の冷たい空気が全身にのしかかる。
――私は、生きなければ!
次の瞬間、私の身体はズイカクの心臓の中にあった。スイッチを押し、ハッチを閉じる。
「さようなら、レブリン」
私は操縦レバーを大きく引いた。ズイカクの巨躯が次第に城から離れていく。城下町が小さくなっていく。
スラスターを噴かせようとした時だった。城の中庭に、見慣れた姿があった。
「タマナ……ハレリール……!」
2人、タマナとハレリールはズイカクを見つめていた。サブカメラを通して、モニターに姿が映される。
拡大された彼らは、手を高く掲げた。
親指を立て、「がんばれ」のサインを送りながら。
「……ありがとう!!」
ズイカクのスラスターを噴かせ、山々を超える。
きっと、これからの道のりは険しいものになるだろう。けれども、それで良かった。
それが、良かった。